第5章
深川さんの秘書が殺されて一ヶ月が経とうとしている。大沢さんいわく、なにもわかっていないと・・・あの事件が関係あっても関係なくても早く犯人が捕まってほしいものだ。
「はい。殺しっ!すぐに行きます。」
朝、私の隣で寝ていた大沢さんが飛び起きた
「かすみ、今日は一緒にいれそうにない。約束していたのにごめんな。」
今日は大沢さんの休みの日だった。初めて二人でどこかでゆっくり一日を過ごそうと約束していた。
「お仕事だもの。いってらっしゃい」
なんかとても幸せな気持ちだわ。こんな会話がとても心地いいなんて・・・慌てて服を着ている大沢さんをみて私はそう感じていた。
「じゃぁ、いってくる。できるだけ一人で行動するのはやめてくれよ」
額に軽くKISSをしでていった。
さてと。大沢さんを見送り私は外に出掛ける用意をした。大沢さんは一人で行動するなといっていたがどうしても行きたい場所があった。
「ママ、おばぁちゃん久しぶり。遅くなってゴメンネ。ちょっと大変なことになっていて。」
墓石をみつめながらいう。
「私ね、今回おもいきって日本にきてよかった。おじいちゃんにも会えたし、佐久間さんの子どもにも会えた。」
墓石に持ってきたきたお花を生けながらいう。
「ママは怒るかな?私ね、佐久間さんの子ども・・・大沢かけるさんっていうんだけど・・・」
はっと、後ろに人の気配がしたので後ろを振り返った。
「おばさま・・・それにおじさまも。お久しぶりです。」
花束を持った女性と男性がいた。
「私があのニュースを読んでから10年が経ったのね。」
私の顔を見てニッコリ微笑み、視線を墓石に移しつぶやくように言った。
「リバイタル行けなくてごめんな。」
おじさまはやさしく微笑みかけた。
おばさまは久しぶりにあうのだからと少し時間をくれた。
「いいの。きていてもまともに話せない状態だったもの。」
思わず苦笑いをする。
「すぐに連絡を入れたんだが、ホテルにいないし携帯も電源が切れているし・・・結構探したんだぞ!!」
遠くの方でおばさまが私たちを見守っていた。
「ごめんなさい。もしかしたら狙われているかもって警察のかたが保護してくれているの。」
ゆっくりとおばさまのほうへ足を向ける。
「私は大丈夫よ。心配しないで。」
ニッコリと微笑んだ。
「なにいっているのよ。心配するのが私たちの特権なんだから ねっ、あなた」
私たちが近づいて来たのにきづき、いつの間にかおじさまの横に立っているおばさま。
「それでも、心配させたくないものなんですよ。」
おばさまはママの友達だった。あの日、偶然にもおばさまが担当している時間に事故が起きたのだ。となりにいるのはおばさまの旦那さまだ。ディレクターさんだ。すごい事実をいえば私のパパでもある。
パパと別れたあとに私を身篭っていることを知ったママはシングルマザーとしての道を選んだ。そして私が5才のときにおばさまの婚約者として再会した。おばさまはすべてを知った上でおじさまと結婚し、私を認知してくれた。
おじさまは父親だが、おばさまも私のことを本当の娘の様に接してくれていた。そのことが事故のあとの私の生きていく上での支えでもあった。だからなおのこと心配はかけたくなかったのだ。
「かすみ、いまどこにいるの?」
墓地をでて私たちは近くの喫茶店でお茶をしていた。
「警察が用意してくれたところよ。」
さすがにダマされたとはいえないってあの時から大沢さんは私のこと気にしていてくれたのかしら?でも言い出しっぺは弥生なのよね…・・・
「かすみ?」
私の顔を覗き込むおばさま。
「あっ、ごめんなさい」
気を取り直して私はあの日の話しをした。もちろん大沢さんのとのことは言ってないが・・・
大沢さんのことを考えていて私はふっと時計を見た。もう軽く家をでて二時間がたっていた。事件っぽかったからそう早くは帰ってこないだろうが・・・
「私戻らなきゃ。」
私の言葉にキョトンとするふたり。
「実は黙ってここにきたの」
ふたりには言う前にわかっていたらしくさっさと席を立った。
「ったく。そーゆーところは由貴にそっくりだよ」
勘定をしているおばさまを置いて先に車へ向かう。
「なにかあったらすぐに連絡しなさい。形態の電源は入れなさいよ!!」
おじさまはぽんっと頭を叩いた。
「うん。」
素直に頷く私。
その時、見覚えのある車が猛スピードで近づいてきた。
「やばっ、迎えが来ちゃった。」
近くに車を止め中からひとりの男性が現れた。
「大沢さん・・・怒ってる?」
近づいてきたが黙り込んだまま目の前に立ちはだかっている。
「勝手に行動してごめんなさい。」
私は素直に謝った。
いきなり私は強く抱きしめられた。
この時、私はなんてことをしたのだろう。と心から思った。彼の背中は汗でビショビショだった。
同時に、私はこの人にここまで思われていることがわかり嬉しかった。
「かすみ。私たちは帰るわね。いつでも連絡くれていいから。」
おばさまがそういい、ふたりは去って行った。
「大沢さん。なにかあったんですか?」
いつもまわりに気を配る人が今日は違う様子。
「バス会社の重役が殺された。」
ぼそっといわれた。が、私には意味がわからなかった。しばらく考えた。
「もしかしてあの事故に関係ある人なの?」
抱きしめられたままだったのでゆっくり離れた。
「大沢さん、勝手にゴメンなさい。さぁ、家に戻りましょう。」
その言葉で大沢さんは元に戻った。
「オレこそごめん。殺された総理の秘書も関係者だって聞いて急いで戻ったら君がいなくて・・・」
恥ずかしそうに笑う。
「悪いのは私だわ。心配してくれてありがとう」
家に戻り、大沢さんは今日の事件について話しをした。
「殺されたのは江口公平。さっきもいった通り重役だ。当時は主任で運転手や整備士の直属の上司だった。ただ、こいつは調べてみるとなかなか悪いやつでいろんな人から恨みを買っているようだ。」
直接関係ないかもしれないってワケか・・・
「秘書の方は?」
私はふと思いだしいった。
「当時は江口の部下だったらしい。ただの部下でなく部長の愛人だったらしいぞ。」
即席で作った料理を頬張りながら言う。
「二人だけでは判断し難いけど、深川さんのところに来た手紙と結び付けるしか考えられないわ。」
きっと探せばふたりにしか共通しないものもあるかもしれないけど今は事故のことしか頭になかった。
「もう昼だから外でゆっくりはできないけど家でゆっくり過ごそう」
そっと私に手を指しのベてくれる。
私はこのままこの人に甘えてしまってよいのだろうか。一瞬そんな考えが頭をよぎったが彼の優しい眼差しをみたらふっとんでしまった。
「使った食器洗わなきゃ」
素直になりきれずやっとの思いで抵抗した一言。
「明日で大丈夫だ。いまからとびっきりのデザートをいただくのでね」
私を軽々しく抱き抱えベッドルームへ向かった。
ゆっくり私をおろし優しくKISSを・・・
大沢さんは上に着ていたシャツを脱ぎ私のブラウスに手をかけた。
と、同時に携帯が鳴りだした。
しかし舌打ちはしたもののおかまいなしの大沢さん。
「緊急かも・・・」
呟くように言う。
ピーンポーン
「・・・私、玄関に行くから携帯にでてね」
急いでブラウスを直し行こうとしたら
「あとで時間かけて食ってやるからな」
と叫んだ
大沢さんが電話をとったのを確認し私は玄関へ向かった。
「こんにちは」
ドアを開けると携帯を片手に弥生が立っていた。
「あがって。ってゆーのも変よね・・・」
私はいきなり言葉を失った。
「弥生てめぇー玄関前から電話するな」
奥から上半身裸の大沢さんが現れた。
「そーゆーことにならないように警告のつもりだったんだけど・・・」
大沢さんをみてはぁ~と呆れる弥生。
「おばさまどうして・・・」
私はとゆーとふたりを無視して弥生の後ろにいる女性をみてやっとのことで声を出せた。
「兄さんに会いに署にいったらかすみさんの居場所を知りたいって掛け合っていたからつれてきたの。身内みたいだし」
奥に服を着に戻ったので弥生が説明しだした。
「今回は知り合いだったからいいものの。まずオレに相談しろ」
弥生にいいはなつ。
「いきなりどーしたんですか?さっきお会いしたばかりなのに。」
兄妹のやりとりをクスクス笑いながらいった。
「かすみ、あなた一体なんの為に日本に戻ってきたの?」
唐突な質問だった。しかしおばさまの目は本気だった。
「弥生・・・」
大沢さんが帰れといわんばかりに見つめる。
弥生はただ「わかったわ。」と席を立ち帰って行った。
「ごめんね。弥生。」
私の言葉に首を横に振った。
「かすみ、彼は?」
ちょっと困った様子のおばさまに
「大沢かけるさん。事件の指揮官よ。彼には・・・知る権利があるわ。」
私には、まだ彼に言っていないことがまだあった。それは彼もわかっていたらしく特別反応もなかった。
「本当は、リバイタル・・・母や佐久間さんの為だけではなく、復讐の為に開いたの。」
大沢さんの眉が一瞬動いたのは見過ごさなかったが私は続けた。
「去年、ファンレターの中にあの事故のことを調べている人から手紙が来たの。あの事故は整備士の点検ミスではなかったと」
あの事故は当時、整備士の点検ミスでブレーキオイルが薄められていたことに気付かなかったこと。なにより薄めて経費を浮かせ使い込んでいたこと。世間では報道されていた。結局、整備士は自殺を計り事故の原因は迷宮入りになっていた。
「たしかにこの業界でもそんな噂はあったわ。でも噂は噂よ!」
おばさまは呟く。
大沢さんはなにもいわず私たちの会話を聞いていた。
「それでも・・・もし、そのことが真実でこの10年間、犯人はゆうゆうと暮らしているなんて許せない。」
ぎゅっと唇をかんで涙を堪えた。
「もし他に犯人がいたとして、由貴はあなたが本当の犯人を怨んで喜ぶと思っているの?」
そっと手をのばし頬に手を当てた。
「わかっているわ。いまは復讐なんて考えてない。ただ真実が知りたいの。」
なにも言わない大沢さんにビクビクしながら黙り込む。
沈黙の中、いきなり携帯が鳴り出した。
大沢さんの携帯だった。気をきかせてなのか一言「失礼」といって自分の部屋へと入って行った。
バタンッ・・・私にはドアの閉まる音が拒絶に聞こえてしまう。さっきまで堪えていた涙が溢れ出した。
「彼のこと愛しているのね。」
私の反応を見ておばさまがいった。
私は頷きこう続けた。
「ママや佐久間さんがいなくなってから初めて安心できる人なの。彼、佐久間さんの息子さんなのよ。出会いは偶然だったけど。」
いままで堪えていたせいか涙が溢れて止まらない・・・
「幻滅されちゃったかな・・・」
グスッと鼻をすする
「大丈夫よ。私の勘では彼もきっと・・・自分に自信を持ちなさい。私は帰るから。ちゃんと彼と話しなさいよ!」
優しく頭をなでて帰って行った。
しばらくして部屋から大沢さんがでてきた。
「帰ったのか?」
テーブルを片付けているのに気付き言った。
「えぇ・・・」
私は気まずく再度黙り込んでしまう
「・・・ちょっと出てくる」
上着を手に持っていたので予想はできた。
「大沢さん‥あの・・・」
しゅんとしている私の頭をくしゃくしゃとし、
「んな顔するなよ。いいか戻ってくるまではここにいろよ。」
戻ってくるまでは?そのあとは?せっかく止まっていた涙が込み上げてきた。
「あっ、かすみさっきのデザートあとにとっとくからな!!」
大沢さんの言葉につい吹き出してしまった。
次回更新予定11/18(月)