第4話 〝ゼンゲンテッカイ〟なのです。
拐われた女性たちの暮らしていた村々は依頼を受けた辺境の街クライダの少し先なのです。
お宝の回収と死体の処理が済んだ後は盗賊団の根城になっていた洞窟から出て街に向かいます。
道すがら雑魚魔獣が多少出ましたが、リリィの華麗なるモップ捌きとスラくんの強酸弾でほぼ瞬殺したのです。
一度は中位魔獣も出たのですが、大して強くもない個体だったので、片手間で殺々しておきました。
助けた村娘さんたちは魔獣が現れる度に瞬殺されるのを見てまた目が点になっていましたが、流行りみたいなのでスルーしておきました。
大姉さまが言ってました。
空気を読むことは大事なのです。
そうこうしていると、一刻ほどで街に着きました。
門衛に鉄色のスティール級ギルドカードを見せて街に入ります。
まずは街門近くにある警備隊の詰め所で先に村娘さんたちを保護してもらいました。
わざわざ村まで連れて行かなくてもいいので助かりました。
別れる際、ミザリィさんたちは何度お礼を言いながら頭を下げてました。
うん。
人助けするのはやっぱり気持ちがいいのです。
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次は街の中央にある冒険者ギルドに寄って、盗賊の討伐依頼の完了報告をするのです。
辺境の街クライダはこの辺りでは一番大きな街ですから、冒険者ギルドだけでなく商業ギルドや魔術士ギルドもあります。
冒険者ギルドは依頼が少ないと成り立たないので、それなりに大きな町でないと支部は作られないそうです。
他のギルドも大体そうらしいのです。
〝ジュヨウ〟と〝キョウキュウ〟が少ないので、メイド協会の支部も各国の王都くらいにしかないのです。
ちなみに、冒険者ギルドや商業ギルド、工匠ギルドというのは通称で、正式名称は長いので覚えてないのです。
メイド協会は『純白黒衣を尊ぶ奉仕者たちの為の相互扶助協会』が正式名称で、メイド協会やメイ協と略称で呼ばれてるのです。
純白はヘッドドレスとエプロンドレス、黒衣はワンピースのことなのです。
ワンピースは黒しか認めないということではなく、主人にかしずくメイドは目立つ明るい色を着てはいけないという意味なのです。
メイドに〝イケナイコト〟をする悪いご主人さまもいるので、メイド同士で助け合う組織なのです。
〝イケナイコト〟ってなんでしょう?
あっ、きっとお給金を少なくしたりするんですね。
それはいけないことなのです。
街門から大通りを抜けて大広場に出ると、広場に面した一際目立つ建物が冒険者ギルドなのです。
宿のある辺りと冒険者ギルドのある広場以外にはリリィは特に行くことかないので、この街のどこにどんな他のギルドがあるのかはよく知らないのです。
冒険者ギルドに近づくと、建物の中からはわいわいとした喧騒が聞こえてきます。
陽が傾きはじめているので、早めに依頼を終えた冒険者パーティーがきっと受付に並んでいるのです。
冒険者ギルドは朝に街門が開く少し前から、陽が沈んで門が閉まった少し後くらいまで営業しています。
営業中はギルドの扉がずっと開きっ放しになっているので、喧騒が広場まで聞こえてくるのです。
冒険者ギルドの中に入ると、扉の近くにいる何人かがリリィたちを見ましたが、興味を無くしたのかすぐに視線を反らします。
リリィがちょっとだけ小さいからって珍しがるような三流冒険者さんは、実力者が集まる辺境のクライダのギルドにはいないのです。
「あぁん? 強者しか生き残れねぇって評判の辺境都市の冒険者ギルドに、なんでこんなちんまいガキがいんだぁ!?」
・・・〝ゼンゲンテッカイ〟なのです。
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槍斧を背負い、山賊さんにしか見えないくたびれた革鎧の装備のいかにもな大男さんが、見下した目をしながらリリィに近付いてきました。
今日討伐した盗賊さんたちと並んだら、きっと見分けがつかないのです。
まだこんな天然記念物が残っていたんですね。
驚きなのです。
「おい、アイツ、さっきこの街に着いたって受付に申請してたヤツだよな?」
と思ったら、受付待ちの冒険者さんのひとりが仲間らしき人にそんなことを言ってたのです。
ひそひそと小声で喋ってますが、この距離だと丸聞こえです。
この大男さんは見た目に反してクライダでは新人さんですか。
傷だらけの革鎧を修理もせずに使うぐらいですから、多分稼ぎも少ないのです。
むぅ、後輩なら仕方ないですね。
腹は立ちますが、ちょっと教育するだけにしておきましょう。
「あん? お嬢ちゃん、こんくらいでビビってるようじゃ、ここに入ってくるもんじゃねぇぜ! がははは! なぁ!」
大男さんが周囲の冒険者たちに同意を求めますが、ギルドの中はシンとしています。
当然なのです。
リリィは良い子ですから、小姉さまの〝クンカイ〟を守って初日で教育してあるのです。
ですが、不快感が少しだけ漏れだしていたようなのです。
良い子のリリィは反省するのです。
そうですか。
怖がってるように見えるですか。
ちょっと楽しくなってきたかも知れないのです。
「ん? なんか空気がおかしくねぇか?」
大男さんがやっと気付いたようですが、もう遅いのです。
「ん、ぐがっ!?」
大男さんがキョロキョロと辺りを見回した瞬間、足払いをしてうつ伏せに床に沈め、すかさず足で背中を押さえ付けます。
これで簡単には動けないのです。
ギルドの中ですし、相棒の愛棒を使うほどじゃないのです。
「んあ? な、なにが?」
倒れた大男さんは理解が追い付いてないみたいです。
「踏みつけて頂けるなんて羨ましい!」
「あれじゃあご褒美だ!」
「ああ、いい・・・」
なんか外野から悪寒がしますが、こういう時はスルーするのが正解なのです。
お約束ですね。
(・□・)←目が点になった村娘たちの表情はきっとこんな感じ。
ミザリィやサーラの再登場の予定は今のところないです。