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19・ファミレスでご飯を食べた

 その後、映画を見終わった俺達はショッピングモール内にあるファミレスで、お昼ご飯を食べることにした。


「楽しかったねー」


 料理が来るまでの間、小鳥遊がそんなことを口にした。


「全然楽しそうにしてなかったが!?」

「見てる時は怖かったんだけどねー。でもなんか良いストレス発散になったというか。後から振り返ってみれば面白かったかも。これも優のおかげだよ。本当に……あざます!」


 手を合わせる小鳥遊。


「もう一度走りだそうとする主人公の前に、ぽっと出のヒロインが現れたじゃん?」

「そうだっけな」

「唐突すぎると思うんだよねー。『いやお前、誰だよ!?』感が強かったというか」

「…………」

「ちょっとー、優。ちゃんと映画見てた?」

「み、見てたさ」

「じゃあなんで黙り込むのさ」

「え、映画の内容を思い出してるだけだ」


 見てたことは見てた。

 しかし右腕にむにむにと当たる小鳥遊の柔らかい胸の感触で、どうしても集中できなかったのだ。

 小鳥遊って……意外に大きかったんだよな。どこか大きかったとは言わないが。



「大変お待たせいたしました。こちら、スペシャルビッグパフェになります」



 料理が運ばれてきた。

 小鳥遊の前にどでかいコップ……というか皿? にこれでもかというくらい甘いものが乗せられたパフェが置かれた。


「……注文する時にも思ったが、本当に全部食べるのか?」

「あったり前だよー。お残しするなんて、お店に失礼なことできないからっ!」

「それだったらいいんだが……」


 ちなみに俺は一枚のプレートに乗ったハンバーグセットである。

 いっぱい食べると眠くなるから、これくらいが良い。


「大会前はずっと甘いもの我慢してたからね。だから自分へのご褒美、ご褒美♪」

「まあそういう面もあるのか」

「うん! じゃあ……いっただきまーす!」


 小鳥遊がクリームをスプーンですくい、ぱくっと口に入れた。


「〜〜〜〜〜〜! 美味しい〜〜〜〜〜!」


 頬に手を当て、小鳥遊は目を輝かせる。


「そんなにか?」

「うん! 生クリームの甘さが糖質不足の頭にがつーんと来るよ! それにこのバナナもアクセントがきいていて良い役どころをしてる! しかもチョコレートソースが……」


 おっと。

 なにか小鳥遊の琴線きんせんに触れたのだろうか、とつとつと語り始めた。

 俺はそれを「うんうん」と相づちを打ちながら、ハンバーグセットを口にしていた。


 お昼の楽しい一時だ。

 それにしても……こうしている本当にデートみたいだ。


「どったの、優? なんか顔が赤いけど」

「な、なんでもないっ」


 いかんいかん。強く意識してしまうと、小鳥遊をまともに見れなくなってしまう。

 小鳥遊が身を乗り出して、俺の顔を覗き込んでくる。

 おい、そんなに顔を近付けるな。シャンプーの良い匂いがするではないか。童貞はこの程度でも勘違いしてしまうのだ。



「お水、お入れしましょうか?」



 そんなことをしていると、いつの間にかウェイトレスが俺達のテーブルまでやって来た。


「お、お願いします」


 断る理由もない。


 ちなみに……ウェイトレスはメイド服を着ていた。

 入ってきた時も「あれ? そういう店だっけ?」と思ったが、聞いてみると、どうやら店主の趣味らしい。

 なにやってんだよ、店主。


「きゃっ!」


 ウェイトレスが水を入れようとした時、手元を誤って水を床にぶちまけてしまった。

 小鳥遊にはかからなかったが、その余波のせいで、俺の服に盛大に水がかかってしまった。


「す、すすすみませんっ!」


 すぐさまウェイトレスが謝る。


「優、大丈夫!?」

「俺は大丈夫。そんなことよりも……」


 水浸しになったウェイトレスを見て言う。


「あなたの方こそ大丈夫ですか?」

「え?」

「いや……俺なんかより水がかかっているように見えますから。女性ですし、早く着替えた方がいいですよ」

「そ、そんなこと滅相もありません! そんなことよりもお客さんの服を汚してしまったことが……」

「服? ああ、大丈夫ですから。一枚二千円の安物なんで」


 そう言って苦笑する。


 正直結構な水の量がかかってしまった。

 そのせいで冷たいが……まあこんなものは、そこらへんを適当に歩いておけば乾くだろう。

 こんなに申し訳なさそうに謝ってるんだし、いちいち追及しなくてもいいし。


 その後、店主が出てきてウェイトレスと一緒に謝罪してくれた。

 俺は「大丈夫ですから!」と何度も返事をしたが、クリーニングの代金代わりに、頼んだ料理を無料にしてくれた。

 服を新品で買っても、料理の代金に届かないレベルなので非常に恐縮だったが……引き下がってくれないので仕方がない。


 ファミレスから出て。


「優は大人なんだね」


 と小鳥遊が開口一番に言った。


「なにがだ?」

「さっきの対応がだよ。ジェントルマンだった」

「別に俺は当たり前のことをしただけだ」

「当たり前のことができない人もいるんだよ。世の中にはちょーっとウェイトレスが失礼なことをしただけで、店の中で激怒する人もいるんだしね。あの場面で許せるのは心に余裕がある人だけだよ」

「はは。まさかさっきのことでそんなに褒められると思ってなかったよ」


 なんかネットで『店員に横柄な態度を取る人は、女の子に嫌われるぞ!』と見かけたこともあったけな。

 さっきのは自然に出てしまった対応だが……あれだけで小鳥遊の好感度が上がるなら幸いだ。


「優、服買いに行こうよ。このまま歩き回るのもしんどいでしょ?」

「ん……まあそうだな」

「次の目的地、決まり! 出発しんこー!」

「おいおい、走るなって」


 元気な小鳥遊を見ていると、俺も元気が出てくるというもんだ。

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