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アブソリュート・トラッシュ  作者: 三篠森・N
第2章 拳を振る太陽
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第13話 アブソリュート・ジェイドvsアブソリュート・レイ

「……お袋に会いてぇなぁ」


 自分は死んだのだろうか? デラシネにエネルギーを吸収され、薄れゆく意識は自分から放たれた爆炎にかき消されていった。目を覚ました飛燕頑馬はひんやりとした心地よさと氷柱のように白く透き通った細い指、ややだるさがひっかかるものの動けるようなコンディションをまず感じた。


「お母さんならいつでもあなたに会いたがっている。あなたが勝手に会わないだけよ」


「フッ、どのツラを下げて? 俺は親父もお袋も、師匠の顔すらも潰した」


「あなた一人で潰せるほどお父さんもお母さんもブロンコ叔父さんも小さくないわ。頑馬、ありがとう。あなたの作戦は成功した。鼎ちゃんは無事に生きているわ」


「そうか」


「わたしにはあなたのことはよくわからない。あなたが星を出て何をして何を見て、バース、マートン、オー、メッセとどのように出会ってどんな時を過ごしてどんな心を共有したか……。でもあなたは、わたしたちアブソリュート人が持つべき正義の魂を見せてくれた。そんなあなたに、わたしから一つ贈り物をしたい」


「なんだ? 寿司なら生ハム握りかハンバーグ軍艦がいいな」


「一対一で、正々堂々、正真正銘の一騎打ちをしてあげる。アブソリュート最強の座を賭けて。これを施しと感じるかはあなた次第よ。ケガは治してあげる。治った体で逃げるのも、戦わないのもあなたの自由。でもあなたの正義の魂に賭ける」


「施し、か。負い目はある。鼎もお前も無事ってことは……。ッ!? バース! バースはどうした!?」


「バースなら倒された」


「バ、バカな……。バースが負けるだと!? ありえん……。すまねぇことをしたなジェイド。あいつには手こずっただろう」


「いいえ、バースを倒したのはアッシュよ」


「さっきの十倍の気持ちでバ、バカな! だな。アッシュには謝らなきゃいけねぇな」


「それはあなたに任せる。一騎打ちの場所は抑えた。今は無人になっている辺境の星O2Tよ。重力と大気の成分は地球と同じ。街の廃墟、森林、火山、湖、平原、砂漠、谷がある。場所によってどちらのアドバンテージにもなるから、有利な場所に追い込むのも自由。そして一人、立会人を見つけて。わたしにはアッシュがつく。この戦いで負ったダメージはわたしの治癒の力で治すことが出来る。灰になるまでやりましょう」


「おいおい、施しととるかは自由とかさっき言ってたくせによぉ。()る気満々じゃねぇか」


「フフッ。だってあなたを倒せば誰もわたしの“最強”に文句をつけないもの」


「……バースに立ち会ってほしかったなぁ。欲を言うならば」


 とか言っちゃってぇ。


「とか言っちゃってぇ。ハァ……。元気か、鼎。ラーメンはどうだった? 俺ってどうもラーメン屋って苦手だよ。ラーメンは好きだ。だがラーメン屋って幅が広すぎるだろ? 中華そばって感じからヤクザに始末される会計士が足を突っ込まされるバケツの中のゴッツイセメントみたいなドロドロスープまであるし、店の意気込みも全然違うだろう? 俺は気軽にスマホいじりながら食いたいんだよ。福岡ラーメンの毒見、ご苦労」


「あぁん!? このミスチル野郎!」


 いろいろなことが一瞬過ぎて自分が死にかけていたことも命拾いをしたことも実感がわかない鼎は、自分の知らないところでブン回された運命の車輪の脱線をフジにぶつける。

 度のキツイメガネをかけられた鼎と、視力が弱くてメガネがないとよく前が見えないフジはソーシャルディスタンスをシカトした距離で会話を交わす。ずっと会いたかった顔なのに。このメガネを外したくないし、メガネを返されたくもない。お互いに向き合えない。


「そういえばお前の昔のSNSの自撮り……。一年くらい前のかな? 加工してんじゃねぇよ。背景が歪んでたぞ。昔ヤクルトで外野守ってた魔将ガイエルの守備ぐらい空間がねじ曲がってた。メロンを見習え。もしかしてお前、メロンの素顔見たことねぇのか? メロンは加工ナシでもものすごいぞ」


「ハァ? 目か頭かどっちか悪いんじゃない?」


「何もしなくても可愛いよ。とか言っちゃってぇ」


「……」


 バキィッ! 乙女の照れ隠し鉄拳がマートン、バース(1)、バース(2)と連戦を続けた戦士の側頭部に炸裂する。格闘技シロウトによる攻撃は非常に危険である。相手が受け身を取れないタイミングや加減を知らないからだ。恋する乙女の照れ隠し鉄拳でも相手が地球人のモヤシ男なら大ケガを負う可能性もあるので厳禁だ。だが今、食らった相手はアブソリュート・アッシュ。しかも神器を使えた数分間はあのアブソリュートミリオンの全盛期に迫るかそれ以上の強さだった。

 だが照れ隠しの鉄拳を見舞わざるを得ない。だって鼎に可愛いって言ってくれたのは親以外ではフジが初めてだったから……。オタサーは女の子と向き合えない。照れて「可愛い」なんて言えない。鼎だけ見つめてるし鼎を思うだけで心は強くなれるが、君が好きだと叫ぶことも出来ないし見つめるだけの日々を終わりに出来ず夢のハイテンションを世界が終わるまで……。


「このパンチはダメだろ! これは『あしたのジョー』でホセ・メンドーサがカーロス・リベラにやったやつだろ! カーロス・リベラが一発でダメになったやつ! さっきはあんなにお盛んだったのに褒めただけでホセ・メンドーサのアレやるって……」


「まぁ、そのあれよ。さっきは何かがおかしかったのよ。臆病者の一撃……。そう、BUMP OF CHICKENよ」


「結構効いたけどな、BUMP OF CHICKEN。じゃあそろそろメガネ返してくれ。見えないものを見ようとしてメガネを覗き込むから。今日は疲れたからもう何もしねぇ」


「……ダメ。今は返せない。今、すごくキモい顔してるからしばらく何も見えないままでいて」


 両想いなのでは? 不純異星間交遊はまだ真っ白な灰にならず、ぶすぶすとくすぶり続ける。


「フジ。お兄さんにお礼言った?」


「言ってねぇ」




 〇




 数日後。

 決戦の地、O2T。

 アブソリュート人の女性が持つ慈しみに由来する癒しの力で飛燕頑馬がデラシネから受けたダメージは完治し、この日のためのリハビリ、トレーニング、調整、休養は済んでいた。完璧なコンディションだ。

 ジェイドはかなり治癒の力を使って疲れたようだが、ジェイドが「今日」と決めたのならジェイドのコンディションもベストなのだろう。

 ジェイドのポータルをくぐり、宇宙最強の戦闘種族アブソリュート人の現・最強アブソリュート・ジェイドの人間態寿ユキとその立会人である実弟のフジ・カケル、そして宇宙最強になれるはずだったアブソリュート・レイの人間態飛燕頑馬とその立会人である、唯一無事だった部下、電后怪獣エレジーナの王女メッセが決戦の地、バイラル城下町の広場に降り立つ。フジとメッセは世紀の大決戦を記録に残すべくカメラを回す。

 ユキのアンダーリムのメガネには飛燕頑馬しか映っていない。頑馬のスポーツグラスにはユキしか映っていない。

 二人の背中から発生したオーロラと陽炎はお互いを食うように大気に満ち、乱れた空気が強風を発生させ、バイラルの大鐘楼がガランとゴングのように鳴る。


「テアーッ!」


「ジャラァーッ!」


 ()()ィッ!

 SMASH!

 決戦の火蓋は切って落とされた! 一瞬で二人の姿が消え、コンマ数秒後にリーチで勝る頑馬の拳がユキのガードにめり込む。衝撃を散らしたユキは頑馬の腕を軸にアクロバットし、頑馬の顎、鼻、こめかみに踵を打ち付けて離脱する。あまりの早業に音がついてこられず、フジとメッセには少し遅れて聞こえてくる。衝撃波がバイラルの城下町の廃墟の壁を剥がし、井戸に吊るされた桶は拍手するようにカチカチとけたたましく鳴る。重たいはずの地面のタイルが紙きれの如く吹き飛び、自然災害にも強いはずのバイラル城下町始まって以来の災害が発生する。


 なんていうパワー……。

 山も街も森も何もかもブッ壊してしまうブルドーザーのような破壊の奔流だ。


 なんていう鋭さ……。

 石や木、その気になれば鉛筆の芯だろうと精巧な彫刻に削り上げる針のような正確な狙いとコントロールだ。


「おいっ、カメラ引けメッセ!」


 フジとメッセのカメラが空に向けられる。小柄な白い戦士と大柄な赤い戦士は衝突の瞬間だけフジとメッセとカメラに色を認識させ、引いたカメラの中央、四隅、あちこちで激突し、その度に城下町が瓦礫と化していく。感覚が鋭く大量の情報処理を可能とするメッセはかろうじて二人の動きを追えるが、カメラワークは追いつかない。


「ジャラァーッ!」


 空中で頑馬の渾身のパンチがユキの氷の防壁を粉砕し、彼女を活火山デッドマウンテンの火口へと叩き落とす。刺激を受けた火山がくしゃみしてマグマの飛沫が宇宙空間まで吹き上げられ、火山灰が空の頑馬の肩に積もる。肩の感覚がおかしくなったのか? 火山灰が積もっているはずなのに冷たいぞ?


 FREEZE!

 形容する言葉すら見当たらないくらい巨大で白く眩い閃光が火口から吹き上がり、マグマが真っ白に凍結して角ばった形に変わり細かい砂になって、アイドルのライブの登場シーンのように活火山を死なせたユキの復活を美しく彩る。


「テアーッ!」


 頑馬の情報処理を超えた速度で顔、胸、腰、肩と言った凍った火山に向けていた全ての部位に突き刺すような鋭い衝撃。もうジェイドを目では追えない。気持ちをリセットすべく一度目を瞑り、気持ちを切り替えると目の前には巨大なリングが見えた。


「やべっ」


 PLOP!

 ポータルから転送された大量の水は頑馬をバイリア湖まで押し流し、水底の遺跡までも水流で抉り取って水葬する。深く沈んでいく頑馬から上がる気泡の間隔が長くなっていく。意識が薄れてきたか? だがユキは手を緩めない。バイリア湖のH2O全てを氷結させ、頑馬を氷の中に閉じ込めてしまう。頑馬の周囲は気泡で濁る。


「ハァ」


 ユキも火山の凍結、湖の氷結でかなり力を消耗した。少し呼吸を整えたいが、やはり飛燕頑馬の強さは普通じゃない。

 湖の奥底が赤熱する。爆風で湖畔の木々が根こそぎ放射状に吹き飛ばされ、激しい水蒸気を上げて五十三メートルの特大巨人アブソリュート・レイが氷を溶かし、砕き、上空に積乱雲を発生させて降臨する。ユキもメガネを外し、左掌を左目にかざす。


「フフッ。テアーッ!」




 〇




 ……“アブソリュート六大レジェンド”の一員で、アブソリュート・ジェイドの訓練を担当したアブソリュート・プラは語る。


「ジェイドは戦士になる予定ではありませんでした。双子の兄が天才、国宝と呼ばれ、好戦的なレイだった。アブソリュートの未来はレイ一人で担えるはずだった。なのでジェイドには治癒の力や勉強、花嫁修業など戦いから遠い訓練をさせていました。しかしレイは姿をくらませた。ジェイドの運命は、レイが失踪した十三歳の時に大きく変わってしまったのです。レイの失踪で若手の育成が急務となり、レイにかけられたもの以上の期待と重圧がジェイドを襲った。でもあの子はそれを上回った。たった二年でレイやわたしを超え、十五歳で宇宙最大の災厄アブソリュートマン:XYZまでも倒してしまった。今でも、“育成に成功したレイ”が最強だと言う人もいる。でも最強は“ジェイド”です。あの子は期待にも重圧にも、開放にも誘惑にも負けなかった。アブソリュート史上最高最強、完全無欠の“戦士”であり、“人”である。あの子を目指してはいけません。あの子と比べてはいけません。あの子の辿り着いた領域には誰も行けません。才能では上回っているはずの、レイでさえも」




 〇




「テアーッ!」


「ジェエッ!?」


 アブソリュート・ジェイドの勇気、優しさ、冷酷さ、平常心、精神力は、アブソリュート・レイの雄姿、逞しさ、筋肉美、肉体、傷跡を容赦なく打ち据える。


「ジャラァーッ!」


 レイが雄たけびを上げる。あまりの声量にフジのカメラのレンズが割れ、聴覚も過敏なメッセは目を回してしまった。レイの胸に光の穴が開き、その中から身の丈を超える黄金の巨大な剣がゆっくりと伸びる。

 レイを選んだ神器だ。剣はレイの鼓動に合わせて分解され、目の周りと胸、腕、拳、膝、足を覆う鋭いプロテクターへと変化する。

 これぞ! レイが編み出した、神器とアブソリュートの掛け算! 神器と力を融合させるレイの強化形態、その名も“ゴールデン・レイ”! 極限まで増幅した筋力と自慢の拳をさらに頑強なものにする。限界まで力を溜めれば月程度の大きさの星ならイチゲキで懐かしの名作ゲーム『星のカービィ スーパーデラックス』のミニゲーム『かちわりメガトンパンチ』の如く叩き割ることが出来るだろう。

 神々しい……。純粋な力の結晶である“ゴールデン・レイ”の姿は、ジェイドの戦闘種族の血を沸騰させる。


「ジエイアラーッ!」


 あの天才、国宝レイの渾身の一撃……。受けることが応えることだろう。ジェイドの戦闘種族の血が疼く。


「テェ!?」


 肋骨……肺、心臓、肝臓など主要な臓器を守る。

 症状……骨折部位に一致した疼痛および圧痛、腫脹、皮下出血。


 鮮血を散らしながらジェイドがケルトの谷に転落し、岩壁に細い長い血の模様を描く。


「果たして俺は失敗作か……。アブソリュートの訓練、教育は正しいのか……。俺とお前の才能が全く同じだとして、アブソリュートを捨てた俺と貫いたお前……。どちらが正しいのかが今、この戦いでハッキリする」


 ZAP!

 光の届かない谷の底を鮮やかな緑色の光が照らす。底から徐々に地上に向けて光が上り、反応したレイの左手の黄金のプロテクターを貫通する。


「テアーッ!」


「ジェッ!?」


 THUNK!!

 ジェイドの拳の衝撃がレイの背後の砂漠に砂嵐を発生させるが、のけ反ったレイから散った血が砂にまとわりつく。神器と融合した強化形態に入っているはずなのにこのダメージ!? ここに来てジェイドは衰えるどこか強くなっているというのか!? 


「クソォッ!」


「テアーッ!」


「グッ……」


「テアーッ!」


「ジェェッ!?」


「ネフェリウム光線」


 ZAP!

 ネフェリウム光線が森の木の高さを均等に揃える。こんなに強かったのか!? アッシュの言う通り、地球で最初に戦った時は守るための戦いで全然本気じゃなかったというのか?

 ……。

 ……ジェイドへのコンプレックスはなかった。レイがアブソリュートの星にいた頃、ジェイドは最低限の訓練しかされておらず、将来に期待などされていなかった。勉強は出来たが、レイには自分は勉強が苦手な自覚があったし、レイはそれを苦に思わなかった。

 ジェイドはライバルですらなかった。

 だがアブソリュートの星を抜け出した後、たった二年でジェイドはあの史上最悪の怪獣アブソリュートマン:XYZまで倒してしまった。地球でテレビゲームにも触れたレイは、XYZに勝利したことは百万匹のはぐれメタルを倒すよりも貴重な経験値だと例える。ジェイドがXYZを倒したのなら、本当にジェイドが宇宙最強じゃねぇか……。自分が捨てたアブソリュートなのに。もしも自分がアブソリュートに入れば、XYZを倒すのは自分だったはずなのに。ジェイドが最強と呼ばれるくらいなら自分はそれを超えた超強のはずだ。

 ……はずだった。


「フッ」


「何がおかしいの?」


「お前になら見せられる。バースにも見せたことのない、俺のとっておき中のとっておき」


「そういうの、いいわね。ではわたしも」


「まだお前にも切り札があったか。いいぜジェイド! お前は俺の人生で間違いなく最強ジィェエエ?」


 レイの体を三本束ねられた矢が貫く。急所を射られてついに意識を失ったレイの体から神器のプロテクターが解除され、音もなく砂漠の砂に包まれて風と共に変身が解け、一九一センチの飛燕頑馬に戻ってしまった。


「アッシュ……?」


「ハーハッハッハ! この馬鹿(ブゥワァーカ)めぇ! 誰がお前なんかを姉貴に勝たせるか、愚図(グズ)がァ!」


 こうして二人の聖戦は、弟の手により幕引きとなる。


「……」


 これでもジェイドは激高しない。一生に一度あるかないかの大興奮の大激戦。楽しかったから勝敗はどっちでもいいと言うにはジェイドはまだ若すぎる。

 理解しろ。理性と現実をベースに他者の気持ちを考えろ。

 弟の気持ちを考えたジェイドは寿ユキの姿に戻り、痛むアバラで頑馬の治癒を始める。


「姉貴の勝ちだ。プロレス屋のジジイがこう言ってた。乱入による反則があった場合、王座の移動はナシ、と。姉貴が最強のままだ」


 SMACK!

 ヘラヘラとやってきた弟にケジメのビンタを見舞う。だが肋骨の折れたユキでは戒める程の威力は出なかった。


「姉貴はウソをついた。ウソとはまた違うか。姉貴は自分の傷だけは癒せない。アブソリュートの女性が持つ治癒は他者への慈しみの力だ」


「だから?」


「ウッ……」


 とんでもないメンチだ。フジならこれだけで逃げる理由に出来る。


「あのままやっていれば、多分わたしが勝っていた。頑馬のとっておきとやらを加味してもわたしが……。あなたなりの頑馬への気遣い、感謝のつもりだったんでしょう? これなら、頑馬はわたしと互角のまま」


「……頑馬の最大の目標は姉貴だった。もし頑馬が勝っちまったらどうするよ? 頑馬の人生から生き甲斐がなくなる。俺がもうちょい強くなれば頑馬にもう一つ生き甲斐が増える。それにはもうちょい待ってほしいから、こいつの目標はもうしばらく姉貴のままがいい」


「言い訳ね。本当にヒドい言い訳。正直に言えばいいじゃない。本当は頑馬に懐いてしまったって。誰かがあなたをこう言っていた。アブソリュート一のクズ野郎、“アブソリュート・トラッシュ”だって」


「結構。あ、アニメのポケモンが始まる時間だ。今日は俺のガールフレンド、鼎ちゃんと観る予定だから早く帰してくれないかなァ~!?」


「鼎ちゃんも苦労するわね」




 〇




 鼎はフジの住むコーポ蓮見201号室で一人、フジの帰りを待っていた。


『ゲットだぜ!』


 一緒に観るはずだったアニメのポケモンが始まってしまう。そんなにあの二人の戦いは長引いているのか?


『モヤモヤさまぁ〜ず2。今日ハ西新宿ヲ、ブラブラスルラシイッスヨ』


 次の番組まで始まってしまった。アニメのポケモンは鼎に付き合わされてテキトーに見ている感じだったたが、フジは『モヤさま』は大好きだったはずだ。


「帰ってこないつもりなかぁ」

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