第4講 小説文の解法
小説文の解法
● 小説文の要約は満点が取りづらい
● 小説文は高度な頭の体操! 語彙を柔軟に使おう
● 設問への解答は、複合技!
● 小説文の要約は満点が取りづらい
正直、小説文の要約で満点は取りづらいです。
すごく、取りづらいんです! 特に、評論文が得意な人ほど。
なぜでしょうか?
それは、重要語句の抜粋で解答欄を埋めると、減点されてしまうからなんです。
どういうことか。
次の例文を平易な文章で書き直すことを、考えてください。
> 「むぅー。」
> 結菜は唇を突き出して、可愛く抗議した。
どうですか?
この例文を「結菜は控えめに抗議した。」なんて書き換えていないですか?
それだと、減点するしかないんです。
なぜなら小説において、大きく意味の取り違いが起こらないと考えられる限り、厳密には不適切な表現も許される場合があるからです。
上の書き換えでは、「抗議した」の部分が致命的に間違っています。「抗議」には、相手を批難する意味合いが含まれますが、例文では――1人称か3人称か判然としませんが――少なくとも批難をしている場面でないことは一目瞭然です。発言から、不満そうだと認識できますが、結菜が唇を突き出す仕種は可愛い以上の意味を持ちません。
なので、「結菜は不満を顕わにした。」などとするのが妥当になります。
おそらく、「不満」の部分に引っ掛かる人もいると思います。ですが、これが適切です。
喜怒哀楽の「怒」を表す言葉はいくらでもありますが、試験で必要なのは「怒り」もしくは「不満」を、「覚えた」のか「顕わにした」のかどちらかだけです。心中で蟠る、怒り方面の単語が「不満」だからです。
そして、もっと言えば「控えめに」などの解答者の主観が入る単語は不要です。字数制限を圧迫するだけでムダそのものです。本文中に言及されていないのなら、解答者の主観なんて残してはいけません。
そして、もうひとつ満点を取りづらくさせる要因があります。それは、登場人物の心情を、情景描写で表すことがあるからです。
曇り空や雨は、登場人物のネガティブな感情を反映します。鈍色の曇天なんて使い古された表現を見ると、19世紀後半のロンドンなのかと思ってしまいますが、登場人物の心情を読み解く指標にはなります。
この他にも様々なテクニックが駆使されて、まるでサイゼリヤの間違い探しのような難易度で、適切に書き換えて記すべき重要語句が、文章中に散りばめられているのです。
そして、それらを「これ以上簡単な語句で、短くまとめることなんて出来ない!」という段になって、ようやく減点が無くなるんです。
そりゃあ満点なんて取れないってものですよ。
● 小説文は高度な頭の体操! 語彙を柔軟に使おう
さて、上の項目ですでに軽く触れていますが、小説文の設問に解答するには、解答者のボキャブラリーが問われます。
そして、それらを適切に運用する頭の柔軟さが要求されます。
なぜなら、小説の文章は理路整然としていないからです。
著者のイメージが少しズレている可能性や、ワザとズラして使っている場合などなど、理由は様々です。
上の例文では、「可愛く」と書いてしまったため、少々強い表現である「抗議」によってバランスを取っている、とも考えられます。なので、書かれている通りに「抗議」なんて、解答欄に記述してはいけないんです。
大切なことなので繰り返し書いちゃいました。
そして残念ながら、この適切な書き換えですが、現在網羅的な書き換え表のようなものは無いように感じます。
なので、そういった書き換え表みたいなものを、書籍としてまとめたら売れるかもしれないですね。
現状では、感覚を養いつつ、自分でまとめていくしかないですね。
おそらく、そこを大学が見たいのかもしれません。
語句の書き換えは、相手の意図を掴むことに直結しますので。
● 設問への解答は、複合技!
さて、この講では散々、語句の言い換えについて書いてきました。
しかし、ここでは本文から重要語句を抽出することについて触れます。
どういうこと?
って思うじゃないですか。
そうなんです。小説文の記述では、重要語句の抽出も必要になるんです。
結論から書きますと、出来事は抜粋し、心情は書き換えるのです。
というよりも、小説内で起きた出来事は、短くまとめる以外に書き様がないのです。なので、書き換える必要がないのです。
そして、小説でもひとまとまりが、だいたい12文字ほどです。ただ、評論文より解答欄に記述するべき要素は1個多いように感じます。
なので、60文字で、と設問されたら、5~6個の内容を書いてまとめろ、ということです。
やはり、短くまとめるだけで良い要素と、平易な語句に書き換える必要がある要素の見極めと、書き換えるべき平易な語句の選択、という頭の使い方は、評論文とは違った能力にも感じますよね。
だからこそ、私は小説文の要約は、複合技を用いた頭の体操だと感じてしまうんでしょうね。
→次講「後書き」