第2話 幼女ではないのです!
「これで最後・・・、〝いっちょうあがり〟なのです!」
パンパンッ!
リリィは手やスカートを叩いて埃を落とす仕草をします。
念のためメイド服と体をチェックしますが、返り血は浴びてません。
リリィの装備には返り血や汚れを弾く【清浄】という附与が付いてるのです。
冒険者といえどもリリィはメイドです。
どんな時でも身だしなみには気を配るのは当然なのです。
これも小姉さまが言っていた〝シュクジョ〟の嗜みなのです。
『予想はしていたが、圧倒的だな。吾の出番はなかったか』
盗賊たちのアジトだった洞窟の中は、倒れたおじさんたちの死体でいわゆる死屍累々《ししるいるい》というやつです。
そう言ったスラくんは、ちょっと残念そうです。
通行止めはちゃんと役に立ったですよ?
「当然なのです。メイドは素敵で無敵なのです!」
『うむ。他のメイドのことは分からないが、リリィは強いな』
「です!」
元のサイズに戻ったスラくんが同意してくれます。
リリィは「ふふん」と自信を持ってお胸を反らします。
小さいとか言っちゃダメなのですよ?
「あっ、あの・・・、助けて頂いてありがとうございました!!」
捕まっていた村娘さんたちのひとりが進み出て、大袈裟なくらいに頭を下げて感謝の言葉をくれました。
みなさんに付けられていた鎖の付いた手枷と足枷は、リリィが盗賊たちを〝ジュウリン〟してる間にスラくんが分体を放って溶かしてくれてます。
〝ぐっじょぶ〟なのです。
「「「「ありがとうございました!」」」」
少しおいてから、他の村娘さんたちも声を揃えて同じように頭を下げました。
「悪人を成敗するのは当然なのです!」
「えっと、リリィちゃん? いえ、リリィさんは、おひとりでここへ?」
前に出た村娘さんは困惑した感じです。
なんか喋り方が丁寧なのです。
「ひとりじゃないのです。スライムのスラくんと一緒なのです」
拳大のサイズに戻って肩に乗ったスラくんを、ちょっと前に出します。
「あっ、わ、私はミザリィと言います。えと、よ、よろしくお願いします。スラ・・・リンさん?」
ミザリィと名乗った女性は、戸惑いながらもちゃんとスラくんに挨拶してくれました。
『先ほど盗賊どもには名乗ったが、スライムのスラリンという。よしなに頼む』
後ろでは、村娘さんたちが「やっぱりスライムが喋ってる!?」と驚いてます。
『吾は希少種とか変異種という個体らしくてな。この通り念話で話せるのだ』
「はじめて見ました。いえ、喋るスライムというのは今まで聞いたこともなかったのですが・・・びっくりしました。すごい、ですね」
「そうなのです! スラくんはすごいのです!」
リリィはまたお胸を反らします。
パートナーのスラくんが誉められるのは、自分のことのように嬉しいのです。
『それで、お主たちはこの盗賊たちに連れ去られた近隣の村々の者たちで間違いないか?』
「あっ、はい。そうだと思います」
『ふむ。それであれば依頼は完了だな。この者たちは街まで送り届ければ問題ないだろう』
「です!」
「えっ、依頼って、まさかと思うけど、リリィちゃ、さんは冒険者さん、とか?」
ミザリィさんの後ろにいる村娘さんのひとりが、そう呟きました。
〝わがはいをえたり〟なのです。
ここはきっとアピールしておくべきなのです!
「そうなのです! 冒険者ギルドの新星パーティー〝暁の明星〟とは、リリィたちのことなのです!」
ババーン!!
鼻を高くしてみたいのですが、未熟なリリィには出来ないので、反ったお胸をさらに反らせてみます。
ちょっとツラい体勢になってますが、ここはガマンです。
『まあ、吾は従魔扱いであるから、実際にはソロなのであるがな。リリィが冒険者ギルドで期待の新人と呼ばれているのは本当だ』
「ふふん、なのです」
「・・・あっ、そうか! リリィさんは小人族なんですね! 幼く見えても、きっと実は私たちより年上なんだ! だから、恐ろしい盗賊たちを一瞬でやっつけちゃうくらい強いんですね!」
ミザリィさんはなんか納得した顔ですが、リリィは幼くないのです。
これはちゃんと誤解を解かなければならないのです。
「リリィは普通の人族なのです。今年で8才になったのです。だから、リリィはもう立派な〝シュクジョ〟でレディなのです!」
「「「「「いや、立派な幼女でしょう!!」」」」」
五人の村娘たちが、不自然なほどハモってツッコミました。
盗賊に拐われてたわりには、思ったより元気で良かったのです。
でも、リリィは納得いかないのです。
〝わがはいをえたり〟→ 「我が意を得たり」です。
難しい言葉の勘違いは、幼女のテンプレだと思います。
あっ、舞台は第一作目と同じ異世界ですが、数百年経ってるので色々と変わっています。