16・女子とデー……お出かけのお誘い
昼休みになった。
クラスの女子からは「牧田君、一緒に食べようよ〜」と言い寄られたが、全て断った。
昼ご飯くらいは日々の喧噪からは離れたいのだ……。
これが仲の良い女子なら別だが、あまり話したことのない人とご飯を食べるのはやはり疲れる。
というわけで今日も俺は購買部でパンを買い、中庭のベンチで座って食べようとした時であった。
「おっ?」
ベンチに珍しい女子が座っている。
俺は彼女に近付いて話しかけた。
「どうした、小鳥遊。今日は練習しなくていいのか?」
呼びかけると、小鳥遊は「ふえ?」とパンを咥えながらこっちを振り向いた。
小鳥遊夏帆。
陸上部に所属する女の子で、一年生の時はまあまあ喋ったこともあって、気心の知れた存在だ。
「優だー!」
彼女は俺を見かけるなり、そう指を差した。
「陸上の大会も終わったからねー。しばらくお昼の練習はお休みしようと思うんだー」
「そうか。そういや大会の結果はどうだったんだ?」
「そんなの……これに決まっているよ」
と小鳥遊は人差し指一本だけを上げる。
一番……ということか?
まあその表情を見るに、悪い結果ではなかったらしい。
「優。一緒にご飯食べようよー。一人で食べるよりも二人の方が楽しいしさ」
「良いぞ」
小鳥遊の隣に座る。
一人で落ち着いて食べようと思っていたが……小鳥遊となら無問題だ。
彼女となら別に変な気を使わなくてもいいしな。
「あっ、焼きそばパンじゃーん」
「そういう小鳥遊も食べてるじゃないか」
「うん! もうこれが三つ目!」
「それは食べ過ぎじゃないか?」
苦笑する。
「それにしても小鳥遊はどうしてこんなところに? 小鳥遊ならクラスで一緒に食べる友達も多いだろうに」
小鳥遊はクラスの人気者である。
明るい性格だし、人懐こい笑顔は自然と人を近付けるのだ。
「うーん……特に理由はないんだけど、たまには一人で食べてみるのもいいかなって。あっ、優は別だよ! 優は別腹なんだから!」
「別腹って……俺、食べられるのか」
「そうだよー。がおー!」
怪獣の真似をしているのか、小鳥遊はそう両手を上げた。
「そういや最近の優ってクラスで人気者だよね。アイドルみたい」
「アイドルってのは言いすぎだと思うが……自分でも戸惑っている」
「優だったら当然だよ。どうして今までクラスの女子が目を付けなかったのが不思議なくらい。でも……なんだか優が遠くに行ってしまったみたいで寂しいや」
「はは、なにを言う。俺はなにも変わっちゃいない」
「その調子だったら、そうみたいだね。優はボクの大好きな優のまま……」
途中で言葉が止まる。
「わっ……! ボク、なんて大胆なことを……つい言ってしまった……!」
と顔を赤くして、頬に両手を当てた。
こういう些細な動作がとても可愛く見えた。
「あっ、そうそう!」
小鳥遊は強引に話を換えるように、ポケットから二枚の紙を取り出した。
これは……チケット?
「なんのチケットだ?」
「映画のチケットなんだ。今度の休日に友達と行くつもりだったけど、急遽キャンセルになっちゃってね。どうしよっかなーって思ってたんだけど……よかったら優、一緒に行かない?」
「俺と?」
突然の誘いに困惑する。
休日の女の子と映画?
そんなの……まるでデートじゃないか!
北沢の時とはまた違う。あの時はあくまで『疑似彼女』という関係性があったからな。
小鳥遊の言葉から『デート』ということを強く意識してしまう。
「どう? 一人かなーって諦めてたけど、優が来てくれるならすっごく助かる」
「お、俺は別にいいぞ。映画は嫌いじゃないしな」
「よかった!」
小鳥遊が満面の笑顔になり、俺の両手を握る。
「ありがと! 嘘じゃないよね?」
「そんなくだらない嘘は吐かないよ」
「いやー、楽しみだな! 今日のボク、なんだかすっごいラッキーだったみたい!」
心底嬉しそうにブンブンと手をシェイクしてくる小鳥遊。
一緒に映画に行くと伝えただけで、大袈裟な喜びようだな。
「じゃあ楽しみにしてるね! 絶対来てよね!」
「ああ、もちろんだ」
「あっ、そうそう。また待ち合わせ時間とか決めるから、トークアプリのIDを教えてよ! そっちの方が便利だと思うし……」
「お、おう」
小鳥遊のトークのIDもゲットする。
それにしてもどんどん女の子のIDが増えていくな……そのおかげと言うべきなのか、誰が誰のIDなのか分からなくなってきたぞ。本名で登録してるヤツは少ないし。
ちなみに小鳥遊のID名は『かほ』であった。アイコンは友達と撮ったらしき写真にしてあった。
「ID……あざます! 大事にするね!」
小鳥遊が大事そうにスマホを握りしめる。
さて……朱里との一件も終わって一段落したかと思ったが、またとんでもないイベントが俺の頭の予定表に書き込まれた。
しかし相手は小鳥遊だ。
きっと楽しいデー……じゃなくてお出かけになるだろう。
そんな予感しかしなかった。
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