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アブソリュート・トラッシュ  作者: 三篠森・N
第4章 アブソリュートミリオン 2nd
81/326

第21話 斬れ! 撃て! 死せ! ヤクザオリンピック開幕!

 1964年(仮)。

 それは地球にとって大きな意味を持つ節目の年であった。

 高度経済成長期と戦後復興の象徴である悲願の東京オリンピックを成し遂げた日本には世界中から多くの人が集まった。しかし実は日本は大丈夫な状態ではなかったのである。

 日本の三大名物。地震! 怪獣!! アブソリュートマン!!!


「ピポポポ……」


「ヘェアァッ!」


 1963年(仮)に初めて地球に姿を現したアブソリュート戦士、初代アブソリュートマンはたった一年で地球産怪獣、侵略宇宙人、暴走したハイテックの成れの果てに至るまで数十の怪獣を撃破した。あの未来恐竜クジーでさえも涼しい顔で倒してしまい、その戦いは資料映像として博物館のツアーでは定番、昭和を振り返る番組ではよく観ることが出来る。そりゃ怪獣も“脅威”から“名物”になる訳だ。

 しかし名物は減った。初代アブソリュートマンは地球に眠る怪獣を倒しつくしてしまい、まぁ、その……。“怪獣が目覚めるキッカケ”である時空の歪みまで初代アブソリュートマンがぶっ壊してしまったので……。

 初代アブソリュートマンが去った後、その時空の歪みの消滅を確認し、怪獣災害の再発を防げているか確認しにやってきたのが、“調査員”のアブソリュートミリオンである。

 地球に眠る怪獣は多くが眠ったままだったが、初代アブソリュートマンが去ったという噂を聞いて外敵からの侵略は激増していることが発覚し、アブソリュートミリオンは増援も待たずに孤立無援、勝手に侵略者たちと戦い始めることとなる。

 これが1964年(仮)の年末。

 当初は“戦士”としての資質を疑問視されたアブソリュートミリオンは鬼気迫る戦ぶりで、地球に長期滞在することになる。

 1968年(仮)の9月にはフォール星人の切り札マグナイトと戦い敗北。その後の再戦で引き分け、死亡する。

 この敗北が1964年(仮)のものなら「そら見たことか」と痛罵されただろう。しかし1968年(仮)では既に賞賛される死だった。

 アブソリュートの星で蘇生されたアブソリュートミリオンはその死を恥じ、1968年(仮)の12月に地球に戻った際には当時所属していた防衛組織を辞職して、変身を封じ無給でフリーの人斬りとして、独自の正義を貫いていて陰ながら地球を守ってきた。そして1969年(仮)の春が来る。彼の正義の理解者フジ・カケルが未来から、そして犬養樹が過去からやってきた。彼は孤立無援でも独自の正義でもなくなった。


 一方、1964年(仮)。地球に酷似した惑星、マルチアース8のケラ島にて史上最恐の正義が是とされる……。


「おいお前。麻薬の前科があるそうだな?」


「あぁ? 俺はヤクザだぜ。あんまりナメンナヨ。ヤクの一回や二回ぐれぇはヤクザなら……ワッツ!?」


「死刑」


 パァン! ケラ島のポン引きボッタクリストリートにたむろしていた一人のチンピラが乱暴な職務質問の最中に警官に射殺された。警官は無表情、無感情である。引き金を引くことに全く抵抗ない。


大統領(プレジデント)に報告しろォッ! ヤクザの巣窟を発見したので全員殺しますけどいいですね!? と!!」


「そぉう焦るな! プレジデントには考えがある! 今日のヤクザは全員生け捕りにしろという命令だ!」


「生け捕ればいいんですねッ!? 状態は保証しませんよ!?」


「なるべく傷つけるなとのお達しだァッ!」


「犯罪者共に随分と優しいんですねェッ!」


 マルチアース8は骸怪獣ヒオウが多く住む星である。あの紅錦鳳落もこの星の出身だ。しかし彼は非常に治安の良い先進国フイゴ島の生まれだ。

 このケラ島は無法地帯に近かった。南の島で観光資源に恵まれてはいたものの、麻薬と売春と買収が跋扈し、司法も治安もメチャクチャ。そもそもほとんど全てのタクシーがボッタクリなので観光もろくにできない。高級ホテルよりも刑務所の方が人気らしくていつも満室だ。そんなケラ島を一気に変えたのが、元検察官のチバ大統領である。


「まず殺せ。犯罪者を殺せ。ヤクザを殺せ。ヤク中を殺せ。ヤクを売ったやつも殺せ。買ったやつも殺せ。この国で少女を買った外国人を殺せ。税金以外で金を調達した警官はこれから殺す。警官を見たら殺されると思え。警官だけではない。主婦や学生、老人でさえも貴様らを追い詰めて殺すと思え」


 これが全てである。チバ政権ではまず見せしめに犯罪者を殺した。この悪夢の島においても「とにかく死んでくれ」と願われているヤクザとヤク中を裁判抜きで殺害した。

 パフォーマンスとしての殺人がなければどうしようもないところまでケラ島は頽廃していたのだ。

 しかし「殺す」と宣言された警官たちはヤクザや犯罪者から金を受け取るのをやめた。代わりにチバ大統領から受け取った弾丸をヤクザたちに返してやった。殺戮衝動? 正義への目覚め? その答えはまだわからない。これからチバに答え合わせをしてもらう。


「ヤクザたちを入れる場所がありません」


「全員、ケラ島から出て行ってもらう。即刻ぅ。そして永遠にだ」


「どういうことです? まさか俺、何か悪いことしました!? 俺も始末されるんですか?」


「ヤクザ共は全員、アブソリュートミリオンに殺してもらう」




 〇




「イツキ。お前はかつて、アッシュと敵対していたというのは本当か?」


「本当です」


「……そうか」


 地球でちゃんと職を持っていた頃の愛車を売ってしまったセリザワ・ヒデオは安い中古車に乗り換え、よく気晴らしにドライブに出かけていた。今日もそうだ。未来から来た息子が過去から来た相棒とこの時代で待ち合わせしたなんて馬鹿げてるなんて思わない。その息子の相棒を助手席に乗せて車を走らせるうちに大阪まで来てしまった。


「わたしを殺します?」


「何故?」


「かつてフジの敵だったから」


「何か誤解をしていないか? 殺さずに済む相手は殺さないし、俺は誰かれ構わず殺しているんじゃない。それとも何か? 死にたい理由でもあるか?」


「死にたい理由はない。今のところ」


「そうそう死にたがるな、若い娘さんが。そうか、そう若くもないのか」


「あまりにも長く生き過ぎて、心のスイッチを切ることが出来るようになったんです。切ってた間にどれだけ経ったかもわからない。だから実際はオンになっていた時間が年齢です」


「だとするとどれくらいの年齢なんだ?」


「大体22歳」


「見た目と大して変わらんな。なら若い娘さんでいいだろう。それでいいじゃないか」


「嫌な勘は鋭くなるばかりです」


「なんだ、言ってみろ」


「あなたは未来から来たフジの父であろうとしている。未来から来たフジよりも弱いから、父であるという立場でフジよりも優位に立とうとしている」


「やはり若い娘さんだな。言っていいことと言わなくていいことの区別がつかん。だが、その……。アッシュのやつはどうだったんだ? やつが来た未来でのやつの暮らしっぷりを知ってるんだろう? どうなんだ? 友達はいるのか? ガールフレンドは?」


「友達もガールフレンドもいます。とても素敵な子」


 まだミリオンにマインのことは打ち明けられない。ミリオンがマインの存在を知れば、この時代に地球にいるかもしれないマインを見つけ次第殺すだろう。イツキもだいぶ頭を使えるようになってきた。優しすぎることや正直すぎることは美徳じゃないし、自分を否定し続けることで悲しい人生を送ってきたが、振り返ると全否定するものでも全肯定するものでもなかった。マインは悪人だ。でもマインと過ごした日々を肯定したい。死にたくない理由もマインと再会するためだ。フジは善人か? グレーゾーンだ。しかしマインとフジの二者択一で、今のところフジはマインへの浮気を許してくれている。これを知ったらミリオンはイツキを殺すだろうか。


「未来から来たアッシュよりも俺の方が弱いといったな」


「ごめんなさい。次からは言葉を選びます」


 ほら、もう素直に謝れる。


「……どれくらい差がある?」


「それはセリザワとフジの差?」


「腹を割って話そう。どうだ?」


「わたしとフジが敵対していた頃のフジなら、今のミリオンと同じくらいですよ。東京からの距離で例えるなら、人間は大体皇居から国会議事堂までが限界です。わたしが横浜だとしたらあの頃のフジとミリオンは京都と大阪くらい。二人に大差はないです」


「今は?」


「京都と福岡くらいあります」


「そうか」


「ちなみにレイは沖縄くらい遠いです。ジェイドは……」


「よく話題に出てくるな、そのレイとジェイド」


「ジェイドは月ですね」


 完成に向かう太陽の塔の存在を感じる。イツキにとって大切な場所だ。セリザワは車を止め、マッチを擦ってタバコに火をつけてから月を仰いだ。東京からおんぼろを飛ばしてここまで来るのに大分苦労したぞ。アッシュより強いとかいうレイとジェイドの存在はアッシュとイツキから聞いていたものの、この時代では沖縄も外国だし月……。想像もつかない。そのジェイドが初代アブソリュートマンを超えていることはないと仮定し、実際にジェイドの脅威を知ったイツキがジェイドを過大評価して、初代アブソリュートマンとジェイドが同程度だとしても、初代アブソリュートマンとアブソリュートミリオンには東京から見て京都と月くらいの距離がある。


「歴史が改変されているとか言ったな」


「はい」


「超えてやろうじゃないか、アブソリュート・ジェイドを」


「……」


 無理ですね、とは言えない。


「初代、ミリオン、ジェイド、レイ、アッシュのうち、一番おっかないのはミリオンですけどね。そのはずだったのに」


 この時代で触れた若き日のアブソリュートミリオンは2020年の夏に出会った老いたミリオンより血気盛んだ。しかし殺伐としていない。和んでいるんじゃない。緩いのだ。そうか、フジは彼に似たのか。


「よう、さっきは随分と意地悪なことを言ってくれたな。ならお前とアッシュの恋人、どっちがいい女なんだ?」


「フジの恋人です」


「即答するな。迷えるくらいいい女になれ」


 イツキが来てから車内喫煙を辞めた。しかし今は話が別。マッチを擦って明かりを燈し、くわえタバコのまま後部座席を物色して刀を引っ張り出した。ついでにイツキの持つ不思議な拳銃も。


「来年にはここで万博が開かれる。出来ればここで殺しはしたくない。消えろ」


「ハッ! 事前連絡なしでの訪問大変失礼しましたッ! 私はケラ島共和国警察庁長官ガモン! プレジデントからアブソリュートミリオン様へのお知らせです!」


「ケラ島。あの物騒な国か。手短にな」


「えー、我が国で最大最悪の暴力団を丸ごと逮捕したため、見せしめに殺します! ただしただ殺すのでは我らの新たな法の力を誇示できないため、ここにヤクザ皆殺しの競技大会“ヤクザオリンピック”を開催し! アブソリュートミリオン様にもご参加いただきたく存じます!」

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