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アブソリュート・トラッシュ  作者: 三篠森・N
第3章 絶対零度
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第29話 お前の敵を知れ

 『〈月例〉飛燕頑馬 結婚報道のグランド・ミルコを一刀両断“興味なし”』

 飛燕頑馬が1日、宇宙某所のステーキハウスに本誌記者を緊急招集した!

 勝手に「恒例行事」としている毎月の全宇宙のスポーツについてのご意見表示。今日の怒りの矛先は!? 8月の目玉は!?


●アブソリュート・レイ(飛燕頑馬)


「やつぱりデカい話題はプロレスリング・ネオのミルコと声優アイドルの結婚だな。ファミリーでバラエティに出たやつから塩になる。というか家族を持って塩になるのは最初からどうしようもねぇ塩だ。誰とは言ってねぇけど。嫁になるのはだいぶ人気の声優らしいな。確かネオの親会社の看板アニメの主演だろ? まぁどうでもいい。ミルコは若い頃からスタミナが自慢で長い試合を作れるいいレスラーだったから丸くなるなよ。今はベルトから遠ざかっているが、ベルトが増えすぎているネオはとっ散らかってる。ベルトが多いと挑戦者も増え、タイトルマッチのレベルが下がってしまう。誰かがグランドスラムを達成してベルトを統一した方がいい。それをミルコに期待している。嫁には興味なし」


 スポーツ新聞の記者にプロレスラーの解説をしても釈迦に説法にならないのが飛燕頑馬のスゴイトコロ。“興味なし”と断じた話題でさえこの熱量。今宵も取材は長引きそうだ。

 ステーキ、ハンバーグ、デザートを土砂のように口にかきこんで、野球、サッカー、プロレスはじめ、次々スポーツをぶった斬る飛燕頑馬。本誌記者サカモトのレコーダーもパンパンだ。


「話題はまだまだあるぜ。クラウドにいくらでも保存してあるが、少し電波が悪いみたいだ。どこなら拾えるかな?」


 わざとらしくスマホを持って席を立つ飛燕頑馬。そのまま戻ってくることはなく、テーブルには爆盛ギガアブソリュートステーキ三六〇〇グラム、ドリンクバー、カツ丼、フカヒレスープ、お子様ランチ、ペキンダック、ソーセージグリル、若鳥の唐揚げ、コーンポタージュ、ナタデココの伝票が残された。毎月たかられてしまうと全宇宙のユニスポ読者に申し訳ない。今日こそ飛燕頑馬に請求書を叩きつけたかったが、伝票の下にはなんと現金3万円が。

 飛燕頑馬も着実に成長している。




 〇




 じっとりとした夏の不快指数を払うかのように、昭和記念公園は唇の割れるような熱気にあふれております。学歴も見た目も家柄も関係なぁい! 収まり切らない暴力のボルテージは、鬱屈とした日本の空気への劇薬です。生物として原点回帰である真っ向からの殴り合い、殺し合いが今始まらんとしております!

 本日戦う二つの生命体は、宇宙最強アブソリュート人が誇る幻の天才レイと強豪怪獣クジーの最高傑作バース。あえて二人と表現せず、二つの生命体による暴力の激突であります。このカードの、このしばきあいのチケットが売られないなんて犯罪だァ!

 あぁ~っと! 始まってしまう! バースの先制パンチだ! 痛烈一閃! これは効いている! バースの目を囲む獰猛な爆炎の向こう側の瞳は、揺ぎ無い確信に満ち満ちています! さながら暴力ジャンキー!! 誰がこのバースに、トーチランドの“怒”担当の働きに文句を言わせようか! ここはバースの制御不能の怒りの炎が勝ってしまうのか!


 ()()ィッ!

 脱力と集中! 興奮と平静! 野性と理性! なんと野蛮で高貴! 殴った頑馬もこれを顔面に受けたバースも正気でいられるなんて運がいいほどの一撃! これはまさしく“飛燕頑馬”の鉄拳であります! いやぁぁあああ~~~ッ!! 両者の表情がものすごい!!

 振り返れば数々の屈辱が蘇ってきます。妹ジェイドに先を越された“宇宙最強”! もうアブソリュートの未来を担うのはジェイドなんだよと、宇宙で最も挑戦が集まるのはジェイドなんだよと、否定しつつも! 忘れられない三か月前、非公式のノンタイトルマッチでは現実の壁にブチ当たりました。

 しかしご覧ください!! 立っているのは! レイだ! 耳を澄ませてください! レイだ!


「今の姉貴じゃ無理だろ。XYZは兄貴にやらせた方がいいな。それに今の兄貴と姉貴に差なんてあってないもんじゃねぇ? 確かに差はある。でも敵にとっては同じだろ。どっちが来てももう終わりだ」


「ジェイドは万全ではない。それに一度勝っているならXYZにはレイが当たるほうがいいだろう。レイのどこに不満がある」


「レイがいい」


「レイであるべき」


「レイよ」


 寄り道ばかりだったかもしれない! 道なき道だったかもしれない! 歩んできたこの道では、ジェイドの隣ではなく実は周回遅れで隣にいるだけなのかもしれない! 夢に挑んだ三か月前、夢に届かなかった三か月前!

 でも今は違う! “最強”になることを求められ、レイは! かつてバースに撃ちこまれたジェイドの攻撃と比べて何ら遜色のない鉄拳を実現した!

 バース、マートン、オー、メッセの四人と過ごした時間に思い描いた夢そのものとなり、それを超えた現実となりました!

 地球の大気そのものの異様なうめきを浴びながら、今、炎の中心へ……。誰よりもアツく、胸を張って踏みしめろ、アブソリュート・レイ!!




 〇




 フジ、ユキ、頑馬、メロン、メッセ、ミリオンの六人のうち、今、一番弱気になってしまったのはメッセだ。

 火炎界……。そんなものがあるか知らないが、宇宙の火炎使いの中でもクジーは権威だ。そして電撃界があるのなら、エレジーナもオーソリティのはず。美貌争いと一緒で自分の全盛期にエレジーナ以上に電気を武器に扱えるやつが出てきたなんて認めるのは簡単じゃない。


「セエアッ!」


「レホォ……」


 アブソリュートの基礎が正しいことが今、アッシュの手によって証明された。

 アブソリュートの基礎中の基礎である格闘技、アブソリュート拳法。実はこの技術がそのまま使われることはほぼない。剣技を究める者、剣技と超能力を両立させる者、義務教育すら放棄して見様見真似と野良の実戦で我流を超一流に昇華させた連中を身内に持つアッシュだ。


「シャレになんねぇぞこれ……」


 トーチランドのメンバーで機動力最高はイツキだが、弾力のエネルギーを足に回した場合の瞬発のみ、ヒトミはイツキに並べる。攻撃を受ければ受けるほどエネルギーを溜めるヒトミの体にはかつてない程の弾力が溜まり、それを使って電光石火の逃亡を繰り返しているのに、今のこれは逃亡にならない。


「シャアァッ!」


 イツキ、ヒトミを超える超高速のスプリントによる全方向への瞬時の追跡! 背中に受けた衝撃がヒトミの足をもつれさせ、体に弾力を、神経に電撃を、優秀な脳ミソに怒りを溜める。どの方向にどんなスピードで走っても逃げられない。“超弾力”は托卵ゴア族の特異体質としては一番のアタリ能力だが、種族の壁が立ち塞がった。アブソリュート人……。下っ端とされるやつですら地球人&ゴア族とは段違いの身体能力に神経の伝達速度、エレジーナ以上の電撃だ。本来超能力タイプのアッシュによるフィジカル強行突破でこの有様。逃げが効かない。速すぎてゴア族カンフーの防御が追い付かない。今、ヒトミは本当にウサギになった。追われ、殺されるだけのウサギに。


「ジ……シェアアア!」


「こいつはヤベェぞ……。こんなの上から聞いてない。なるほどね。ロードに盗み見られることを意識しすぎてて、みんな奥の手があるってことだね」


「知ったことか。てめぇで勝手に想像しやがれ」


「じゃあそうしようっと。“オーバー・D”は簡単に言うと原点回帰とルート分岐だ。バリアーを使っててもレイにもジェイドにも全然追いつけないから、一旦置いといて原点であるアブソリュートの正統スタイルに戻って、それを伸ばしてみることにした。つまり“オーバー・D”は殴り合いにのみ特化した身体能力強化。違う?」


「ご名答ッ!」


 フジの攻撃が単調になってきた。実際には手数やバリエーションは減っていないのだが、ヒトミの頭脳はアブソリュートの基礎技術を解析して対処法を算出していた。速度では追いつかなくとも、自身の体勢やシチュエーションで技を誘導することでゴア族カンフーの方程式に当てはめていった。


「フッ、哀れなやつ。バリアーで手に入れたオンリーワンはやっぱり価値のないモノだったんだね。無価値なオンリーワンでいるくらいならジェイドやレイと同じカテゴリで下位にいるほうが気持ちよかったんだ! それともレイに鞍替えして殴り合いたくなったのかな? XYZ様をブツ飛ばしたあれは強烈だったからねぇ! 死ねよフジ。てめぇは苦しんで死ね。一生ジェイドとレイに追いつけないことに苦しんで死ね。ジェイドからの愛でてめぇを追い抜いたカイへのコンプレックスに苦しんで死ね。一生誰かに献身する側の立場でいる、てめぇ自身の……無能に苦しんで死ね」


「効かないねぇ。今はバリアーも張れない程頭が働いてないから効かなぁーい。通常だったら相当トサカに来てただろうな」


「いいこと聞いちゃった。“クジー”!」


 ゴア族カンフーで受けたままの至近距離から火球のBトリガーが起動される。トラウマを掘り起こすと同時に、ヒトミが装備している四種のBトリガーの最大火力だ。


「シエアアアッ!!」


 その火球も、バリアーではなくおおよそ防御とは呼べない雷の体内放射に押し負け、閃光になって消え失せた。“オーバー・D”のないフジ・カケルは侮ってもいい程度の弱敵だ。でも結局こいつはアブソリュート人。遠い……。脱兎のごとく電撃の放射を逃れて頭を回す。アッシュの力の源は電気。そしてヒトミは理科も得意だ。


「“エレジーナ”」


 ピコハンに電気が溜まり、ハンマー内で渦巻く電気が溢れて火花を散らす。ヒトミの仮説が正しければこれが最適だ。


「アレ? ……あっちゃあ。そういうことか。なんてこったロード!! これはさすがに計算外だったしょう!?」


 トーチランドについた時、先手を打って燈が変身した際、フジがマインに対抗する手段は変身だった。結局変身はせず、こうやって自分と戦っているが、フジ・カケルは変身のリミッターであるメガネを外し、裸眼のままだった。ミリオンの息子であるフジ・カケルの視力はとてつもなく低く、クジーの火球を目くらましに一時的な逃亡に成功したヒトミを見失っているのだ。クジーとエレジーナ! これの併用なら勝てる!


「バカな親子。ジェイドとレイの視力がマトモってことは、ミリオンの生活には明るさが足りなかったんじゃない? ……ナニユエ!?」


 体に流れる電気に苦しむような狂気の表情のフジ・カケルが捕捉、スタート、加速、減速、到達の過程をすっ飛ばしてヒトミの視界の大部分を占める。幼少期からモッテモテのヒトミには、この距離まで男の顔が迫ることはそう珍しいことじゃないし驚くことでもない。少し遅れて電気の爆ぜるバチっという音が遠くから聞こえた。


「セエエアアッ!」


「ルアアアッ!!」


 大・成・功! エレジーナのBトリガーの電気を絶え間なく放電することで、“オーバー・D”の原動力であるアッシュの電気エネルギーも巻き込まれて無駄に空気に拡散し、さらに拳に乗った電撃はほぼ無力化される。頑張れ頑張れ因幡飛兎身! 一つ一つの積み重ねだが、着実に勝機は見えてきている。流れはこっちに来ているんだ!


「セアッ!」


「レフッ!?」


 そう、例えばこの一撃を凌げれば……。


「セアララァッ!」


「レロロロ……」


 この連打を凌げれば……。


「ガアアアーッ!」


 こっからもう一度立てれば……。こっからもう一度意識が復旧すれば……。いや、もう無理だろ。耐久力そのものを底上げするしかない。異次元から召喚された黒い布がヒトミにまとわりついた。ヒトミの奥の手、ウサギの巫女への変身だ。耳が尖ってこめかみ、頭頂部よりももっと先に伸びる。しかし倒れたままのヒトミの耳は空には向かず、フジの靴に触れたところでヒトミの体と意識が限界を迎えて変化が止まってしまった。もう変身どころか、ゴア族の姿でも地球人の姿でも動く気配は全くない。


「……」


「……フゥ」


 激しい疲労と筋肉痛でこの戦いの勝利者、フジ・カケルも膝を着く。ここには全員いる訳じゃないから、ピースサインはまずはいつの間にか戦友から師匠になってしまったメロンに。そしてミリオン、メッセ……。そして手首を一八〇度回転させ、人差し指だけ折って残った指で攻撃的サインをマインに向け、舌を出した。


「超えたな、アッシュ。振り返るな。俺を超えていけ」


 末っ子の大一番は終わった。もう介入ではないので、偉大な父が末っ子の手を握る。昔から何も変わらない竹刀ダコだ。一緒にUPEのテレビ放送を観た時も、本をめくってくれた時も変わらない手。だがフジは二十一年で一七四センチに伸び、アブソリュートの基礎を身に着け、バリアーを身に着け、グレ、ミリオンの手が届かない領域へと進んでいった。三〇五〇年の生涯の三〇二九年目から彼の人生に登場したフジ・カケル。彼は二十一年でアブソリュートミリオンの三〇五〇年を、ついに超えた。


「アブソリュートミリオン公認ってかい。ドラゴンボールのモノマネ芸人への声優からの公認より安いぜ。だってもう三人目だろ? ミリオン公認は」


 あれだけ気になってた父の背中は依然として大きなままだが、冗談が届くくらいになった。




 〇




「あぁーと大変です! 大阪が私たちの大阪が! ドラマアンコール『神癪高校(カンシャクコウコウ)極道部(ゴクドウブ) ~生まれてきてスイヤセン~』の第9話『ブチ殺すぞダボが! 背中の彫りモンに賭けてシゴウしたる!』の時間ですが、予定を変更して大阪で発生した怪獣災害の特別報道番組をお送りします」


 連打連打連打! 通信アプリのフジ・カケル、寿ユキを相手に連打連打連打! オタサーのグループラインには、大阪で戦っている五十三メートルのアブソリュート・レイvs四十二メートルの大怪獣バースが陽炎と火球で戦の火花を散らしている様の実況が絶え間なく流れ、その興奮と恐怖と好奇の強さを物語っている。そのグループラインの通知を無視して連打連打!


「キエエエエエ!?」


 戦いが起きているのは大阪なのに、東京の大学で鼎は渾身の奇声をあげた。燈やヒトミみたいに明るい人間が周囲にいても矯正出来ない陰気な表情の犬養樹の登場だ。キャップ、ジャージ、スニーカー、バッジとラフなコーディネートなのに深夜ラジオのグッズということで実は陰気な恰好だとわかる犬養樹だ。そしてその恰好が深夜ラジオ由来だと知っているということは鼎も深夜ラジオを聴いている陰気な人間なのだ。


「望月鼎さん、ですよね?」


「キエエエエエ!?」


「ここは危険です。レイもバースさんもいつ東京に来るかわからない。XYZ様やジェイドやアッシュもいつ東京に来るか……。あなたを安全な場所に避難させます」


「キエッ……」


 こんな命令は燈からもらっていない。今のイツキに下された命令は「ミリオンには勝てないから戦うな」「フジにも勝てないから戦うな」「毎日三時にヒトミの代わりにゲームで鼎と戦え」だ。


「いつもゲームで対戦している犬養樹です。さすがに覚えてくれましたよね?」


「覚えてる。覚えてるけどやっぱりキエエじゃない! 駿河燈の仲間ってことでしょう!?」


「否定はしません。でも心地いい。わたしにとって望月さんは数少ない、繋がってる人間。会えて嬉しいです。こんな風に人とお喋り出来るなんて久々です」


「わたしはキエエですけど……」


「知りませんでした? わたしも大学生だったんです。中退しましたけど。望月さんには卒業してほしい。だからこんなところで死んじゃいけないです」


「いや、何言ってんの?」


「助けたい。……え? 伝わってない?」


「伝わってないよ……。拉致して人質にするってことでしょう?」


「違います! 上から目線になっちゃうけど、ここしばらくゲームで対戦してきて、情が湧いたんです! わたしの力なら、望月さんを保護したり守護することは出来ます。ロードの目的は無差別な人殺しじゃない! 地球人を巻き込むことなんて本当は嫌なんです! ヨシツネさんがいなくなったから、ロードの目的が果たされれば地球には何も影響はない。望月さんを助けたって何も問題じゃないんですよ! だって……。え? これも伝わってない!?」


「伝わってない。今更信じられると思うの?」


「あぁ……あああ……」


 イツキのキャップが吹っ飛んだ。瞳が砕けそうな程目を見開いて息を呑み、切歯扼腕して人語ではない呻きと鼓動がイツキの全身を音源そのものにする。

 哀傷、哀切、悲哀、嘆息、傷心。

 “哀”を背負えなんてなんて悲しい宿命なのだろう。そして“哀”を満たせるなんてなんて悲しい人生なのだろう。

 人間として小さい、怖い、痛いと言われればそれだけだが、悲しい人生を送ってきた犬養樹は、顔を見たことがないのに毎日ゲームで対戦する鼎に一方的な友情を感じていた。でもそんなの相互に通じ合うはずがない。でももしかしたら……。「仲良くなれるかも」「これ以上危害は加えなくていいのかも」なんて期待していたのは、実はイツキの方だったのだ。拒否はされたが、これを裏切りなんて思いやしない。所詮、自分は誰にも認められず、孤独で悲しい人生をこれからも続けるだけなんだ。今日のこの出来事は、既に決定されている自分の運命を再度つきつきられただけに過ぎない。今日のイツキは少し……。人間として欲張ってしまったから、自分の運命にお灸をすえられただけなのだ。

 しかし悲しいことに、犬養樹は優しかった。鬼畜の因幡飛兎身はその優しさを見抜き、鼎への圧力役を回したのだ。イツキほど悲しく、優しい人間ならこうするはずだ、と。

 人と触れ合わなかったせいで幼少期から大きくならなかったイツキの心の器が砕け散る。“哀”が高まる。溢れる。その悲しみは駿河燈からの愛の証であるBトリガーを通してトーチランドへ転送され、プールで沐浴する悪夢の巨人に注ぎ込まれていった。

 プールサイドが真っ平に均された。XYZの瘴気で濁った水が凹凸を全て溶かしてしまったのだ。XYZの魂の煤が異次元の遊園地に黒雲を練り、誰の命令もなく声を上げて宿痾の雨の下、全身の腱の機能を確かめる。


「ギリ……ギルルルル!」


 イツキの膨大な“哀”でXYZの思考プログラムに必要な量は既に満たされたのだ。燈の理想が、全宇宙の悪夢が産声を上げた。

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