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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

勘違いの結末は

作者: あやぺこ

「リリア・レイワーズさんちょっといいかしら?」


学園の中庭で友人達とお喋りをしているといきなりそんな声がかかった


驚きつつも振り向くと、美しい銀髪を風になびかせたこの学園で最高位のお嬢様

エリーゼ・マクラミン侯爵令嬢がそこに立っている

ついでにその後ろには彼女の兄の次期侯爵様と王子殿下の近衛騎士の方がエリーゼ様を守るようにぴったりとくっついていた


「ごきげんようマクラミン様、どのようなご用件でしょうか?」


貧乏伯爵令嬢の私にどんな用事か分からないが、ろくな用事じゃない気がする



「今朝、貴方と殿下が抱きしめ合っているところを見ましたわ・・・お二人がそんな関係だったなんて私知りませんでした」


「え?」


「愛し合う二人にとったら私は悪役、でも安心して?婚約破棄もするし邪魔するつもりなんてないから」


「え?」


突然告げられた訳の分からない話に混乱している中、エリーゼ様が芝居かかった口調で語り出したと思ったら

両手で顔を覆いその場にうずくまってしまわれた


「エリーゼ!大丈夫かい?お前の気持ちを蔑ろにする殿下のためになんて優しい!」


「バラのような貴方にそのような泣き顔は似合いません、さぁ涙をふいてください」


「お兄様っグランツ様っ」


えーっと・・・なんだこの茶番

目の前で始まった寸劇まがいに唖然としていると彼女の兄と騎士様がこちらを睨み付けてきた


「リリア・レイワーズ!顔は美しくてもその心は醜いな」


「俺たちのお姫様を泣かすとは許せない」


えええ!勝手にお芝居始めてテンション上げて勝手に泣き始めただけで私何もやっていないんですが?


「あの、私と王子殿下が抱きしめ合っていたのは・・・」


「エリーゼが見たと言っているんだ!この期に及んで誤魔化す気か!」


「心根から腐っているようだな!」


本当にうるさい二人だな!外野は引っ込んでろよ

令嬢にあるまじき言葉遣いで心の中で罵倒するが、心の中だけの暴言くらい許されるはずだ


「だって、今朝バラ園でうっ」


未だにうずくまりながら涙声で喋り始めたエリーゼ様

バラ園?今日はそんな所に行ってないんだけど



「エリーゼ無理に思い出さなくてもいい、もういこう」


そう言うとマクラミン様がエリーゼ様をお姫様抱っこで抱え

唖然とする私と友人達を睨み付けて颯爽と去って行った


「えっ何だったのかしら今の」


「大丈夫リリアさん?」


「えっええ、でも私殿下とお会いしたこともないのだけれどどういうことなのかしら?」


「わかりませんわ、今朝といえばリリアさんと私は早朝から図書委員で図書室におりましたし」


「ならエリーゼ様の見間違いかしら?・・・あの殿下ですし」


ひっそりと声を落としてそう呟いた男爵令嬢の言葉に、私も含め全員が首を縦に振った

そう、あの王子殿下なのだ。


我が国クランベル王国の第一王子のキース・クランベルト様の交友関係が乱れているのはわりと有名である

聞いた噂によると城のメイドはほとんどお手つきで、人妻や令嬢達となにかしら夜会の度に熱い夜を過ごしているらしい

しかも黙らすことのできる身分の低い方々を選んでいるとも聞く

最近聞いたのはお忍びで城下へと繰り出しそこでも遊んでいらっしゃるとのことだ


「・・・この学園でわざわざ殿下に近づく方って2,3人しかおりませんわよね?」


「ええ、ダノン男爵令嬢とローマイヤ伯爵令嬢は今の殿下のお気に入りなのか良くお声かけされてますわ」


「あっそういえば最近新たな噂がありましたわ」


「新しい噂?」


「ええ、美しいストロベリーブロンドの髪をした女生徒と殿下が愛を語らっていたとかなんとか」


すっとみんなの目線が私に集まる、正しくは私の髪に


「ちっ違いますわよ!」


私の髪はたしかにストロベリーブロンドではあるし、わりと珍しい髪色だが殿下と愛を語らうなどしたこともない


「わかっていますわ、それに珍しいとはいえ同じ髪色の方は他にもいらっしゃいますし」


他の友人達もわかってくれているようでほっとする

王妃なんか目指したくもないし、あの王子殿下が相手とか不敬ではあるけどお断りだ


「エリーゼ様はきっと数々の噂に心を痛めて、ついに耐えきれなくなったのかもしれませんわね」


「おいたわしい・・・王家との婚約となるとエリーゼ様からは破棄なんかできませんしね」


「あれだけ不貞を犯しているのにもかかわらず婚約が白紙にされないのは同じ女性としてお可哀想だわ」


先ほどの寸劇には驚いたが、基本的にエリーゼ様は品行方正、成績優秀、眉目秀麗とまさに淑女の鑑とされてる方で

あれだけ不誠実な殿下にいつもそっと寄り添っていらっしゃる姿は素晴らしいと評判だ


きっと何かの勘違いで心を乱されているだけだろうし、これからも殿下とは関わるつもりはないので誤解はすぐに解けるだろう

こっちは絶賛未来の旦那様捜し中の令嬢なので変な噂が流れる前に解決しますように




なんて思っていたときもありました。


あの寸劇から1ヶ月、やれ放課後の教室で密会していただの、やれ城下町でお忍びデートをしていただのと

した覚えもない逢瀬を幾度となくエリーゼ様といつもの兄君と騎士に糾弾され続けた


幸いな事にエリーゼ様が見た聞いたとおっしゃる逢瀬の時間に私は他者と会っていたりと

殿下と一緒にいることができないのを証明できているため友人や学園の方々にはだいたい信じていただけたが

エリーゼ様とお二人にはなぜか友人達と共謀して隠蔽していると思われている

中には教師の目撃証言があってもだ。解せぬ


「リリアさん!そのドレスっ」


「エリーゼ様ご機嫌よう、このドレスがいかがいたしましたか?」


そうして今日、学園の創立記念日の夜会が行なわれているのだが、エリーゼ様に見つからないようにとこそこそ会場入りした私を目ざとく見つけ

いつものように悲痛な声を上げドレスを指さししてきた


まさかこのドレスを殿下からプレゼントされたものだなんて言ってこないよね?


「以前殿下がお忍びでマダム・ロクシーヌへお出かけなさったときに手に取っていらっしゃったドレスですわ」


「たったしかにこれはマダム・ロクシーヌであつらえたドレスですが殿下に贈られた物ではありませんわ」


「ふん、レイワーズ家がマダム・ロクシーヌのドレスを買えるとは思えないがな」


我が家は伯爵家といえども貧乏だからたしかにマダム・ロクシーヌのオートクチュールなんて滅多に手が出せないのは真実だが、これは殿下に贈られた物ではない

勘違いで毎度毎度、寝取る女のように言われるのはまだ許せたが、家族を貶されるのは許せない


「何をしている」


文句の一つでも言ってやろうと口を開きかけた時、割り込む形で殿下の声が聞こえた

さっと頭を下げて、殿下の言葉を待つ


「エリーゼなんの騒ぎだ、ロイとグランツも揃って」


「殿下!ちょうど良いですわ!はっきりいたしましょう!」


「はっきり?なんのことだ・・・あぁ皆の者くつろいでくれ」


またもや芝居かかった口調で語り出したエリーゼ様と困惑気味の殿下

頭を上げて良いと許可が出たので顔を上げて二人を見守る


「もう隠さなくて結構です。殿下には心に決めた方がいらっしゃるのでしょう?」


「なにを」


「わかっております!私との婚約がきっと邪魔なのでしょう!?私は潔く身を引きますわ!」


「落ち着くんだエリーゼ」


「私は落ち着いておりますわ!殿下がストロベリーブロンドの髪の方と結ばれる運命だということもわかっております」


「っそれは」


「身分なども関係なく真実の愛に目覚められたのでしょう?私は殿下を愛しております、だからこそ殿下には本当に愛した方と幸せになっていただきたいのです」


「だが父上も許しはしない!」


「いえ、王様には私から殿下には本当に愛する方がいるとお伝えして今回の婚約破棄と新たな婚約者については了承いただいておりますわっ」


そう言ってエリーゼ様は兄君に抱きしめられ泣き出してしまった

これがまともな王子と婚約者の話なら、愛する人のために身を引いた感動のお話なのだが

最近の私への再三の言いがかりですっかり評判を落としているエリーゼ様のせいでまた勘違いなのではという雰囲気が流れている

そんな中、愛の劇場のもう一人の主役である殿下へと自然と目線が集まる


「エリーゼ・・・本当か?」


驚いた表情でそう聞く殿下にエリーゼ様はこくりと首を縦に振られた


「そうか・・・なら俺も正直になろう」


殿下は決意を決めたのか、まっすぐにこちらを見てきた

え?私?


「この先ずっとこの気持ちは隠し続けなければと、この学園の中だけの思い出をと行動していたのがバレていたのは驚いたが」


殿下は話しながらコツコツとこちらに近づいてくる

えっ本当に私?思い出って何?知らない

助けてと友人を見るも、友人も驚いて固まっている

駄目だこれは


「許しが出たんだもう、我慢しない・・・」


コツリと私の目の前で殿下の足が止まった


会場の緊張感がピークに達しているのを肌で感じる

許されることなら今すぐ逃げ出したい


「アルタイル・ドナウ!王の許しも出た!俺と一緒に生涯を歩んでくれ!」


私の目の前まで来た殿下はそこで見事な方向転換を決め、自分の横側の群衆にいた男性に手を差し伸べながら高らかにプロポーズをした

そう男性に


「えっ!?」


まっすぐストロベリーブロンドの髪の令嬢に近づいて、それがエリーゼ様に再三つきまとわれていた私だったので、やっぱりお相手はリリア・レイワーズなのだと皆が思ったはずだ

そんな意外すぎる結末に会場中が絶句している中

兄君の腕の中で泣いていたエリーゼ様だけが驚きの声をあげた

私だって驚きで叫びたいが人は驚きすぎると声が出なくなるのか、皆静かに殿下と男性を見守る


「アル、これで俺が贈ったドレスは着てくれるか?」


「でっ殿下!俺には無理です」


「もう偽らなくてもいい、王も許可された」


「ですがお世継ぎも俺では産めません」


「子供のことは後で父上達と相談しながら決めれば良い」


「殿下・・・」


「さあ着替えにいこう」


そっとまるで宝物を扱うかのように優しく男性をエスコートして会場の外へと消えていった

殿下と男性がいなくなった会場はそれはそれはざわめきがすごかった

あれだけ浮名を流していた殿下が真実の愛を告げたのは男性というのは驚きしかない


「どういうこと?!なんで!?」


が一番驚いていたのはこの真実の愛を後押ししたエリーゼ様だったみたいで

おかしいだとか分岐を間違えただとか悪役ヒロインはリリアでしょだとかぶつぶつ言っているのが聞こえてきた

悪役ヒロインってなんだ


近くにいてはまた言いがかりをつけられてはたまらないのでそっと距離を取る

無事友人達に紛れると、友人達がお疲れ様と慰めてくれた


よくわからないけれどとりあえず私が不貞相手だという疑いは完全に晴れたであろうということで

未来の旦那様を探すためにがんばりましょうか

そう意気込んでいると、入り口の扉が再度開き、殿下にエスコートされてアルタイル様がご入場された

アルタイル様はカツラをつけたのかロングをまとめた髪型になっていて、私が着ているドレスと同色のよく似たデザインのものをお召しになっていた


「あれじゃあエリーゼ様があなたと間違うのは仕方ないかもしれないわね」


二人を眺めながらそう言った友人にがっくりとうなだれる

アルタイル様は女装なのに違和感ないくらい線も細く、美人だけれども男性と見間違われるのはなんだか空しい


やさぐれた私の心とは裏腹に、二人が戻ってきたことで一応再開された夜会はその後は特に大きなトラブルは無く穏やかに閉会の時間を迎えた






***


さて、創立記念日から1年

私はどこにいるでしょう


「リリアちゃん!次はこのドレスなんてどう?」


「うん、アル達の髪色に良く合ってると思う」


「もう殿下には聞いてません!どうリリアちゃん」


「いいと思います」


答えは王城


あれから一悶着も二悶着もあったが、殿下とアルタイル様の関係は認められた

国教の教えにも禁止の文面もなく、ただ子供だけが気がかりだったが

側室を娶るということで落ち着いた

が、そこでなぜか白羽の矢が立ったのが私


貧乏だけれども伯爵家で、歴史があり王家にぎりぎり嫁げる血筋であること

かつ髪色がアルタイル様と同じストロベリーブロンドで、年齢も同じ

ということであれよあれよと拒否権など無く側室として召し上げられた


アルタイル様は喋ってみるとすごく良い方で、巻き込んで申し訳ないと謝ってくれた

一応殿下もその気持ちはあるのか申し訳なさそうにしていたが、婚約者も決まっていなかったし

側妃になることで実家にも多額のお金が入ったので、まぁよしとした

ちなみにアルタイル様は元々線が細い方だったのと、特別な魔法医療で女性らしくなれるようにしているらしく今はきりっとした女性にしか見えない

私と並ぶとまるで姉妹だ


そういえば散々そのアルタイル様を私だと思い込んで絡んできたエリーゼ様だが

アルタイル様の件で不安定になっていらっしゃたところに、追い打ちで私に決まったと発表があった時に、こんなの可笑しい!私が王妃になるはずだったのよ!と

取り乱され、場所が王家主催のお茶会だったこともあり

父親のマクラミン侯爵が療養という名目で領地に閉じ込めたらしいと聞いた

きっと領地でもあの兄君と仲良くやっているはずだ


あと一緒にエリーゼ様を守ってらっしゃったグランツ様はずっとエリーゼ様へ求婚しているが、近衛騎士をいろいろあって辞職することになったので侯爵が認めないらしい

それでも領地へ着いていって足繁く通っていると噂だ



「あらもうこんな時間、お勉強しに行きましょうか」


「俺も執務に戻るよ、リリア行こう」


貧乏伯爵令嬢の私と元?男性のアルタイル様は絶賛厳しい王妃教育まっただ中だ

正直逃げ出したいが、なんだかんだこの二人といるのが楽しくなってきたし、女たらしだと思っていた殿下が実はそうではないと知ったり

殿下が思いのほか大事にしてくれているのは伝わってくるのでまぁこれもありよねと最近は思っている


とりあえず婚姻のためにも王妃教育がんばりますかと

差し伸べられた二人の手を取った

悪役令嬢ゲーのヒロイン視点

悪役令嬢が主人公なゲームなので、

ゲームでは王子に言い寄るヒロインと愛する人のためと身を引く悪役令嬢で王子は最後の最後に悪役令嬢こそ運命の人だと気づき、王妃になってハッピーエンドなんですが

よくあるゲームの世界じゃなかったってことですね

盲目的にゲームの世界だと思い込みビジュアルだけでヒロインを断定、王子と関係があると信じ込んじゃって破滅しちゃったって訳です。


最後はふわっとした終わり方ですが、オネエの正妃と意外と逞しい側妃ヒロインと実はわりとまともな王子の話もまた書けたらなって思ってます。


ありがとうございました

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― 新着の感想 ―
[良い点] 面白かった。読む前にBLのタグが見えてしまったので,オチが読めてしまったのが残念でならない... [一言] >実はわりとまともな王子 王政国家で血筋を残そうとしない王子がまともなワケが無い…
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