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アブソリュート・トラッシュ  作者: 三篠森・N
第7章 アブソリュートマン:ニュージェネレーションスターズ
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第31話 教室で何を語ってたっけ

 まだ老け込む様な年齢ではないとわかっていながら、メッセは眼下でのパトラの輝きを羨ましくすら思った。

 あのくらいの年齢の若者……特に心理的、環境的、精神的な蓋により成長を妨げられている若者は、その蓋を自力で破壊した時にボーナスとして過剰な成長を与えられる。あの碧沈花もそうだった。パトラは沈花程の天才ではなかったが、それでももう……。


「ドルメェ……?」


 重厚な肉の装甲に覆われていながらもその動きは、機敏! 肉の鎧を着こんだタフガイの自負からあえてパトラに撃たせて受けるつもりでいたハンマーは、ギリギリで戦士としての本能に従って緊急回避を選んだ。それでも腹の肉は削ぎ落され、埋まっていたへそがドーナツ状に抉れた肉の断面の中心に浮かんでいた。


「……すげぇな、それはよぉ。技の名前は?」


「……まだない」


 パトラの返答は、生まれて初めて紡ぐ言葉のように純。


「名前をつけろ。そいつは特別になるぜ。技が泣くぞ」


「じゃあ、“絶対会心”」


「ふむ……。華麗な技、魅力的な発動モーション、やべぇ威力の割にシンプルな名前か。それも悪くねぇかもな。名前がすべてを現している。絶対に会心の一撃か。それでいいのかもな。インスタに載せるために飼ってるチワワやマンチカンにつけるのがお似合いのキャワイイ名前よりはな!」


 ふぅー、とパトラは大きく息を吐いた。今までに使ってきた必殺技のニフル・コリジョンは、絶大な威力と同時に宝石や貴金属を砕いたようなパーティクルのエフェクトがあった。その美しさと威力、リスク故にZ飯店では「見せ技」「切り札」「乱用不可」と制限をかけられていた。つまりパトラは後衛としていざという時にニフル・コリジョン、という戦いしか許されていなかったのだ。

 今は違う。メッセのもとで覚醒したパトラは、エコーにも引けを取らないバチバチの肉弾派だ。




 〇




「エコーちゃん、勝ったねェー」


「あいつは勝つに値しない。ただデカいだけ、力が強いだけ。気高くないわ。勝ちの価値もわからない、だだをこねたら相手が倒れたってことを繰り返しただけの子供」


「手厳しいネ」


「お前もそう思ったでしょう?」


「だってワタシは気高いからね」


 居酒屋二階でのメッセとシャオシャオも膠着していた。互いに俊敏、そして同系統の格闘技であると同時に、どちらもあまりモチベーションが上がらない。今は戦闘継続とみなされる程度に撃ちあいながら、路上のZ飯店vsヒジリ製菓威力部門の戦いを見てZ飯店の程度を見極めることが最優先だ。


「確かにね」


「アラ、意外だよォー。銭ゲバ、守銭奴。みんなそうやってワタシを蔑むから、メッセもそういうと思ったよォー」


「だからいいんじゃない。自分の価値観を金に委ね、すべてに金額を定めてそれを基準に考えて動く。誰にでも出来ることじゃないし、お前は……。一応、エコーとの戦いの後にスティングに配慮した。情ではなく合理で。お前は金が欲しいだけじゃない。エコーとは違う。あいつは自分の価値観を他人に委ね、そこで得た価値観の主語を自分ではなくZ飯店全体として強要している。あいつが考えを改めない限りZ飯店は成長しない。でもお前は違う。合理と金で判断し、他人に理解されないこともわかっている」


「過大評価だよぉ」


「気高いってのは、孤独なのよ。凡人に理解されるようでは凡人だしね」


 あのジェイドがそうであったように。


「……もし、わたしがディエゴよりも高額でお前を雇うと言ったらどうする?」


「バカらしすぎて答える気にもなれないネ。でもエコーは……」


「大人気ね、エコー」


「エコーを飼うのはワタシを飼うより難しいだろうね。でも、もうじきそうでもなくなるか……」


「そう?」


「ブレイズが折れればエコーも折れる。その時にブレイズを支えて立て直す度量はエコーにはない。そして、ブレイズは今日、この赤羽で折れる。さっきのパトラちゃんを見てそう思ったよ。Z飯店最強なんて煽てられて、主張はしないけどそのプライドはあっただろうね。でも見てみなよ。どう考えてもブレイズよりもエコー、パトラ、ロゼは強いじゃない。ハァー……。メッセとパトラ、何かあるね?」


「一緒にお前のところの副社長を倒してやったわ」


「もうさ……。一旦戦うのやめない? メッセの技のキレが悪すぎるよぉ。パトラの戦いを見るのに専念していいよぉ。そんなお前を倒しても、一円の得にもならないよぉ。全力のお前を倒して、先祖の仇を打つ。そういう付加価値がないとディエゴがくれる今日のファイトマネーでは足りないんだよね」


「お言葉に甘えようかしら」


 メッセは客が残していった牛串をかじり、椅子に腰を下ろした。シャオシャオも厨房から勝手に青島ビールを拝借し、別の場所に座った。奇妙な空間だった。似たもの同士だとお互いに感じ、だからこそその手強さを理解していた。


「ブレイズにも価値はない。だけど、あいつが折れる瞬間は見ものだねェー。ははっ。ずっとナメてた恋人が、自分よりもずっとすごかったとようやく思い知れ! ざまぁみろ、ブレイズ。愚鈍なデクノボーめ」




 〇




 話は少し遡る。メッセがDD興業副社長ラーナをブレーンバスターで沈めた時、周囲の雑魚の制圧を担当したのは偶然その場にいたパトラだった。メッセは彼女の適性が豊富な超能力ではなく、すらりと長い手足と長身、優れた運動神経、父が工務店の傍らで開くアブソリュート拳法の道場で鍛えた基礎……つまり肉弾戦にあると一瞬で見抜いた。そして修行をつけるべく、荒川の河川敷にやってきたのだ。

 ピンチではパニックになってピヨピヨしてしまう悪癖はあるが、多少の動揺はあっても敵や周囲がよく見えている俯瞰の視点と視野の広さ、自分の勝利の方程式への誘導。磨きがいのある才能にも恵まれている。

 そして代名詞であるニフル・コリジョンだが……。


「あのニフル・コリジョンって技、制約があるのよね?」


「適正距離である二十三メートルを超えると、その時の威力をわたしも反動で受けるというリスクがあります」


「……あの技がどこまで届くか試したことはある?」


「ありません。……とても危険だと直感で思ったから。技自体はわたしが任意に解除出来ます」


「わかった。じゃあ安全な距離である二十二メートルまで撃ってみて。わたしはとても目がいいの。仮説が正しいか確かめさせて」


「はい」


 高速で印を結び、手元で弾ける宝石と貴金属の粒子。そこから放たれた光弾は、今までのような乱戦の中での目撃とは状況が異なる。実にゆっくりとした光弾だった。


「二十二メートルです」


 ぱん、と弾ける美しい光爆。初速の割に、二十二メートルへの到達タイムは速い。つまりだ。メッセの仮説通り、その恐ろしさに全身に鳥肌が立ちそうだった。


「大体わかったわ。その技は……信じられないけど、宇宙の法則を歪めている」


「どういうことです?」


「加速するのよ。あなたの手元を離れてから速度が増し、減速することはない。もし永久にまっすぐで障害物のない場所があり、そこでその技を放つと無限に加速して光の速度を超え、宇宙が壊れる」


「すみません、ちょっとわからないです」


「つまり、その技で十分な加速をとればどんな相手も一撃で倒せるってことよ。ジェイドやレイも一撃。ただし反動ダメージという制約がある以上、それをすればあなたも死ぬ。そんなの意味がないわ。必ず生きる。相打ちになるくらいなら逃げた方がいいわ。要は使うなってこと。そして初速が低すぎて乱戦では誰かに当たっても、一対一では狙った相手に威力と安全性が釣り合う適正距離で当たることはまずないでしょうね。つまり、光弾の適正距離では肉弾戦の間合いの外。肉弾戦に光弾を交えようとしても威力不足か回避が楽ちん。だから光弾をどうにかして別の用途に当てはめるしかない」


 震えそうだ……。

 メッセは年齢の割に経験豊富な怪獣である。今までに宇宙でも最強クラスの怪獣やレジェンド級アブソリュートマンに出会ってきた。その中でも、このまだヒヨコとニワトリの中間にいる女の子は異質……を超えて異常すぎる。

 地形を一撃で焦土に変え、土をガラスに変えてしまう火球の使い手バース、活火山を一瞬で氷河に変えるジェイド、自分の体積を超える量を経口摂取可能な二葉亭萌百子……。そういったレベルを超えている。

 アブソリュートマンにはレイの火炎、ジェイドの冷気、アッシュの電気のように生まれつきの属性や得手不得手はあるが、ここまで極端な能力と個性を生まれ持ったアブソリュートマンには出会ったことがない。同時にメッセは何故アブソリュート人が宇宙最強と呼ばれるのかをさらに深く理解した。やっぱりやつらには勝てない。


「自分で考えることは必要だけど、あなたの場合は試行錯誤すら危険が伴う。一緒に考えていきましょう」


「はい」


「まず前提として、わたしはあなたの格闘を伸ばすべきだと考えている。じゃあ手っ取り早いのは?」


「修行……ですかね?」


「そうね。その修行の結実としてアブソリュートマンが発現させるのが“強化形態”よ。レイのガンマ・バースト・レイ、ジェイドのスノウブレイブ、アッシュのオーバー・Dのような、一時的にパワーアップする姿。その特徴も様々よ。シンプルな身体能力の強化、生まれつきの超能力の強化、全体的な能力の底上げ。それに加えて性格変化や外見変化といったメリットにもデメリットにも転ぶものが生じる。制限時間もバラバラね。ジェイドの強化形態は訓練の結果十八時間続くけど、アッシュは九十秒しか持続しない。しかもアッシュも最初は一八〇秒使えた。熟練するごとに持続時間が短くなるという稀有なケース」


 強化形態……。Z飯店ではロゼにしか使うことが出来ない。だがロゼは特別だ。強度の高い鍛錬をせずとも、センスだけでなんでも出来てしまう天才ののんびり屋。もし彼女がブレイズ並に修行をしたら……。少なくとも、今はロゼの怠惰のおかげでブレイズの面目は保たれている。


「習得にはどれくらい時間がかかるんでしょう?」


「その意気は悪くないわ。ちなみにわたしは……。多分エレジーナの歴史上で初めて強化形態を得た個体だけど、ぼんやりと強化形態が欲しいと思ってから習得まで半年かかった」


「半年か……」


「ただし、強化形態は持っていれば必ず得をする、というものではないのはわかっているはずよ。あなたはフジを研究したんでしょう? あいつは強化形態発動中は自慢のバリアーも使えなくなるし、性格変化で戦い方も変わってしまうし、強化形態を使い切るとクモに噛まれる前のピーター・パーカーよりもヘタレになるわ。そのフジが編み出したメソッドが、“ディレクト”よ」


「“ディレクト”?」


「強化形態の迅速な発動と解除に重点を置き、効果の発動を三秒以内に収める。その三秒に強化形態の力をブーストし、攻撃、防御、回避といった動作を強化する。ポケモンでいうなら強化形態はメガシンカ、ディレクトはZワザね。レイの新強化形態ガンマ・バースト・レイもディレクト前提で構築されているし、時間切れやスタミナ切れ、性格変化というリスクを遠ざけられる。あなたはそれを目指しなさい。強化形態を習得せず、先にディレクトを習得する。ニフル・コリジョンを編集し、格闘と掛け合わせる。これであなたは……」


 これを言って修行を拒否するようなら、それまでの子だ。


「ブレイズより強くなれる」

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