12・バスケの大会で注目されてしまった
そして大会当日。
俺……いや俺達は大会の会場を訪れていた。
「人が多いな」
「そりゃそうだ。これを勝ち抜けば全国まで繋がる大会なんだからな。まあ全国大会なんて、オレ達には縁のない話だけどな〜」
俺をバスケに誘った張本人、田中は後頭部に手を回してそう言った。
ちなみに今日は平日だ。俺もバスケの大会に出るということで公欠を貰っている。
会場の至る所でバスケの試合が行われていた。
帰宅部の俺からしたらみんなキラキラしていて、とても眩しい。
どうしてなにかに一生懸命に打ち込んでいる人は、こんなキレイに見えるんだろうな。
「俺等の試合はいつだ?」
「もう少しだな。ほら、あのコートでやってる試合が終われば、次はオレ達の番だ」
聞いて、心臓がきゅっと縮み上がるような感触。
まあ立っているだけで良い……とは言われているが、どうせやるなら勝ちたい。
というわけで、昨日はネットで調べてバスケのルールはざっとおさらいしておいた。
一朝一夕で身に付けたものだが、果たしてどこまで通用するだろうか……。
「おっ、終わったみたいだ」
田中の言葉で、さらに心臓の鼓動が激しくなっていく。
「まあそんな固くなるなって。気楽にいこう」
そんな俺を見かねてか、田中が背中をぽんぽんと叩いてくれた。
そう、リラックスだ。無駄に肩に力を張っていてもいい結果は出せないだろう。
俺は俺らしく自分の力を出せばいい。
そんなことを思いながら、間近に迫る試合の準備をするのであった。
◆ ◆
「おいおい。そっちのメンバーは五人ギリギリかよ」
「一回戦は貰ったな」
試合のため中央のコートに集まっていると。
相手チームから俺達をバカにするような声を投げかけられた。
「勝負は時の運だ。やってみなけりゃ分からないじゃないか」
怯まずに、俺は彼等にそう反論する。
「はっ……! もしかして勝つつもりなのかよ。身の程を知らせてやるぜ」
しかし彼等は余裕のようで、俺達を嘲笑する。
一旦俺は彼等から離れ。
「なあなあ、田中」
「なんだ?」
「あいつ等は強いのか?」
「うーん、県大会の常連だな。所謂強豪校ってヤツだ」
げっ、マジかよ。
まさかいきなりそんなヤツ等に当たるとは。
「大丈夫、大丈夫。参加することに意義があるんだからな。牧田は楽しんでくれればいい」
田中がにかっと笑みを浮かべる。
周りのメンバーも、
「そうそう。牧田にはほんと感謝だぜ」
「このままじゃ大会に参加すらできなかったんだからな」
「来てくれただけで有り難い」
と俺を落ち着かせるためのか、優しい言葉をかけてくれた。
しかし……繰り返すが、俺は負ける気なんてさらさらない。足を引っ張らないようにだけは気をつけるつもりだが、勝つ気でいる。
それにバカにされたままじゃ気が済まんからな。
ヤツ等にどうしても目に物見せてやりたい……!
ピーーーーーッ!
ホイッスルが鳴り、ジャンプボール(ティップオフって名前だっただろうか)? から試合が開始される。
「貰った!」
くっ……! 相手にボールを取られてしまったか。
相手は慣れた動きでボールをドリブルし、あっという間にゴール前に辿り着いてしまっていた。
だが。
「むっ……お前、いつの間に……」
そんなヤツ等の前に、俺がさっと立ちはだかる。
「だが……決めさせてもらうぜ!」
ボールをドリブルしながら男が叫んだ。
彼が俺の横を通り過ぎ、ゴールを決めようとする。
だが……遅い?
集中しているためか、相手の動きがやけにスローモーションに見えた。
右手を差し出してみる。すると手にボールが当たって、相手の攻撃を防いでしまった。
「なっ……!」
相手は驚いたような表情。
さて……ボールを取ったわけだが、どうしよう。
まあこのまま前進しゴールを決めればいいのだろう。
バスケは単純なスポーツだ。相手の動きをかいくぐり、相手よりも多くのゴールを入れればいいだけだ。
俺は目の前に立ち塞がってくるヤツ等をかいくぐりながら、まずは一つ目のゴールを入れた。
「やったな、牧田! お前、本当に初心者なのか?」
「ああ、初心者だぞ」
「そうは見えなかったが……」
田中も戸惑いの表情。
しかし俺にしたら、古武術で師匠にしごかれていた時のことを思えば、相手の動きなど容易く見切れる。
俺はそのまま試合を続け、相手の攻撃を防ぎ、そして次々とゴールを決めていった。
「おい……! あの五番。やけに動きがよくねえか!?」
「ああ。東高校も五番の動きについていけてねえな」
「おい……お前。あの五番の動きを止められるか?」
「くくく、なにをバカなことを言っている——無理に決まっているだろ」
「いやそこは『できる』と言って欲しかった……」
気付けば、周囲にギャラリーが集まってきた。
どうやら試合をしていないほとんどの者が、俺達の試合を観戦しているようだ。
男子の大会なので、大体が男連中だ。
しかしその中にはマネージャーらしき女の姿もあった。
「ねえあの五番の人……めっちゃカッコよくない?」
「カッコよくてバスケも上手くて最高じゃん!」
「私……声、かけてみようかな」
ふう、やれやれ。
北沢に言われ、髪を切った効果はここにも出てきているみたいだな。
やがてホイッスルが鳴り、試合が終了する。
結果は……。
「57ー30! 吾妻高校の勝ち!」
吾妻高校というのは俺達のことだ。
なんとか試合に勝つことができた。
「す、すげえよ! まさか東高校に勝っちまうなんて……!」
「ああ……とはいえ、ほとんど牧田のおかげなんだがな! 確か一人で三十点以上は決めてたよな!?」
「牧田がこんなにバスケが上手いなんて! お前、初心者っていうのは嘘だな?」
田中を含むメンバー達に祝福される。
本当に初心者なんだが……まあいちいち言わなくてもいいか。
その後、俺達は順当にトーナメントを勝ち抜いていき、決勝まで辿り着くことができた。
しかしさすがに五人だけ。控えなしでこれ以上勝つのは難しかった。
決勝では僅差に負けてしまい、俺達は準優勝で大会は幕を閉じたのであった。
「すまん……優勝できなかった」
ここまできたら優勝するつもりだったのにな。
田中に謝る。
「なにを言うんだ! 牧田のおかげでここまで勝ち抜いてこれた! しかも……準優勝でも県大会には出場できるんだからな! 全く! 県大会でも頼りにしてるぜ!」
しかし田中は落ち込んでいる様子もなく、俺の肩に腕を回してきた。
まいったな。
今回だけの急造メンバーのつもりだったが……どうやら田中は県大会でも俺を引っ張り出すつもりだぞ。
まあその時になって考えればいいか。
俺は頭をかいて、どうしたものかと考えるのであった。
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