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おかえり人類  作者: 志野 友一
第一章 復活
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第二話 地上へ

「僭越きわまりない物言いになることを承知で申し上げますと、私の勘はよく当たるのです。それこそ、人類はかつて誰も同等の力を手にしたことはなかった、そう確信できるレベルで」

 距離感のつかみにくい、真っ白で長い廊下をつかつかと歩きながら、ヒューマノイドの少女は弁明を続ける。

「――まあ、七万年も生きてれば、そういうことにもなるのかねえ」

 状況がよく飲み込めないなりに話を合わせる努力をしつつ、僕はまだ少し感覚の戻りきっていない脚を動かす。

「かつてこの世界を掌握した、人類の叡智――その遺産は、まだそこかしこに眠っています。その中には、この状況を打ち破るための鍵が眠っているかもしれない。そう期待する根拠は、十分にあると考えます――何も、夢物語のような話ではなく」

 感情の乏しい横顔に、ほんの少し、むっとしたような気配が宿っていた。


「とりあえず、外に出てみることにしましょう」

 僕が寝台から再び身体を起こすのを待って、少女はそう提案した。曰く、僕が眠っていた七万年の大部分を過ごしたというあの部屋は、地下数kmの位置に作られており、地上に比べて酸素が薄く湿度も低すぎるなど、お世辞にも快適な環境とは言えない。何より、日光が届かないのが致命的だという。カプセルの中で仮死状態にあったうちは良くても、活動を始めれば必要な栄養も不足するし、何より気分が滅入ってしまう。何日か留まったぐらいで体調に異変を来すことはないとしても、早めに出ておくに越したことはない――というのが、起きて早々の僕を外へと駆り立てる、彼女の言い分だった。


 廊下の突き当たりにあったエレベーターに乗り込むと、僕たちはほとんど射出されたと言っていいような速度で地表へ到達した。かつて僕が暮らした世界では、いたるところに存在した――すでに一つも残っていない、とは、少女型インターフェースの弁だが――高層ビルのエレベーターと比べても、その速度は図抜けているように感じられた。それでいて、気圧の差が耳の奥にもたらすはずの妙な不快感はまったくと言っていいほどなく、揺れや衝撃も皆無だった。ただ、最高速度に達するまでの数秒と、減速を始めた瞬間とに、そういえば身体にGを感じたかなあ――強いて言うなら、そう感じた程度だった。

 ともあれ、僕たちはものの数分の間に、砂漠の只中に設えられた小型のドームまで運ばれてきたようだった。エレベーターの降り口と外界を隔てる、直径一五mばかりの半球は、ぱっと見ただけでは完全に透明で、塊から削り出したかのような一体感を見せている。それでもよくよく目を凝らすと、ちょうど真正面に、ごくささやかなスリットで描かれた長方形を見出すことができた。

「あちらから、外に出られます」

 果たして、ヒューマノイド・インターフェースは僕の視線の先にあるドアらしきものを指さすと、こちらを一瞥だにすることなくそこへと歩を進めだした。

「いや、外……って、言われても、ねえ……」

 ぐるりと見回してみても、ドームの外には青空と砂の地面以外、何一つ見当たらない。

「――砂漠しか目に入らないことに、不安を覚えておいでのようですね」

 僕の心情を見事に言い当てて――と言っても、今回に関してはさして予測が難しかったわけではないようにも思えるけれど――、こちらを振り返った少女は、何となく不敵な笑みを浮かべるかのような口の動かし方をしてみせる。

「そのことでしたら、何もご心配なく」

 その声に応えるかのように、ドアのある方角に砂煙が立ち始める。その発生源はすさまじいスピードでこちらに近づき――僕が何度か瞬きをする間に、黒光りする箱状の機械が姿を現し、そしてドームの目の前で制止していた。

「あちらにお乗りいただければ、十分とかからずに移動できます――あなたが生活するうえで不可欠なものが、一通り揃っている場所へ」

 相変わらず要領を得ない説明ではあったけれど、まあこうして砂ばかり眺めているよりは、少しでも動いた方がましなのは自明なことだろう。僕は甘んじて、小さな手の指し示す方向へと一歩を踏み出した。


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