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アブソリュート・トラッシュ  作者: 三篠森・N
第3章 絶対零度
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第32話 ファxキンインザブッシーズ

「お前のことは知っている。アブソリュートミリオンだ。何もかも知っている。俺が怪獣軍団を蘇らせたとき、お前は上手く逃げて、隠し玉だったジェイドを完成させて俺を倒させた。三十五年前の時点で228の怪獣と異星人を殺していて、英雄と讃えられた。初代アブソリュートマンなどと比べれば慎ましい強さだが、力ではなく気迫、熱意、殺気、根性、徹底ぶりで戦士の姿として最高峰とされる男。だが知っているだけだ。覚えていたんじゃない」


「ならばどうする? 戦うのはやめておくか?」


「いや、戦おう。俺の魂はニセモノでも精神と使命は正常だ。アブソリュートは全て殺す」


「それがいい。貴様を見ていると野心が湧く。ここで足止め以上のことが出来れば、この歳で宇宙最強に大きく近づくからな」




 〇




 羽田空港は、約五か月前の大きな戦いの影響で機能を大きく落としていた。お台場近辺は痛々しい大火災の傷跡が残り、再開発が進められている。


「何もやることねぇ」


 世界屈指の大空港も飛行機と人の出入りがなければただの更地だ。東京で最も海抜が低く最も眺めのいい場所。視力に甚大な問題のあるフジでもメガネがあればオーシャンビュー、ビル群もよく見える。レイ、ジェイド、アッシュの三兄弟はここで一晩疲れと傷を癒し、決戦の時を待っていた。


「この美しい風景も見納めかもしれない。諸行無常。会者定離。儚いものね。自然だって文化だって、全ては命の営みの先にあるから美しいのに」


「もう戻らないみたいに言うなよ。……会者定離か」


「会って来たら?」


「そうしとく。言っとくけど俺の体力は回復している。これ以上ここで待つ理由はない。姉貴と兄貴はもう少し時間が必要そうだな」


 以前、中途半端に戦闘種族の血が沸いた時はなんとバースに勝ててしまった。ビギナーズラックか、実力か。中途半端じゃ困るのだ。アッシュという戦士、フジという男が地球を守るためには、最後のパーツがまだ足りない。


「もしもし? 今から行く」


 今日の鼎のコーディネートの詳細は明かせない。フジの貯金からのネコババが一回でかける中では史上最多金額に達しているからだ。おしゃれにかける時間が長いのは、祈りが長ければ信心深い、という風にイコールにはならない。上手くて可愛い子がやれば毒針の一撃で男を落とせても、どちらかというと鼎は試行錯誤を繰り返して最大公約数と最小公倍数を探っていくタイプなのだ。デートの場所は、池袋。品川一帯が封鎖されるということでダイヤが乱れ、ここまでなんとタクシーでやってきた。帰りもそうするだろう。ナマイキ!


「よぉう」


「フジ」


「何回電話かけてきてるんだ。バカか? 出られねぇ時は出られねぇんだよ。それとも五回架電キャンセルで、ア・イ・シ・テ・ルのサインか? それにしても多すぎるけど。着信履歴が椎間板みたいになってたぞ。因幡飛兎身は倒してきた。やつはブタ箱行きだ」


「それはよかった。……犬養樹は?」


「犬養樹だァア? あいつに何か出来るのか?」


「ダイレクトアタックされたんだけど。直で来た。命令抜きで助けたいとか匿いたいとか言って」


「つける薬も救いようもないウルトラバカだな。今更良心が通じるとでも思ってたのか。それとも自分がやってたことの背後にある悪意を知らなかったのか」


「よかった、断ってよかったんだ。でも知ってたんだ。フジはああいう子が好きそう」


「なんで?」


「不完全な人間は欠けているものを補い合おうとするから」


「つまり俺とお前さんだな。大丈夫だ。それにあいつは一人じゃ何も出来ないし駿河燈ももう終わる。犬養樹くらいなら和泉に任せておけ。あと一歩だ」


「まるで終わってしまいそうだね。ねぇ、降りてきてよフジ。みんな避難しちゃったから周りには誰もいないよ」


 フジは池袋の上空約二メートル強の高さから降りてこなかった。鼎が手を伸ばしてもギリギリ届かない高さ、二人を隔てる一枚の壁。物理的には上下でも、出会った頃のように立場や関係の上下ではない。まだ半年にも満たない短い間でこの壁は鼎を守り、鼎のために戦い、今は障壁となる。


「フジ、フジ。ウチの飼い猫のレモンが子猫だった頃の激キャワ写真見せてあげるから」


「ダメだ。気持ちが切れるし子猫の激キャワ写真なんて見たら、以降お前さんは猫のバーターになる。それ以上近寄るな。俺はもう満足だ。いくらフジ、フジと呼んでも俺が近づく気がない以上、触れることはない。まだ神が実在してお前さんのケツをナデナデしてパンティに一万円札を挟んでいく可能性の方が高いだろう。今の俺はキレキレだ。隠し子にマラドーナ・ジュニアと命名したマラドーナくらい自信がついてる。今回は観てもいいぞ、アッシュになった俺の戦い」


「都合よく使っちゃってさ、このクズ野郎。『バトルロワイアル』はまだ観てないよ。一緒に観てやる。そして一緒に観られなかった『アニポケ』と『モヤモヤさまぁ~ず』を観てやる。一緒に観てくれるまで『バトルロワイアル』は返さないから」


「安心しろ。……守ってやる。お前さんの故郷も未来も、そして俺自身も。それが一番嬉しいだろ? 地球が滅亡しようが、アブソリュートが絶滅しようが、宇宙が消え去ろうが、ゴキブリとフジ・カケルだけは生き延びる」


「フジ。ファックユー」


 フジの足場の先端が羽田に向かう。それを覗き見している悪いやつがいた。

 ……出てない! が、駿河燈だ! 二人には見えていないが、駿河燈の持つ超能力は本来の能力である爆発、訓練で後天的に習得した異次元移動、異次元チャンネルの設置、治癒、千里眼に加え幽体離脱まで備える。本当に理想さえマトモで努力の方向性が正しければ誰よりも才覚のあるアブソリュートマンだっただろう。変身したアブソリュートの姿をXYZに、演算能力をサイバーミリオンに破壊されてしまった燈は、幽体離脱して羽田空港をメインに三兄弟を覗いていた。ユキに近づきすぎることは危険だったので避けていたが、ようやくこの末弟も準備が整ったようだ。あまりにも恥ずかしい準備完了だったけれど、燈も久々に鼎の顔が見られてよかった。


 女の子はやっぱり恋する顔が一番キャワイイもの! 触れてしまいたい! 鼎の比較的豊満なバスト越しに心臓に触れてジョン・レノンでもモーツァルトでも描けないほど繊細で、書き留めるほど暇もないほど一瞬で過ぎ去っていく“恋する乙女”という鼓動のメロディを感じたいくらいだ。燈が生娘だったのはもう相当昔の話だが、愛するカレが自分の為に死地に喜々として赴くなんて“恋する乙女”の不安のソロパートのシャウトの辛さは察するに余りある。このメロディの編曲に携われたことは燈のささやかな喜びだ。誰でもよかった。ただ鼎はトーチランドにいないタイプだった。イツキのバカと陰気や、ヒトミのハイスペックとドライみたいに恋をするのに邪魔になるものが少なくて、見ていて楽しかった。


「ジェイド抜きは寂しいけどレイもアッシュも株を上げた。噛ませ犬には不足なし」


 そして火花でデコった極大のポータルから、満身創痍のアブソリュートミリオンを引きずって燈の双六を七コマも八コマも進めた悪夢の巨人、アブソリュートマン:XYZが羽田空港で本物の日光を浴びて目を細めた。強い日光はXYZのバーナーの火炎を呑みこんで少し小さく見えるようにした。


 池袋から羽田に向かう光の矢に前後左右のあらゆる方向から雷が落ち青い稲妻の球になる。


「セアッ!」


 ”閃光””傾奇””解放””仁義””犠牲””蓄積””豁然””慙愧””欲求””颯爽””鬱憤””機転””希望””物欲””忠誠””尊敬””抑制””射幸””苦悶””忍耐””一心””挑発””努力””雌伏””洒脱””生還””放浪””我慢””自由””成長””歓喜””直視””結実””燐光””加速””鮮烈””奇抜””視野””乱麻””研磨””刹那””鋭敏””不敵””注目””絶句””意地””劇的””鉄壁””面白””饒舌””不撓””財産””固執””極端””気鋭””瞠目””収穫””脚光””立志””青雲””夢幻””ト金””焦電””跳梁””鳴神””頽廃””烈風””偏光””歪曲””飄々””惑乱””謀略””執拗””軽快””倒錯””探求””克服””懸命””鍛錬””継承””無形””新星””欺瞞””悪食””感電””的中””光陰””慧眼””邂逅””黎明””闇雲””鳳雛””奔放””雷霆””邪道””糟糠””万雷””後塵””敏感””迅雷”……。

 ――“弾”!


 羽田空港の滑走路を炎が撫でる。何も焼かない生命力の燃焼はその中心の巨漢を覆いつくし、フィルムを逆再生するように炎が五十三メートルの燃えるような赤の戦士のシルエットに収束していく。


「ジャラッ!」


 ”大胆”“泰然”“友情”“豪奢”“勇気”“忠義”“元気”“愚直”“野蛮”“貪欲”“健啖”“自信”“破壊”“厚情”“痛快”“豪快”“怒気”“気合”“度胸”“熱血”“向上”“感謝”“闘争”“興奮”“使命”“宿願”“不動”“奮迅”“震撼”“強靭”“猪突”“結果”“不遜”“根気”“男前”“充溢”“険相”“闘魂”“不壊”“無双”“制御”“本能”“成熟”“怒涛”“敬意”“報答”“剛力”“仰天”“覚悟”“天与”“爛漫”“立派”“剣呑”“豪腕”“風雲”“覇道”“巨魁”“剛健”“極意”“獰猛”“粉骨”“鎧袖”“鬼気”“自律”“達成”“掌握”“改善”“回帰”“循環”“積極”“奮闘”“男気”“明朗”“鼓舞”“戦鬼”“抗戦”“進撃”“克己”“反発”“鋭気”“勇敢”“躍動”“怪力”“気骨”“発火”“合金”“強者”“餓狼”“馬力”“膨張”“威風”“傑物”“灼熱”“曙光”“天賦”“蛮勇”“猛者”“勇猛”“磊落”“燃焼”……

 ――“烈”!


 魚の骨で作った細工のような細く小さな少女を中心に地吹雪が吹き、品川のお天気カメラ中継の表示では晴れマークなのに画面は吹雪という矛盾した状況を作り出す。一点集中した雪の繭から純白の巨人が羽化した。


「テアーッ!」


 ”快哉””未来””愛情””酷薄””鷹揚””理性””無常””哀愁””嫣然””慈悲””清澄””完璧””静謐””仁恕””無我””俊敏””平常””象徴””高貴””美麗””細心””容赦””畏怖””鎮静””俯瞰””包容””無涯””千金””自恃””栄光””矜持””平穏””泰平””渾然””優等””模範””独壇””余裕””真剣””気品””荘厳””栄冠””寛大””証明””誠実””圧巻””優良””完遂””誓約””魅了””無垢””信頼””全能””詫寂””救済””莞爾””繚乱””流水””調和””安寧””冷徹””精緻””静寂””綿密””奨励””戒律””祝福””自浄””精細””神聖””不朽””篤実””拝跪””追求””福音””献身””賢明””聡明””影響””基盤””寛容””敬虔””牽引””氷結””久遠””降魔””至高””神威””蠱惑””叡智””果断””蓋世””珠玉””独尊””泡沫””悠々””屹立””闊達””華麗””蛍雪”……

 ――“淑”!


 XYZの口から噴射された、レイのものとは違う怨念の具現である炎がアッシュのバリアーによって防がれ、東京の街には一切の被害が出ない。トランプ大統領はイヴァンカやペンスやリンダ・マクマホンじゃなくてアッシュを招くべきだった。この男ならアメリカとメキシコを隔てる壁を二秒以内に作れる。


「なんでジェイドは変身出来るの!? 霊穴ってそんなにスゴイの?」


 ジェイドが見せるアブソリュートの教科書にはない柔軟な足捌き、美しいフォーム。フィジカル頼みではなく、地球人が編み出した機能的な美だ。燈の霊体はその動きとその手に握られているものを見て全てを悟った。


「アブソリュートミリオンの力! “鏖”の弾!」


「ギルルルゥ!」


 ジェイドの手にあるのは神器ジェイドセイバーではない。燈が開発し、息子に持たせた神器級の超兵器、Aトリガーだ。

 アッシュが防ぎ、レイが止め、ジェイドが撃つ。ミリオンを引き摺っていたXYZの右腕に細かい格子模様が入り、ドス黒い血が滲んで肉が弾け、木っ端微塵に粉砕されて解放された父に血肉のシャワーが降った。燈の千里眼ではこんな連携の練習はなかったし、Aトリガーがジェイドの手に渡ったことも想定外だ。


「パクられた。ジェイドリウムか!」


 ジェイドだけの異次元チャンネル、ジェイドリウムの中までは燈の千里眼も届かない。ヨシツネがジェイドリウムに潜入した時はヨシツネの感覚とシンクロしていただけだったので中にミリオンがいたことも気付かなかったし、こんな奥の手中の奥の手があったなんて。


「誰よりも優しく酷薄、ね」


 燈はカイを爆弾にしたあの爆発でAトリガーも始末出来たと思い込んでいた。実際は本来の持ち主であるカイの死は避けられない、そして自分は生還出来ると一瞬で判断したジェイドは、Aトリガーを……。


「久しぶり? なのか? ジェイド」


 落語の世界では蝋燭が溶けると寿命が縮む。しかし宿痾の巨人の腕は沸騰するような蒸気と気泡で腕を再生させ、先端に火を燈し、指に支配が戻って拳を握り、構えに入る。アッシュと同じく、正統派アブソリュートの格闘技の構えに。それは“オーバー・D”を手にしたアッシュが諦念を感じるほどの完成度とポテンシャルだった。初代アブソリュートマンのスペック+251万3299の怪獣・異星人の技……。

 鼎の飼い猫、レモンの子猫の頃の写真を見ておけばよかった。そしてレモン味とされるファーストキッスももう一回やっとけばよかった。


「ミリオンは思っていたより強かったな。数字に限界はないが、文字には終わりがある。Zの次には何もない。誰が俺をこんなにした。俺は蘇ったのか? 俺は何なんだ! だからまず、俺は俺に成るためにお前たちを殺す。俺はまずこの使命を果たさないと何にも成れない。これすらも創造者の掌の上か? 俺は誰だ。誰が生めと頼んだ。誰が作ってくれと願った……。俺は俺を生んだ全てを恨む。だからこれは逆襲ではなく、俺を作ったお前たちへの攻撃と宣戦布告だ」

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