1・幼馴染はドSである
幼馴染の稲本朱里はドSである。
『せーんぱいは本当になーんにもできないクズ人間ですね。そんなんだから、彼女もできないんですよ?』
こんな感じの暴言を俺は毎日のように吐かれた。
朱里は俺の一つ下の後輩である。
高校に進学して、やっとこいつとおさらばだと思った。
しかし朱里はあろうことか、俺と同じ高校に入ってきたのだ。
『ノロマな先輩では、友達も作れないでしょ? わたしが同じ高校に入ってあげますから、安心してくださいねー』
その時の朱里のにやにやとした表情は忘れられない。
どうせまたろくでもないことを考えているのだろう。
朱里は昔からことあるごとに嫌がらせをしてきた。
他の女子とちょっとでも喋ろうとでもしたら、あることないこと吹聴して俺の評価を下げた。
そのせいで女子からの俺の評判は最悪だっただろう。
彼女どころか、女友達の一人もできやしない。
そんな俺でも中三の頃に彼女ができそうになった。
しかし付き合う前のデート当日、この日のためだけに購入した私服を着ていこうとしたら、
『服? あーあ、あれなら捨てちゃいました。先輩、なんか前から張り切ってましたよね? デートですか? こんなダサい服着ていったら、嫌われちゃいますよ。きゃはは』
と悪魔のように言い放った。
デート用の私服はそれしか持っていなかった。
そのせいで俺は学生服でデートに向かったが、結果が散々だったことは言うまでもない。
『きゃはは、ふられちゃいましたか。服、捨てたこと怒ってるんですか? 心配しないでくださーい。わたしが一緒に服を選んであげますよ。いつ行きます?』
うるせえ。
しかし失意のどん底であっても、朱里の命令には逆らえなかった。
そして今日も。
「優せーんぱい。今日も一緒に帰りましょう。ぼっちで帰るのは寂しいでしょ?」
ほら、また来た。
ちなみに優というのは俺の名前である。
牧田優というのが俺のフルネームだ。
俺と同じ高校に入学した朱里は、毎日一緒の下校を強制してくる。
そのせいで俺は他のヤツと親好を深めることもできやしない。
「……今日は用事があるんだ」
「嘘吐かないでくださーい。暇人な先輩に用事なんてないでしょ?」
嘲笑ってくる朱里。
「先輩は今日もわたしと帰るのです。一緒にコンビニ行きましょ? 今日は新製品のスイーツが出るんです。もちろん先輩が買ってくれますよね?」
こいつに毎日のごとく、お菓子やらスイーツを奢っているせいで、俺は常に金欠だ。
朱里のせいで、俺はまたクラスから浮いた存在となってしまうだろう。
お先真っ暗だ。
ふざけんなよ……っ!
そう思ったらふつふつと怒りが湧いてきた。
……そうだ。
「今日は本当に用事があるんだ」
勇気を振り絞って朱里にそう伝える。
「用事? なーんですか。まだ嘘を続けようとす……」
朱里の言葉を遮って。
俺は咄嗟に思いついた言葉を口にした。
「彼女ができたんだ」
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