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アブソリュート・トラッシュ  作者: 三篠森・N
第4章 アブソリュートミリオン 2nd
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第45話 Bad Reputation

 寺田(テラダ)走地(ソウジ)(23歳)。

 特技は野球。嫌いなものは野球。

 野球好きの両親にプロ野球選手になることを強く強要され、貧しいながらも特訓を積んできた。毎日バッティングセンターに通うお金はないから父のトスするボールで高低と内外をつけてバットコントロールの練習。ボールを見失う程暗くなるまで遠投キャッチボール。立てなくなるまでランニング。中学時代はシニアチームに入って林間学校もスキー教室も行けなかった。なんとか修学旅行だけは許されたが……。群馬県ベスト4の高校にスカウトされて寮に入った。しかしそこはテラダのシニアの二歳年上で、中学時代は埼玉ナンバーワン遊撃手と称された先輩までベンチにすら入れず、同級生にパシリにされたり八つ当たりの的になる地獄のような環境だった。それでもテラダは三年生時になんとかベンチ入り。学内では「俺は野球部だぞ!」と王様のようにふるまった。しかしチームは低迷。もちろんプロからの声などかからない。威張れなくなると学校の連中も手のひらを返した。大学野球にも社会人野球にも行かず埼玉に戻ってきたテラダを両親は罵倒した。そしてテラダはブチ切れた。幼少期から培った筋肉がほぼすべて脂肪に変わるほど引きこもり、今でも親のスネをかじるニートだ。両親のことは見下している。二人ともスポーツなんて全然出来はしない。図体ばかりデカくなった息子に怯えて食事と金を運ぶ。愛は最初から運ばれていないから今更欲しいなんて言わない。

 テラダは手元にある金を数えた。これなら目当てのものが手に入る。目当ての場所に行ける。

 テラダは、まず最寄りの紳士服店に行った。大学にも成人式にも行かなかったテラダには無縁の場所だ。




 〇




 東京出身の女性、ルイ(19歳)。

 大学受験に失敗し、片思いの相手も遠くに行ってしまった。ルイの趣味は小説を書くことだった。大学受験に失敗した理由が勉強せずに小説を書いていたからだってこともわかっている。小説に打ち込むルイは一向に伸びない自分の腕前に絶望していた。そんな折、幼い頃から別居している父イワオが九州で新事業を始めるという。都会と文学に疲れ切ったルイは逃れるように父と共に九州に移住し、父の仕事の手伝いを始める。事実上の都落ちだ。

 そこでルイは天真爛漫な少年アキラと出会う。絵が得意でマンガが好きなアキラと話すうち、ルイは再起をかけ、原作:ルイ 作画:アキラのマンガユニットを組んで多くの読者と富と名声の待つ東の宝島……。東京への凱旋を目指す。


 ……と書けば、天才マンガ家虎威狐燐の名作『東の宝島』は熱血マンガ家マンガやしんみり歳の差ラブロマンスに見えそうだが、実際は虎威狐燐の天才たる由縁である画力と独特の間、虎威狐燐が収集、吸収、還元したマンガの知識がパロディという形で存分に活かされたギャグマンガである。

 特にルイの典型的ダメニートっぷりはニート経験のない虎威狐燐が本当に描けたのかと感嘆するほどリアリティとユーモアに満ちている。せっかくユニットを組んでもらえても「アキラが何とかしてくれる」「アキラと組んだばかりでマンガ家の勝手はわからないからしばらく様子見」と他力本願。

 実在すればスペック、性格共に悲惨としか言えない程のダメニートに愛嬌や愛着、哀愁、色気、時折見せる情熱への応援を抱かせる。虎威狐燐はこの「普通のニート」という素材を脳内で陶芸仙人の備前の土よりこねくり回してどの角度から見ても学究的かつ面白おかしく見えるようエンターテイメントに昇華したのだ。しかもそのルイの日常ニートギャグは全てが伏線となり、ラスト二巻の圧巻の回収は涙なくして見られないと高く評価されている。虎威狐燐はその全てを出版社に持ち込む前から決めていた。それも19歳の若さでだ。

 しかしそんな主人公、ダメニートルイは、読者の人気投票でまさか2位が定位置である。常時1位に輝く人物こそが……。


「……イワオに見える」


 テラダは紳士服店で誂えた濃紺にストライプのスーツ、深紅一色のネクタイに、額には白地にマジックペンで大きく「グッチ」と書いた手ぬぐいハチマキ。ルイの父親イワオのコスプレだ。

 イワオこそ『東の宝島』読者人気ナンバーワンキャラである。

 ロウニンアジ……通称“G(グレート)T(トレバリー)”の特大サイズを釣り上げることを目標とするイワオは娘のルイと違って熱血タイプ。勝手のわからない土地で事業を始めてそこそこに成功。しかし儲けた金は全てGT爆釣のための資金にブチ込む。船舶免許を取り、船を買い、釣り人仲間を集めてギルドを作り、その仲間たちとGTを目指して驀進する。

 しかし都会でのサラリーマン生活の習慣が抜けないのか、往年の名作マンガを真に受けて「暑い場所ではかえってスーツが良い」を実行してか船の上でもスーツ姿、しかし頭は釣り人よろしく手ぬぐいハチマキ。

 ルイとイワオ。無気力タイプと熱血タイプの違いはあれど、バカげた夢を捨てきれない親子……。


 そんな名作に影響を受けたのか、都内某所にテラダと同じくイワオのコスプレをした男が大量に集まっていた。




 〇




「……」


 視界のフレームが動かない程度に眼球を動かしたフジはゆっくりと目を閉じて、開けることを拒むように強い力で瞼を押さえつけてため息をついた。そして耳を二回タップする。


「ヘイ、メロン。姉貴に伝えてくれ」


「何を?」


「メロン、お前ならウラオビのポータルが閉じて兄貴の位置が確定したらわかるだろう? 兄貴と碧の位置が掴め次第、俺が現場に行く。……。姉貴は最後の砦だ。……和泉と鼎を頼むって伝えてくれ」


「フジくんはどうするの?」


「兄貴の邪魔にならねぇ場所で見張る。直接兄貴の邪魔をするやつを排除するのはメッセの役目だ。だがもしウラオビの野郎がゴッデスで出てくるようなら、さすがに碧と戦った後の兄貴じゃあ難しいだろうな。俺とメッセで倒す」


「わかった。伝える。鼎ちゃんを頼む、とフジくんが言っていたって。わかってる? 鼎ちゃんだけ」


「お優しいなぁ」


「直接優しくされる方が傷つくこともあるのよ。それに彼にも使命がある。守られるだけじゃないの」


「お前さんに優しくされて使命についても庇われるなんてあの駄犬のプライドもさぞかし逆なでされることだろうよ」


「……掴めた。スマホに情報を送るわ」


 頑馬と沈花を包む景色が固定された。沈花にとって見慣れた場所。だからこそ一瞬平常心を乱されるロケーション。


「ここでこう思えるということはやはりわたしは碧沈花なんだ。わたしは碧沈花だ。ジェイドじゃない」


 雲霞の如く吹き抜けのエントランスを埋め尽くす、スーツにハチマキの男たち。中には少し女も混じっている。そして一斉に景色が瞬いた。周囲を見渡すと光の軌道はまるでプロレス会場に投げ込まれる紙テープのように流線になる。どの角度に顔を向けてもスマホのカメラのシャッター音の不愉快な輪唱は変わらない。


「知ってる場所か?」


「知ってるも何も。何百回来たかわかんないよ。ここは、江東区木場のイトーヨーカドー。わたしの地元だよ」


「……ドンマイって言えばいいのか?」


「頑馬隊長は何も悪くないよ。ほんの少し、双右さんに怒りを覚え始めたけどね」


 愛する地元、江東区。沈花の実家は木場の隣町深川にあり、沈花はまだ一人で外出できない頃から親と手を繋いでこのイトーヨーカドー……。そうさ、親だ。沈花の父親はアブソリュートミリオンじゃない。それだけは断言できる。その頃から何度も連れてきてもらった。ここの映画館で一人で映画も観た。『天気の子』。あれは意中の人と見たかった映画だ。マクドナルドで勉強もした。

 その思い出の全てが汚されている。そもそも江東区は沈花の地元というだけで暴徒同士の激突で危険地帯になっていた。ようやく戻ってこられたと思いきやこの始末。ウラオビの直接的な扇動で暴徒が集められている。家族愛、友情、青春、安心、安らぎ。そういった記憶と結びつく大切な場所は外部から持ち込まれた悪意とアナーキーに満ちている。


「死ね碧沈花!」


「死ねレイ!」


 弾ける罵声。頭を痛め、抱え、生み出した登場人物イワオをこんな形で使用された狐燐を慮った。


「じきにメロン経由でメッセが俺たちの位置を掴む。あいつはバカじゃねぇ。すぐに狐燐に場所を伝えて二人もここに来るだろう。待つか?」


 沈花の中のメトロノーム、ギター、ベース、ドラムが再び正常なリズムでセッションを開始する。


「待たなくていい」


 死ね碧沈花! 悪魔の子! 偽物まがい物、詐欺師。ビッチ、低学歴、テロリスト! 貧乏、歩く公害、雑魚スケ、お前高校野球で賭博しただろ! 股が緩いのがわかるんだよダサ髪型が! くたばれブサイク、失明しろ。犯罪者!


「チエアッ!」


 とりあえず頑馬に向かって猛ダッシュだ。目の前の大樹は意外そうな顔をしている。そのグラスに逆さ写しになっている自分の顔は怒っても泣いてもいない。理想通りの、心地よい興奮を帯びた平常心を保った表情だ。頑馬は考える。こんな罵声を浴びても顔色一つ変えないのは強靭なメンタルか、もしくは強い集中状態による没頭か。

 餓獅(ガシ)ッ!

 遠慮するように上げたガードは予想外の衝撃で骨まで衝撃が通った。仙台での初ダウン程ではないがそれに迫る会心の一撃に近い。


「……」


 沈花の記憶の遡上を果てまで辿ると限りないから少しで済まそう。

 あれはまだ数日前。鼎と沈花はイタミ社の事務所でそれぞれ別の仕事をしていた。鼎は鳳落から指示とインストラクションを受けながらの仕事。沈花は単独で行う単純作業で、ヘッドホンをかけて音楽を聴いていた。その激しく音漏れするヘッドホン。鼎が肩を叩くまで沈花は何にも気付かなかった。


「何を聴いてるんですか?」


Joan(ジョーン) Jett(ジェット)の『Bad(バッド) Reputation(レピュテーション)』」


「知らない人の知らない曲だ……。洋楽はわからないんです。すみません」


「鼎ちゃんは何を聴くの?」


「……アニソン?」


「『Bad Reputation』も広義においてはアニソンになるけどね。この曲すごい好きなんだ。歌詞の和訳を知ってもっと好きになった」


 疾走感のあるイントロ。

 それは目の前にアブソリュート・レイがいても、周囲に罵声を合唱する暴徒がいても、思い入れのある大切な場所を悪用されても、ヘッドホンやプレイヤーなしで沈花の脳内で正確に再生出来る。


「ダーダーダダダダ……」


 沈花の新たな力は沈花の思い出とリンクした。

 沈花の強化形態アティテュード・アジャストメントは十五秒ごとに波が来る。発動直後に力が最大に解放され、その後は出力が緩やかに下降する。そして十五秒経過すると再び力が跳ね上がり、強化が頂点に達する! 心電図のように急上昇と緩やかな下降を繰り返す不安定な強化形態が、沈花のアティテュード・アジャストメント!

 十五秒! 『Bad Reputation』のイントロはピッタリ十五秒! 脳内で『Bad Reputation』のイントロを繰り返せばピンチもチャンスもある程度把握、予想可能だ。


「てめぇも死ねッコラァー!」


 頑馬の後頭部に金属バットフルスイングが叩き込まれた。やった男はテラダ・ソウジ! こいつは頑馬に多少の恨みがあった。正確に言うと恨みがあるのは頑馬の妹、寿ユキにだ。

 少し前。ウラオビ・J・タクユキが東京のどこかで五億円をバラまくと宣言した際、テラダは渋谷と予想を立て、渋谷に乗り込んで運命の時を待っていた。予想は的中。ウラオビはアタッシュケースを持って現れた。しかしウラオビが撒いた金は全て、寿ユキがポータルで回収してしまったのだ。

 五億円満額とは言わない。しかし青春時代の全てを両親からの呪縛である野球で失ったテラダは、失った自分の青春への慰謝料が欲しかった。

 頑馬の頭は白球のようにはいかない。首の長さだけを半径にガクンと揺れた後、ぐるりと振り返ってテラダの顔面を鷲掴みにした。そして(ボン)ッ! 掌で小さくオーラを弾けさせ、テラダをKOして投げ捨てた。


「これぁしんどいよなぁ」


「優しいね、頑馬隊長。わたしが図太いだけだよ」


 脳内のジョーン・ジェットが息を吸う。十五秒だ。


「チッ!」


 この状況、イレギュラーではあるがアドバンテージ! 頭がシンプル故に切り替えが早い沈花はもう割り切っている。思い出の場所は戦場になるし、無関係……今は有関係になった暴徒たちが巻き込まれるのは仕方なし。しかしこれは沈花に最初から備わっていたものではない。札幌をブッ壊したメッセから得た経験値を解析するとその中にあったものだ。仕方なし、という心構え! 頑馬はまだ切り替えが終わっていないようだ。それに何よりのアドバンテージは、ここ、イトーヨーカドー木場店がオモチャ箱より勝手知ったる場所ってことだ!

 ハイキック! フジやマートンが使う柔らかなカンフー由来のディフェンスではなく、骨と筋肉によるブロックを防御の核とする頑馬をミシリと軋ませた。続けざまにキックを見舞い、頑馬の肉、骨、腱の反応、グラス越しの頑馬の瞳孔の拡大と収縮から本能的に蹴るべき場所を一瞬にしてリストアップして一つを選ぶ。次はここだ。グラスに反転して写るになる碧沈花……自分は随分といい顔をしている。


「ジャアラッ!」


 一撃、二撃! 左右交互に繰り出される頑馬の鉄拳を紙一重で躱し、後ろ回し蹴りが頬を捉えて頑馬のグラスが上下にブレる。今だ!


「チェアーッ!」


 頑馬の四肢の可動範囲の隙を突いたキックが腹筋山脈の真芯を穿つ! 衝撃を逸らすべく数歩後退した頑馬は、金属バットを踏んで足を滑らせ、背後にあったショッピングカートに尻からすっぽりとハマってしまった!


「チッ!」


「クソッ……ジャアアアラァーッ!?」


 こんななりでメッセと違って絶叫マシンが苦手な頑馬だ。ショッピングカートを沈花に蹴られた頑馬は無抵抗のまま全体重をショッピングカートに委ね、けたたましい音と罵声交じりの歓声を浴びながらエスカレーターを転落していく。七十キロの体格差さえも埋める、車輪の発明は偉大だと言わざるを得ない。

 ガタガタガタガタと後ろ向きにエスカレーターを転げ落ちた頑馬は後頭部から床に激突し、ひっくり返って上半身に乗っかる自分の下半身とカートの重量を嫌に重く感じた。索敵よりもスタンドアップよりも、苦痛を排出するために息と血を吐いて呼吸のリズムを整える。そろそろ立たねばならない。どれだけの時間こうしていた? ……十五秒程度か? 知恵の輪状になったカートを捨てて上体を起こしたその刹那!


「ホワチャアアアーッ!」


 ワンフロア上から飛来する、カンフーのミサイル! 無抵抗でのエスカレーター転落に匹敵する衝撃が頑馬の顔面、頭蓋骨、脳の順番にダメージを与える。

 暴徒たちのスマホのカメラに写っているのは、助走に数メートルの高低差の重力を加算した飛び蹴り、その乾坤一擲の顕在である円錐状に燃える紫のオーラ、着弾でダウンを喫する巨漢、その向こう側で片膝をついて116キログラムを蹴り飛ばす攻撃で発生した斥力を処理して地面に逃がす紫の毒婦。

 カンフー斥力の分散が終わった。靴底にまだ変形する頑馬の顔面の肉の感触が残っている。

 これでもまだ闘志を失わない辺り、さすがはアブソリュート・レイ! スクラップになったカートを沈花に向かって蹴り飛ばし、血で隙間を埋められた歯を剥き出してどろんとした笑みを浮かべる。沈花は亀の甲羅を躱すスーパーマリオじめて跳躍回避、しかし横スクロールのスーパーマリオにはないのが横回転の動きだ。カートを躱しながらフィギュアスケート選手の動きで回転し、手刀で頑馬の喉笛を打つ。


「チ!?」


 その一撃をやせ我慢でしのぎ切った頑馬は滞空中の沈花を抱え上げて昇降する一対のエスカレーター同士の間のアクリルの壁に沈花を放り込み、エスカレーター同士のプレパラートで挟み込んだ。


「ジャガアン!」


「チャベベベベベ!?」


 粗暴な前蹴りでアクリル越しに沈花の顔面を蹴っ飛ばし、反対側から紫のメッシュの茶色いボブが飛び出した。頑馬はそのままエスカレーターを飛び越えて沈花の頭を掴み、沈花の顔面でアクリルを側面から破壊しながら一気に上のフロアまで駆け上がった。アクリルだ。ゼラチンじゃない。硬い硬いアクリルであることをしつこく強調したい。透明なはずのアクリルは上に昇るほど、黒が濃く塗られている。ゴア族特有の黒い血だ。支えを失ったエスカレーターがアクリルの雨を降らせながら崩落、そして破壊の支点である紫の戦士は最後に手すりベルトに首が引っ掛かり絞首刑よろしくピンと張った後、つんのめるように床に叩き付けられてしばらくの間動きを止めた。首にベルトが引っかかって頸骨と脳に致命的なインパクトが発生したのは、『Bad Reputation』のイントロの十四秒目。脳内のジョーン・ジェットは今まさに息を吸って一秒後に歌い始めるが、実際の沈花の呼吸は……。


「死ねッコラーッ!」


 罵禁(バキン)! 暴徒の振った金属バットフルスイングが頑馬の顔面にモロに入った。この暴徒は動かなくなった沈花を狙っていたが、沈花を庇うような動きを見せた頑馬に急遽切り替えたのだ。


「……ッ」


 ああ、大したことねぇ。全然大したことねぇぜ。何、試合開始後にランバージャックデスマッチにルールが変わったってだけさ。金属バット? 想定内。ノープロブレム。

 そんなタフな言葉が頑馬の脳内を駆け巡り、きちんとセリフとして紡がれた。しかしあくまでも脳内で、である。


「ジャグラグバラァーッ!」


 怒りが頂点に達した頑馬の舌はもうきちんとセリフを唱えてくれなかった。セリフでもなければ罵声でも暴言でもない、鳴き声。ショートフックで目の前の暴徒の鼻の骨と前歯全てを一気にへし折り、血走った狂暴な視線で周囲を見渡し、とりあえず一番背の高かったやつにアッパーカットを食らわせてすぐさま沈花の元へ戻り、沈花を狙った暴徒をキックで立体的な壁の模様にしてやった。


「ブチ殺してやる、ゴミ共が」


 ああ、ありがてぇ。レイが殺してくれる……。社会的に死にも等しい挫折や絶望に苛まれる暴徒たちが一斉に頑馬に襲い掛かる。

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