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アブソリュート・トラッシュ  作者: 三篠森・N
第2章 拳を振る太陽
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第12話 アブソリュート・アッシュvsバース

「ユキ」


 変身を解除し、寿ユキの姿に戻ったアブソリュート・ジェイドの肩に分身メロンが乗っかる。三流遊園地の絶叫マシンのように荒く振動し、激しい呼吸を繰り返して目を血走らせる寿ユキの姿はあまりにもらしくない。


「大丈夫?」


「大丈夫よ。メロン、今までいろいろと力を貸してくれて、ありがとう」


「わたしは……。罪滅ぼしをしてやっとゼロだもの」


「カケルもきっとあなたに感謝するはず。本当にいろいろと頑張ってくれて、助かったわ。いろいろ連絡を回してくれたり、カケルの視野を広げてくれた。鼎ちゃんの話し相手にもなってくれた。二人の分までわたしが感謝するのはでしゃばりだけど、あなたがいてくれてよかった。是非、高級メロンをご馳走させて」


 それでもユキからの感謝の言葉はメロンの心を救う。やっていてよかった。やってきてよかった……。自分は無力ではなかった。


「でももう一仕事、あるかもしれない」


「……フジくんがバースを倒せなかった場合?」


「ええ。変身して全力で戦うカケルとバースをジェイドリウムに閉じ込めておけるのは十五分が限界。そしてその十五分を過ぎるとわたしも疲弊してしばらく変身出来なくなる。戦えるのはあなたしかいない」


 バースはフジと和泉が二人がかりで、姑息な罠と作戦を立ててもなお勝てなかった相手。分身を通してその戦いを見ていたメロンには、ジェイドリウムの中でサシで戦わせるのは分が悪い賭けに見えた。バースはマートンやオーとは違う。負け筋が少しでも生まれればこだわりを捨てて確実に勝ちを掴みにいくよう切り替えることが出来る。そしておそらくバースはそれを勘と理詰めの両面で判断している。勝利の味を、尊さを知っている、勝者、強者の勘と経験値だ。それ故に手強い相手。あのままジェイドが戦った方が有利だったのでは? かもしれない。だがもうメロンは犠牲を最小限と決めたのだ。結局、メロンもこだわってしまう。


「カケルにも勝ち筋はある。ふぅ……。少し、どうでもいい話に付き合ってくれる?」


「ええ」


「カケルには伸びしろがある。あの子には大きく欠けているものがある。それはモチベーション。アブソリュート人は戦闘種族、戦うことに喜びを見出す。レイもそうだし、わたしもそう。より強い相手と戦い、勝って、自分のレベルアップを確信することがアブソリュート人の人生の目標。でもカケルはそうじゃない」


「確かに、フジくんは確実に勝てる戦いしかしないわ」


「それはわたしのせいなのかもしれない。アブソリュート人の寿命は長い。人間と同じで大体二十年で大人になって、二千年以上ピークを維持する。だからわたしたちの父親のアブソリュートミリオンも、祖父世代のアブソリュートファザーもまだ肉体的には全盛期のままなの。後世に席を譲るけれど、むしろ老獪なテクニックと豊富な経験値を持つ分、若い世代よりも強いかもしれない。でもわたしが十五歳の時、悪のアブソリュートマンである“アブソリュートマン:XYZ”を倒して流れが変わったの。上の世代は、全部ジェイドがやればいい、と。わたしより下の世代はどうせジェイドを超えられない、と。そしてカケルはわたしの弟で、レイの弟でもある」


「察したわ。フジくんも大変だったのね」


「だから地球で彼が鼎ちゃんやあなたや和泉さんと仲良くしてると聞いてとても嬉しかったの。頑馬たちとつるんでいる時でさえも、あの子の気持ちが少しは楽になるのなら……。でもあの子にはやる気がない。あの子がその気になったら、戦闘種族アブソリュート人としてどこまで爆発的に成長するのか楽しみでもある。事実、あの子はアブソリュート人がやらない戦い方をわたしに見せてくれた。あの子に欠けているのはやる気だけよ。戦闘種族らしい自分勝手な期待だけどね」


「あなたはいいお姉さんよ。わたしにも昔、娘がいた。男の子向けの変身特撮ヒーローが好きな少し変わった子で、ランドセルは青がいいって言っていた。でもあの子が自分の意見を言う度にわたしも嬉しかったの。こうやってこの子は自分を作っていくんだ、って。この子はこうすればもっと自分を好きになれるかもしれない、もっと成長するかもしれない……。そうして自分が望む方向への成長を期待することにはエゴもあるかもしれない。でも、いいじゃない。わたしたちは千穂よりも、フジくんよりも長く生きているし、母で姉だもの」




 〇




「セアーッ!」


「バゲェー!?」


 バースの顔面を地下鉄に押し込み、上から極厚のバリアーの板で固定してバリアーのタンクで運んだ海水を地下鉄に流し込む! このままバースが溺死してくれるとは思えない。そしてジェイドリウムには制限時間がある。悠長な戦いはしていられない!


「Δスパークアロー」


「バゲェー!?」


 バリアー越しのバースの背中に最大火力をぶつけるが、バリアーの硬度が高すぎて技の通りが甘かった。矢は貫通せず、燕尾状の甲羅の根元を傷つけるのみに留まったが、もうフジに余裕はない。この十五分、手を緩めず死に物狂いで攻撃を続けるしかないのだ。一度バリアーを解除し、バースが地下鉄から顔を上げて息を吸った瞬間に大型タンカー並みに海水を積んだバリアーのタンクを後頭部に落とし、再び海水に顔面を浸す。開いた喉と気管でバースは一瞬にして溺れた。


「セアー!」


「バゲブッ!?」


 右の甲羅を力任せに引きちぎり、角を掴んで馬乗りになる。甲羅がちぎれた背中から首、顔を血が伝って地下鉄に血が拡散していく。だが手詰まりか? 一見攻勢に出ているようでも決定打がない。馬乗りになってもバースのとんでもない馬力が伝わってくる。こいつの強さはまだこんなもんじゃないと知っている。マートンは投石数発で致命傷を受けた。だが和泉と二人で投石を浴びせ続け、落とし穴にまで落としたバースはその後も余裕で戦い続けた。しかも今回はまだ火球も使っていない。こいつはまだこんなものじゃない。そんな焦りと恐怖はフジの平常心とスタミナを過度に消耗させる。


「……」


 背中を矢で射られ、呼吸器に海水が入って苦痛を覚え、甲羅も剥ぎ取られてしまった。致命傷にはまだ至らないが、少しずつではあるがバースも焦りを感じている。ほんの一瞬だけ、福岡でジェイドと戦った。そのジェイドと比べるとアッシュは雑魚にしか思えないが、ジェイドはレベルが違いすぎる! あの一瞬でジェイドは街や人を守りながら、複数回自分に恐怖を覚えさせる一撃を入れてきた。その恐怖はフジから受けたダメージよりも大きな陰をバースの心に残している。そもそも防御力だけなら頑馬を凌駕するオーを簡単に倒した相手だ。ジェイドはヤバい。あのまま戦っていれば敗北は時間の問題だった。だがチームの頭脳であるメッセは、マートンとオーがやられた時点でジェイド封じの素敵な作戦を考え、バースに同期していた。

 ジェイドリウムだ。自分たちが巨大化すれば、ジェイドの行動は巨大化するか、ジェイドリウムに閉じ込めるかの二択になる。そしてジェイドリウムを限界まで使わせればジェイドは変身出来なくなる。この上ない勝機だ。ジェイドを限界まで削るなら、ジェイドの持ち時間全てをここで使わせるのが最適だ。だからアッシュを瞬殺してはいけない。ジェイドに時間が残る。なるべく余力を残し、時間をかけてアッシュ→ジェイドと勝ち抜く。これがチームの頭脳であるメッセの考えた作戦だ。


「だがメッセ、それはチームプレーだな。俺はもう、一人なんだよ」


 未来の火球で地下鉄の海水を全て蒸発させ、地盤ごと地下鉄を爆砕して巨大なクレーターを作る。水蒸気爆発でアッシュもどこかに吹っ飛んでいったようだ。湯気を神秘的な角が切り裂き、炎上する横浜を睥睨する。もう、誰にも気を遣わず火球を使っていいのだ。頑馬はもういない。自分が思い切り火球を使っても負い目は感じない。


「出て来い! ブタ野郎! 俺はハンターだ! ブタ野郎! 殺してやる! ブタ野郎!」


「頭悪いやつは何も考えなくていいぞ」


「おぉうアッシュ。会いたかったぜ」


「そんなセリフはガールフレンドにでも言ってやりな」


「お前はもう、ガールフレンドに何も言えない。ここで死ぬからな、アッシュ。灰にしてやる。バギッ!」


 みなとみらいの先にちぎられた甲羅を持ったアッシュが立っている。あまりこいつとは距離をとらない方がいいとバースの勘が告げる。走りながら火球を連射し、距離を詰めるが急に地面が消える。どうやら走っていた足元はバリアーで作られた床だったらしい。その床が急に消え、膝下まで海水に浸かる。


「セアッ!」


 ベキィッ!

 バリアーのコートを走り、一流のサッカー選手のフリーキックのようにバースの肋骨を蹴り上げるが威力が足りない。バースの下半身は水に浸かって水圧で衝撃を分散しきれていないので少しは深く効いているはずなのだが、頑馬のような馬鹿力もユキのような鋭さもない普通の蹴りだ。みんな何をこいつに期待している? 頑馬はこんなのと戦いたかったのか?


「バギ!」


 気道に入った海水を排出するように細かく火球を刻む。作り物の横浜港に爆音と閃光が走る。水蒸気の煙幕の向こう側で大きな着水音が聞こえてきた。どうやらアッシュが海に落ちたようだ。


「……やっぱ無理か?」


 バースからはぎ取った甲羅とバリアーで直撃は回避できたが、攻撃が通らない。このままじゃ十五分はあっと言う間に過ぎてしまう。

 フジは不出来な戦士ではない。だが出来た戦士でもない。そこそこに優れた身体能力の格闘と、師匠(メンター)の助言で伸ばしたバリアーの工夫で平均以上の強さとされてきたが、未来恐竜クジーの退治はあのレジェンド中のレジェンド、初代アブソリュートマンですら手こずったと聞く。だからこそ戦いたいし、戦いたくもない。中途半端に目覚めた戦闘種族の血がフジの戦いを中途半端なものにしてしまう。

 逃げるか? もう逃げるか!? 今逃げれば、まだユキはジェイドに変身出来る。キャッシュカードと暗証番号は鼎に預けているので、鼎にはハーゲンダッツ、メロンには高級メロン、和泉には串団子、ユキには一千万の残り全部を預けてもう逃げちまおうかな!? どこに逃げてもジェイドならポータルで居場所を突き止めるだろうが、あの姉貴は打ちのめされた弟を放っておくくらいは空気が読める。迷惑ついでに、バースを逃してしまった場合の報復逃れに鼎、メロン、和泉はアブソリュートの星に亡命させて……

 水蒸気に隠れ、バースの甲羅と一緒に仰向けに潮の流れに身を任せていたら雲の隙間からよく知った顔とメガネが見えた。


「フジ! 頑張れ!」


「……。畜生が。またキモい顔になっちまうだろうがッ!」


 あの度のきついメガネをかけていたのだから、きっと変身した自分の姿は鼎には見えていないだろうしし、すぐに引っ込んでいった。偶然自分が空を見ている瞬間に……。水の中で少し足掻き、海底に足をつけてバリアーのエレベーターで水圧から逃れ、宿敵バースを見下ろす。


「もう少しやったらぁ」


「ほほぉう? やる気でどうにかなるのか? やる気でどうにかなるなら島本和彦より売れるマンガ家はいねぇぞ」


「お前、マンガ読めるのか? 島本和彦のマンガは青年誌だからルビはねぇぞ」


「このガキ……。地球を燃やしたらもう漢字なんか読めなくても何も困らねぇ! バギィッ!」


 しっかりとフォームをとった未来恐竜クジーの火球が若い青のアブソリュートマンに迫る。若い戦士は両手を突き出し、最も得意とするバリアーの構えを取り、火球を防ぐ防壁を作り出す。宇宙最高クラスの攻撃力を持つ火球と防壁が接触するが、横浜港には津波どころかさざ波も経たず、観覧車の骨組みにも振動がやってこない。だが観覧車の六十のゴンドラの窓ガラスは捉えていた! 火球がバリアーに吸い込まれ、音も衝撃もなく消失していく様を!


「なんだ、そのバリアーは……。俺か!?」


 アッシュのいた横浜の上空を見上げると、空に海の断片と足を海水に浸した自分の姿が見えた。空にまた海面? 自分が二人?

 ジェイドリウムの中を覗き込んでいる寿ユキは口角を上げ、無意識にガッツポーズをとる。


「“神器”があの子に力を貸した」


 アブソリュートの星には三つの神器が存在する。

 そのうち、“勾玉”はジェイドを選んだ。ジェイドはその神器の中に異空間ジェイドリウムを作り出し、さらに細長く伸ばして刃に変え、ジェイドセイバーとしても使用できる。

 “剣”はレイを選んだ。まだ素材だったレイを見出した剣は、彼がアブソリュートの星から抜け出した際に持ち出され、彼と放浪の旅を共にした。

 そして、今、最後の一つ“鏡”は二人の弟アッシュを選んだ。ようやくやる気になれたアッシュのバリアーと同化した鏡は、バースの火球を鏡の中に引きずり込み、無力化する。


「あぁーあ、アブソリュートの戦士みてぇ。俺はアブソリュートの星で初めてのパチプロになる予定だったのに。セアッ!」


 神器をダウンロードしたバリアーの使い方が頭の中に自動的に書き込まれていく。この力があればバースに勝てる……のか? バースの火球を吸収した鏡にΔスパークアローに撃ち込むが、それでも鏡は壊れない。鏡はアッシュの意のままに形を変え、彼がイメージする最適の形に変わっていく。


「バギィッ!」


 神器を小さな刃に変え、バリアーで柄を作ってアッシュの身長より一.五倍ほど大きい槍が出来上がる。穂先の神器を火球に突き刺すと、先ほどと同じく音も衝撃もなく火球が消失した。厳密には、バースの火球は消え去ったのではない。バースが放った火球のエネルギーは保存されている。どこに? 鏡の中だ。


「セアッ!」


 自慢の火球が通じない現実に狼狽えるバースの右腕に神器で作った槍……Δスパークスピアを叩きつける! 二度の火球とΔスパークアローで炸裂するはずだったエネルギーをストックしたスピアの先端の神器がバースの右腕の骨を砕き、衝撃がその先の肉を裂き、肋骨、背骨、胸骨、内臓、また肋骨から抜け、喉の奥から濁った血があふれ出る! 喀血しながらバースが横向きに倒れ、海に倒れて激しく気泡を散らし、横浜港の停泊するヨットを津波で揺らす。人が乗っていたら吐いていただろう。


「バゲェ……?」


 これがアブソリュートの神器……。レイはあまり神器を使いたがらなかったが、それでもたまに見た神器を使ったレイの力は桁違いだった。それがこのガキにも……。

 Δスパークアローと火球二発分の攻撃力をストックして攻撃に上乗せか。今まではいくら食らっても軽かったアッシュの攻撃が、蓄積して蓄積して、重い一撃となって自分にダメージを与えられる威力になり、最大火力の問題が解消された。勘の鋭いバースは、一分にも満たない短い時間で鏡の性質を看破する。ならば接近戦だ。火球はもう使えない。


「バギィッ!」


「セアッ!」


 リーチで勝るΔスパークスピアをつっかえ棒にしてバースの突進を往なし、さらに距離をとって穂先で地面を殴る。そのエネルギーも溜まるのか!? バースは焦眉の相でアッシュに襲い掛かるが、水が足に絡みついてまともに歩くことが出来ない。ザブザブノロノロと足を動かすが、もうアッシュには届かない。


「セアッ!」


「バゲェー!?」


 槍の一振りで両の角が粉砕され、頭部の痛覚が炎上する。頭を掻きむしり、怒りと焦りにかられる。バースも負けるわけにはいかない。

 暴力と娯楽を貪る宇宙の放浪の中で……。無知な未来恐竜の知能特化型改造個体のバースは多くのものに触れた。

 頑馬は力への自信と責任と勝利の尊さを……。

 マートンは鍛えぬいた技への矜持と勝機への忍耐を……。

 オーは多くの視点と冷酷なまで狡猾さを……。

 メッセは他者との繋がりの重要さととっておきのインスピレーションを……。

 そういったものをバースの中に作り上げ、バースは彼らに忠誠心と向上心を与えた。最後の一人である自分が倒れれば五人で作って五人が共有する財産が消えてしまう。自分たちの時間と心が否定されてしまう。


「負けるわけにはいかない。ブタ野郎!」


「セアーッ!」


 ジェイドのゼータストリームショットに似たフォームの人差し指の先端から真っすぐな電撃が発射され、世にも珍しい未来恐竜クジーの骨格が横浜の海に映える。海水で電撃はすぐに拡散していったが、バースの鼓動を乱すには十分な威力だった。アッシュの本来の能力は雷……。そうは聞いていたが、電撃のエキスパートであるメッセには遠く及ばないはずだった。そのはずなのに!? 神器の力で超能力全てが強化されている!?


「ブタ野郎! バギィッ!」


 信じるしかない。頑馬を超えるこの火球! チームで最高の攻撃力を誇るこの火球を疑ってはならない! それは仲間たちへの背信行為! 神器のキャパが限界を超えるまでこの火球を信じるしかない。

 海から空に向かって降る不思議な流星群は、全て堂に入ったアッシュの槍捌きで吸収されていく。バースの時間が、心が、夢が食われていく……。


「バース」


「あぁん!?」


「こんな勝ち方は本意じゃないってことだ。時間がねぇ。言いたいことはいろいろあるよ。フッ。慰めじゃねぇ。こんな勝ち方をしてしまった俺への戒めでもあるが、お前の方が強かったぞ。普通にやってればお前の勝ちだった」


 アッシュが槍を解除し、あの時のバーベキューで見た弓矢の構えに入る。三本の矢の矢じりに鏡を装着し、神々しい光に晒されたバースの怒りと焦りは警告と恐怖、そして諦めへと変わっていく。弓を引くたびに見えない弦に稲光が走る。


「関係ねぇだろ。勝ちは勝ちだろ。それにズルくねぇ。それが使えてやっとお前は俺と戦えた」


「そうだな。セェアァッ!」


 角を砕かれ、甲羅を失った未来恐竜クジーの背後に伸びた影がどんどん小さくなり、その胸に三本の矢が突き刺さる。バースの体からどんどん力が抜けていく。触れただけで敵に流れる生命エネルギーさえも吸収し、敵の防御力を攻撃力に変えてしまうようだ。四十二メートルの影の背中から光の矢が突き抜け、ついにバースが全ての力を失って横浜の海に倒れる。だがバースは何があっても頑馬以外に頭は下げない。最後の力で重心を背中に預け、アッシュにメンチを切って頭を遠ざけるように仰向けに倒れる。

 神器の使用で力を使い果たしたアブソリュート・アッシュも一七四センチのフジ・カケルの姿に戻り、ジェイドリウムの中の横浜で指をスワイプする。もう指先のバリアーに神器の力は感じない。力を貸してくれたのは一瞬だけか。赤く濁った海水とザブザブしたダイナミックな音を立てて気絶したバースが港に漂着する。変身が解けて未来恐竜からインチキ二流ホストの姿に戻ったバースを担ぎ上げ、ジェイドにサインを送る。


「お疲れ様。神器は?」


「どっか行った。あんなもん持ってたらネットで転売しちまうもんなぁ。欲しがるやつは多いぞ。まずは同級生のアブソリュート・ファルコンだろ? それからアブソリュート・ジャッジ。こいつらは十万以上出すだろうな。成績悪かったし。俺はもう履歴書に書けるからいいよ。神器に選ばれました! って」


「でも、あなたが成長してくれてよかった。今、出してあげるわ」


「ああ、そうしてくれ。今なら姉貴の体力もかなり残るだろ? 姉貴はまだ戦わなきゃいけないもんな。頑馬と」


「ええ。頑馬はまだ生きている」

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