3・幼馴染と絶縁したら、他の女子とも喋れるようになった
翌朝。
「なんて快適な目覚めなんだ……」
朝日が気持ちいい。
いつもあいつが早めに起こしにくるものだから、俺は慢性的に寝不足であった。
『目覚まし時計もあるし、もう起こしにこなくてもいいから……』
『そんなわけないじゃないですかー。ずぼらなせーんぱいが一人で起きられるはずありません。それにしても先輩の寝顔、意外と間抜けですね?』
後五分寝たい……と思っている時に、そう布団を引っぱがしてくる幼馴染の存在があったのだ。
俺の事情は一切考慮されない。
どれだけ拒否しても、あいつは一方的に俺を起こしにきた。
だが今日はいない。
昨日、絶縁宣言をしたからな。
母さんには昨日のうちから「朝に朱里が来ても、家に入れないでくれ」と言っている。
母さんは心配している様子だったが……まあ追々事情を伝えれば分かってくれるだろう。
「さて……果たしてどうなることやら」
しかしもう賽は投げられたのだ。
もう後戻りはできない。
俺は制服に袖を通し、学校へと向かった。
◆ ◆
「せーんぱい。なに怒ってんですか?」
昼休みになると朱里が話しかけてきた。
一年生と二年生とでは、階が違っている。
わざわざこいつは俺の教室までやって来るのだ。
「ビックリしましたよ。今日、優先輩のお母さんに家に入れてもらえませんでしたから」
「…………」
「せーんぱい。無視しないでくださいよー」
「…………」
「いい加減にしてくださいよ。これ以上無視してたら、わたしにも考えがありますよ?」
「…………」
「先輩の大事にしているあのラノベ。捨てちゃいますよ? 焼いちゃいますよ? それでもいいんですか?」
「…………」
「ちょっとせーんぱい。どうして……」
「……誰だ?」
「え?」
俺が朱里の顔を見て言うと、彼女はきょとんとした表情になった。
「俺に気軽に話しかけてくるが、君は一年生だろう? さっさと自分の教室に戻るべきだ」
「は、はは……なーに言ってんですか! 頭、おかしくなったんですか?」
「もしかして自分の教室に友達がいないのか? だったら可哀想だな。だがすまない。俺も彼女とご飯食べなくちゃいけないから」
「か、彼女……」
「分かったら、早くどっかに行ってくれ」
言い残して、朱里の前から去る。
無視しても話しかけてくるのだ。
もういっそのこと「他人のふりをする作戦」を決行してみたが、効果はどうだろうか?
「そ、そんな……先輩はわたしとご飯を食べればいいのに……先輩に彼女ができたなんて嘘だ……」
効果抜群を知らせる音が鳴った。そんな気がした。
まだ朱里は俺に彼女ができたことを信じきれていないようだ。いや、まあそれは嘘なんだが……。
「ふう」
教室を出て、俺は息を吐いた。
それにしてもこれから朱里に振り回されなくてもいいと考えると、体が軽く感じるな。
「優……?」
購買に行く途中、とあるクラスメイトに話しかけられた。
「ん? どうした。北沢じゃないか」
そのクラスメイトとは北沢茜。
風紀委員に所属している女の子である。
「う、うむ……」
もじもじする北沢。
長い髪をポニーテールにしている。
クラスでは「やっぱり北沢は美少女だよなー」と人気が高い女の子だ。
だが、当の本人は男に興味がなく、今まで誰とも付き合ったことがないという噂があるが……そんな彼女が俺になんの用だろうか?
「今日は……その、なんだ。彼女とご飯を食べないのか?」
「彼女?」
「あ、あの一年生の子だよ」
一年生……ああ、朱里のことか。
「そもそも朱里は彼女じゃない」
「な、なに!? そうだったのか!」
初めて知ったように驚く北沢。
「今までそう思われていたわけ?」
「あ、当たり前だっ! いつも一緒にいるではないか! その……女の子の間でも話題になっていたぞ。優に彼女がいたって」
「どうしてそんなつまらないことが話題になるんだよ……」
変な噂が広がっていたものだ。
「とにかく朱里は彼女じゃない」
「そ、そうだったのか……」
「それに朱里とは絶縁宣言をしてきた」
「な、なんだと!?」
「あいつ、ワガママだからな。いつも俺はそれに振り回されてきたんだ」
「う、うむ。それは酷い話だな。端から見てるとそうは見えなかったが、優が不快に思っていたなら絶縁宣言も仕方ない」
「分かってくれるか?」
「も、もちろんだ。私は優の味方だからな」
北沢は自分の胸を叩くが、すぐに顔を真っ赤にして、
「わわわっ! 優の味方って……私、今大胆すぎたか!? 尻軽女だと思われてしまったか?」
と訳の分からないことを呟いていた。
「それにしても今日の優はいつもとなんだか違うな」
「そうか?」
「うむ。正直に言うと、いつも眠そうにしていて近寄りがたかった」
「それも朱里のせいだな……あいつ、無理矢理起こしてくるから」
やはり俺にとっての朱里は百害あって一理なしだ。
頭の中がすっきりして、北沢とも上手く話せているような気がする。
「今までは北沢と話そうと思っても、あいつが邪魔してきたよな」
「ああ……そういえばそうだったな。そのせいで君とこうやってまともに話すことすらできなかった」
「その通りだ。だがこれからはあいつの邪魔は入らない。北沢がよかったら、またこうやって話しかけてくれると助かる」
「あ、当たり前だ! また明日、私から話しかけてもいいか?」
「それは助かる。ありがとう」
俺がそう言葉にすると、北沢は花のような笑顔を咲かせた。
「そうか……! 優には彼女がいないのか。だったら私にもチャンスがあるかもしれない……っ!」
なにやらぶつぶつ言っていたが、よく聞き取れなかった。
なにはともあれ上々だ。
やはり俺にとったら、朱里は足枷にしか過ぎなかったのだ。
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