第一三話 決意
「――僕が、一人で会おうと思う」
そう告げた瞬間、すでに青ざめていたリオナたちの顔がさらに蒼白になったのがわかった。
「……そ……そんなこと、させられないよ!」
まったくもって予想通りの反応ではあったけれど、それなら、と引き下がるわけにはいかない。それに、僕にはわずかながら、全員が生き残る公算があった。
「思い出してみてほしい。彼女はここに向かう直前に、こんなことを言っていただろう――迎えに行くぜ、王子様、って」
僕自身もこうして窮地に追いやられるまではすっかり忘れていたことだったけれど、二人の反応を見ても、言われてみれば、という程度の話のようだった。
「つまり――彼女は、男性である僕だけが目当てなのかもしれない。そしてそれは、何らかの恨みがあって復讐したいとかそういう話ではなくて、もっと前向きな何かがある――そういうことかもしれない」
もちろん、そうではない可能性もいくらでも考えられるところではあるけれど、ネガティブな方向に考えて上向くことなど一つもない。それよりは、いくばくも残されていないであろう時間の中で、できる限りの策を考えるべきだ。
「とにかく、僕が彼女と向き合うことで、二人を危険な目に遭わせることだけは避けられるかもしれない。僕はどうなるか、何とも予測が付きかねるけど――恐らく、すぐに命まで取られることはないんじゃないかと思う」
『――俺も同感だ』
僕たちの会話を黙って聞いていた父さんが、通信機越しに同意する。すでに映像は切られていたけれど、気休めでそう言っているわけではないことは伝わってきた。
そうして半数の意見が実行に傾いたものの、相変わらず納得してくれそうにないイスルギ姉妹に向き合いながら、僕はおもむろにポケットから豆粒ほどの金属塊を取り出した。
「大丈夫。秘策もある」
「え、それ何――」
「しっ」
口元に指を立てて、疑問を呈しようとしたリオナをそっと制する。父さんとの通信が傍受されている可能性を考慮すると、作戦の詳細を口頭でつまびらかにするのは得策ではないだろう。
「後で父さんに、僕がこうしていたと伝えて」
そう告げると、僕は手のひらに載せたそれを勢いよく飲み込んだ。
それから二十分ほどして、家の外から大きな声が聞こえてきた。
「男はいるか!?いたらすぐに出てこい、全員だ」
声の主が誰かは確認するまでもないだろう。全員も何も、と思って苦笑を浮かべつつ、僕は椅子から腰を浮かせた。
「――本当に――行ってしまいますの?」
震える声で言うフィオナに黙って首肯を返すと、僕はそのままリビングを通り抜け、玄関へと足を向けた。
「大丈夫。きっと大丈夫だから」
姉妹に対してだけでなく、自分自身にもそう言い聞かせながら。