第13話 語尾はみなさん「ゴブ」なのです?
「な、何者ゴブ?」
と、赤い襟巻きを巻いた剣士の少年。
「す、凄いゴブ」
青い鉢巻をした槍を持つ少年が驚きました。
「あの馬鹿二匹を、たった二撃で倒したゴブ」
全身の装備を黒くまとめた、こちらも声からして多分少年なのです。
「わ、私には攻撃がまったく見えなかったのゴブ」
これは弓を持ち、桃色の短衣の小鬼族の少女です。
「でも、なんでメイド服にモップ?」
黄色いローブを着た小肥りの魔導士風の少年が言いました。
「「「「「なんでゴブ?」」」」」
五人のセリフが揃います。
「メイド服はメイドの正装にしてメイドの心! メイドの魂! モップはメイドの奉仕の象徴なのです!」
ばーーーん!
当然なのです!
「よく分からないけど、なんかかっけぇゴブ!」
「イカすぜ! 幼女! ごぶふぅ」
リリィの愛棒が、赤い小鬼さんの鳩尾に決まります。
「うわぁ、容赦ねぇゴブ」
黄色い小鬼さんが引いています。
「おい、幼女は禁句みたいゴブ」
青い小鬼さんが呟きます。
こくこく
地面に沈んだ赤い小鬼さん以外のゴブさんたちが頷きます。
しっかり聴こえているのですよ?
「あ、あの! 助けてくれてありがとうございましたゴブ!」
桃色の小鬼さんが、リリィに丁寧に頭を下げてお礼を言いました。
「「「あ、ありがとうございましたゴブ!」」」
青、黄、黒の小鬼さんたちが揃って頭を下げました。
「気にしなくていいのです。後輩の冒険者を導くのは、先輩冒険者の義務なのです」
「さらっと、かっけぇことを言うゴブ! そこにシビれる憧れるぅ! ゴブ!」
ん、これは青い小鬼さんですね。
ふふん♪
でも、語尾にゴブ付けないとしゃべれないのですか?
『ふむ。お前たちは最後に「ゴブ」を付けないと話せぬのか?』
あっ、スラくんが直球なのです。
「「「「す、スライムがしゃべったゴブゥ!?」」」」
みなさん揃って仲良しさんですね。
因みに、赤い小鬼さんはまだぴくぴくしているのです。
ちょっとやり過ぎましたか?
これが、後に強者が集まる辺境の街クライダで筆頭冒険者となるパーティー、小鬼戦隊ゴブレンジャーさんたちとの初めての出逢いだったのです。
σ
スラくんについてゴブさんたちに簡単な説明をしました。
納得はしたみたいですが、驚きはそのままでした。
まあ、スラくんはすごいのですから当たり前なのです。
えっへん!
小鬼さんたちに話を聞くと、みなさんはこの国の北西にあるディーン=ノルディク部族連合王国の出身とのことなのです。
この国はディーン都市連合とノルディク部族王国という二つがくっついて出来た国らしいのです。
どちらも鬼人族の国なのですが、ディーン都市連合が小鬼族、ノルディク部族王国が大鬼族の国で、力がないけど頭は悪くないゴブリンさんたちが政治や商売を、力がすべてのオーガさんたちが軍事関係を担っているそうです。
そういえば、リリィもちょっとだけ聞いたことがあるのです。
この五人のゴブさんたちは、都市連合と部族王国の国境近くの村の出身で、そこは辺境ということもあって、力の強いオーガさんたちが幅を利かせていたいたそうです。
そこでオーガさんたちに虐められていたゴブさんたちは、いつか強くなって見返してやるんだと、村を出て冒険者になったのです。
ただ、祖国の冒険者ギルドはオーガさんたちのほぼ独壇場で、ゴブさんたちは子どもの冒険者たちがやるような依頼しか受けさせてもらえず、〝キシカイセイ〟を志してこの国までやって来たとのことなのです。
すんすん
聞くも涙、語るも涙のお話しなのです。
魔物の目にも涙なのです。
ゴブさんたちと一緒に樹海からお話ししながら街に帰ると、衛兵のおじさんが笑顔で迎えてくれました。
スティール級冒険者で強いことを知っていても、息子さんと同じくらいの歳のリリィのことは心配らしいのです。
いいお父さんなのです。
息子さんはおじさんにしっかり感謝するべきなのです。
ねっ、スラくん。
σ
「あっ!」
「ん?」
冒険者ギルドがある街の広場に来ると、見知った顔がありました。
つい先日、行商人の猫さんに絡んでた大男、悪漢さんその1なのです。
「あ、あの時のクソガキぃ!」
「リリィはクソガキではないのです。〝シュクジョ〟なのです。お前は猫さんを虐めてた悪い子さんなのです? 衛兵さんに捕まって牢屋に入っているハズじゃないのですか?」
まだ二日しか経っていないのですから、出て来るのには早いのではないのです?
「はっ! 言っただろう? オレ様はこの街でも屈指の大商人ハート様の一の部下だぜ? 残念だったな、あんくらいじゃあ、即解放よ! がははははっ!」
悪漢さんその1が下品に笑いました。
むう
ちょっとむっとするリリィなのです。
『この街の領主はあまり良い統治者ではないのかも知れんな』
「はいなのです。悪を簡単に許すなんてだめだめなのです」
「あん? ガキの後ろにいるヤツら・・・」
あれ?
リリィと一緒に帰って来たゴブさんたちが、悪漢のオーガさんを見て驚いて--これは怯えているのです?
「かっ! これは、ははっ! おう、久しぶりじゃねぇか、お前らよぅ!」
びくぅ
何でしょう?
「お知り合いなのです?」
「あ、いや、あの・・・ゴブ」
「知り合いというか・・・その、ゴブ」
五人とも、困惑しているのか目が泳いでいるのです。
「おいおい! つれねぇなぁ! オレたちゃ同郷の馴染みじゃねぇか! まさかこんなところで会うとはなぁ!」
「あ、あの、はいゴブ・・・」
「ゴブ・・・」
赤ゴブさんが顔を伏せました。
他のみなさんもです。
「あん、なんだぁ? その格好はぁ? まさかお前ら、冒険者になったとでも言うのかぁ?」
「はい、ゴブ・・・」
「はっ! 村じゃあ野兎ぐらいしか狩れなかった情けねぇお前らが、魔物や魔獣と戦う冒険者様ぁ? ははっ、こりゃいいや! がははははっ!」
「ゴブゥ・・・」
ゴブさんたちが肩を落として小さくなっています。
よく分かりませんが、リリィはちょっとお冠なのです。
「そのくらいでいい加減にするのです」
スキルの【威圧】を発動して、リリィは悪漢さんその1を睨み付けます。
「ひ、くっ」
悪漢さんその1は後退ります。
「き、今日はこのくらいで勘弁してやる! おい、クソガキぃ! てめぇはハート様に逆らったんだ。すぐに後悔することになるぜ! 覚えておきやがれよ!」
吐き捨てるようにそう言った悪漢さんその1は、逃げるように去っていきました。
ふんっ
口ほどにもない雑魚なのです。
ぐすっ
気が付くとゴブさんたちは、涙を浮かべて立ち尽くしていました。
「ぐじゅ、つ、強くなりたいゴブゥ」
と、赤ゴブさん。
「うん、強くなりたいゴブね」
桃ゴブさんが赤ゴブさんを慰めながら言います。
それを見て、リリィは決意しました。
「ゴブさんたち!!」
「「「「「は、はいゴブ!」」」」」
「スティール級冒険者のリリィが、ゴブさんたちを鍛えてやるのです・・・」
コイツらが将来はトップランカー・・・、想像出来ん(自爆)