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12/42

12・バスケの大会で注目されてしまった

 そして大会当日。

 俺……いや俺達は大会の会場を訪れていた。


「人が多いな」

「そりゃそうだ。これを勝ち抜けば全国まで繋がる大会なんだからな。まあ全国大会なんて、オレ達には縁のない話だけどな〜」


 俺をバスケに誘った張本人、田中は後頭部に手を回してそう言った。

 ちなみに今日は平日だ。俺もバスケの大会に出るということで公欠を貰っている。


 会場の至る所でバスケの試合が行われていた。

 帰宅部の俺からしたらみんなキラキラしていて、とても眩しい。

 どうしてなにかに一生懸命に打ち込んでいる人は、こんなキレイに見えるんだろうな。


「俺等の試合はいつだ?」

「もう少しだな。ほら、あのコートでやってる試合が終われば、次はオレ達の番だ」


 聞いて、心臓がきゅっと縮み上がるような感触。


 まあ立っているだけで良い……とは言われているが、どうせやるなら勝ちたい。

 というわけで、昨日はネットで調べてバスケのルールはざっとおさらいしておいた。

 一朝一夕で身に付けたものだが、果たしてどこまで通用するだろうか……。


「おっ、終わったみたいだ」


 田中の言葉で、さらに心臓の鼓動が激しくなっていく。


「まあそんな固くなるなって。気楽にいこう」


 そんな俺を見かねてか、田中が背中をぽんぽんと叩いてくれた。

 そう、リラックスだ。無駄に肩に力を張っていてもいい結果は出せないだろう。

 俺は俺らしく自分の力を出せばいい。


 そんなことを思いながら、間近に迫る試合の準備をするのであった。



 ◆ ◆



「おいおい。そっちのメンバーは五人ギリギリかよ」

「一回戦は貰ったな」



 試合のため中央のコートに集まっていると。

 相手チームから俺達をバカにするような声を投げかけられた。


「勝負は時の運だ。やってみなけりゃ分からないじゃないか」


 怯まずに、俺は彼等にそう反論する。


「はっ……! もしかして勝つつもりなのかよ。身の程を知らせてやるぜ」


 しかし彼等は余裕のようで、俺達を嘲笑する。


 一旦俺は彼等から離れ。


「なあなあ、田中」

「なんだ?」

「あいつ等は強いのか?」

「うーん、県大会の常連だな。所謂強豪校ってヤツだ」


 げっ、マジかよ。

 まさかいきなりそんなヤツ等に当たるとは。


「大丈夫、大丈夫。参加することに意義があるんだからな。牧田は楽しんでくれればいい」


 田中がにかっと笑みを浮かべる。


 周りのメンバーも、


「そうそう。牧田にはほんと感謝だぜ」

「このままじゃ大会に参加すらできなかったんだからな」

「来てくれただけで有り難い」


 と俺を落ち着かせるためのか、優しい言葉をかけてくれた。


 しかし……繰り返すが、俺は負ける気なんてさらさらない。足を引っ張らないようにだけは気をつけるつもりだが、勝つ気でいる。

 それにバカにされたままじゃ気が済まんからな。

 ヤツ等にどうしても目に物見せてやりたい……!



 ピーーーーーッ!



 ホイッスルが鳴り、ジャンプボール(ティップオフって名前だっただろうか)? から試合が開始される。


「貰った!」


 くっ……! 相手にボールを取られてしまったか。

 相手は慣れた動きでボールをドリブルし、あっという間にゴール前に辿り着いてしまっていた。


 だが。


「むっ……お前、いつの間に……」


 そんなヤツ等の前に、俺がさっと立ちはだかる。


「だが……決めさせてもらうぜ!」


 ボールをドリブルしながら男が叫んだ。

 彼が俺の横を通り過ぎ、ゴールを決めようとする。


 だが……遅い?

 集中しているためか、相手の動きがやけにスローモーションに見えた。

 右手を差し出してみる。すると手にボールが当たって、相手の攻撃を防いでしまった。


「なっ……!」


 相手は驚いたような表情。


 さて……ボールを取ったわけだが、どうしよう。

 まあこのまま前進しゴールを決めればいいのだろう。

 バスケは単純なスポーツだ。相手の動きをかいくぐり、相手よりも多くのゴールを入れればいいだけだ。


 俺は目の前に立ち塞がってくるヤツ等をかいくぐりながら、まずは一つ目のゴールを入れた。


「やったな、牧田! お前、本当に初心者なのか?」

「ああ、初心者だぞ」

「そうは見えなかったが……」


 田中も戸惑いの表情。

 しかし俺にしたら、古武術で()()にしごかれていた時のことを思えば、相手の動きなど容易く見切れる。

 俺はそのまま試合を続け、相手の攻撃を防ぎ、そして次々とゴールを決めていった。



「おい……! あの五番。やけに動きがよくねえか!?」

「ああ。東高校も五番の動きについていけてねえな」

「おい……お前。あの五番の動きを止められるか?」

「くくく、なにをバカなことを言っている——無理に決まっているだろ」

「いやそこは『できる』と言って欲しかった……」



 気付けば、周囲にギャラリーが集まってきた。

 どうやら試合をしていないほとんどの者が、俺達の試合を観戦しているようだ。


 男子の大会なので、大体が男連中だ。

 しかしその中にはマネージャーらしき女の姿もあった。



「ねえあの五番の人……めっちゃカッコよくない?」

「カッコよくてバスケも上手くて最高じゃん!」

「私……声、かけてみようかな」



 ふう、やれやれ。

 北沢に言われ、髪を切った効果はここにも出てきているみたいだな。


 やがてホイッスルが鳴り、試合が終了する。


 結果は……。



「57ー30! 吾妻高校の勝ち!」



 吾妻高校というのは俺達のことだ。

 なんとか試合に勝つことができた。


「す、すげえよ! まさか東高校に勝っちまうなんて……!」

「ああ……とはいえ、ほとんど牧田のおかげなんだがな! 確か一人で三十点以上は決めてたよな!?」

「牧田がこんなにバスケが上手いなんて! お前、初心者っていうのは嘘だな?」


 田中を含むメンバー達に祝福される。

 本当に初心者なんだが……まあいちいち言わなくてもいいか。




 その後、俺達は順当にトーナメントを勝ち抜いていき、決勝まで辿り着くことができた。

 しかしさすがに五人だけ。控えなしでこれ以上勝つのは難しかった。

 決勝では僅差に負けてしまい、俺達は準優勝で大会は幕を閉じたのであった。


「すまん……優勝できなかった」


 ここまできたら優勝するつもりだったのにな。

 田中に謝る。


「なにを言うんだ! 牧田のおかげでここまで勝ち抜いてこれた! しかも……準優勝でも県大会には出場できるんだからな! 全く! 県大会でも頼りにしてるぜ!」


 しかし田中は落ち込んでいる様子もなく、俺の肩に腕を回してきた。


 まいったな。

 今回だけの急造メンバーのつもりだったが……どうやら田中は県大会でも俺を引っ張り出すつもりだぞ。

 まあその時になって考えればいいか。


 俺は頭をかいて、どうしたものかと考えるのであった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 東に吾妻て群馬県みたい、吾妻もうないけど
[一言] スポーツで無双する話はめっちゃ好きです!
[一言] 俺は好き。頑張って( ఠ͜ఠ )♡
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