第一一話 露見
ようやくうとうととしかけたと思ったところで、部屋の外から呼ぶ声に目を覚ますことになった。
「エイジ、起きて。エイジ」
リオナの声色はさほど慌てた風ではなかったけれど、早朝と呼ぶにも早すぎる時間に起こされるのだからそれなりに緊急の用事があるのだろう。僕は、ふう、と一息深めの呼吸をして、ベッドから降りた。
「おはよう。どうしたの?」
まだ少し重いまぶたをできるだけ持ち上げつつ、ドアを開ける。廊下には金属的な質感の球体を抱えたリオナと、そのすぐ後ろにはフィオナの姿もあった。
「戻ってきたんだ。あの――ハルカがあの場所に持って行ってた、偵察機が。リビングに行ったら、転がってて」
言われて再び目を落としてみると、なるほどその球体の表面にはカメラがあり、小さなブースターが何個か据え付けられているのが見えた。文字通り野を越え山を越えてきたからか薄汚れてはいたものの、手をかざすとスムーズに音と光で反応するあたり、機能に大きな問題は生じていないようだ。
「――ごめんね、ボクたちじゃ何をどう触っていいか、見当もつかなくて」
別にいいよ、と手振りで返しつつ、差し出された球体を受け取る。両手のひらをサイドに当てて、一般的な起動コマンドを唱えると、すぐに認証が完了して、廊下の壁に記録映像が投影され始めた。
最初のシーンは、ハルカがアニタを出迎えるところ。次いで攻撃、そして戦闘――いくらか時間が経ったうえで見返すと、どれもあっという間の出来事だった。
そして、すさまじいスピードで走り去るアニタ――その背を追うことを早々に断念した偵察機は、方向を転換して、主のいなくなった宇宙船へと接近していた。
アニタが降りてくるのに使っていたラダーに沿って、カメラの視点が上昇していく。すぐに出入り口に到達すると、かすかな光の漏れる船内へと進入していく。非常灯のようにおぼろげな高原しかなかったものの、船内の通路の輪郭は十分に見て取ることができた。
ややあって、偵察機は開けた空間に到達した。暗くてよく見えないな、と思った矢先、ぱっと明かりが点いて、内部の様子が照らし出される――と同時に、画面に見入っていたボクたちは、一様に息を呑んだ。
横にした円筒形に近い形状の室内には、大きな――というのは部屋の床面から天井までに至っているからで、実際のサイズ感はもう一つつかめなかったけれど――縦長の水槽らしきものが、両側の壁に沿って数十個、所狭しと並んでいた。その多くは何か赤黒い液体で満たされていたけれど、やがてカメラは別のものが納められた水槽にフォーカスしていった。
他より多少澄んだ液体の中には、人間の手足がぷかぷかと浮かんでいるのが見えた。
「……いやーっ!」
少女二人の悲鳴が廊下にこだまする。僕は声こそ上げなかったものの、胃のあたりからこみ上げてきそうになるものを押さえ込むのに苦心していた。
「……何……何……どうなってるの、あれ……?」
半ば呆けたような調子でリオナが問う。僕は少し考えて、やがてアニタの話していたことに思い至った。
「冷凍冬眠システム――たぶん、何か問題があって、入った人たちは生き延びられなかったんだ。ただ一人、彼女を除いて」
推論としては妥当な線だという自負があったけれど、リオナとフィオナは仲良く首をかしげていた。まあ、この技術については、これだけ長いスパンで成功した実例が今のところ僕しかいないわけで、これほど大々的に行われていた、それも地球の外で――と言われると、確かに実感しにくい話ではある。
ともあれ、カメラはその証拠となる、胸の悪くなるような映像を順々に映し出すと、ゆっくりフェードアウトしていった。
「――あっ、そうだ、お父さんにも、知らせないと」
我に返ったように背筋を伸ばして、リオナが言う。僕はかぶりを振ると、当面の役目を終えた偵察機を拾い上げた。
「それは大丈夫。ここまで来る道は、一つしかないだろう?恐らく、通りかかったときにデータリンクで自動受信してるはずだから」
そう話して聞かせつつも、一応は僕たちがこの報告を受け取った旨を知らせるべく、リビングに足を向ける。無線機を取り上げると、僕は父さんの応答を待った。
『――どうした?』
「あ、父さん。その――偵察機の件だけど――」
父さんが、ああ、と小さな声を漏らしたのを、スピーカーがかろうじてキャッチした。
『――冷凍冬眠、だろうな』
「やっぱり、そう思う?」
『他に説明がつかんだろう』
手短なやりとりを終えると、
『詳しいことは、また後だ――油断は大敵だからな』
と告げて、父さんは一方的に通話を終了させた。
「――結局、何がどうなったのか、よくわからないけど」
困り顔でリオナがつぶやく。
「まあ、僕としても、何がはっきりしたということでもないかなあ――」
考えてみたところで、答えに近づけそうな感じはしない。まして今は、移動の疲れと寝不足のダブルパンチにやられている真っ最中だ。
「とりあえず、休もうか」
僕の提案を無言で首肯すると、疲れた顔の姉妹は寝室へと姿を消した。




