第一四話 対面
ドアを開けるとすぐに、この空間の中心付近に仁王立ちしているアニタの姿が目に止まった。少しの間、足がすくんでいたけれど、意を決して歩み出す。
「――出てきました。今、地球に残っている――唯一の、人間の男です」
僕の声はか細く、震えてもいたと思うけれど、アニタはすぐにこちらに気づいた。
「何だァ――唯一?」
あからさまに不審げな表情を浮かべつつ、僕の方に向き直る。その鋭い目で射られると、いよいよ恐怖が僕の全身を粟立たせた。
「はい、地球人類は核戦争で滅亡し――僕だけが、地下深くで冷凍冬眠に入っていたために難を逃れました。半年ほど前に目覚めたばかりです」
過不足なく身の上を話して聞かせると、アニタは長い爪で器用にポリポリと頭を掻いた。
「――隠し事をすると、ためにならねェぞ?」
「そんなつもりはありません。すべて、本当のことです」
この状況下でもできる限り堂々とした口調を心がけつつ、合間に深く息を吸っては頭がくらくらするのを感じる。頑張れ、頑張れ、平常心だ――心の中で自分をそうやって鼓舞しながら、僕はアニタから二mほどのところまで歩を進めた。
「まあいい。それじゃ――一緒に、来てもらうぜ」
こう言われて、もちろん今後への不安は募ったけれど、一方で安堵もした。やはりアニタは、男性以外に関心がない。つまり、リオナとフィオナが危険にさらされる可能性は、とりあえず排除されたと考えていいだろう。
「わかりました。どこへ――」
「まどろっこしい。黙って連れていかれろ」
そう言って瞬く間に距離を詰めると、アニタはほとんど変わらない体格の僕を軽々と抱え上げた。
「――行くぜ」
僕が返答を返すより早く、アニタは地上への階段に向かって駆け出した。