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第67話 君に言われたヒドイ言葉も

「出てきやがったか。でもいいのか? ブスは身の丈に合わせて分相応にコソコソ隠れて人目を避けて日陰で生きろ、ブス女ァ!」


「……。……ッ。いや、フジ、いい。抑えろ。君は自分の役割を果たせ。平常心を保ち、避難誘導。そしてわたしのバックアップ。それに努めるんだ。どぉうも、スカーフェイス。隠れてても意味ないんでね。それに負けても後ろに控えているのはアブソリュート・アッシュだ。何も問題なし」


「早くアッシュと遊びてぇなぁ! 何をする? 股間にブラさがっている未使用の神器二つでビリヤードでもするか?」


「下品なのは嫌いだ」


「俺の兄貴分が言っていた。下品は嫌いじゃねぇと」


「それは、下品なやつの言い訳だ」


「道端に転がるゲロ、それにたかる太ったネズミとデカいカラス。それがリアルだそうだ。目的のためにはゲロすら食うのは下品か?」


 フジ基準では高尚だ。フジの最大の目的は「死なないこと」という抽象的なものだが、目の前にゲロしか食べ物がないならゲロすら食う。それがフジ・カケルの生き様で、ユキの一万歳突破という目標に似て非なるものだ。そして早逝した沈花を想う狐燐は、ただただひたすらに生き続けることを目的に動き、それなのに命を縮めるはず戦いに身を投じる矛盾したフジの生き方を高尚だと感じていた。矛盾。人間味と若さがあっていい。


「逃げ遅れがいるかもしれない。フジ、避難誘導頼むよ。わたしはこいつにわからせてやる」


「何をですか?」


「そうだなァ。文房具は、カタログで観るだけでも造形美でうっとりするけど、実際に使用するとその機能美にもびっくりするってことをさ。ステープラーアーマー!」


 ガガガガガンとステープル弾の掃射が本格的な戦闘の号砲! しかし! 楓戦でも一発も当たらなかったように、ステープル弾の命中率は劣悪中の劣悪だ。それは狐燐のフィジカルの弱さにある。ガリガリヘナヘナモヤシの狐燐では、ステープル弾のリコイルに耐えきれず、一発目以外は狙いが定めにくいというより、定まらないのだ。下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる、と昔の偉い人は言ったかもしれないが、通常の弾丸と違ってあくまで巨大なステープルに過ぎないステープル弾は風の抵抗を大きく受けて通常の弾丸より弾速も遅く、不規則に変化する。そのため、ステープル弾は牽制と誘導にしか使えない。ステープル弾で誘導し、本命のトリックにハメる。それがステープラーアーマーの基本的な運用だ。


「スカラァ!」


「ほいきたァ!」


 バチンとアーマーを閉じると、拳を構えて突進するスカーに様々な食品が飛来する!


 びんちょうまぐろ(刺身用・解凍) ¥238

 太平洋、大西洋、インド洋で獲れたお刺身をお届け! 白みを帯びた美しいお刺身はこんやの晩酌にどうぞ!

 

 ネスレ ゴールドブレンド ¥428

 贅沢に、そして素早くリッチに……。インスタントコーヒーの王道ど真ん中。優雅な朝を演出してみませんか?


 伊勢黒潮マダイ ¥1382

 やってきたぞ! ぷりりと引き締まったマダイを一尾。捌いて露わになる白身を見れば気持ちはもう「食べ(タイ)!」一色!


 にんべん つゆの素 ¥321

 蕎麦! うどん! そうめん! その用途は多彩! 一人暮らしの強い味方! みんなはフジをマネして天カスにかけて口にかっ込もう!


 バドワイザー ¥218

 カァーッ!! うんめェーッ! やっぱ仕事の終わりのビールは最高ね!! びんちょうまぐろ、マダイのお刺身をオトモに、今宵の疲れを癒してはいかが?


「クソブスがァアアア!」


 マグロの切り身、インスタントコーヒーの粉末、マダイの鱗、めんつゆに汚れたオシャレな一張羅に、缶ビールの激突でさらに傷ついた頭部の傷跡(スカー)

 激高してはいるが、スカーも素人じゃない。狐燐の潜伏期間と嫌がらせ以外の何物でもないこの食品のチョイス。たった五品は少なすぎる。もっともっと隠しているはずだ。


「スカラァッ!」


 そこで導き出した結論は、手加減である。ツルギショウのスペックを見せつければ、狐燐はトリックで対抗する。しかし、横浜における凸・楓・リーバイス戦では、虎威狐燐の主なダメージソースはステープラーアーマーによる殴打だった。しかもステープラーアーマー装備中の狐燐は格闘技の動きがインプットされていた。

 よって、トリックを仕掛けさせない程度の大振りで躱しやすい攻撃でステープラーアーマーと撃ち合い、隙を見つけて生身の部分に致命的な一撃を与える。それが作戦だ。それに密着すれば巻き添えになるのでステープラーアーマーによる物体引き寄せも使えない。


「ステープル弾!」


 既に平常心を取り戻しているが、激高を偽装するヤクザ者のツルギショウは見せつけるようにガガガッと針を腕で弾き距離を詰めた。だがオプションのない突進は二の轍を踏む。そこで少しの援護射撃だ。


「かかってこいブス! 笑えねぇんだよそのツラ! ああ、『東の宝島』はつまんねぇマンガだったな! 誰にも相手にされず、空虚でつまんねぇ人生を送ってきた日陰者には、喜びも悲しみも何も描けはしねぇ! だから一つ教えてやるよ! 敵わぬ相手に挑戦することは犬死に繋がると教えてやる! 死ね! あのゴア族のガキのように! まぁあのガキはクソブスのてめぇより若くて少しマシだったからファックしがいがありそうだったがな!」


「あのゴア族のように……? 沈花ちゃんのことか……。沈花ちゃんのことかあああ!!!」


 オタクのイラストレーターは肺の空気を全て使い果たす程の絶叫をあげた。しかし、ステープラーアーマーのエイムはスカーに向いたままだ。目の前の陰気なオタクにも激高のスイッチが入ったならば、殴って相手に痛みとダメージを与えて手に戻るフィードバックを欲しがるはずだ。その答えはすぐに与えられた。瞬発力と反射神経に長けるツルギショウの目だからこそ……。


「ステーショナリアクター:タイプ7(セブン)! マスキングシューター!」


 ステープラーアーマーの喉の奥から発射されるビームのような白い帯! 片面は巻物のように狐燐のマンガの登場人物とその動きが描かれてサラサラの手触り、もう片面はベトベトの粘着! これは、マンガのアナログ作画に不可欠なアイテムの一つ、マスキングテープ!

 ベタベタベタとスカーに纏わりつき、テープがダマになる。隠し玉に怯んで進撃をやめたスカーに対し、狐燐はヒーローじみた流麗なターン! 輪を描いたマスキングテープが切断され、ぐるりと怒れるツルギショウを捕縛し、びんちょうまぐろと一緒に鉄火巻き! しかも、先に発射されてスカーにぶつかり、ダマになったテープは顔面付近で、裏返って粘着面を上にしたまま健在だ。

 激高を偽装して激高を誘い、相手の激高の偽装に誘われた憐れなツルギショウ。その耳に聞こえたのは、無常で無機質な音。バチン。


「ルカネェエエエッ!?」


 玉ねぎ ¥198

 解説は、これから二十代前半で“天才”の称号を手にし、二十代中盤で歴史に残る傑作の完結編の作画を担当し、二十代後半には燃え尽きて零細編集プロダクションに勤務し、現在ではSNSにイラストを投稿してはバズるインフルエンサーであられる一流のクリエーターから!


「つまんねぇ、笑えねぇマンガ? そうかもね。人を笑わせるのは大変だ。文具を揃えて、知識を蓄えて、打合せして、描いて、描いて、描いて……。刷って、売って、ようやくだ。何人がかりかわからない。何人の力を借りなきゃ……。時間だって、単行本一冊出すのに何か月……。でも泣かすのは簡単だ。つまんねぇマンガだと? 読んでくれてありがとうね」


「ルカ……」


 ああ、読んだぜ。全巻セットがフリマアプリで一円。しかもなんかの液体で張り付いてたページがあるから、お前のマンガでヌいたやつがいるんだろう。お前のマンガの主人公は、ブスのお前と違って多少は見られる見た目だったからな。でもあれでヌけるなんて、よっぽど脆弱で繊細なぽこちんだな。

 ……と、言わねばならない。ツッパることが男の! たった一つの……。

 ツッパれない。本能では、これから来る攻撃への恐怖。理性では、このアデアデ星人に挑発は効かないという諦念。

 スカーの頭の中がどんどんシンプルな言葉に書き換わっていく。

 来るな、来るな……。当たるな……。


「食らえッ!」


 悪夢のような現実が、そこには待っていた。

 顔面付近でブドウの如く実った大量の玉ねぎごとスカーの顔面を、ステープラーアーマーの鉄拳でブロォー! 鋭く重くヒットォ!  溢れんばかりの硫化アリルの爆弾が一斉に爆ぜ、スカーは目の痛みと流涙、鼻水に絶叫をあげてのたうち回った。

 しかし狐燐は楽観しない。フジと同じく、臆病な勇気をOSに戦う狐燐は常に不安を抱えている。


「メロン副所長! フジに繋いで逃げ遅れの確認をお願いします!」


「状況は悪いわ。かなりの数の逃げ遅れがいるみたい。出入口が詰まってしまっている。しかも狐燐、あなたには見えているでしょう?」


「ええ、目の前にエスカレーターがあります」


「だから逃げ道が一つ塞がれている」


「……」


 却って好都合。スカーの反応と浅知恵を見る限り、スカーはステープラーアーマーの基本戦法を把握しているようだ。だがステープラーアーマーの防御力は捨てられない。ここからはステープラーアーマーとマスキングシューターの併用が肝心だが……。ステープラーアーマーの基本を見抜かれていることを逆手に取る。それに棚の多い食品売り場ではマスキングシューターの射線を塞ぐものが多すぎる。


「ブスがアアア!」


「ぴえん? ぴえんなの?」


 大量の玉ねぎをマッシュして汚れたステープラーアーマーを解除し、狐燐は両手に何も装備せず意図が不明なダンスをテープに巻かれたまま号泣するツルギショウに披露した。狐燐らしくない、安い挑発だ。アデアデ星人がステープラーアーマー&マスキングシューターを再起動させるのと、ツルギショウが力任せにテープを千切って戦闘可能になるタイミングは同時だった。

 両者のメンタルコンディションは対照的だ。これ以上にない程、全ての攻撃とトリックが成功していながら臆病な程に興奮、高揚出来ない狐燐。ありとあらゆる作戦が失敗し、掌の上で踊るだけでありながら未だに勝機を捨てない熱いスカー。


「そろそろ死ぬか?」


 ここでカードを切ろう。というか切らねば後悔する。そう判断したツルギショウの赤血球が全身に酸素を速達! はたらく細胞たちの最も忙しい時間が始まる。


「スカラァ!」


「よっと」


「ルカネェ!?」


 景色が天地回転! しばし浮遊感、覗く空間の断面。先程踏んだトラップ型ポータルと同じ現象だ。事実、これはトラップ型ポータルである。先程のトラップ型ポータルでメッセとハンマーを遠くまで飛ばし過ぎてしまった狐燐は、戦闘中でありながら新技術の復習をする。

 ポータル。寿ユキを除けば、狐燐がチーム唯一のポータル使い。今は行動と作戦と共にしているが、イツキはフリーランスだ。アテには出来ない。そしていつまでも、寿ユキに依存は出来ない。

 メッセ、メロン、狐燐。贖罪を目的に探偵稼業を行うならば、狐燐は今以上に、いや、これ以上ない程パーフェクトにポータルを使えねばならない。このトラップ型ポータルだってきっと寿ユキは一発で成功出来てしまうのだろう。だが次のために! 狐燐は復習と練習をする。そしてこれは実際、作戦の内だ。


「よっと!」


 狐燐の転送が終わって着地すると、パパパンと足下から火薬が爆ぜて回転、バランスを少し崩したトリックスターはアーマーのない右手で体を支え、武器を掲げたヒーローチックなポーズが見事に決まる。

 一方でスカーの着地は地響きを立てるように土砂が舞い上がり、ビルのガラスが揺れて机に置かれた書類が舞い、看板が倒れて車が跳ねる。

 それでも避難するものは誰もない。何故なら、この町は空っぽだ。


「成功だ」


 狐燐が今回のトラップ型ポータルで行き先に指定したのは、商業施設の向かいにある東像スタジオ内の特撮用セット! ここは広く、さらに関係者以外立ち入り禁止のこの場所にいるのはいい大人だ。向かいで起きた怪獣……いや、狐燐はアデアデ星人の怪獣呼びを嫌う。宇宙人vs怪獣の騒ぎを聞き、臨機応変に逃げるはずだ。

 そして、狐燐は巨大ヒーローのスパイラル着地用の装置の上に着地して回転し、スカーは怪獣用の火薬と砂の一帯に着地したという訳だ。


「第……三? ラウンド、始めるよ」


「小細工をやめろドブスが!」


「それを止められちゃ仕事が出来ない。でも安心するといい。さすがにここで決着をつけようと思うよ。ステープル弾!」


 それはもう見切った! スカーは先程と同じく腕で針を弾きながら距離を詰める。スカーももう覚悟を決めた。作戦はいらない。作戦はいらないという作戦だ。ウラのかきあい、小細工ではこのアデアデには勝てない。シンプルに殴って勝つ。それ以外に何かを考えることが、相手に付け入られる隙になる。スペックを信じろ、ツルギショウという種族の!


「マスキングシューター!」


「バカめ! どこを撃っている!?」


 狐燐は浮遊ともいえる距離をふんわりとバックステップし、ステープラーアーマーの先端をややスカーから外して白の帯を発射する。意図は不明、悪だくみをしていることは確定! だがそれを疑問に思う時間こそ、このアデアデに好機を与えてしまう。信じ抜け! スピードアンドパワー!


「回収だよ」


「……」


 何をだ……。だがこれは挑発!


「戻れ! マスキングシューター!」


 ビビビッと音を立てて超常のマスキングテープはスカーの進撃以上の速度で狐燐の左手のアーマーに戻っていく。その衝撃で貧弱なアデアデ星人はガクガクと震えているが、次に震える羽目になるのはスカーだった!


「ルギャア!?」


 鋭い痛み! 布の裂かれる音、滴る血液の感触! シンプルな思考を心掛けながらも、無視出来ぬトリック! このアデアデ星人の技は針の発射、物体の引き寄せ、巨大なマスキングテープだけのはず! ツルギショウである自分の肌を切り裂く斬撃は想定外だ! この答えもすぐに与えられる。

 狐燐の手元に戻ったマスキングテープの粘着面にはビッシリと巨大なステープル針が貼り付き、チェーンソーの刃のようになっている。チェーンソーよりも厄介なのは、その刃の長さや向きが不規則、マスキングテープはよくしなり、ギザギザに相手を切り裂くということだ。そのチェーンソーと化したマスキングテープはスカーの脇腹の脂肪、筋肉、内臓の一部を後ろから切り裂き、アーマーの射出口で異物、つまり酸素たっぷりの赤血球つきの針を削ぎ落し、青いアーマーに緋色のマーブル模様。血流を活性化しているが故に大量出血! ビルの森に血が飛び、窓ガラスを流れ落ち、大量の血液に滑った自転車が転倒する。

 不意を突かれて石膏製のビルに倒れ込んだ鉄火怪獣ギショウはバチバチとセットに内蔵された火薬に彩られながらダウンした。無駄に派手になったダウンが余計に嫌な印象を鉄火怪獣に与えた。


「ざまぁ見ぃ!」


 This is KORIN KOI!!

 トリック! レパートリー! インスピレーション! 柔よく剛を制す!

 確かに、戦いにおいてパワーとスピードとタフネスは重要なファクターだ! それはジェイドとレイが実証している! だがそのどれも持たない虎威狐燐を雑魚と呼べる者がどこにいるだろうか! 少なくとも、もうヒジリ製菓威力部門の鉄火怪獣ツルギショウのスカーフェイスは口が裂けてももう言えない!


「狐燐さん!」


「やぁ。勝負はそろそろつけたいと思う」


「頼みます」


「少し離れてておくれよ。ステープラーアーマー! マスキングシューター! マックスで行くぞ!」


 スカーはもう詰んでいた。バカだったから何度も立ち向かえたし、立ち向かう体力もあった。だが、スカーはわかってしまった。虎威狐燐は雑魚じゃない。そう何度も立ち向かえる相手じゃないとわかったから、もう立ち上がれない。しかもフジ・カケルまで合流してしまった。フジを殺せるということをモチベーションにやってきたはずなのに、フジがやってきたことで絶望が増した。腹部の出血を手で圧迫止血しながら彼が見たのは、スタジオ内を縦横無尽に巡るマスキングテープ。それに描かれた、狐燐のイマジネーション。巻物に描かれた絵巻状のマンガだ。このイマジネーションは戦闘にも発揮されている。

 なんてこった! 讃えている! 大したやつに負けたもんだと、負け惜しみすらなく敗北を受け入れてしまった!


「許してくれェ……。助けてくれェ……」


「……。九回」


「え?」


「お前がわたしにブスと言った回数だ!!!!!」


 セット内の火薬という火薬、小道具という小道具、さらには割れたガラスやこれから割れる予定の電球や蛍光灯など危険物をテープで絡めとり、さらに丸めて直径二メートル程の玉にする。とどめの準備が整った。


「チリも積もれば! 山となる! だがレディにブスは一度だって言っちゃいけない! ブス一回はチリじゃない!! それが九回だ! あばよ、スカーフェイス。これは山を越えた、わたしの怒りの天体。こいつに火を点けるのは、とっておきの爆薬だ!」


「待ってくれェ……。助けてくれェ……」


 これはヤバい。フジは咄嗟にバリアーを張り、スタジオの壁と自分を守った。もっと狭い範囲、つまりスカーと狐燐の爆薬だけを収めて威力をアシストすることも可能だが、それは野暮だとわかる。


「オォーバーヒィート・ステェープラー・クラッシュゥ! 特撮エディション・塊魂(カタマリダマシイ)・スーパーノヴァア!」


 KRA-TOOOM!!!!!

 スタジオ内が黒煙と瓦礫で満たされる。壊れやすいように作られた模型の町は粉々にフッ飛ばされグラウンド・ゼロになった。爆心地にはうつぶせに倒れて背中の衣服が焼け落ちたツルギショウ。意識はもうないが、原形を保っているのが不思議なくらいだ。

 それをドヤ顔で見下ろすのは、小悪魔的な嘲りと自信に漲るいい顔の淑女(レディ)


「わたしの勝ちってことでいいかな?」


「ええ。というかこいつはとどめの一撃のだいぶ前から勝負を捨ててました。狐燐さん……」


「わたしがブスと言われて燃えたのは、君にいい女だって言われたからじゃないよ? それも一つの理由ではあったけどねェ」


「むしろ狐燐さんがブスって言われて燃える女性でよかったです。ブスって言われたことは残念ですけど、プライドって必要でしょう」


「ああまで言われて、はい確かにそうですね、で引き下がれる程……ブスじゃないよね? わたしは」


「狐燐さんはいい女です。間違いねぇ。そしてめっちゃカッコよかったです。狐燐さん。勉強させてもらいました」


 狐燐は誰とも競わない。

 メッセやメロンと見た目で競わないし、フィジカルでアブソリュート人と競うこともない。ある意味で分相応を受け入れているが、分相応に与えられるものだけを享受してそれに文句を言う輩がフジは大嫌いだ。だから狐燐は違う。使い古された言葉だが、分相応に、与えられた虎威狐燐というカードで最大限のパフォーマンスを発揮するよう努める。狐燐がメッセやメロン、アブソリュート人にコンプレックスを感じているかはフジにはわからないが、フジの目から見て狐燐に迷いはなかった。そしてアデアデ星人とツルギショウという絶望的な種族の差を逆に圧倒する程のトリックを持ちながら、それでマウントを取ろうとなどとは少しも考えていない。無論、誇りは持っている。

 兄姉に食らいつこうとして歯が立たず、落ち込む自分とは大違いだ。少なくとも戦闘においては、アデアデ星人の狐燐よりアブソリュート人の自分の方が種族として優れている? そんなことは微塵も考えられない。狐燐に勝てる気がしなかった。


「ところで、メッセはどうします?」


「ちょっと待って。スマホスマホっと……。うぅん、一万キロ以内に入ってくれれば迎えに行けるんだけど、一万キロ付近のアメリカ中部は見どころがないなぁ。まぁいいでしょ。メッセ所長は一人でアメリカ横断社員旅行。アメリカ横断してもらって、ロサンゼルス辺りまで来てもらえばわたしのポータル範囲だ。ハリウッドを歩かれると困るけどね」


「なんで?」


「スカウトされて本格的にハリウッドスターの仲間入りになっちゃうでしょ、あのお顔なら。ウラヤマシー」

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