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アブソリュート・トラッシュ  作者: 三篠森・N
第2章 拳を振る太陽
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第8話 無力

「替え玉一丁」


「ほい替え玉イッチョーォ!?」


 部下たちが誰も遊んでくれない。弟もどっかに行ってしまった。寂しさと暇を持て余す飛燕頑馬は朝っぱらからラーメンをかっこんでいた。太るのでは? 大丈夫だ。トレーニングは今日も予定を組んであるし、この巨体なら基礎代謝だけでもラーメンぐらいは余裕だ。食った分は即使う、そんな甘い考えでも維持出来るほど、飛燕頑馬のトレーニングはハードだし、彼はそれを苦にしない。


「マートンの野郎、何してやがる」


 マートンだけ連絡がつかない。まさか、誰かに倒されたのか?


「ハッ」


 マートンがもし倒されたというのならそれはそれで朗報でもある。

 今、この地球にいる全ての存在の中でマートンを倒せるのは自分、バース、オー、メッセ、ジェイド、アッシュだけだ。なんだかんだで仲の良い部下たちは仲間割れなどしないだろう。ならば、マートンを倒す理由があるのはジェイドとアッシュ。この二人が“やる気”になったのなら頑馬にとってそれ以上の出来事はない。街や人を守るなどという甘いことを抜かして全力で戦わなかったジェイド、イカサマをした上に早々に降参したアッシュ。この二人と戦うために地球にやってきたのに。犯人がジェイドだといいなぁ! マートンにだけちょっかいを出すなんて半端な真似をジェイドはしないだろう。

 挑戦をゆるりと待つ。いや、ゆるりとじゃダメだな。徹底的に戦えるように目を治さないと。




 〇




「どうしたフジ。ケガしてるのか?」


 都内某所。マートンを連行したACIDの特殊施設でベテランの明石がフジに水と湿布を差し出す。


「このくらいなら姉貴に頼んで治してもらいます。和泉いますか?」


「……」


 明石はかつてアブソリュートミリオンと接触したことのある研究者を伯母に持つ。伯母から聞いた伝説の英雄アブソリュートミリオンに明石は憧れた。その息子だというフジ・カケルも知らない仲ではない。地球にやってきたばかりで友人のいないフジに和泉を紹介した、フジが敬語を使う数少ない相手だ。


「今呼んでくる。あまりウチの和泉をいじめないでくれよ」


「すみません」


 フジはソファに体を預けてテンションを下げ、興奮にかき消されていた痛みとダメージの把握を始める。痛む箇所はあるがどうにかなりそうだ。


「よぉ和泉」


「フジィ」


「ケガはどうだ? 治ってるなら力貸せ」


「よくもそんなことが言えたなこのクズ野郎が。お前の方が満身創痍だろう」


「鼎に何か仕掛けられた。あいつらもう鏖殺だ」


「クソが、ついに無関係の地球人に手を出しやがったか」


「さっきブッ飛ばしてやったやつは三下だ。次はこうはいかねぇ。やつらの中で一番強いバースを倒す。お前さんの力を貸せ」


「勝算はあるのか?」


「お前さん込みでな。お前さんとならバースを倒せる」




 〇




 ヤッホー! オイラ、セミ! 夏が来るね! 冷たい土の中でも人間と太陽が一番元気な季節が来るってわかるぜ! 脱皮という衣替えの季節はすぐそこだ! 会える日が楽しみだぜ、夏休みの少年たちにカブトにクワガタの兄さんたち、それからDJスズメバチ! クヌギのクラブで最高の夏を過ごそうぜ!

 だよね? おや? なんだか少し、寒くなってきた……?

 ぺり。

 早朝の石神井公園。頑馬の部下の中で最も奇人であるオーは、石神井公園三宝寺池のほとりで自動販売機ごっこをしていた。特に意味はない。だが奇人であるということは最も賢いということでもある。バースは漢字も読めないバカ、メッセは糖分が足りないと何も出来ないし一人じゃ何もしようとしない。マートンは少しマシかもしれないが、考えが短絡的で短気だ。オーは漢字も得意だし燃費もいい。マートンよりも考えて行動するが、考えた上で変だとわかる行動を楽しむ。無意味なことを楽しむことこそインテリに許された遊びだと感じているのだ。それでも頑馬やメンバーたちが何かしたい、何か欲しいものがあると言った時は高度なコンピューターで最適のルートを提示する。

 この自動販売機ごっこも意味はない。一人を楽しむことも許された権利だ。

 そのオーの唇の人工皮膚がインプラントされたゴールドの歯に張り付き、舌で強引に剥がすと裂けて人工血液が滲んだ。


「ハタ迷惑ナヤツダヨー」


 自動販売機ごっこをやめて右腕をランチャーにコンバートし、レーダーが指し示す異様な反応の源に目を向ける。


「当然失礼。アブソリュート・ジェイドよ」


 三宝寺池を白く濁った氷に変え、アブソリュート・ジェイドが鳥居を挟んだ向かい側に現れる。このシンボルが示す意味は異星人が造った機械生物のオーでもわかる。癇に障る。鼻につく。傲慢だ。


「オーダヨー」


「単刀直入に言うわ。鼎ちゃんに何かした?」


「鼎チャンッテ誰?」


「それが通るとでも? あなたたちが何かしたということは、わたしの友達が教えてくれた」


 頑馬に匹敵する最強の戦士ジェイド。最適の道を示し、合理的なものを選ぶはずのオーのコンピューターは、やはり一人だと無意味なものを楽しんでしまう。人に、頑馬に近づきすぎたせいか? 強い相手と戦って勝利し、それを誇りたい名誉への飢え、そして戦いの興奮への渇望を覚える。本当はこんなことしちゃいけないってわかってるのに。ジェイドは頑馬の獲物、そして頑馬でも勝てなかったジェイドに自分が勝てる訳がない。それでも無意味なものを楽しむことが優れた頭脳の証。


「力ズクデ聞キ出シテミナヨー」


 オーのネックレスが持ち主のもとを離れて宙に浮かぶ。リーチ星人の血と汗と涙の結晶、機婦神ゴッデス・エウレカ。その品質は“アブソリュート退治のオトモにも”だ。リーチ星人から多くを授けられたオーだが、スポーツ撮影用のハイスピードカメラや8K、一億画素数、天体観測用の高感度、スーパースロー、お子様の運動会にも使える高性能カメラをいくつも搭載したネックレスもその一つだ。複数の視点から敵を撮影して優れたコンピューターで処理し、ハリウッド映画のバレットタイムのように死角をなくして敵の動きに対応する。

 そして得た情報をチームの核であるメッセのテレパシーで同期することで、頑馬たちは最強のチームと成る。

 主役である頑馬が攻撃し、マートンはメッセとオーを守り、バースは攻守にわたって必要な動きをする。完成されたチームだ。このチームプレーがハマった時は最高に気持ちがいい。こんな感情を作ってくれた制作者には感謝する。

 その自分の気持ちが言うのだ。「アブソリュート・ジェイドに勝てたらものすごく気持ちいいぞ!」と。


「イオッ!」


 戦いたくてウズウズしてきた。下手に会話を交わして退かれるともったいない。先手を打ち、腕のランチャーからゴールドの弾を連射する。ジェイドは咄嗟に氷の防壁を作り出したが、金属と氷では硬度が違う! 弾丸はバキバキと氷を貫き、初夏の石神井公園に粉雪を降らせる。氷の砕ける音の後に水飛沫の音が聞こえてくる。どうやら弾が外れ、背後の三宝寺池に落ちているようだ。だが舞う粉雪とハチの巣になった氷の防壁は敵の姿を隠してしまう。


「セッカクイイカメラ使ッテルノニナー」


 SPLAT!

 自然に散ったものではないとわかる速度、精度の水滴が白銀の弾幕を貫いてオーの眉間を打つ。ただの水滴なのでダメージはないが、敵には自分が見えているのだろうか? 随分と狙いが精密だ。


 SPLAT!

 2発目の水滴もオーの眉間で不愉快に弾ける。オーの高感度センサーは、この水滴が先ほどよりも強い力でぶつかってきたことを察知する。こんな技……まだ技と呼ぶには足りない威力だが、ジェイドはこんな攻撃を先のレイ戦では行わなかった。新技か? まさか、その威力を調整している? 自分を殺さず、でもダメージを与えられる威力に。


「ナメラレタモノダヨー」


 オーがガバっと口を開き、喉の奥からノズルを引っ張り出して燃料を噴射し、ガチっと歯を火打石にして火炎放射で白銀の煙幕と氷の防壁を融解させる。首を横に振って炎を撒き散らし、池の水に悪しき炎が乱反射する。放火された公園の雑木林から鳥が逃げ出すが、水の竜巻が舞い上がり、雑木林の火事に食らいついて鎮火した。その根元にジェイドがいるはずだ。オーは舌でモゴモゴと奥歯を探り、ミサイルのスイッチを入れて吐き出した。


「避ケレバ公園ガ丸焼キダヨー。イオッ!」


「ネフェリウム光線」


 ZAP!

 全てのカメラでも捕捉不能の速度で、ヒスイ色の光線が発射されたばかりのミサイルを貫き、オーの頬を掠めて流血させる。ネフェリウム光線に破壊されたミサイルの爆炎がオーを中心に火の海を作り、橋の手すりが焼け焦げる。


「イイ腕シテンナー」


 前は大火事、後ろは洪水。さぁて答えはなぁんだ? 正解は“ジェイド”だ。

 オーの背後にポータルを開き、即席の津波でまたもや鎮火。背後からの濁流の細かい土や砂が三宝寺池に流出しグラデーションになる。濁流と清水の間に浮かぶ小さな戦士の表情はオーには読解出来ない。怒り? 哀れみ? 京都で観た仏像やルーブルで見た宗教画を思い出す表情だ。あれは芸術品にのみ許された顔。生物(ナマモノ)風情がするのは生意気だ。イライラする。エサ撒くか。


「鼎チャンッテアノ地球人ノコトカナー?」


「何をしたの?」


「フフーン」


 SPLAT!

 三発目の水滴がオーの左の瞳孔に直撃! 激痛、流涙、出血。オーの目は人間を模したもの、カメラが残っていれば問題はないはずだが、急所に的確に当てられた怒りと痛みはさっきまでの比ではない!


「コノ右手ノスイッチデー?」


「右手?」


 右手を挙げたのはフェイクだ。遠距離戦では向こうに分がありすぎる。どんどん威力を増す高精度の水滴、水滴程の命中精度ではないが高威力のネフェリウム光線。レイとの戦いで使っていた氷のミサイルもあるし、氷の鱗粉による視界不良も自分の高性能カメラというアドバンテージが殺される。接近戦で叩き潰すしかない。頑馬に「リアル亀仙人」と呼ばれたこの重い装飾品、そしてエウレカ・マテリアル製のボディから繰り出すボディプレスは頑馬やバースにもダメージを与えるだろう。あんなちっぽけな女の子なら一撃かもしれない。しかも敵は自分の右手を狙ってくる。


「スイッチヲ押シチャオウカナー?」


 右の親指を伸ばしたその瞬間、火花と金属片がオーの顔に降ってくる。その火花と金属片が自分のパーツだったことの認知、そして切断された右腕が地面に落ちるより速く、ジェイドがオーの懐に潜り込む。その右手には、火花の尾を引くヒスイの勾玉を模した刃が握られている。


「テアーッ!」


「イオラァー!?」


 THUNK!!

 ジェイドの左拳に込められた力と速度は音速の壁を越え、オーの中枢部に鋭く突き刺さる! 鎧を突き抜け、装甲を突き抜け、体を貫通した衝撃がソニックブームとなって背後の樹木をなぎ倒し、泥を抉る。あまりの威力にオーのカメラがネガポジ反転した。オーが人工血液を吐きながら、飛び散ったパーツの混じったテカテカした泥に右の肩から倒れこむ。


「イエエエエ……ゴボッ、生物(ナマモノ)風情ガ……」


 残った右目でジェイドを睨み上げる。自分が伏しているせいか、鳥居を背後に構える一五三センチの寿ユキは顔が雲に隠れるほどの大巨人に見えた。ヤバすぎる。最初からこいつだけは……。アブソリュート・ジェイドはレイに任せるべきだったのか!?  ジェイドが切断されたオーの右腕を拾い上げ、慎重に観察する。


「この右腕に何が?」


「ソウダヨ、ソノ右腕ダヨ……」


 気息奄々のオーが蚊の鳴くような声を絞り出し、なんとか立ち上がることに成功する。パンチ一発でこんなダメージを受けるとは……。「リアル亀仙人」の重りを外してどうこうできるスピードじゃない。むしろこれらを装着していなければ今ので死んでいただろう。今までは好きで身に着けていた装飾品がこうも重く、そして有難く感じたのは初めてだ。


「ワタシノ右腕ヲ返シテヨー。鼎チャンニ仕掛ケタ“アレ”ヲ解除スルヨー」


「わかったわ」


 ジェイドが右腕をオーに差し出す。そしてオーの影がジェイドの影に重なった。不意打ちのボディプレスだ!


「死ネ!」


 だがオーに見えたのは複雑骨折して痙攣するジェイドでも、アブソリュートの血で粘つく泥でもなかった。遠近感すらわかないほど澄み渡った雲一つない青空だ。


「?」


 やがて視界の端に樹木の先端が現れ、その中心に遠ざかっていく輪……レイがジェイドと戦った時にジェイドが使用したポータルの輪が見えた。この状況、ボディプレスごとポータルでどこかの空に転送された!? 輪の内側には、自分に向かって真っすぐに人差し指を向けているジェイドがいる。その指先から発射された水滴が真っすぐ自分に近づいてくる!


「ゼータストリームショット」


「イエェ!?」


 SPLAT!

 水滴がオーの体を貫通し、落下するオーより速く背後の地面に着弾する。


「どこかであなたたちを許したいと思っていた。カケルがそう思ったように……。でもあなたは正真正銘、最低最悪の救いようのない悪」


 ガシャアン!

 背中から地面に墜落した衝撃で装飾品が飛散、バウンドしながら重要ないくつかのパーツに致命的なダメージが発生する。今は起き上がることが出来ない。全身の骨がバラバラに砕けてスマホで頑馬やバースを呼ぶことも出来ない。精神的にも肉体的にもダメージが大きすぎる。景色を見るに、場所はさっきまで楽しく自販機ごっこをしていた石神井公園だろう。ならばジェイドもまだ近くにいる。少し回復しなければ……。

 だがジェイドは許さない。仰向けに倒れるオーの視界を覆いつくす数百のポータルは空を消し、ついに実戦級になったジェイドの新技、ゼータストリームショットの雨が無慈悲に降り注ぐ! 


「イォオオオオオエラ!?」


 ポータルのプラネタリウムの天井から発射される水滴の弾丸はジェイドが好むマンガの集中線のようにオーに集束する。ゼータストリームショットは砂の城に水を零すが如く超素材エウレカ・マテリアルを貫通し、オーの周囲の土を抉って彼女を地中深くまで押し込んでいく。アラートで目の前が真っ赤に染まり、土が水に溶け、自分の墓穴に流れ込んでくる。

 もういつから鳴っていたのかもわからない程降り注いだゼータストリームショットの雨音は、却ってオーを冷静にさせた。自分がまだこの雨を凌げるのならば……。生き延びることが出来るのなら、やってみたいこと、試してみたいことがある。

 巨大化だ。

 メインコンピューターが無事に残れば、衛星軌道上に保管してある巨大化用ボディを呼び出してダメージをチャラにできる。ジェイドはレイとの戦いでも「被害を最小限に抑えるため」とかいう甘い理由で不利を選んだ。ならば自分が巨大化し、街を襲えばジェイドも巨大化せざるを得ない。そうなれば頑馬も腰を上げるだろう。頑馬は意図的に自分の目の状態を隠し、戦わない日常を楽しんでいる節がある。目が治っているのなら、自分を抑えるために巨大化したジェイドと戦うため、頑馬はやってくるだろう。

 もうこれしかない。ジェイドを殺すならこれしかない!

 だから、巨大化を。巨大化を……。

 ……。


 ゼータストリームショットの乱れ打ちによるオーの埋葬で三宝寺池のそばに池が一つ増えて水が繋がり、グチャグチャとおぞましい音を立て、オーの頭部が泥の中から掘り出された。

 もうオーには何も見えない。巨大化用ボディを呼び出す信号も出せない。頑馬たちと過ごした楽しかった思い出が消えないためにブラックボックス化したオーのコンピューターはもう何も感じない。




 〇




「……」


「鼎ちゃん、福岡についたわ」


 十四時間の走行を終え、東京の大学に通う埼玉県民のオタサーの姫を乗せたバスが博多バスターミナルに到着した。この十四時間、東京ではフジが投石でマートンに辛勝し、ジェイドが圧倒的な力の差でオーを撃破した。鼎には何が出来た? 週刊少年ジャンプで連載されるスポーツマンガぐらいのむせかえるような熱気で眠ることも出来ず、長時間座り続けたことで腰と背中と肩に鈍い痛みを感じる。疲れ切っているからゲームで時間を潰すことも出来ず、ひたすら己と向き合い続けた。鼎には自分がイマイチな自覚がある。バスの中で振り返った半生、見つめ直した自分は実にイマイチだった。イマイチな自分でも自尊心を持ちたくてオタサーにいるが、好きな人が出来てしまったとバレたらオタサーはもう自分を見捨てるだろう。スキャンダルを抱えて愛想を振りまくアイドルのようなものだ。


「わたしはもう何もしたくない」


 これ以上バスにも乗りたくないが、バスから降りることもしたくない。バスから降りればそこは時空の歪みもない外の世界だ。何もせずに籠っていていい場所ではない。

 鼎は非力だった。十四時間考え通した結果、自分は苦しむフジに何も出来ないということがわかった。


「鼎ちゃんは埼玉の子よね? 今日の福岡ドーム、埼玉西武ライオンズ戦よ! やったわね!」


「へぇ、わたす野球観ないんで」


「どうしたの? カッペになってるわよ。まだ日は明けたばかりだわ! ラーメンとうどんを食べて、フジくんに通りもんを買ってあげましょう! 岩田屋にも行きたいわ。『空の大怪獣ラドン』が現れたところだもの! ラドンは九州男児!」


「メロンさんと違って疲れるので……。ダメな人間なんです。何も出来ないダメな人間ですよぉわたしは。何も……。わたしはフジに何をしてやれます?」


「確かに、あなたはフジくんが抱える問題を解決することは出来ないかもしれない。飛燕頑馬やその部下たちを倒すことは鼎ちゃんには出来ない。それが出来るのはユキであり、和泉さんであり、最終的に問題を解決したと答えを出すフジくん自身。でも鼎ちゃんには何も出来ない訳ではない。無力ではない。鼎ちゃんが自分の非力さを悔やんで流す涙にも表面張力はある。無力なんかじゃないわ」


 全く恋する乙女は世話が焼けるわね! フジやユキが鼎のことを気にする理由がメロンにもわかった。この子はなんだか助けてやりたい気を起こさせるのだ。あまりにも非力だから慈悲の心が芽生えるのではなく、鼎は鼎なりに大切にすべき自尊心を持っている。そこには驕りはない。全ての人間が求め、大切にし、ある時は誰かと奪い合うこともある誇り。分相応の小さな誇りでも、それと向き合い自分の非力さを心底悔しがれることはある意味人間としてあるべき姿なのかもしれない。

 鼎には飛燕頑馬の“宇宙最強”やユキの“一万歳突破”、和泉の“正義”のような大きな目標はない。だが、頑張れればどうにか出来る“オタサーの姫”や“両想い”を頑張れる姿を見ていると、自分も自分に出来ることを精いっぱいやろうという気になれる。

 メロンも一つの決断を下す。


「あなたにはわたしを動かせる力がある。それは巡り巡ってフジくんの力になるわ」


 フジは和泉と組んでバースと戦うための準備があるし、マートン戦でダメージと疲労がある。ユキの消耗はゼロに近いが、自分は……。メロンも何か役に立ちたい。


「フジくん」


 東京のメロン本体を経由し、フジについていた分身メロンが声をかける。


「どうしたメロン」


「ユキがオーを倒したわ。そろそろ飛燕頑馬が気付く。フジくんと和泉さんはバースと戦うんでしょう? ここは早めに勝負を仕掛けましょう。わたしがメッセを倒す」


「わかった。お前さんがメッセに負けるとは思えないが、いざって時は姉貴に言え。だが鼎の方を最優先で頼む」


 全く、若い子は世話が焼けるわね!

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