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第96話 アブソリュート・ファイト・フォックス -OVER- ②

 報道特番一色になった日本列島。巻き添えを食わない遠距離からのヘリからではジェイドもメタ・マインも、表情は読み取れない。もっと近くに行けるジャーナリストや動画投稿者の車両、手持ちカメラ、ドローンでは二人の顔を映すには標高が低すぎる。

 ただし、VIPにはメタ・マインの顔のアップが解禁されている。最強の戦士ジェイドについている分身メロンの視覚を狐燐の念力で電波に変換し、それを受信したメッセがテレビに投影する。極端なズーム、急激にワイドに展開される最強の視点は酔ってしまいそうだ。その決して止まらないジェイドの視線移動こそ、ジェイドの最強たるゆえんのタフネス、基礎技術、勇気。目の前で不気味な鬼火が光り、周囲が青紫の炎に展開されてもそのカメラは止まることも諦めて天を仰ぐことも地に臥せることもない。

 そのリアルタイムのジェイド視点を大画面で観ているのはメロン本体、メッセ、狐燐の三人だけ。頑馬は出かけたまま戻ってこない。手筈では頑馬はここにいなければならない。ユキの敗北、或いは撤退の判断が許される程の予断があれば狐燐のポータルで即交代。なのに頑馬は戻らない。分身メロンもついているしイツキのアプリもある。頑馬の居場所を掴むなど容易いし頑馬自身も隠そうともしていない。だが、それが頑馬の本音だ。

 ではやつは?


「……」


「……」


 フジと鼎はいつもの南池袋公園にいた。もうカチコミはないとフジは確信している。火事場泥棒の二葉亭萌百子は、ジェイド一派にメタ・マインに勝ってもらわないと困ると発言し、さらにフジと接触した理由は犯行声明というよりも注意喚起。メタ・マインの敗北ではなくジェイド一派の勝利と明言したからには、萌百子の言う「偉い先生」の勢力以外の火事場泥棒と漁夫は二葉亭萌百子が排除することになる。心身が万全ではなかったとはいえ、萌百子の力量を測れないフジではない。むしろ今は次なる敵、二葉亭萌百子の存在がありがたい。


「怖いな」


「見ないの?」


「姉貴が……」


 メロン経由のユキ視点をスマホで受信したフジは深くうなだれて前髪で視線を塞ぎ、姉の戦いから目を背けていた。最強の姉は無敵ではない。例えばレイやバースと真っ向勝負すれば勝てはしても大きな負傷は免れないだろうし、事実碧沈花には敗北している。そのありえない二度目が……。もう来てしまうのか?


「見ようよ」


「……」


「見ろ、フジ。信じて」


「姉貴を?」


 激しいブザー。既にジェイドは大きく後退し、観覧車よりも後ろに来てしまっている。あのジェイドが……。被害をなるべく抑えようとするジェイドが、いざという時は観覧車を防壁に逃れるため、観覧車と隣接するショッピングセンターとモノレールの駅をアストラルビームの射程距離に入れてしまっている。また骸の眼窩が光る。ジェイドの目は斜め下からその光を見上げている。報道の映像を見ればわかる。外道の聖母の常識外れの猛攻により、第四の手で頭を押さえつけられたジェイドは屈服させされるように片膝をつき、立ち上がる……体力はあるだろう。気力が足りていない。

 激しいブザー。自分の胸ではないのに、積み上げられてきた実績と信頼が崩される強い恐怖がフジの胸中を満たした。この敵は碧沈花とは違う。きっと姉はどこかで碧沈花に負けてもいいと思っていた。前提として、姉は自分が最強であるという自負と同時に、同じ人間がずっとチャンピオンであることで自らも、一種の競技じみた最強争いに参加する他の戦士のモチベーションも下がり、腐敗すると思っていた。碧沈花は悪人ではない、碧沈花は若いなどなど、そういうのをひっくるめ、最強を譲ってもいいと思えるくらいの魅力を持つのが碧沈花。だが世間にとってマインは脅威、ジェイドにとっては仇敵だ。こいつに最強は譲れない。


「あの人を」


 まだロクに握ったこともない柔らかな手は熱い。鼎も熱を帯びている。その手でスマホを固定し、もう片方の手でフジの頭を掴み、ぐいっと持ち上げ中継される現実を直視させた。

 外道の聖母の目の光が弾けるその瞬間を。激しいブザーを。


「スワーッ!」


 SLASH!

 悪しき青紫の鬼火はそれをさらに上書きする真っ青な電撃に切り裂かれ、メタ・マイン第四の手が切断されて鮮血が散る。数秒遅れて観覧車が太刀筋に沿って斜めに両断され、視界がクリアになってメタ・マインが大きくのけ反り、倒れ込む様子が明らかになる。


「アッシュ……? 父さん……?」


 ブザーに混じって蚊の鳴くような声でそう聞こえた気がした。

 ミリオンの如く勇ましく切っ先を敵に向け、アッシュの如く電光を迸らせる白狐の戦士は敵を睨みつけたまま左手を差し出した。最強の戦士に。かつての恋人に。最大のライバルの姉に。この世の最正義に。


「……」


 純白の手袋と、青海波模様の手甲。二つがぎっちりと握られる。かつては! 二人は当然手を握り合っただろう。もっと柔らかく、互いを包むように。今は違う。戦士と戦士。共闘だ。フジにはわからない。今日、今この時のように、フォックスがジェイドの手をリードした戦いがあったのだろうか。


「あいつ、敵を見てねぇだろ」


「え?」


「照れてそっぽ向いてるだけだ。……。あんなバケモノを前にして元カノに照れるなんて、そんな贅沢が出来るのはあいつだけだろうよ。ありがとな、鼎」


「最終的に決断したのは顕真さんだよ」


「お前さんを信じてよかった」


 ジェイド、フォックスは共にジェイドセイバーとフォックスライサーを構えて目の前で短冊状の頭髪をひらひらさせるメタ・マインを睨みつける。今度は敵を見ている。

 池袋は家電量販店激戦区。そのどのディスプレイも、報道局の飛ばしたドローンから見上げるローアングルで白狐と純白を映し出す。

 ジェイドの目には、骸の眼窩だけでなく短冊状の頭髪の先端全てに燈る青紫の鬼火。一斉攻撃が始まろうとしている。


「キャッハ!」


「テアッ!」


 ワイドに展開されたバリアーでアストラルビームを防御! メタ・マインに極めて近い位置で鬼火が発火する。その防壁と爆炎の中に飛び込む、青くたなびく外套。


「何?」


 鼎がすっとんきょうな声をあげた。ジェイドの目が捉えているはずのフォックスの位置が一瞬バグったのだ。フィルムが抜かれたように過程をすっ飛ばし、メタ・マインのアストラルビームのエイムを一瞬にして逃れ、敵の眉間……。一度ジェイドセイバーを突き刺した急所にリーチをかけた。


「〇.一秒だ」


 フジは呟いた。〇.一秒。顕真がシアンスラッシャーを使用した場合、極度の集中と高揚が釣り合うと〇.一秒程時間が止まって見える“見切りの極意”が発動するという。時間が止まって見えるのは顕真の主観。客観では〇.一秒が消し飛んだように見えるようだ。


「スワーッ!」


 フォックスの突きは殺意そのものだった。この敵はマインでも駿河燈でもない。この敵を倒してももうかつての恋人は手を握ってはくれないかもしれない! だが、短い間だけだが共に戦った仲間兼門下生。出会ったきっかけは元恋人だったが今となっては最高のライバルになった元カノの弟とその恋人。世界の命運と最強の戦士の隣を譲ってくれた偉大なる“兄貴”のために……。万感の殺意を持って刃を突き立てる! 一際大きな稲妻が空に枝葉を広げ、ばりばりと轟音と敵の頭髪が共鳴した。


「キャ……」


「テアーッ!」


「キャアアアアアアアアア!!!」


 すかさずネフェリウム光線! クリーンヒット! 白骨の面に燈る鬼火が消えた。攻勢から守勢へ! 篝の数は減らないが、メタ・マインの活発な運動が減り、メキメキと音を立てて額のヒビが埋まっていく。


「再生か。そうはさせん! スワーッ!」


 白狐は額に刺さったフォックスライサーの柄尻に飛び膝蹴りを叩き込む。かつて、駿河燈は言った。

 「考えなしに『とびひざげり』を打つ奴は嫌い」。

 あの時、駿河燈は自ら最前線、つまり鼎が姫を務めるオタサー“超常現象研究会”に潜入し、会員たちとポケモンをやっていた。駿河燈が当時、全幅の信頼を寄せ愛用していたポケモンは、ウサギがモチーフの“エースバーン”。ハイリスクハイリターンな『とびひざげり』がメインウェポンの一つになるポケモンだ。鼎もエースバーンを愛用していたが、よく『ひざ』を外してそのミスが負けに直結していた。

 それだけではない。彼女の息子都築カイは、記憶を消したのにとりあえず初手飛び膝蹴り、困った時は飛び膝蹴りという悪癖は、ジェイドが矯正するまで治らなかった。事実、“都築カイ”としての初陣では初手飛び膝蹴りを犬養樹に躱されて地面に激突してダメージを負っている。

 だが白狐の戦士はビギナーでも鬼畜でも考えなしのスッカラカンでもない。熟練者、人格者、試合巧者。狙いすました膝の一撃でメタ・マインの骨らしきもので出来た面を割り、その奥の肉を裂いて深く突き刺し、破壊する。ばき、と今までとは様子の違う、半濁音では表現出来ない直線的な亀裂音。刃を中心にヒビが加速度的に広がり、黒いジグザグとそこから滲む青白い光が白骨の面を縦断した。


「キャアアアアアアアアア!」


 復活の聖母は収音マイクの音が割れる程の絶叫をあげた。断末魔で周囲に停めてあった車両のガラスが砕け散り、フォックスとジェイドの間にある観覧車の窓は亀裂で白く濁って大阪城まで共鳴した。


「スウ」


 引き抜かれたフォックスライサーから滴る液体とメタ・マインの額から吹き出す色は赤。顕真の頭は非常にクリアだった。当たり前だが、これは血液だ。メタ・マインの材料となったのは太陽の塔と糸泉導架数十人分。肉を構成しているのは導架由来の有機物とタンパク質であり、導架はマイン細胞の移植こそされているがベースは哺乳類怪獣のホローガ。いわばメタ・マインもホローガを改造した姿、イッテンモノの超変則ブッコローガに分類される。


「キャハ」


 そんなことを考えていても今の顕真に隙は生じない。集中力と高揚は健在。再び見切りの極意を発動させ、目の前で戦闘のプライオリティを顕真の排除に切り替えて眼窩を光らせる異形に対し、白狐も刃を一度光らせる。


「スワッ!」


 SLASH! メロンの目、報道のカメラでは何が起きたかわからない! 何故、メタ・マインの胴に太刀傷が入り、短冊が重力と空気抵抗でひらひらと舞い落ちているのか! それは〇.一秒の間に刻まれた超高速の九連撃! そのごくごく短い間に決定打になりうる九連撃を撃ち込める技量は尋常ではない。


「おいもう剣技で親父に並んでるだろ。九頭龍閃かよ。違うけんしんじゃねぇか。……道理で、テアトル・Qのメンバーが弱かった訳だ」


「どうして?」


「顕真は確かに鍛錬の先に桁外れの技量を手に入れた戦士だ。だがあいつはまぎれもなく、兄貴や姉貴級の才能……。才能というのには少し違うな。似て非なる、類まれなるセンスを持っている。人に優しくても凡才の気持ちはわからねぇよ。俺には……」


 ジェイドがかざした手の先に瓦礫がビスマスめいてガチガチと塊になり、ばぁんとソニックブームを発生させながらゴミのホウキ星! 大質量と超高速をマトモに食らった異形は完全に墜落し、第三の手も動きを止めた。地に臥せるメタ・マインの影は極端に小さくなった。


「ギャ……」


 顕真はいったん後退し、呼吸を整える。第四の手を切り裂いたのに、文字通りマインと手を切ることはまだ出来なかった。多少の情が残っている。だからこそ! 師を騙るこのニセモノはここでとどめを刺さねばならないのだ! ゴミのような経歴と劣等感の中で育ったアブソリュート・マイン。ゴミだらけの星で育った大黒顕真。ジェイドだけがゴミとは無縁だ。危うく粗大ゴミになるところだった弟は大黒顕真が宝石に変えた。

 ゴミに埋もれた聖母にヒスイのエイムが定まる。とどめはジェイドに譲ってもいい。顕真には弟子として燈に対する情が、ジェイドには弟子を殺された憎がある。動機としてはジェイドが強い。


「……キャハ」


 突如、ふわりと瓦礫の上に輪が浮かぶ。天使の輪のようで、ポータルのようでもあった。そのどちらもマインにゆかりがあるように思われる。問題なのは、ゴミの山から出てきたその輪は周囲の物理的干渉を無視していたことだ。ゴミは押しのけられないし、舞い上がりもしない。ただくるくると回転しながら径を広げ、ゴミの山全域を覆う広さになると、鉄骨やコンクリ、肉塊を吸い込んでいった。まるで『天空の城ラピュタ』のエンディング。物が落ちる方角が逆なだけで、輪の下にあるものは全て同じ速度で輪の中に落ちていった。

 輪の下に血の染みしかなくなった頃、輪の周囲の篝が一斉に激しく炎上して弾け飛び、残った光と煤のようなものが緩く糸を引き、加速しながら輪に集結。密度の高い光が一点集中し、燈火や篝というよりも太陽のような揺るがぬ光の弾になる。

 そして、輪から伸びた白く長く細い大人の女性の手が光の弾に触れ、指先に燈った。すぐに光は解き放たれた。


「ルーラッ!」


「スウウエエエエ!?」


 危険を察知したジェイドのバリアーは間に合ったが、いとも簡単に貫通された。顕真は見切りの極意で回避したが、それでも弾速があまりにも早く肘に掠り、装束と皮膚が炭化している。ジェイドが防壁で感じたのはやはり間違いなく鬼火の力を凝縮したアストラルビーム。だが先程までとはレベルが違う。

 目も眩む光は着弾ではなく発射の閃光。ただし先程までのアストラルビームより威力が高まっている分、流れ弾は爆発炎上せず、地形やオブジェクトを焼き切って炭化させている。だがこれから先は防御ではなく回避が大前提となる。


「第三形態か。最終形態と思いたいね」


 輪からつま先が降りてくる。踵の高いブーツに短いスカート、ゴスロリからさらに露出をあげて導架のユニフォームと同じノースリーブのセクシーな装い。本来の駿河燈になかった豊満なバストとその谷間の強調、高い身長と大人びた顔つき。駿河燈がこうなりたかったと感じた妄想の産物であろうと顕真は推察した。そしてメタ・マインは口を開いた。


「久しぶりね。顕真くん」


「初めまして、メタ・マイン」


「主文後回しにするね」


「いや、主文から」


 メタ・マインが指さすと、一瞬にして青紫の篝が顕真に飛来した。回避は難しい……。それに防げる可能性があるという情報が必要だ。顕真は赤黒の狐火を放出して相殺を狙った。


「判決」


 “聖母”“微笑”“敏腕”“妖美”“奈落”“妖艶”“幽冥”“統率”“優艶”“黄泉”“妄執”“鬼火”“祈祷”“爆心”“狂気”“禍根”“浄土”“悪辣” “侵略”“軽薄”“冷笑”“取捨”“傲慢”“唾棄”“逸脱”“悪寒”“厭世”“冷淡”“憐憫”“邪険”“腐敗”“阻喪”“蛇蝎”“明晰”“綺麗”“悲壮”“夜闇”“呪詛”“霊長”“聖櫃”“糾弾”“傾国”“尸解”“方舟”“巫蠱”“警策”“嫌疑”“毒舌”“反魂”“蜜月”“采配”“輪廻”“烈火”“功罪”“才媛”“鬼謀”“着火”“禁忌”“虚無”“別嬪”“受苦”“御伽”“怨念”“烈女”“妖婦”“因習”“禁断”“懸想”“鬼灯”“混沌”“怜悧”“空虚”“性悪”“狡猾”“瑕疵”“末法”“花火”“孤独”“鎮壇”“邪悪”“煤煙”“喪失”“慢心”“不興”“脆弱”“鼓動”“宿痾”“専横”“熱気”“微睡”“聖火”“聖歌”“妄想”“母性”“煉獄”“悔悛”“霍乱”“偏執”“腹黒” “燈火”

 ――“艶”!


「地獄行きぃ」


 青一色。

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