第16話 ま、負けないのです!!
「ぺ、ぺぐぅ」
どさっ
あっ、予想以上に早かったのです。
んー、オーガさんにはもうちょっと頑張って欲しかったのです。
「ふっ、戦いとはいつも虚しいものだな。ゴブたちは何故、こんなモノに怯えていたのか・・・」
赤ゴブさんは大空を見上げて涙を流しているのです。
きっと、虚しさと戦っているのでしょう。
他のゴブさんたちは、出番がなかったのに一緒に泣いています。
仲良しさんですね。
ゴブさんたちが立派になって、リリィは嬉しいのです。
ねっ、スラくん!
σ
翌日の早朝。
冒険者ギルドに依頼を見に行ったリリィの前に、ゴブさんたちが現れました。
「リリィの姐さん! ありがとうございましたゴブ!」
「「「「ありがとうございましたゴブ!!」」」」
揃って頭を下げます。
馬鹿から助けた時のようですが、ちょっぴり勇敢になった感じがするのです。
「もう、ゴブさんたちにリリィの教えは必要ないのです。これからは冒険者パーティーとして頑張るといいのです」
『うむ。あのオーガはリリィが言うほど弱くはなかった。お前たちは誇っていい。慢心は禁物だがな』
「「「「「はい! スラリンの兄貴!!」」」」」
『う、うむ』
あっ、スラくんが困っているのです。
ちょっと可愛いかも知れません。
『そういえば、お主らは名を何と言うのだ?』
「あっ、リリィも聞いてないのです」
「あっ、こ、これは、し、失礼しましたゴブ! オレはラインハルトと言いますゴブ!」
と、赤いマフラーの赤ゴブさん。
「ボクはキルヒアイスですゴブ」
青いバンダナを握り締めた青ゴブさん。
「ナイトハルト、ですゴブ。リリィ様!」
黄色いローブの黄ゴブさんは、何かの期待に満ちた眼差しです。
「ヒルデガルドと言いますゴブ。お姉さま」
お顔を赤らめた桃ゴブさんがもじもじして言いました。
「我は漆黒のビュッテンフェルトだゴブ」
黒ゴブさんが自分で付けた二つ名を告げます。
「な、何かカッコいい名前ばかりなのです」
『うむ。悪いが、似合わんな』
がくっ
なんでしょう?
また、名乗りの時みたいに負けた気分になりました。
このゴブさんたち、実はリリィの天敵なのですか?
戦いとは、かくも虚しいものなのですね。
リリィはまたひとつ、立派な〝れでぃ〟になったのです。
σ
『むっ、これは! リリィ、あったぞ!』
「スラくん! 見つけたのです!?」
依頼を完了させて宿に戻ったリリィとスラくんは、【収納】から取り出した無数の古文書に埋もれていました。
もちろん、新たな口上を探すためなのです。
『ああ、これは二人組の話だ。この名乗りの口上なら良いのではないか?』
おおぉっ!
リリィが求めていたのはこれなのですか!?
「これで、次の登場シーンは大丈夫なのです! ゴブさんたちには負けないのです!」
『うむ。そうであるな』
うん!
リリィたちは名乗りでゴブさんたちには負けないのです!
絶対なのです!!
σ
「は、ハート様!!」
「ぶふぅ。儂はハートサマーだといつも言ってるだろう、いつ覚えるのだぶぅ。この馬鹿ものが」
クライダの街の高級住宅街にある一際目立つ屋敷。リリィに悪漢さんその1と呼ばれていた大鬼族の男が駆け込んだのは、その日の夜も更けた頃だった。
「す、すいやせん」
「で、どうしたのだぶぅ」
豪奢な椅子に腰掛けたでっぷりと肥った豚人族が問う。
「あっ、それがですね。ガキとゴブリンどもが--」
「ゴブリン?」
大男は言い淀む。
「あっ、いえ! く、クソガキが! 事もあろうにハートサマー、様に楯突いているんですよ!」
「ガキが、なんだぶぅ? そんなのはいつもの様にさっさと潰してしまうといいぶぅ」
豚人族は「何を下らないことを」、とでも言いたげだ。
「い、いぇ、それがただのガキじゃねぇんです。スティール級冒険者だってぇことで、スゲェ強ぇんです! オレの手下共が、一瞬でやられちまったんですぜ!」
「んん? ガキひとりにかぶぅ?」
「は、はいっ」
「ぶふぅ。儂に逆らうガキか、ぶぅ。どんな奴なんだぶぅ?」
さして興味を持った訳ではなかったが、はち切れんばかりに肥えた腹を撫でたその男は、何ともなしに聞いてみた。
「そ、それが、十にも満たないガキなんですが、メイドの格好をして、モップを振り回す滅法強く--」
「ぶぶう! 今何と言ったぶぅ!」
腹を震わせ、くわぁ、と目を見開く。
「は? いえ、モップを振り回す滅法強い--」
「その前ぶぅ!!」
「えっと、十にも満たないメイドの格好の?」
「ぶふぅ!! ロッチャ! それは本当かぶぅ!?」
「へ、へい!」
大鬼族の後ろから現れた、リリィに腰巾着と呼ばれていた、大鬼族にしては細身の男が答えた。
「ぶぅ、お前から見てどうだったぶぅ? 意味は解ってるぶぅ?」
「あっ、ひひっ。そりゃあもう、ハートサマー様のお気に召すかと・・・」
にまぁと、下卑た笑いを浮かべるロッチャと呼ばれた男。
「ぶふぅ、そうか。ぶふふふふっ」
「へい、きひひひひっ。と、捕らえましたら、あっしにも・・・」
「ぶふ、みなまで言うなぶふぅ。ぶふふふっ」
「へ、へい。きひ、きひひひっ」
意味の分からない大男を余所に、その屋敷には二人の気味の悪い哄笑がいつまでも響き渡った。
何かこのゴブリンたちの話、フルメタのパクり--げふんげふん、オマージュなのに執筆時間がいつもの倍以上かかった(汗)
幕間?
「す、スラくん、なんか寒気がするのです?」
『ふむ? 今日は過ごしやすい気温であると思うがな?』
「よく分かりませんが、ぶるっとしたのです」
『ふむ。風邪だといかん。早めに休むといい』
「はいなのです・・・」