11・陽キャグループは楽しくなさそうだ
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クラスの女子達とトークアプリのIDを交換してから、スマホの通知が鳴り止まない。
こんなことは初めてだ……。
「このままじゃスマホ、壊れるんじゃねえか?」
なんて心配をしつつも、昼休みがやってきた。
「……パン、買いに行くか」
席を立つ。
まあ別に環境が劇的に変わろうとも、今までの『俺』を崩す必要もないか。
そんなことを考えつつ、一年生の教室を横切って、購買部に行こうとした時であった。
前の方から男女数名のグループが歩いてきたのだ。
「ん……」
彼等・彼女等は楽しそうに話していた。
「ははは。やっぱり朱里は可愛いな」
「ありがとー」
「なあなあ、放課後。カラオケ行かね」
「さんせ〜い。フリータイムで歌いまくっちゃお!」
一瞬どうしても目がいってしまう。
男女グループの中に朱里がいたからだ。
しかも。
「だね〜。わたし、今日は歌いたい気分なんだー」
なんてことを言いながら、ちらちらと朱里は俺の方を見てきた。
まるで見せつけているかのようだ。
「彼氏と別れて、朱里も付き合いが良くなったよな」
「ちょっと〜。朱里っちばっかり見ないで、私も見てよ〜」
彼氏……?
あいつ、彼氏がいたのか?
まあ俺の知らないところで、そんな存在がいたとしてもおかしくない。
それに今となってはそれ以上あまり興味も出てこなかった。
朱里達が俺の横を通り過ぎようとした。
その瞬間。
「ざまあみろ」
俺の耳に朱里が小声で囁いてきたのだ。
ぞぞぞっと背筋が凍るような感覚。
こいつ、なに言ってんだ?
もしかして朱里が他の男と仲良くしているのを見て、俺が嫉妬するとでも思ったのか?
しかしお生憎様。俺は朱里が誰と仲良くしてようが「勝手にどうぞ」という感じだし、こういう陽キャグループを見ても羨ましさなんて感じない。
なんか楽しくなさそうにしか見えないんだよな……ああいう集まりって。
「朱里。今日のピアス、めっちゃ可愛いな? どこで買ったんだ?」
「えー、これ。百均だよ?」
「マジかよ! 百均のピアスなのに、そんなに可愛く見えるのかよ! マジ朱里はすっげえな。どんなに安物のピアスでも映える」
「ありがとー」
男共は必死に朱里に媚びようとする。
しかしそれは憐れだ。男共の顔面は無駄に整っているが、心が汚いように思えた。
一方。
「……ちっ」
朱里以外の女の子だ。
彼女達は朱里に媚びている男共に嫉妬し、内心イライラしているようであった。
いつ亀裂が起こってもおかしくない関係。
そんな関係性に気付いていないこいつ等が俺には憐れとしか思えない。
「……今度からここを通って、購買部に行くのを止めるか」
少し遠回りになるが……いちいち朱里に「ざまあみろ」なんて言われるのも、気分の良いものではない。
俺はそれからすっかり朱里のことを忘れ、購買部に向かった。
◆ ◆
「牧田! お前にどうしても頼みたいことがある!」
放課後。
帰ろうとしたら、クラスメイトの男子生徒から急に声をかけられた。
えーっと……確か田中っていったっけな。確かバスケ部に所属していた男だったはずだ。
「一生のお願いだ! 頼む……!」
「いやいや! 重いから! 一生かけなくてもいいから! 嫌だったら断るしな。それで……なんだ?」
面倒なことを頼まれなかったらいいんだが。
田中は少し悩んだ素振りを見せてから、意を決してこう口にした。
「三日後のバスケの大会に選手として出てくれないか?」
「は?」
いきなり訳の分からないことを言い出したぞ。
俺は帰宅部だぞ。バスケなんて、体育の時間でしか経験がない。
「一体どういうことだ?」
「実はメンバーの一人が怪我をして出られなくなってな。人数ギリギリでやっているせいで、このままでは大会に出ることすら出来ん!」
「……そこで帰宅部である俺に白羽の矢が立ったと?」
「その通りだ!」
まあ話におかしなところはない。
しかし。
「言っておくが、俺はバスケなんてルールが辛うじて分かるくらいだ。力になれないと思うぞ?」
「いいんだ……! 最悪立っているだけでもいい。大会に出ることに意義があるのだからな。頼む……! この日のために練習してきたんだ。それが人数不足のせいで出られなくなることは避けたい!」
田中が頭を下げる。
さて……どうしたものか。
確かに、彼も大会のために今まで練習を続けてきたのだろう。試合に出て負けるだけならまだ納得できるだろうが、出場できないなんてのは後悔が残るだけだ。
それに男がこれだけ頭を下げているんだ。
仕方ない。
「……ふう。分かったよ。どこまでやれるか分からないが、やってみる」
と俺は息を吐く。
ここで彼の頼みを断るなんて真似は、俺にはどうしてもできなかった。
俺が承諾すると、田中は顔を上げ、
「あ、ありがとう……! 恩に着る!」
とパッと顔を明るくしたのであった。
「バスケの大会か……」
中学の時は部活に入らなくてはいけなかったので、テニス部に所属していた。
そこではまあまあ強い方ではあったが、朱里が「先輩はテニスなんて似合わないですよ」とラケットを捨ててしまったので、結局大会には出られなかった。
だから『大会』と名の付くものに出るのは初めてかもしれない。
「まあ無難に終わらせればいいか」
こうして俺はバスケの大会に助っ人として出場することになった。
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