アンジュ、異世界へ
かつてどうしようもないほど屑だった男は、記憶と引き換えに異世界転生をしてひとりの少女として新たな生を堪能するのであったが、ひょんなことから魔王討伐の使命に導かれ異世界へと門をくぐるのであった。
歩いても歩いても目の前は真っ暗
入口はあんなに光り輝いていたのになぁ
かれこれ入口を通ってから1時間は歩いている気がする
それでも一向に出口が見える気配がない
歩き始めてずいぶんな時が立ったな
それでもおなかが減るということもない
不思議な空間だ
においはなぜか懐かしく心地よいものがする
なんだろうかとてもしんみりとして気持ちがいい
ずっとここにいたい
そんな気さえしてきた
するとすぐに暗い世界の闇が消えて出口が目の前に現れた
私は何を思うこともなく出口をくぐる
私はいきなり明るいところに出たもので目がなじむまで目を開けられなかった
だいぶと馴染んできたので私はそっと目を開ける
すると目の前に広がっていたのは大自然の草原だった
どこまでも続く草原のようだ
風が草をさわやかに揺らす
「ああ、私もうここに永住するわ」
ここがどこなのかもよくわからないのでとりあえず近くにあった木の皮をはがして物体浮遊術の要領で絨毯のように浮かせる
ふむ、向こうに何やら街のようなものが見えるな。行ってみるか
そうして私は木の皮に乗ったまま街の方へ飛んで行った
街へ出るとで店が立ち並び人々が往来する。
ところどころで話し声が聞こえる。異世界のはずなのになぜか言葉が分かる、これはいったいどういうことかな。
この町の中心部はどこだろうか
と、辺りを見渡すと大きな白いお城が見えるではないか
あすこへ行ってみよう
そして私は木の皮で飛ぶのはやめて、民家の軒下に立てかけてあったほうきを拝借して城の方へ飛んでいくのであった。
はじめこの世界の住人にやすやすと姿を見せても大丈夫かと気になったが、まぁ私の力があれば恐れるに足らずね。
城の中庭らしきところに着陸すると、その光景を見た城の兵士が数名駆け寄ってくる
「とまれ!お前見慣れぬ身なりだな!ここへ何しに来た!!」
「ここの王に合わせてくれ」
「曲者だー!殺せーーー!!」
「やれやれきてそうそうこれか、異世界は物騒だな」
そして私はそのまま一直線に城の中へ通ずる道を歩いて行った
「「「ぐわああわああああああぁぁぁあぁぁ」」」
兵士たちは私に触れるだけで体が溶かされていく
ここに着陸する前に私に触れた相手を溶かす心霊術を私の身体にかけていたのだ
「悪いが君たち邪魔だ」
私は城の中へ入り兵士に半ば無理やり王の場所を吐かせて
そのまま玉座の間に向かうのであった。
重厚な扉を開ける
そこには白髪に長いひげを生やした老人と赤い髪の女がいた
椅子に座った老人は私に告げる
「私はおぬしが来るのを待っておったのじゃ」
「ほう、その割には兵士どもが非協力的だったが」
「それは私の配下ではなくおそらくこの国を滅ぼそうとしている国賊が変装したものでしょう」
「言葉には気を付けるのだな、それはこの国が、いや城というさらに限られた範囲でさえも敵が仲間のフリをしているのに気づいていないということだぞ。
それはお前の王としての器不足を会ったばかりの私に紹介するようなものと思え」
「勇者様、どうか怒りをお納めになってください」
赤豚がそんな言葉を言う
「実は勇者様に倒してもらいたい敵がいるのです」
「話は聞いてやる、だが勘違いするなよ、私はお前の配下に加わる気は毛頭ない」
「ええ、それは百も承知です」
「で、その敵というのはどんなやつなんだ」
「はい、岩の勇者と愛の勇者を名乗る偽物たちです。ああ、説明不足でいしたね。
我々の世界では波という世界を滅ぼそうとする怪奇現象が今起きております。
この波というのは100年周期で起こるもので、過去の波にも六聖勇者を召喚して闘ってもらっていたのです。
そして今回も我々は過去の前例に従って六聖勇者を召喚しました。
しかし、そのうちの2人、つまり岩と愛の勇者が実は偽物だったのです」
「自分で召喚しておいてなぜ偽物になる?」
「いえ、私たちは確かに本物を召喚しました。しかし、ある日を境にその2人の人となりが豹変したのですじゃ。
二人に脅威を示した我々は示談のために二人を城に招集しましたが、協力しないばかりか、我々に牙をむくのです。
我々が召喚したからと言っても力は勇者の方が上でして、我々にはどうすることもできません。
どうか心霊の勇者さま、我々をお救いください
「ふむ、お前の言わんとしていることは分かった。しかしそれをしたとして私に対する褒美はないのか?」
「はい、もちろんあります。金貨100枚でどうでしょう。この世界の物価を知らない心霊の勇者様のためにどれほどの価値か説明いたしますと、
金貨50枚で勇者様がここに来るまで見られたであろう貴族のお屋敷が悠々に変えるほどになります。
「ほう、その交渉になった。ただし私はお前を信じたわけだはない、少しでも奇妙なことをしてみろ、私はお前たちを跡形もなく消す」
「それはわきまえております。これは今回の依頼の前金となります。」
そう言って王は私に金貨がずっしり入った革袋を渡す
「ふむ、確かに前金は受け取った。そういえばお前たちの名前を聞いていなかったな。」
「はい、私はトロロコンブですじゃ、こっちは...」
「マルテイでございます勇者様」
「そうか」
そういって私はこのうさん臭さの拭えない2人を後に城を出るのであった。
確かあの王が言うにはここから東に進んだロックバレー村にその岩の勇者と愛の勇者が潜んでいるらしいな
よし行ってみるか
そうしてアンジュは箒に乗って東の方向へ進んだ
10分も飛べばその村と思わしきものが見えてきた
「お、これがその村か、話によれば半年前から作られたといわれるがとてもそうは見えないな少なくとも5年は立ってるって感じだな」
そうしてアンジュはその村の広場に降り立った
「おお」
「なんだ?」
「空から誰か降りてきたぞ」
「女の子?」
「すぐに岩の勇者様を呼んできなさい」
そういって村人たちは警戒態勢をとった
しばらくすると岩の勇者と思わしき人物がずんぐりむっくりな2メートルほどあるであろう鳥にまたがってやってきた
「お前が空から降ってきたという女か」
「ずいぶんと偉そうないい方だね、そうよ。私はトロロコンブの命によってお前を殺しにきた」
「俺は襲い掛かる火の粉は振り払う主義なんでな、女の子だからと言って手加減するつもりはない」
「望むところよ」
そうして私と岩の勇者は決戦をすることになった
「聖なるかな聖なるかなzazasu zazasu nasu zazasu」
ッッッッッッッッッッドガアァァアァーーーーーーーーーーーーーン
岩の勇者はその瞬間爆発して跡形もなく消し飛んだ
「ああ、、なんということを」
「まさか岩の勇者様が一撃で...」
村人たちが騒然とする
やはりこの程度か
「さて、岩は倒したわ、愛の勇者はどこかしら」
「俺はここだ、よくもお義父さんを殺してくれたな。豚如きが舐めた真似をしやがって」
そういって愛の勇者は殺意を向けた目をキッとこちらに向けて襲い掛かってくる
私はひょいとよける
「逃がすか!!ブリューナクX!!!」
じゃきん!!
「グッ」
私の身体に鋭い痛みが走る
こいつなかなかやるな
こいつの攻撃を次に受けるとまずい
「なに!俺のブリューナクXを受けても生きているだと!!これを受けても立っていられるのはお義父さんだけというのに!!」
「これでおしまいよ」
「聖なるかな聖なるかな座座主座座主那須座座主」
ッッッッッッッッッッドガアァァアァーーーーーーーーーーーーーン
そうして愛の勇者も跡形もなく爆発していくのだった
「ああ、愛の勇者様まで」
「俺たちはもうおしまいだ」
「京子逃げるのよ!!」
「ママぁーーーー」
村人たちは自分たちの君主が一撃で殺されたのをみて絶望している
「ああ、どうかアンジュ様怒りをお納めください」
そうして出てきたのが私と同い年くらいの少女
「私はここの村を治めているトロロコンブの娘であるメルテイです。
私の父はそれはそれはどうしようもない悪党で、現に父が治めているメロンマイクの城下町はそれはそれは酷い統治下にあります。
国民はみんな痩せ上、一部の貴族と王族のみが甘い蜜をすうという状態です。
私はそんなことに嫌気がさして岩の勇者たちとともに真に平等な村を作ろうとこちらに映ってきたのです。
岩の勇者と愛の勇者は悪党ではありません。悪いのはすべてあの父上と姉上なのです!!」
そういってメルテイは泣きそうになりながら懇願してくるのであった
「そうか、、それは悪いことをしたな。では二人を生き返らせよう。そうしてその悪逆非道の王とお前の姉を殺してこよう。
これで罪滅ぼしになるかな?」
「はい!!」
そういってメルテイの表情は一気に明るくなった
どうやら事態が収まったことに胸をなでおろしているようだ
「聖なるかな聖なるかなzazasu zazasu nasu zazasu この者たちに生命の息吹を与えた前、今一度この世界の理を読み解き我に力を与え給え!!」
私がそう唱えると目の前に光の玉が2つ現れそれが徐々に人の形へと変化していく、瞬く間に先ほど私が殺した二人が先ほどまでの姿と何一つ変わりなく
現れたのだった。
どうでもいいや
「おお」
「なんだ」
聴衆はまたも同じことを言う
お前らはそれしかないのかよ
「どうして俺たちはここにいるんだ。確かさっきそこの少女に殺されたはずじゃ」
「私がそこのメルテイって子に諭されて生き返らせてあげたのよ」
「そんなこともできるのですか」
愛の勇者が驚く
無理もない、私も今この方法を思いついたのだから
「さて、さっきは悪かったな。私はこれから問題の根本であるトロロコンブとマルテイを殺しに行ってくる」
「クズとヴィッチのことですな」
「あなたたちはそう呼んでいるのね」
「俺も一緒に行かせてくれないか」
「いいわよ」
「フィーこの子を乗せて城まで飛んでくれ」
「わっかりましたーごしゅじんさまー」
「らふー」
おや?
この子私がいた世界にもいたような
まさかあの子異世界から飛ばされてきたとでもいうのか!?
「君の名前はなんていうんだい?」
「私はアンジュ・ビ・エインズよ。気軽にアンジュと呼んで」
「わかったアンジュ」
「君もほうきで飛びっぱなしで股が痛くなってきたところだろう。俺のフィーに乗らないか」
「ちょっちょっちょ///あなた!なんてこと言うのよ!私の股のことなんか気にして!この変態!!!」
「いやっそんなつもりで行ったわけじゃ」
「うるさいバカ!」
そういって私は再び岩の勇者を殺した
そしてすぐに復活の心霊術をかけて生き返らせた
フィーという鳥の表情が鳴いたり驚いたりでいそがしいな
結局私はそのフィーという鳥にまたがることになった
あそこでは強がったが事実拾い物の箒ゆえにクッションがないから股が痛くなってきたのだ
「それじゃーいっくよー」
鳥の羽毛が私と岩の勇者をぶわっと包み込む
「うわ」
「すぐになれるさ」
フィーは空を飛びだした
「こんなデブ鳥が空を飛べるなんて。。。」
「それを言ったら君の箒だって普通は飛ばないんだから」
「あなたは岩だけど攻撃はできないんじゃないの?」
「俺は守ることしかできない。」
「私の心霊術ならあんな敵一瞬よ」
「ははは、そうかもね。でも俺は見たいんだ。あのクズとヴィッチが苦しんで死ぬ姿を」
「あなた、よっぽどあの王に嫌がらせを受けたのね」
「まぁな」
そうこう話しているうちに私たちは城のテラスに着いた
今度は兵士が見回りをしていないところを選んだから面倒な敵はいないようだ
ざっとここまで来るのに10分もかからなかった
このフィーって子結構優秀なんじゃないか
「さて、それじゃああの玉座にふんぞり返っている忌々しい王を殺しに行くわよ」
「おう!!」
と、歩き出そうとした途端、視界がふらつく
あれ...
視界がぼやけだし、次第に暗くなっていく。
意識は今にも飛びそうになる
身体はとっくに地面に横になっている
金縛りにあったように身体が動かない
息苦しい....
私、このまま死ぬのかしら。
ーーーーーーーーーーーそのまま意識がなくなるーーーーーーーーーーーーーー
そしてアンジュは夢から覚める。