第17話 ノーホールズバード
傷が癒えていく。痛みが引いていく。致命傷だった三本の矢は蚊が刺したのよりも軽い傷になり、碧沈花は東京国立博物館とそのそばに立つ紅蓮の火柱を見下ろす高さ39メートルにまで巨大化した。フュージョンエンジンを使用したままでの変身が初めてだからか体調は絶好調だ! 和泉? バカ言っちゃいけない。アッシュはもちろん、レイにだって勝てそうだ! 火柱の径がどんどん大きくなる。その先端はまだずっと空の上だ。
「……」
よろい怪獣グボス カタキ・カッチ
「?」
見上げた空の上から雲を通って水の滴る巨大な柱が降ってくる。そこにマジックペンか筆ペンか、何か乱雑に文字が書いてあった。
雷光怪獣エクトーブ エリー
粉塵怪獣バルバル スコティッシュ
ゴア族 マートン
改造人間 ヨシツネ
放火怪獣アラリア クイーン・パトリシア
横綱怪獣ベムロス ハクリュウ
要塞怪獣フォレストン サワタリ
「なんだこれ」
「ジャラッ!」
水の滴る五本の柱……即ちアブソリュート・レイの右手の指が開き、それを束ねる巨大な掌が妹を騙るお調子者にビンタを上から振り下ろす!
罵ァ致ィィィン!!!
「チィ~~~ァッ!?」
今はレイの指には何も見えない。みんなが最初は沈花と同じことを考えたのだ。こいつはジェイドに劣る。まともな教育も受けていないし、ジェイドは無理でもレイならいける。そうやってレイを舐めたやつらはレイなら楽勝だといい気になったが所詮それはレイの掌の上を飛び回る孫悟空でしかない。そうやって舐めたやつをレイは今まで残さず握り潰してきた。それに沈花レベルじゃレイの指に落書きさえできない。沈花が見た幻に書かれていた名前は、沈花がおさらいしたレイの戦いでの相手たち。この幻はレイを舐めてぶっ飛ばされていったやつらの墓標に近いものだ。
それにレイの手を見るなら内側じゃなくて外側だ。頑健な骨を強靭な肉で覆い、岩石の如き拳を作り上げて一閃!
「ジャアラッ!」
「ケ、ケイオシチェエエエエエ!?」
アッパーカット一撃でヒール・ジェイドは『熱闘甲子園』のコーラのCMのボトルのキャップじみて高速回転しながら吹っ飛び、泡の代わりに血をまき散らした。門番たちの頭を超え、噴水広場を超え、動物園を超え不忍池に頭からずっぷりと浸かる。不忍池。かつて人造人間ヨシツネがレイを舐めに舐め切ったいわくつきの場所だ。沈花にとっては縁起が悪いか? だって同じなのだ。他人を唆して自分は安全に引きこもっているだけの悪党が、若い人間をいい気にさせてレイと戦わせる。
桜の林を超えて火の玉が近づいてくる。アブソリュートを甘く見た沈花がこの不忍池でヨシツネと同じ末路を辿るのは火を見るよりも明らかだっていうその火が……。怒震! と二本の足で大地を踏みしめる。
「ジェイラァ!」
「チ、チ、チィエエエエ!?」
ヒール・ジェイドに尻尾があったら巻いて逃げていただろう。しかし残念。本物のジェイドには尻尾はないし尻尾を巻くこともないし、泥にまみれて倒れることもない。
「チ、チ、チ……」
毒に侵された不忍池に風紋、波濤、水蒸気。嚇怒するレイの怒りの強さもまだわからない。ジェイドを騙ることはそれなりに誰かの気に障ることではあっただろうとは考えていた。でもそんなにか!?
「てめぇが偽ジェイドか」
「チ……」
「戦うそぶりの一つでも見せたらどうだ。まるでジェイドに見えねぇぞ。ジャラァーッ!」
覇ァ危ィッ!
「チエ……。女を……殴ることに何の抵抗もないのか……アブソリュート・レイ!」
「ジャラァーッ!」
ないようだ。
覇ァ危ィッ!
「こっちはアッシュとあの変な地球人との三連戦なんだ……手加減ぐらいしてよ……」
「ジャラァーッ!」
しないようだ。
覇ァ危ィッ!
「大体、今回わたしはアッシュと戦いに来たんだ……お前は関係ないだろ!」
「ジャラァーッ!」
あるようだ。
覇ァ危ィッ!
「そっちはアッシュの他にもあの地球人もいるしメロンもいるし、それに加えてレイなんてフェアじゃないよ……」
「ジャラァーッ!」
どうでもいいようだ。
覇ァ危ィッ!
「ちょっと待って……」
「ジャラァーッ!」
待たないようだ。
覇ァ危ィッ!
「チエ……」
女だから殴らないでくれ? ジェイドは一度もそれを言ったことがない。今はジェイドを殴れる男もめっきり減ったがルーキー時代……特に初陣のアブソリュートマン:XYZのオリジナルにはしこたまぶん殴られた。
連戦? これを試合か何かだと思っているのか? 負けても土を持ち帰るための時間を与えられるような戦いとでも思っているのか?
ターゲットではないし想定していない相手? 仮想的の戦術メタだけで戦えれば相手を選ばず戦える汎用性の塊ジェイドのコンセプトは否定され、最強ではなくなる。
人数の差? XYZが怪獣軍団を率いた時は初代アブソリュートマン、アブソリュートミリオン、アブソリュート・ジェイドの三人でどれだけの怪獣を倒したと思っているんだ? ミリオンは何百人の海底遊牧民、レイも15人の天狗軍団、そしてレイはまだ知らないがアッシュも1969年(仮)で15人のギレルモ星人を倒している。
待つ? 待たない。待つ間にもアブソリュートを含む巨大な異星人に怯える人がいる。
フュージョンエンジンの効果で底上げされたタフネス、高速回復のせいで気絶することすら出来ずレイの怒りが立て続けに撃ち込まれる。
レイの体温で立ち上った蒸気が湯気になって雲になり、憤怒の巨漢の顔を覆う。
「チ……」
あれ? おかしくね? ヤバくなったら狐燐さんが助けてくれるはずじゃないのか? 今の状況よりヤバいことってあるのか? さすがの狐燐さんもレイが相手じゃビビってしまうのか、それとも狐燐さんの代わりが鳳落さんでもう一回限りの助太刀は使い切った、ということか?
「ヒエエ……」
殴らないでくれ。痛くしないでくれ。カッコ悪くさせないでくれ。出来れば見逃してくれ。誰か助けてくれ。
「チエ?」
今の自分の状況って鳳落の語ったアブソリュート・アッシュと同じだ。ここから生じる潔いほどマイナスでネガティブなガッツ、臆病で我儘な勇気がアッシュの原動力である、と。その境遇とメンタルをどうにか借りて……。レイをどうにか出来ないだろうか。
どう? どう借りる?
「敬意か……」
碧沈花+ゴア族“白虎の巫女”+ヒール・ジェイド+フュージョンエンジン+リスペクト。
「ジァ……」
「やっぱりまだダメか」
アブソリュート・レイ>碧沈花+ゴア族“白虎の巫女”+ヒール・ジェイド+フュージョンエンジン+リスペクト。
レイの拳が加速、加速、加速。沈花の体感時間はドロドロに鈍化して走馬燈じみた猶予を与える。
「お腹空いたなぁ」
「そうだね。まだダメだった。でも最後はよく鳳落さんの教えの意味を理解したね。よく見た。疲れたよね。晩御飯おごってあげるよ。何がいい? まずは仏蘭西饅頭で虫抑えするかい?」
眼前に迫っていたレイの拳が全く見えない。影も形もなく消え去ったのだ。さっきまでレイのいた場所に立っていたのは、モノクロで細身のエイリアン。彼女の意図が不明の奇妙なダンスが水を撥ねる。沈花にしか伝わらない意図だ。
「もう大丈夫」
〇
「おい和泉。まだやれるか? ……無理か」
和泉が受けた毒はフジの体を回るものよりもかなり大量で濃いようだ。フジは毒が溶けた水を少し飲んだだけだが和泉が毒の粉塵をかなり吸い込んでしまっている。戦うどころか命の危機だ。
「メロン。和泉と鼎を安全な場所へ」
「フジくんはどうするの?」
「自己満足でこのヒオウと延長戦をする。それがケジメだろ」
果たしてこのヒオウ、どう出るか。ヒール・ジェイドの助太刀に怪獣化すればレイの相手。このまま人間態なら引き続きフジの相手だ。このヒオウがこの役割分担に気付いているならこのあとは……。
「フジ!」
「どうした。さっさとメロンと一緒に逃げろ鼎」
「ファックユー」
「……。フッ、せっかくキャンパスメンバーズ割で無料だってのによ。よく受付で学生証出してそんな言葉が言えたもんだ。大学と博物館の関係が悪くなるぞ。ああ。もうちょいやったらぁ!」
紅錦鳳落の頭越しの桜の林、その向こうで火柱、水蒸気、ドス黒い血の噴水の順で空に打ちあがる。レイが万が一にも不覚をとるってことはないようだ。
「悪かったな鳳落さん。やってくれるか?」
「悪いけどこっちにもタイムリミットが出来た。そう長くは付き合えないわよ」
鳳落が四股を踏み地響きで噴水のそばのユリノキの葉がどっさり降ってくる。両腕を加熱し、陽炎と湯気で冬では珍しい速度で落ち葉が腐敗する。
「でも言わせて。本当にステキ。あの子、あの一言で全部変えたわね。さっき沈花に語ったフジ・カケルの人物像が一瞬にして変わるほど。アナタもあの子もステキ。二人の関係もステキ。アナタとあのかわい子ちゃん、とってもお似合いよ。アナタにあの子はもったいなくもあり、あの子にアナタはもったいなくもあるほど。互いにステキにしあえる関係って本当にステキ」
「感謝するぜ、紅錦鳳落さん。お前さんは俺のことをアブソリュート・アッシュと呼ばなかった。この姿の俺をフジ・カケルと呼んだ。ありがとう。それにお前さんに卑怯と言われたら多分かなり凹んだぜぇ」
「最後にもう一度。紅錦鳳落の金科玉条。気迫!」
池の水鏡に映る雄姿!
「忠義!」
東洋館に避難した鼎、和泉、インテリな来館者の目に映る英姿!
「そして敬意! アナタがここで死んだらアタシが水の中から頭蓋骨を拾ってあげる。野ざらしにはしないわ」
そして自身に吊り上げられ、このハッスル、ロイヤルティ、リスペクトの精神に目覚めたフジ・カケルのメガネに映る艶姿!
「セエアッ!!」
「……最後に足りなかったわね。マァウ!」
紅錦鳳落。
文筆業の父を持ち、自身の息子鳳落を主人公とした私小説の大ヒットにより常に周囲から好奇の目にさらされた少年時代を送る。本に書かれ、読者の中に生まれた健全なワンパク坊やのイメージを殺すべく、大学入学後から格闘技と女装を始める。同時にラーメンブログを立ち上げ、命を削ったラーメンライフでその筆致が評価されるも不摂生から来る急病により生死の境をさまよう。快復後より他人の意見に耳を傾け、己の人生についてよく考えるようになる。以前の反発による女装とはもう違う。己の道が女装なのだ!
そしてラーメンブログで発揮した文章力を評価され編集プロダクションイタミ社からのスカウトを受ける。
その拳の重みには108キログラムの体重……。上腕二頭筋、背筋のような筋肉の類……。迷いなき加速……。そして人生の重み。そのパンチは二重の意味で寝かしつけるような、激しさと優しさを孕んだ一撃。
いつか鳳落も子を持つのなら、いつかこれで殴ってやるべき鉄拳だ。
「最後の最後にハッスルだけが足りなかった。寒くなってきたわね。さぁ、日が暮れるわ。今。ここでΔスパークアローを使う度胸があればアナタも勝ちもあったかもね。Δを信じすぎるあまりにΔで決めきれない恐怖を拭えない限り、このままではアナタ、馬の骨よ。もう聞こえてはいないか。でも拾ってあげるしアナタはよく頑張った。誰に渡せばいい?」
フジをお姫様抱っこする鳳落のロングヘアが反発しあい、逆立った。これはまるで静電気……。まさか、まだ!? フジ・カケルのハッスルはまだ尽きていなかった!?
「そう思ってはいても、全く表情には出さないのね」
「あら、可愛いお客様。もう今日はやめない? 心を読むのはやめて。読んだならわかるでしょう? 今日はもう嫌」
バサバサとコートをはためかせボーイッシュなショートカットの前髪の隙間から、博物館から収蔵品を持ち出した宝玉のような眼球がグリリとメンチを切る。静電気の発生源はこいつだ。
「メッセ」
「今日はもう終わりよ、フジ。あなたの負け。立てる? 立てるならユキのところに行って解毒なさい。わかってるわ。このヒオウとはちょいいっと知り合いだけど譲ってあげる。ただしこのヒオウが怪獣化して新宿に来たらわたしが倒す。わたしはこの後も用があるから自力でユキのところへ行きなさい。それともそんなに仲がいいわけじゃないわたしについて来てもらいたい?」
「もういい。頑馬のところへ行け」
メッセの支えがなくなるとフジは両膝をついて吐き気と頭痛に抗っていた。すぐに周囲の照明が柔らかなシトラスのアロマキャンドルに代わる。まだ外のにおいも少しする。フジ、鼎、和泉がまとめて寿ユキの部屋に転送されたのだ。
「なんだよあいつ。クソ強ぇ!」
「修行する?」
「おい鼎。まだ残党がいたぞ。修行するぞ修行するぞって。お前の大学にもカルトに気を付けろ、の張り紙があったろ」
〇
「何が起きた?」
飛燕頑馬は不忍池の畔で棒立ちになっていた。優しい誰かが走りながら頑馬の肩を叩き、逃げるように声をかけた。さっきは見下ろしていたはずの弁天堂を見上げている。目の前にはまだ、巨大化したままのヒール・ジェイド。記憶が混乱し、時系列がバラバラになっている。乱雑になった記憶の処理は致命的無防備タイムロスを頑馬に与えた。
「どこだ、ここは」
「不忍池」
「わかってる。誰だてめぇは!」
ぶっきらぼうな回答は鼓膜ではなく精神に届いたもの。つまりテレパシーだ。この感覚はよぉく知っている。頑馬はヤンキー時代の集団戦のケンカではメッセのテレパシーを戦術の要に使ってきたので声とテレパシーの区別は容易につく。
「たまたまあなたが最初だったってだけさ、アブソリュート・レイ。ジェイドでもアッシュでも似たリアクションになる。ミリオンだけは違うかもね」
「誰だてめぇはって言ってるんだ!」
「ヒール・ジェイドの味方。種族はアデアデ」
「アデアデ」
キーワードで閉ざされていた記憶の扉が一つ開いた。この奇怪な現象はアデアデ星人の出現から始まったのだ。
「芸術家タイプのアデアデは超能力が得意でね。特に“すり抜ける”ことに関してはアデアデの右に出るものはいない。ステルスでもね。今の頑馬さんにわたしの姿は見えない。あぁ、そう。“すり抜け”。それはありとあらゆる場所へのアクセス権さ。例えば飛燕頑馬だけの空間にだってアクセス出来る」
「まさかてめぇ……」
頑馬がアデアデ星人虎威狐燐を目視した時の背景は不忍池ではなかった。
あそこは“インナースペース”だった。
インナースペース。
それは数十年前に確立された新たな変身方法である。
従来のアブソリュート戦士はミリオンのような変身型、プラのような憑依型に関わらず、肉体そのものを変化させて変身していた。
アブソリュートミリオンを例に出せば、170センチメートルのセリザワ・ヒデオは莫大なエネルギーを消費し40メートルの巨人へと変身していたのだ。そのためインナースペース法確立前のアブソリュート人は3分程度しか変身を持続できなかった。
インナースペース法では自分だけの空間に本来の姿を保存し、任意の時に本来の肉体を現実世界に召還して代わりに精神をインナースペースに入れ、インナースペースからアブソリュートの姿を操作することが出来る。インナースペース法を使用している飛燕頑馬/アブソリュート・レイを例に端的に言えば、頑馬からレイの変身は普段はインナースペースしまっている空っぽの肉体のレイを呼び出し、代わりにインナースペースに入った頑馬がパイロットとなり、インナースペースというコクピットからレイというロボットを操縦しているようなものだ。
自分自身の空間のため、操作の際のタイムラグや誤差さえ生じず全く本来の肉体と変わりなく操作できる。
この方法ではノーリスクで変身持続可能時間をけた違いに伸ばすことが出来、インナースペース確立以前以後ではアブソリュート戦士の歴史は全く変わっている。熟練度や適性によって変動もあり、現時点でジェイドは18時間、レイとアッシュは15時間変身を維持できる。
アブソリュート人以外にも広く頒布され、本来は人間態を持つことが出来なかった未来恐竜クジーもバースのようにヒトの暮らしを送れている。
しかもインナースペースは喩え血縁関係だろうと周波数を合わせることの出来ない完全に隔絶された不可侵の領域。自分自身の精神の周波数でなければ開けることの出来ないスイス銀行以上のセキュリティ。そのはずだった。
「ウソだろうおい。インナースペースから俺をぶっこ抜いて強制的に変身を解除させたってのか!?」
「お邪魔しました!」
インナースペースへの干渉。こんな離れ業が出来るやつがこっちにはいるぞ、とアピールするのが江戸川双右の今回の狙いだった。今の碧沈花ではフュージョンエンジンを持ってもフジ・カケルには敵わない。適度に戦わせて沈花がゴア化すればフジ・カケルもアッシュに変身するだろうから、そのアッシュのインナースペースに狐燐が侵入して変身を抑制する。相手がレイになったのは想定外だがまぁ、ジェイドの偽物以上に稀有で厄介な能力をアピールするにはレイでもいい。
「どうする? 変身するの?」
満身創痍のヒール・ジェイドが飛燕頑馬に手を伸ばした。もう勝った気でいやがる……。
「メガトウム光線!」
「痛ッテェ!」
厨蛮! 拳から放たれた破壊光線がヒール・ジェイドの人差し指をへし折って悶絶させる。39メートルに巨大化しているのにメンチを切る191センチメートルの頑馬の三白眼の白目がよく見える。
「今日はもう帰ろうよぉ沈花ちゃん。これは時間外労働だ! 断固拒否する! 残業の分だけ寿命は縮むんだぁ! ゲッホゲッホ、これ、すっごい疲れるんだよぉお!」
「出てこい! 卑怯者が! チンポコついてんのかオラァ!」
ガギィッ! とコンクリに急ブレーキ痕を残し、少し遅れて香水のにおい。こっちのテレパシーはよく知っている。
「メッセ」
「どうやらこの卑怯者はついてないみたいよ。こいつは女ね」
宝玉の目が周囲を見渡す。上下左右のブレが収まり、メッセの視線が一点に注がれた。頑馬とヒール・ジェイドには何も見えない場所だ。しかしそこにはやつがいる。
「ダッサ。いくらステルス能力があってもそんな恰好で外出して恥ずかしくないの?」
「やっべ、見えてんのかよ! さすが電后怪獣エレジーナ、レーダー生物。生憎メッセさんほど可愛くなくてねぇ。オシャレは掛け算。元がしょぼけりゃ積もしょぼい。さぁ、帰るぞ沈花ちゃん!」
有無を言わさずポータルを展開して強制終了。長かった一日がようやく終わる。