2・幼馴染と絶縁した
「はあっ?」
朱里が目を丸くする。
もちろん、俺に彼女ができたなんて嘘だが、もう後戻りはできない。
こういうのは勢いだ。
俺は捲し立てるように続けた。
「いっつもいつもうるせえんだよ! 俺がいつもどんな気持ちでいたか知ってるか?」
「うるさいって……先輩、わたしに逆らうつもりですか?」
一瞬気圧されてしまうが、ここで引いたら負けだ。
「俺はお前のせいで彼女どころか、まともに男友達もできやしない。お前がいなかった高校一年間、俺がどんな気持ちだったと思う?」
「そりゃあ……わたしがいなくて寂しかったんでしょう? 先輩は一人でなんにもできないんですから……」
「逆だ!」
「っ!」
大きな声を出すと、朱里の肩が一瞬びくついた。
「快適だったよ! 学校の中だけでもお前に邪魔をされずに、俺はのびのびやれた!」
「そ、そんなの……」
「お前が同じ高校に入ってくると分かった時、絶望したよ。また以前のような地獄がはじまるのかってな!」
「…………」
朱里は言葉を失っている。
まあ今まで俺がこういう風に反抗したことはなかったからな。
いつも攻撃している者は、防御に回ると途端に弱くなる。
この調子だ。
「そのおかげで、お前がいないうちに彼女もできたよ」
「う、嘘ですよね……? 先輩に彼女なんか一人もできっこないでしょ? 生涯独身で過ごす……」
「はあ? 一人も? それも間違いだ。一人どころか、俺には……何人も彼女がいる!」
「な、何人も!?」
朱里がさらに驚く。
勢いあまって何人も彼女がいると嘘を吐いてしまったが……ここで否定したら舐められる。
この設定を続けるしかない。
「ああ……! お前は知らないと思うが、俺は意外とモテるんだよ! お前がいなかったら、彼女の一人や二人くらい楽勝だ」
「そ、そんなこと! 有り得ないです! せ、先輩がそんな人だなんて……」
朱里の顔がだんだん暗くなる。
「全部本当のことだ。俺がなにを言いたいか分かったか……?」
「……分かりません」
「俺には彼女が何人もいる。だからお前と付き合っている暇なんてないんだよ」
よし、最後のトドメだ。
すうーっと息を吸って、俺は朱里にこう言い放った。
「金輪際、俺に関わらないでくれ」
「——!」
朱里の息を呑む音。
なにを考えているんだろうか?
その瞳はいつもより真っ黒に見えた。
「じゃあ俺は行くからな」
朱里の前から去る。
「ちょ、ちょっと待ってください、せーんぱい! そ、そんなのって……関わらないでってどういうことですか!? 役立たずの先輩のために同じ高校に進学したのに……こんなことって……」
まだ朱里はなにやら叫いていたが、俺は二度と振り返らなかった。
ふう、すっきりした。
思えば、どうして今までこれだけ溜め込んでいたのか不思議を覚えるほどだ。
こうして俺は彼女と絶縁し、まともな高校生活を送ることにした。