私はアンジュ
挫折と失敗続きの悲しい男の人生は終わったが、かつて男だった幼女は記憶をなくし魂だけが引き継がれ新しい人生を歩むのであった。
「ママー」
「なーにアンジュ」
「今日ねお庭に小鳥さんがいたんだよ。それでね、それでね、捕まえようとしたら逃げちゃったの」
「そうなのー、小鳥さんはアンジュとお話がしたかったんだと思うの。だから捕まえようとするんじゃなくて話しかければいいのよ」
「えー!そうなの??」
「そうよ、この世界ではみんなが友達なの。だからみんながみんな等しく平等なのよ」
「うん!わかった!!」
そう言うとアンジュは満面の笑みで母の作ったシチューを啜るのであった
そこにいる少女はどこにでもいるような自由でなんの束縛も受けていない幸せという言葉を擬人化したような子供だった
アンジュが母の作ったお昼ごはんを食べ終わるのを見て母は言う
「ねぇアンジュ、あなたは今年で4歳になるからそろそろ心霊術の修練をしましょうか」
「なーにそれ」
「パパやお姉ちゃんがやっていることよ。あなたも見たことがあると思うわよ」
「えー、わかんない」
「それじゃ今家の前の河原でお姉ちゃんが練習していると思うから見に行きましょうか」
「うん!!」
アンジュは腕をぶんぶん振るわせながら母についていくのだった
「聖なるかな聖なるかなzazasu zazasu nasuzazasu」
どごぉぉぉおおおおおおおおおん
河原の水がすごい勢いで上空に向かって飛びあがった
そしてその水が元の場所にものすごい勢いで落ちていく
ざざざざぁあぁぁぁああああああああああん
辺りはびしょ濡れになった
「こーら、究極礼装は外してから心霊術は使いなさいといつもいってるでしょ!!」
「きゅうきょくれいそう?」
「心霊術の効果を高めてくれるアクセサリーよ」
「へーすごいんだね」
「それよりも服がびしょ濡れになっちゃったんだから風邪をひかないうち二人でお風呂に入ってらっしゃい」
「「はーい」」
そうして私はお姉ちゃんと村の公衆浴場へ向かうのだった
「ねぇねぇお姉ちゃん、私も心霊術っていうの使いたい!!」
「いいわよ~でもね、これを扱えるようになるにはまず基礎練習が必要なの」
「どんなことするの?」
「うんとね、例えばアンジュの目の前には何がある?」
「お風呂屋さん?」
「うん、そうだけどね。空気があるでしょ?もっと言えば魔素があるじゃない?」
「え??」
「空気は今アンジュが吸っているもので、魔素は特別にモーダルチャンネルを開放しないと感知できないものなの」
「ふーん?」
そんなことを話しながら、私とお姉ちゃんは公衆浴場へと入っていった
「あらアリスちゃんとアンジュちゃんじゃない。今日はどうしたの?ずいぶんとびしょ濡れじゃない」
「心霊術でやらかしましてね...叔母様、大人1人と子供1人ね」
「あらそうなの、ほどほどにね」
番頭は苦笑しながら二人に入浴券を渡した
「わぁお姉ちゃんおっぱい大きいーー」
「こーら、あんまりそういうことを大声で言うんじゃない」
「いいなぁー、私も早くお姉ちゃんみたいにおっぱい大きくなりたいー」
「アンジュはまだ4才でしょ、まだ10年早いわよ」
そうアリスは14歳にしてCカップになっていたのだ
「はいはい、早く服を脱いでお風呂に入るわよ」
自宅にお風呂がある家は少なく、尚且つ村に一つだけの温泉ということもあり、ここは昼でもそれなりに人がいる
バチャバチャ
キャッキャ
浴場では村の女の子たちが水浴びを楽しんでいた
「見てなさい、今から心霊術を見せてあげよう」
「わーい」
ゴボゴボゴボ
アリスが何やら意識を集中させると突如温泉のお湯から泡が噴出してくる
ざざざざざぁぁあああん
そこには兎の形をした水のアートが出来上がっていた
「「「えーーー!!すごーーい!!!!」」」
いつの間にか近所の子たちもアリスの心霊術に興味を持ち人の輪が出来上がっていた
「お姉ちゃん、それどうやったの??」
「身体の中にある魔素をベースに水に含まれる僅かな魔素に共鳴を起こしたの」
「んー?」
「あー、まずはそこから説明する必要がありそうね」
「我々人間の祖先は天使だったというのは、ママから聞いたわよね?その時の天使が持っていた魔素が今の私たちの身体にも流れているってわけ。
でも皆がみんなすぐにそれを扱えるわけではないの。ここへ来る途中にも言った通り、魔素を意識して扱えるようにまずは基礎練習をする必要があるのね。
そしてある程度魔素の感覚をつかめたところで初めて心霊術を使えるようになるのよ」
「んー?」
アンジュは分からないような顔をする
それは村の子供たちも同じだった
「あー、この話はまた改まった時にしましょう。ささ、体を洗いにいくわよ」
「うん」
「お姉ちゃん体洗ってー」
「えぇ~っもうしょうがないなぁ」
アリスの顔がほころびを見せる
キャッキャ
「次は私がお姉ちゃんを洗ってあげるー」
「え、ちょっとアンジュ!そこはちがっ...!!」
そんなこんなで二人は浴場を後にしたのだった
公衆浴場の暖簾をくぐろうとしたとき、男たちが急ぎ足でかけていくのが見えた
「あれは、憲兵団!?」
「ねぇねぇどうしたの?」
今ここで荒事に巻き込まれるのこの子のためにも避けるべきね
「んー、なんか村で問題があったみたいね」
「ここは危険だから早く家に帰るわよ」
ドスン!!
ぎゃーーーーーーーーーーー
遠くのほうで憲兵団と思わしき断末魔が聞こえる
これ以上ここに留まるとこの子がトラウマを抱えてしまいかねない
アリスはアンジュの手をしっかり握って家に駆けていくのだった
家が見えてきた矢先
上空に飛竜がいるのに気づく
ギャオオオオオオオォォォォオォォオオオオオン
飛竜は二人をみるや急降下してくる
ック...このままでは妹に危害が加わる
アリスはアンジュを庇うように前に立ち
呪文を唱え始める
「聖なるかな 聖なるかな zazasu zazasu nasuzaasu!!」
突如飛竜、ドラゴンは気を失い二人の真横に落下するのであった
「...お姉ちゃん」
アンジュは怯えていた
「大丈夫よ、お姉ちゃんが悪いドラゴンをやっつけたから」
「でも...」
ぽた...ぽた...
見るとアリスの右手が消えていた
正確に言えば、どういうわけか心霊術を放った後にアリスの右手はまるで業火で焼かれたかのように蒸発していたのだ
「...っ!!なんで」
アリスは気づく、究極礼装無しに究極心霊術を放つと身体への負荷が大きくなり身体が分解されることを。
アリスはアンジュを守ることだけに集中するあまり自分への反動を考えなかった
「どうして...どうして...お姉ちゃん」
アンジュがボロボロと大粒の涙を流す
「とにかく早く家に戻りましょう」
二人は急ぎ足で家に戻るのであった
「アリス!!外で大変なことが...ってその手どうしたの!!!」
母の顔が驚愕に彩られる
「襲ってきたドラゴンを倒すため究極心霊術を使ったの」
「究極礼装なしになんてことを...!!」
「でもアンジュを守るため仕方がなかったの!あそこで私がやらなきゃ二人ともドラゴンの餌食になっていたわ!!」
母は戸惑いを隠せない
「とにかく治療師にすぐに来てもらいます、アリスは安静にしておくように。それからアンジュは...ママのところにいなさい」
「ママ..私...私...」
アンジュはまだ大粒の涙を流していた。いや、事態の大きさに気づき先ほどよりも胸を痛めていた
「アンジュ、あなたは悪くないのよ」
母は幼いアンジュを気遣うようにやさしく語り掛ける
それでもやはり不安の影をぬぐい切れない
それは幼いアンジュでさえも理解できた
「ごめんね...ごめんね...」
しばらくすると治療師が家にやってきた
「奥さん、ただいま参りました。アリスさんはどこにいますか?」
「自分の部屋にいます。先生お願いします」
治療師はアリスの部屋の前までいきノックをして確認する
「アリスさん、私は治療師です。あなたの怪我を直しに来ました」
「...どうぞ」
治療師がドアを開けると、アリスがベッドに寄りかかり暗い顔をしていた
妹の前では気丈に振舞っていたが、本人も不測の事態にやはり困惑していた
「先生、私...どうなるのでしょう」
「アリスさんはこの村一番の心霊術者、必ず治して見せます」
治療師はアリスの生々しく蒸発した腕を診る
「これは上位の呪い...!!アリスさん、究極心霊術を究極礼装無しで使いましたね」
アリスはこれまでの事情を包み隠さず治療師に話す
「なるほど...現代治療学ではどうしもこれを復元することは難しい。画期的な治療学を発明できれば治るでしょうが。今のところ難しいでしょう」
「そうですか...」
何とか冷静を保とうとしているが、アリスの顔は絶望に彩られていた
「とにかく今は応急手当てが先です」
そうしてアリスは治療師に聖水を浸した包帯を腕に巻かれベッドに横になるように勧められた
「奥様、残念ですが私の技量不足でアリスさんの腕は治りそうにありません」
「そんな...」
「可能性に掛けるという意味では、心霊術と治療学の融合が達成できた暁には娘さんの腕を完全に治せるでしょう」
「ちりょうしさん!私がっ..!私がやる!!私がそのしんれいじゅつとちりょうがくの融合を果たして見せる!!」
「そうか...君はアリスさんの妹さんだったね。君ならそれがきっと果たせるよ」
そういって治療師は申し訳なさそうに家を出るのであった。
そして始まる幼女の物語