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アブソリュート・トラッシュ  作者: 三篠森・N
第4章 アブソリュートミリオン 2nd
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第57話 さらば碧沈花、若くして死ぬ。

「あの時、お風呂に入っておけばよかったですね」


「え?」


「ほら、としまえんに取材に行ったじゃないですか。としまえんの隣には庭の湯っていうすごくいいスーパー銭湯があって……。碧さんの学チカはお風呂でしょう? 名前だって……沈花(しずか)ちゃんじゃないですか……」


「夢を(かなえ)てドラえもん……」


 ゴッデス・エウレカSCの大爆発で確かに石神井公園の空は晴れた。沈花は少しの憂いも映さない、不自然なくらい澄んだ瞳で空を見上げていた。明日にもお風呂に入りに行こうなんて沈花は言えなかった。鼎の豊満なバストと一緒にスーパー銭湯に行ったら平坦な胸が恥ずかしいなんてジョークも言えない。


「碧さんらしくないですね。碧さんは誰にも頼まない。何でも欲しがるけど、なんでも自分の力で手に入れてきた。……ナイツ・オブ・ラウンドのマテリアだって。あの理解不能な程のポジティブ、それがあれば学チカがお風呂なんて奇策に頼らなくても就職出来ますよ。教えてもらって出来ることじゃない」


「ナイツ・オブ・ラウンドは強いけど勝負をつまらなくさせる。あー……。頑馬隊長もユキさんももう無敵のナイツ・オブ・ラウンドじゃなくなった。あー……。でも学チカがお風呂だったおかげで、メッセ副隊長にも頑馬隊長にもユキさんにもフジにも勝てたんだよ」


「わたしにとって碧沈花は……。強力な召喚獣でした。わたしがウラオビに襲われたあの時、碧さんが助けに来てくれたでしょう? 碧さんは……。ウラオビを恨んでいるんですか? それとも感謝していますか?」


「鼎ちゃんには悪いけどもしかしたら感謝の方が大きいかもね。みんなで過ごしたイタミ社でのバイトは最高だった。この古着だって双右さんにもらった給料で買ったんだ。鳳落さん、狐燐さんと出会えたおかげでわたしはまっとうな大人になれそうだった。鼎ちゃんにも会えたし……。メッセ副隊長、頑馬隊長、ユキさん、フジ、ミリオンと戦えたことも誇りだよ。倒してからさらにリスペクトを抱き、勝利をリフレインする度にリスペクトがもっと強くなる。そしてあの人たちに黒星をつけてしまったことに少し後悔もするんだ。だってわたしは……。あの四人に黒星をつけたのに、もう死ぬ。水を差しただけでもういなくなる。はぁ。最後はエアリスみたいに、この三宝寺池に沈めてもらってその底で咲く花になろうかな」


「……」


「フジのところに行ってやって。双右さんを倒したよ。羨ましいよ、フジが彼氏で。……。やっぱりもう少しそばにいて」




 〇




 残心。


「……」


 バラバラと回るヘリコプター、足元に集うパトカー、救急車、消防車といった緊急車両、瞬き続ける報道機関と一般人のカメラ。黄昏に映える切れ長の黄金の目、頭部を這う三枚の刃、スリムかつマッシブな青いボディ。“黄昏の戦士”と称えられた初代アブソリュートマンの来訪から約六十年。ついにアブソリュート・アッシュは、黄昏の逆光の中で偉大なる伯父、父、兄姉が浴びてきた喝采を浴びた。そして平和に仇をなし、多くの人を恨みと正義感に駆り立てた巨悪を仕留めた責任感と重圧に浸る。


「フジくん。君の勝ちよ」


「……サンキュー、メロン。お前さんのサポートが無けりゃ無理だった」


「かもね。でも君が倒した。XYZの時とは違う。レイやジェイド、ミリオンの力を借りず、君だけの力でウラオビを倒したのよ」


「サンキュー、メロン。ってのじゃ、感謝の言葉が足りねぇか? 結局お前さんがサイバーミリオンウイルスを使わなきゃ負けてた。ナーガや犬養がいなかったら半端な回復のまま戦って今頃くたばってただろうよ」


「か、も、ね! でもわたしの存在は君のカード。ナーガと犬養さんが足止めしてくれたけど、二人には悪いけどあの二人はウラオビへのダメージを稼いでいない。君はヒール・ジェイドとの二連戦なのよ?」


「俺を上げるために誰かを下げるな」


「でも、勝ち誇って。それが礼儀よ。ウラオビには礼儀なんか必要ないけど、ナーガ、犬養さん、ミリオンへの礼儀。あの三人が託したタスキよ」


「そこんところが所詮、アブソリュート・アッシュなんだよなぁ。いつまでもビビってやがる」


「君がビビっているのは、君が成し遂げたことが大きいからよ」


「……サンキュー、メロン。本当にありがとうな、メロン」


 ナーガもイツキもアッシュに寄ってこない。当たり前だ。これはアッシュの功績だ。アッシュがその栄誉と責任を受け入れるまで、彼が一人で喝采を浴びるべきだ。ナーガはネオンを一瞥し、可能な限り存在感を消してその場を去ろうとした。ナーガは四十メートル超の巨体、がっちり体型の存在感だ、それでももちろん注目は集まる。


「待て、ナーガ」


「なんだ?」


「お前さんはこれからどうする?」


「さぁ、どうするかな。またミリオンさん、イツキさんと一緒に元の次元に戻ってなんとか生きていくよ」


 アッシュの勝利の余韻を邪魔してしまったことを少し気にしながらナーガ……大森龍之介は、地球人ならニヒルに笑ったであろう心境で魚類怪獣の顔に無表情を浮かべた。


「待っていたよ、リュウノスケ」


 不意にアッシュ、ナーガの脳内に弱弱しい声がこだまする。声にエコーがかかっている。テレパシー会話での特徴だ。


「虎威さんか? なんだァ……おい」


 リュウノスケは高校でのヒーローショーでテンカウントの攻撃を受け、変身解除出来なくなってすぐに長い眠りについたため、イタミ社が内紛を起こし、狐燐、鳳落、沈花がウラオビと袂を分けたことをまだ知らない。そのため敵意を声にあらわにして返答した。


「信じてもらえないかもしれないけど、わたしはウラオビを裏切った。話を戻そう。君の変身方法はインナースペース方式だ。わたしの“すりぬけ”を使用すればナーガの中にある大森龍之介の体に触れ、引っこ抜いて元に戻すことは出来なくはないはずだ。アッシュはわかるよね? 不忍池で頑馬隊長と沈花ちゃんが戦った時、わたしはレイから頑馬隊長を引っこ抜いて強制的に変身を解除させた。同じことが出来ると思う。自力で再びナーガに変身することが出来るかはわからないけど……。君はまだミリオンの助っ人を続けるの? それとも大森龍之介に戻るの? 悪いけどわたしはミリオンと同じ次元に帰るつもりはないから、君がこの次元にいるうちにしか戻せない」

 

「ウラオビの言った通りか。イタミ社には俺の変身を解除出来る人がいるって言ってた。決まってる。大森龍之介に戻るよ。ミリオンさんの助っ人だって? 冗談じゃない。ミリオンさんは最強だ。最強のヒーロー。誰が何と言おうと最強のヒーローはアブソリュートミリオン。レイやジェイド、アッシュなんて目じゃないね。あの人に助っ人なんて必要ないよ。それにあの人はもう一人じゃない」


「OK、今日中に引っこ抜く。ここでいきなりナーガが消えて大森龍之介が戻ってきたら正体がバレちまうからね。今日はクリスマス。彼女さんに許してもらえるチャンスだし、恋人の日だ」


「虎威さん。あんたはどうする?」


「トコトン出来た人間だね、大森龍之介くん。君が警戒したようにわたしは所詮、ウラオビの元仲間。シャバでまっとうに生きていくにゃ難しい傷がスネにある。メッセ副隊長とメロンさんが受け入れてくれるなら、チャーリーズ・エンジェルでもやるよ。あの二人と並んじゃルックスで相当劣ってしまうのが痛いところだ」


「虎威さん、ありがとう。『東の宝島』は俺のオールタイムベストだ。虎威さんは覚えてないと思うけど、最終巻発売記念のサイン会で貰ったサインは家宝だよ。俺がフリマアプリにとりつかれた時にも売らないように安全な場所に移した。ヒビキに渡した。だから大丈夫だし、ヒビキのものは俺のもの。俺のものはヒビキのもの」


「大事にしてくれ、ヒビキちゃんも、サインも。あのサイン会の晩、わたしの恋人は過労で倒れて、駅の階段を転げ落ちて死んだ。もう会えない。君を元に戻すことに条件を付けるつもりはなかったけど、恋人を、ヒビキちゃんを大事にしてくれ。さぁ、フジもだよ」




 〇




「碧さんを殺さないんですか?」


「どいつもこいつも勘違いしているな。俺は誰かれ構わず殺しているんじゃない。首から看板でも提げてみるか。会ったやつ全てを殺している訳じゃありません、と。ところでお前さんは誰だ? 何故俺を知っている?」


望月(モチヅキ)(カナエ)


「まさかお前さんがアッシュの恋人か?」


「……」


「おちょくるつもりはなかったんだ、すまない。アッシュが世話になってるな。これからもよろしく頼む。そのうちこの時代の老いた俺と会うこともあるかもしれないな。その時はよろしく頼む」


「何故、フジに“(カケル)”なんてひどい名前を付けたんですか?」


「お嬢ちゃんには少々ややこしい話になるが、正確には俺はまだアッシュの父親ではない。俺は一九六九年の過去からやってきた、まだ妻子を持たないアブソリュートミリオンだ。この無愛想では妻を持つことなど不可能だと思ってきたが、未来からやつが来て行動を共にし、多少はマシになったことだろうよ。どうやらそう遠くない未来……。ああややこしい! 俺のいた一九六九年からそう遠くない未来にジェイドとレイの双子が生まれ、遥か未来、一九九九年三月三日にアッシュが生まれると聞いた。アッシュのやつから聞いた話では、不二(フジ)(カケル)という名には二つの意味がある。不二(フジ)の意味は、二つとない才能。(カケル)は、その才能を曇らせる程の欠けている何かの存在。そう聞いた。俺も納得出来なかったさ。俺から見て二十二歳のアブソリュート・アッシュは完璧に近い戦士だった。二つとない才能は確かにあった。だがこの短い間、やつと過ごしてきて欠けているものを見つけることは出来なかった」


 ミリオンはため息をついた。感銘の吐息か、嫉妬の嘆息か。


「まず、やつは恐ろしいくらい強かった。素早く、守りは固く、技の威力も凄まじい。どんな時でもユーモアを忘れず、そんな余裕があるからいつでも頭が切れる。俺も犬養も何度もアッシュに救われた。俺一人ではアデアデ星人に捕獲されて標本になっていただろうし、ヒオウのヤクザオリンピックで死んでいた。ギレルモ星人に袋叩きにされてお陀仏だっただろう。やつの強さ、機転、そしてそんなやつが息子である誇らしさが、孤立無援を誇って寂しさを紛らわせていた俺を救った。むしろ俺は希望が持てたよ。こんなやつですら親に欠けているものがある、とひどい名前を付けられた過去があるなら、この男はそこから這い上がりアブソリュートマンとして素晴らしい力を手にした。俺は息子が這いあがれる男でよかったと……。そして俺もまだ強くなれるのでは、と希望を持った。未来の俺は同じ希望をやつに託したのだろうな。この男、俺の息子は欠けているものがあっても補い不二の存在になると。話が長いか?」


「少し」


「親バカの子供自慢ってのはそういうものだ。それにお嬢ちゃんには、何故かよくわからないが話したい気持ちが起きる。アッシュがお嬢ちゃんに惚れるのも頷けるという訳だ。やつも過去で、時折寂しそうにしてたぞ。お嬢ちゃんとこの碧沈花の会話を聞いていれば、お嬢ちゃんが優しい人間だと嫌でもわかる」


「わたしは優しくなんかありません。強い人に媚を売って安全を確保しようとしている臆病な小市民です」


「このアブソリュートミリオンにそんな啖呵を切れる肝っ玉があって臆病を名乗るってのか。面白い娘だ。アッシュの恋人になったのもそれが理由か?」


 ペリッと薄いプラスチックをめくるような音を立て、狐燐とフジがポータルで現れて血塗れで倒れる沈花を一瞥し、ミリオン、鼎へと視線を滑らせた。


「死んでるのか? 親父がやったのか?」


「お前さんまでそう言うのか。未来のアブソリュートミリオンのせいで風評被害も甚だしい」


 鼎、フジ、ミリオン、狐燐、メロン。鳳落とメッセ、レイ、ジェイドがいないことを嘆くのは贅沢かもしれないが、いくらバカな沈花でも己の死期くらいわかる。ウラオビ……いや、江戸川双右と鉄竹経修郎にも看取って欲しかったなんて考える甘ちゃん、娑婆僧。そんな愛嬌があったからこそ碧沈花は愛される存在だった。

 ここで碧沈花は死ぬ。沈花の脳内には様々な思いが去来する。多くの人、それも友人や尊敬すべき先輩、ライバル、偉大な英雄に惜しまれつつこの世を去るなんて、ウラオビですら羨ましがる最高の最期だ。でも死にたくないとも思う。沈花は鼎と同じ女子大生だ。恋人との初体験もしたかったし、『天気の子』の監督の次回作だって恋人と観たかった。今わの際の妄想では、イマジナリー彼氏は全てフジ・カケルの顔をしていた。

 フジにはそんな想いなど伝わっていない。それでもフジは沈花に報いようと使命に駆られた。碧沈花の死の遠因はウラオビ・J・タクユキだ。しかしそのウラオビを捕えて沈花に謝罪をさせたり目の前で処刑したりすることを沈花は望んではいない。それでもウラオビの起こした騒乱にケリをつける。それがメッセ、レイ、ジェイドの補欠であるアッシュの役目であり、その事実を知らせることも義務であると感じたのだ。決して惜別や感謝、慰めを言うことなんかではなく。


「犬養」


「何?」


「お前さんはAトリガーの“光”の弾は撃てるか? 初代アブソリュートマンに対応する力だ」


「無理。わたしに使えるのは、ミリオンの“鏖”、レイの“火”、ジェイドの“凍”、アッシュの“電”……。そしてマインの“理”だけ」


 フジは怪訝に眉を動かした。


「だから“光”の弾で碧沈花を治すことは出来ない。それに」


 正直さも優しさも全て口に出すべきではない。フジ、ミリオン、ナーガと出会い、行動を共にしたイツキは馬鹿正直に余計なことを言わない、という慎みを知った。甘いだけの駿河燈の元にいては身につかなかった大人の心がけだ。

 だから言わない。イツキの知る未来では、今日、二〇二〇年十二月二十五日、碧沈花は死ぬ。メッセンジャー、アブソリュート・レイ、アブソリュート・ジェイド、アブソリュート・アッシュに四連勝した碧沈花はアブソリュートミリオンに敗れ、それまでの無茶な戦いで負ったダメージの蓄積によりこの世を去る。果てしなく長い時間を茫漠と過ごしてきたイツキでもこれくらいの大きな出来事は忘れていない。

 イツキ以外は確信に至らずとも覚悟はしている。碧沈花は今日ここで死ぬ。


「ああ、どうせダメもとだ。お前さんもありがとな。これからどうするつもりか知らねぇが、後で連絡先は教えろ」


「それはわたしが“理”の弾を使えるから監視下に置くため?」


「前も言ったろう? お前さんがその力を悪用するなら俺たち、つまりジェイド、レイ、アッシュはお前さんとも戦う。だが今のお前さんは悪用するようには思えねぇなぁ。お前さんは、俺を助けてくれた。ナーガのこともミリオンのことも助けてくれた。いつかお前さんが“理”を使うとしても悪用じゃあねぇだろうよ。お前さんはバカだし使いこなすことは無理だろう」


「フフ……。ごめん、不謹慎だった」


「さて、どうしたもんかこのキャンプファイヤー。ウラオビの野郎を回収しねぇと」


 フジは消火の終わったゴッデス・エウレカSCの顔面に立った。歴代のゴッデス・エウレカの中枢はここにあったと聞く。ウラオビが乗っているならここだろう。アッシュに変身した状態では丸みを帯びていたように見えた頭部も、フジの姿に戻って立つと平面に思える。こんなに巨大で強大な敵を倒したのか。


「う……う」


 超合金の隙間からうめき声が聞こえる。しかし装甲はエウレカ・マテリアル。フジの力では破壊不可能だ。まだ狼の巫女の姿のままのイツキに装甲を剥がしてもらい、中の回線や回路を強引に引き剝がしながらフジはゴッデス・エウレカSCのコクピットにアクセスした。


「ここであったが百年目だクソウラオビ。神妙にお縄に着きなこのボケナスが。すぐに和泉を呼ぶ。……あれ?」


 コクピットのチェアに座っているのは見慣れたシックなスーツに痩躯。服装だけでも歯が浮くような気障だ。しかし様子がおかしい。その男は座っていたのではない。粘着テープでチェアに縛り付けられていたのだ。そして顔立ちは軽薄な笑みを浮かべる驚天動地前人未踏空前絶後の美男子ではなく、その男を模したサラサラヘアーのウィッグを被った、恐怖に震える育ちの悪い目。口にテープを張られていてもこの男がお世辞にも美男子でないとわかる。


「てめぇはテンカウント!? そうか……。そういうことかクソウラオビ……。影武者を使っててめぇはまだ逃れようって魂胆か……」


 唾棄すべき、ドス黒い暗黒中の暗黒の卑劣漢。正真正銘最低最悪のクズ野郎。フジ・カケルの持つ宇宙一のクズ野郎の蔑称“アブソリュート・トラッシュ”はウラオビにこそふさわしい。沈花が死ぬまでにウラオビにケリをつけたかったフジはその邪悪さに心底憤りを覚え、奥歯が鳴る程噛みしめた。どうあってもウラオビ・J・タクユキはアッシュで最期を飾りたくないと見える。今まで何度もウラオビに言われたその言葉に納得していた。ジェイド、レイ、ミリオンに劣っているのは否定しようのない事実だ。だがここにきて、アッシュはようやくその言葉を悔しく思った。碧沈花にしてやれる唯一にして最後のこと、即ちウラオビの始末に足る資格がないことに心底を歯がゆく思った。これではフジ・カケルとしても、アブソリュート・アッシュとしても沈花に何も……。……本当にそうだろうか? ここまでしぶとく卑怯に生にしがみつくのなら、ゴッデス・エウレカSCに勝利したのがウラオビお望みのジェイドやミリオンだろうと潔く負けを認めず、何かまた理由をつけてのうのうと逃走生活を続けたのではないだろうか?


「テンカウント、てめぇもつくづく運のねぇやつだ。少しは同情してやるぜ。その同情の余地の分ウラオビよりマシってこっ……」


 フジがテンカウントの拘束を解こうとしたその瞬間、テンカウントの腹部が強い光を放った。目も眩む爆炎と閃光、轟音は至近距離にいたフジ・カケルを巻き込み、フジ・カケルは無抵抗のままコクピットから投げ出され、黒煙を上げながら放物線を描いて石神井池に沈没した。着水点からじわりと煤と血が水面に広がっていった。

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