第38話 服、買ったときとかさぁ
「……」
でかいテレビがあるってのに、あえてフジはスマホ経由のラジオを入れて鼎の近くでメッセvsヒール・ジェイドの戦いを観戦していた。
「俺はメッセの電撃を食らったことがある。もう半年以上前か、廃業するプロレス団体のラストマッチ。場外乱闘で敵のプロレスラーを俺が羽交い絞めにしてメッセが電撃を撃ったんだが、実はあの時のダメージは俺が肩代わりしてたからプロレスラーにダメージはほとんどなかった。そんな興行用の見栄え重視の電撃でも俺は眩暈を起こしていた。全力のメッセの電撃を食らい続けているヒール・ジェイドのタフネスは異常だ。過去二度の戦いではなかった強い意志ももちろんあるだろう。今まではヒール・ジェイドがミスってもアデアデ、ヒオウ、ギレルモ星人がケツを持ってくれた。しかし今はヒール・ジェイドが背負っている。少なくとも博物館での戦い時点では、ヒール・ジェイドはメッセに勝てなかった。しかしフュージョンエンジンによる底上げ、“取り立て”によるパワーアップ。ラジオで聴く限りではややまずい気がする。メッセの電撃を耐えられるようでは決め手がない。不安要素はメッセの火力、そしてスタミナ。メッセは燃費悪いからな。だが俺も知らなかった不確定要素がある。怪獣化したメッセの傍若無人で縦横無尽な戦闘スタイルだ。俺とメッセは系統が似ている。電撃を扱うこと、身軽さと連撃。それはヒール・ジェイドの頭にも入ってるだろう。向こうの司令塔がアデアデならアデアデの頭にも入ってて、アデアデは大宮での俺とヒール・ジェイドの戦いを念頭に入れたコーチングをしてるはずだ。でも違う。メッセの動きが読めていない。燃費の悪いはずのメッセがガンガン飛ばして街をブッ壊すスタイルに慣れていない」
ピピピとキッチンタイマーが鳴っている。どうやら姉の料理が終わったようだ。
「カケル……。ご飯出来たわ」
「独り言なんて言っちゃって、ついに俺が壊れたとか思ってるのか?」
「なんて言ったらいいかわからない。英語で言うならI`m sorry」
「燃費の悪いメッセがペース配分を考えずに戦うこと、悪を討つということを義に怪獣化して戦ってるメッセがあれだけブッ壊していることがわからない。そんなとこだろう姉貴」
「まぁね」
「……。ほらな。姉貴にわからなくても俺にはメッセの気持ちはわからなくもねぇさ。でも問題ない。メッセが……負ける可能性も無きにしも非ず。しかし後に控えるのはレイとジェイドの二強。アッシュには出番もない。アッシュは消化試合でオネエと殴りあって、勝っても負けてもいい」
「それは聞き捨てならないけど……。考えることが苦手なんて言われたけど、それはいつも考えてる」
「イラクの平和を考えるブッシュ並みに?」
「いい加減にしなさい! あなたの真意がわからないのよ! 戦いたいの? 戦いたくないの?」
「戦いたくはない。宇宙の平和を守る? そんなもん、初代と兄貴と姉貴に任せておけばいい。これは嫌味じゃねぇぞ、カイの野郎が生きていりゃ、宇宙の将来にアッシュは不要だった。ただいざという時に戦える俺でいたい。そのいざという時にはもちろん勝ちたいが、修行はしたくない。俺は……。こいつと遊んでいたかったんだよ。こいつと遊ぶ時間を削ってまで修行なんてまっぴらごめんだ。でもこのままじゃ俺はあのオネエに負ける。あのオネエに負けても多少の悔しさが残るだけで平和には何も問題はない。あいつは善人だからな。……。でも勝ちてぇんだよなぁ……」
「カケル、やはり、少し鍛えましょう。お姉ちゃんからはもうそれしか言えない」
「いや、だからそれは嫌だって。せっかくの飯が冷める。そろそろ起きろ、鼎」
「だからカケル! そう都合のいいことばかりじゃないの!」
フジの眉はメガネの縁に隠れていて読みづらい。その眉でフジは今までにかつてないほど姉を憐れみ、ため息をついた。そして人差し指を一本立て、鼎の瞼目掛けて突き出した。
「カケル! 目を潰す気!?」
「潰す。見てろ」
ピクッ。フジの人差し指が鼎のまつ毛まで数ミリの場所でピタッと止まる。懐かしのゲーム『イライラ棒』なら爆発してるかもしれない距離だ。そして指先にまつ毛が触れる。
「姉貴は気づいてなかったかもしれないが、こいつは実はずっと起きてる。多分この部屋に連れて来られた辺りで目を覚ましている。タヌキ寝入りだ。ジェイドの自宅以上に安全な場所なんてないからな。そんでメッセとヒール・ジェイドが戦い始めたって知って、その決着がつくまでタヌキ寝入りを続行することにした。しかし決着がつくどころか俺と姉貴がケンカを始めて気まずくて起きられない。おい鼎。このままじゃ俺は口喧嘩で姉貴に負ける」
「……わかったよぉ」
パチっと目を開く。薄目を開けていたからフジの寸止め目潰しにまつ毛が反応したし、タヌキ寝入りだったからバイタルが正常なのに動かなかったのだ。やはりアブソリュート・ジェイド! 大したことは考えていない! 鼎ならばこの場面はタヌキ寝入り。弱者の生存本能に基づいた合理的戦略にまんまと欺かれるナチュラルボーン強者の隙だ。ジェイドも目を丸くして視線を逸らす鼎を見つめている。自分の心配が無にされたなんてこれっぽっちも思わないし、こういう選択もあるのか、とただただ感心する。ここで欺かれたことを咎める気もない。勉強になった、くらいにしか思っていない。だからジェイドはわかっていないのだ。
「お姉さん、ごめんなさい」
「……ご飯は食べられる? もう痛いところはない?」
「ハイ、本当にフジの言ったタイミングがドンピシャで、もうここに来た時には目が覚めてたんで……。ジャガイモとコンビーフのスペイン風炒めにパエリアとミネストローネですよね?」
「嫌いかしら?」
「ごちそうになっていいですか?」
「もちろん」
弟に新たな弱点を指摘されたのだから、それについて深く考えてみよう。鼎のタヌキ寝入りの理由も説明された以上に深く。ここにきてまだ伸びしろ、ありがたいことだ。
例えばこんな発言は芯を食っているだろうか?
「大丈夫よ鼎ちゃん。メッセは……」
〇
ゴア族の血は黒く、色が読みづらい。なので沈花本人しか気が付いていないが、今吐き出した血はより黒かった。その血を吐くと体が急に楽になった。痛みも引いていく。痒さやくすぐったさに似た感覚で急速に左顔面の肉も再生し、瞼の裏をなでる眼球の存在も感じる。フュージョンエンジンの効果だろう。普段気にも留めずやっていた目の動作でメッセを射る。ダメだ。遠近感がつかめない。肉のパーツが整えられただけで左目は戻っていない。
「もう終わりにしない?」
「チエ?」
「夢中になれるものはまるで宝石よ。宝石は実らないし腐らないけど、この宝石だけは別。でもお前は負けた。お前の冒険は終わった。ウラオビは必ず倒してやる。安心なさい。ウラオビが倒されて何もすがるものがなくなればもう敗北と間違いを受け入れるしかないでしょう?」
「終われないねぇ。バカなもんでねぇ。アッシュにだってまだ負けたと思ってないよ」
「ならば」
こつん。硬いもの同士がぶつかる軽い音。それは川を遡上する魚の群れじみて連続し、音の飛沫がヒール・ジェイドに浴びせられる。ヒール・ジェイドの目の前にさまざまなものが積もっていく。ビール瓶、コンパス、石、鉢植え、包丁といった殺意の高い凶器が多い。
「死ね怪獣!」
また近くのビル、路上から石やビンが投げつけられる。メッセに! 真っ白なメッセの肌がざらついたビンの破片や石で汚されていく。メッセは歯牙にもかけないが……。
「怪獣を倒せ、ジェイド!」
「そんな姿でもジェイドなんでしょう!?」
「頼む、ジェイド! 札幌を、我々の愛する人々と街を守ってくれ!」
ジェイドジェイドジェイド。
これも自然なことと言えば自然のことか。札幌の街や人の負担を考えず敵に襲い掛かる白の怪獣を、札幌の人々は悪の破壊者と判断した。そしてそれと戦う黒のジェイドは、色は変わっても、戦い方は拙くなってもジェイドである、と……。
碧沈花はまだ二十一歳の若者。単細胞で幼稚なこいつの心の帆はまだ大きい。応援……。そんな単純な追い風で過剰なくらいに意気高揚する!
心が大きく進んでいく。経験したことのない状況下で急激に経験値が溜まって魂のレベルが上がり、集中力のより深いところへ……。沈花は初めて見た。瞼の裏に色があるなんて……。距離が、形があるなんて……。しかし手は伸びない。でも何かがある。先? 抽象的に先、としか表現できない場所が自分の中にもまだあり、そこに進むことこそが!
「ケイオシウム光線!」
起き上がり動作に交えた不意打ちの光線! 二度もアッシュに試みて失敗したこれもまた失敗する。ほれぼれするようなマトリックス回避からのバク転で躱されてしまう。尻尾の先がビルに伸びた。だがそこはもう何度も尻尾を打ち込んでスイングの軸にした場所! 既に怪獣として異形の軽量級であるメッセの体重にすら耐えられない!
「そこはもう!」
「ええ、わかってる。でも使い道は一つじゃない」
バシッと尻尾がムチとなり、ビルの最上階を弾き飛ばして礫の嵐がヒール・ジェイドを襲う。しかしヒール・ジェイドは一つしかない目でその全ての礫の位置と軌道を把握できていた。急ぐようなこともない。自分に当たるであろう礫の一番端に人差し指を向け、光の輪が指先に連なる。輪の中心に紫の光線を通し、不規則なはずの礫を懐かしのゲーム『イライラ棒』の如く慎重に一筆書きで消し去っていった。ヒール・ジェイドから遠く、少し遠く、少し近く、近く、の順で礫が爆破され、無表情に自分を射る能面の双眸を睨み返した。余裕がある。
「チェアーッ!」
Zap!
能面の額に光線が直撃! メッセの体と能面の破片が沈花に当たらなかった礫とほぼ時間差なく地に落ち、雪に音を吸い込まれる。もう雪も音でパンパンなのだ。やっと悪しき怪獣に攻撃が当たった! 沈花の体内では激しい鼓動、体外では歓声が轟く。
雪の札幌なのに心は快晴だ。確かに鼓動は激しい。でも心が静かに澄み切っている。
ステルス化している狐燐の存在を感じるほどに全身の感覚が鋭敏になっている。
そうか。狐燐さん……。
「メ……。面が無かったら今ので死んでた。今わの際ってのじゃないの。でも……。お前の気持ちはわからなくもない。ってのはもう言ったわね。しんどいわよ、この先は。覚悟はある?」
「ある」
狐燐は芸術肌のアデアデ星人。さまざまな超能力を持ち、その白眉は“すり抜け”を極めたインナースペースへの干渉である。この戦いの最中、狐燐はいつでも沈花を引っこ抜くことが出来た。このままメッセと戦い続ければ後輩が死ぬというのなら、決着なんかうやむやにして引っこ抜いて助けるほど情に厚い先輩である。
まずは狐燐に報いよう。そして贄となった怪獣軍団に、騙されているとも知らず偽りの英雄に故郷と愛する人たちの平穏を願った人々に……。
今までにないほど多くのものを積んだ“碧沈花”という船は、大きな帆に風を受けて、今! 大きな嵐を超えようとしている!
「奇麗」
割れた能面から覗くメッセの左目が輝いている。メッセは美しいものが好きだ。特に美しい女性が。ダサく、幼く、拙いあのガキが描く刃の軌跡、それが尾を引く毒の綺羅星。見とれてしまう。
歴代のアブソリュートの戦士が背負ってきた人々の願いというものそれを可能にするのか、ヒール・ジェイドの剣の構えは堂に入っていた。まるで本物のアブソリュート・ジェイドの動きをトレースしたような……。
「チェアーッ!」
Slash!
メッセの美しい体に傷をつけず、それでも決着を狙うならそこしかない。能面にトキシウムエッジを全力で叩き付けて気絶させる。ヒール・ジェイドの体と時間の流れ、エッジはその理想に応えて、一閃。
面を砕かれた電后怪獣エレジーナは綿あめの髪に素顔を埋もれさせ、仰向けに倒れて動きを止めた。
「ありがとうメッセ副隊長。おかげで少ししんどさが減った」
メッセの言っていたしんどさが自分たちのやっている理不尽への迷いではないことはわかっている。メッセは自分では言わなかったが、“メッセ如き”に苦戦するようではレイとジェイドが相手ではお話にならない。メッセ如きには勝てて当然でなければならない。沈花も当初はそう思っていた。しかし心にこみあげるものは想像以上に熱く重い。
メッセ副隊長は十分に強かった! 自分が弱かったからではなく、十分に強かった! これが鳳落さんの説くリスペクトの概念か。
「無駄にはしない」
毒の破片を吸い込んでしまったメッセに解毒を施すとメッセが人間態に戻る。札幌市民の報復にあう前にポータルで安全な場所に送り、ヒール・ジェイドは万雷の拍手に送られながら空に消えた。
〇
「メッセが負けたか。まぁ僕にとってはいい出来事かな?」
ウラオビは二人の巨漢が互いに拳を出すタイミングを窺う一触即発の戦場を見下ろしながら、カフェでコーヒーを飲んでいた。
世間はウラオビ・J・タクユキとヒール・ジェイドが袂を分けたなんて知りはしない。だからヒール・ジェイドが暴れに暴れればその責任は結局ウラオビに集約される。ヒール・ジェイドとウラオビが繋がっていないとしても、ヒール・ジェイドを作ったのはウラオビだ。メッセが悪と断ぜられ、ヒール・ジェイドが善になってしまったのはウラオビにとって想定外でも、明確に善として人々に広く膾炙しているレイ、ジェイドと戦えばヒール・ジェイドが悪であると思い出してくれるだろう。
「ん?」
ウラオビ・J・タクユキ。イタミ社を創設して以降最大のイレギュラーに思わずカップを落とす。眼下に広がる渋谷に……。今までのプランを全て狂わせかねない人物の存在を認めたのだ。
「フワッハー! この姿で迎えに行くのはまずいかな!?」
ウラオビが指をパチンと鳴らすと身長が三十センチ近く縮み、髪は黒髪ロングのサラサラヘアーに。体はゾンビのようにガリガリだ。しかし不思議な艶がある。駿河燈の姿だ。楔形文字のポータルで移動した先を歩いているのは、黒衣に黒髪、黒い瞳。暗い表情に猫背の女性。スカートの腰の部分には……。
「やぁやぁ……」
「オイーッ!! ウラオビに見つかったぞォーッ!! そいつはマインじゃない!」
頑馬の怒声で女性がくるりと声の方向を向き直る。そして目を皿にしてウラオビの姿を見つめて涙をこぼした。
「燈さん?」
「そうよ。会いたかったわイツキちゃん! 頑馬なんかの言うことを信じるの?」
犬養樹。こいつを手中に収めればヒール・ジェイドのプロデュースなんてどうでもよくなる。こいつをおびき寄せるために夜のとしまえんで駿河燈のコスプレだってしたんだ! こいつが自分の子を産めるか試したっていいし、何よりも!
「さぁ、Aトリガーを使うのよ。頑馬を撃って」
Aトリガーがある。イツキに使用可能な弾が何種類かは知らないが、要はマインの“理”の弾だけがあればいい。マインの持つ一万二千年の叡智、それに“理”というネーミングもウラオビを刺激する。何が起きるかわからないが、自分に都合の良い何かが起きる気がする。
犬養樹に関しては頑馬もいろいろ思うところはある。しかし今はイツキがウラオビの手に落ちることだけは避けねばならない! “理”の弾なんて撃たれた日には……。あの頑馬がことなかれに思うほど“理”の弾は危険だ。だがウラオビ、イツキとの距離が遠すぎる。しかも間には経修郎までもいる。
「メガトウム光線!」
「邪魔はさせんぞ頑馬!」
均衡は破られた。決して得意とは言えないレイの光線が嚆矢となり、経修郎から拳の飛箭。一つ一つ堅実に摘み、頑馬は耳を二度タップした。
「メロン! アッシュかジェイドをよこせ! 犬養樹がウラオビに見つかった!」
罵致罵致と拳の攻防! 頑馬が二歩進んでも経修郎により二歩戻らされる。
「本当に燈さんなの?」
「そうよ。輪廻を超えて戻ってきたの」
「じゃあわたしの秘密の質問に答えて」
「なんでも答えちゃうぅ」
「アシャアッ!」
火の出るようなハイキックが空を打つ。ウラオビはなんとか回避に成功したが、まさかイツキが駿河燈の姿を攻撃するとは思っていなかった。それに今ので正体もバレただろう。マインの運動神経でイツキの蹴りを回避するなんて不可能だ。
「ないの。最初からわたしと燈さんの間に秘密なんて」
「うふふ、誰の入れ知恵?」
マインの入れ知恵だったら最高だなぁ! ウルトラバカのはずのイツキがカマをかける、これは誰かがバックにいる。まさかもう“理”の弾をどこかで使用し、フラッシュバックの中で何かを見たのか? マインならAトリガーのフラッシュバックの中にイツキへのメッセージを隠すことなんて容易だろう。ウラオビの期待は膨らむばかりだ。
「おぉう久しぶりだな。ちょっと見ないうちにお前……。随分とバカそうになったな」
妄想の風船に針が刺さる。ぷしゅうと音を立ててウラオビの気持ちがしぼんでいく。
「アッシュ。もう君は必要じゃないよ」
「バカそうになったって言ったのはマインじゃなくてお前の方だウラオビ。犬養、今は逃げろ。こいつはマインじゃない。でもマインを騙るだけでお前の敵ってわかるだろう?」
フジの顔を見て頷いたイツキは人ごみの中を全力疾走して逃亡し、さらに地面と垂直に開いたポータルでどこかへ消えてしまった。
「カッチィーン。君は! 戦ったことが! あるかなぁ!? 対アブソリュート最強兵器!」
「やめろタクユキ。まだ早い」
「告知するだけさ経修郎。アッシュ。君のトラウマ怪獣は?」
指パッチンで妖艶な少女が絶世の美男子の姿に戻る。老醜。この言葉がぴったりなほどに表情を歪めさせ、懐から小さな円筒を取り出した。
「クジーだ」
「そう、クジーだね。君はそのクジーからトラウマを負う前、そこにいる頭の悪いお兄さんの子分たちを一人ずつ消していく予定だった。まずはゴア族のマートン。次にエレジーナのメッセ。次はゴッデス・エウレカのオー。君にとってはオーが鬼門だった。オーの装甲を貫くために君はわざわざΔスパークアロー……フフッ。でぇるたすぱぁぁくあろぉお。あの技を生み出したね。鳳落の言う通りに君はあの技を信じ切ることが出来ていないように思う。何故ならゴッデス・エウレカを倒すための技なのに君はゴッデスと戦っていないから。ゴッデスには勝てないと思っているんだ」
「何が言いたい」
「僕がボタンをポチッと押せばゴッデス・エウレカが来る。その名も“ゴッデス・エウレカSC”!! 僕とアップリンクする特注品、もちろん機体は最新型、オーの機動力と防御力を凌駕する。オーに勝てるかどうかもわからないΔスパークアローでSCに勝てるかな? 君は邪魔だったんだ。マインは君に使い道を見出したけど僕には無理だった。あ、そうだ。鼎ちゃん、元気?」
「やっぱりお前か」
「僕が保証してあげるよ。僕がね。鼎ちゃんは、何も彼女が嫌がるようなことはされていないよ、僕が一回だけ攻撃したけどすぐに気絶したから嫌がる余裕もなかったろう? 君を怒らせることは本当に無意味だよね。君は英雄になれない。ジェイドやレイを怒らせれば彼らに討たれる大悪になれる。君って何? 育てようとも思わない芽だよ。僕の陰謀にもアブソリュートの未来にもいらない芽。アブソリュートの戦士を育てるならシーカーを死守すべきだった。君は……君は……」
「もうやめろウラオビ。キレがない。あぁ、お前の言う通り俺はゴッデス・エウレカには勝てねぇ。しかもメッセと違ってこんな街中でイチかバチでゴッデスとなんてやれねぇ。説教してやらぁ。思い通りにいかねぇから人生なんだよ。希望なんか持つんじゃねぇ。抗おうとするな。お前は所詮、雑魚だ。ジェイドやレイ、シーカーになれない、俺のような雑魚。マインにも外庭にもなれない。ままならねぇ人生の退屈さを他人のせいにするんじゃねぇよ。くだらねぇ人生を多少マシにする暇つぶしと口実は作っても構わねぇだろうが見てて悲しくなるほどのみじめな姿を晒すな」
「君は鼎ちゃんを巻き込んでそのくだらない人生に心中するくせに?」
「お前には誰もいないのか? 参ったな。俺の負けだよウラオビ。憐れ過ぎてもう言葉が見つからねぇ。ここの口喧嘩、お前の勝ちでいいぞ。優勝おめでとう。次に会う時、お前はゴッデスのコクピットか? それとも安全なネルフ本部か? どっちにしろお前だってここでやる気はねぇんだろう? だってお前は」
「だって僕は?」
「ビビってるからだ。万が一にもここでアッシュに負けて終わったらどうしようって」
「君の言うことに少し賛成だ。君とここで言い争うのはもうやめよう。経修郎」
経修郎の拳が止まる。頑馬の目は恐ろしいくらいに光を失い、それでいて活力に満ち満ちた暗黒の目で経修郎を見据えている。
「ウソに聞こえたらごめんね。君は僕にとって……。僕には君がいた。君は羅針盤だった。こんな僕に今まで仕えてくれてありがとう。君を解放する」
「解放?」
「これから先はもう君の好きなようにしてくれ。もう水は差さないよ」
「俺の好きなようにか。なら決まってる。俺はここに置いていけ。俺はここでアブソリュート・レイを倒す。ギレルモ星人の悲願のために、そして親友ウラオビ・J・タクユキのために。俺はそれで満たされるし果たされる。幸運を祈る、タクユキ」
ウラオビが姿を消した。もうウラオビが観てくれなくてもいい。
渋谷で洗濯物を干す人間はいない。だからビル群の間で布がなびくなんて見たことのある人間はいないだろう。ここに、四十六メートルのギレルモ星人の法衣がビルを拭き、センター街に何も焼かない火柱が上がる。
「三度目の正直だ。さぁ、決着を付けようじゃないか頑馬」