第10話 悪漢(わるいこ)にはオシオキなのです。
「あ? あぁん? 何だ、このガキ?」
太鼓持ちっぽいのにアニキと呼ばれていた悪漢さんその1が呆けたように言いました。
「ガキではないのです! リリィはリリィなのです! 冒険者ギルドの新星パーティー〝暁の明星〟が、お前たち悪い子さんを成敗してあげるのです!」
「「「「「冒険者パーティー?」」」」」
悪漢さんたちがきょろきょろと辺りを見回します。
どこを見ているのですか?
パーティーメンバーのスラくんはリリィの肩に乗ってるですよ?
スラくんが見えないのですか?
目が悪いのはちょっと可哀想ですね。
「おいおい、お嬢ちゃん。冒険者のごっこ遊びなら他でやんな。今、こっちは取り込んでんだ。さぁ、帰った帰った」
むう、信じていないのですね。
ぷんぷん
リリィはちょっとお冠なのです!
ビシィ!
と、リリィは愛棒を悪漢さんその1に突き付けます。
「とにかく! 悪い子さんにはお仕置きなのです!」
「・・・モップで?」
「そうなのです!」
「くくくくくっ。はぁーっはっは! こりゃあ、腹が痛てぇ! このオレたちを、ガキがひとりで、しかもモップでかい! はぁーっはっはっは!!」
悪漢さんその1が大声で笑いだしました。
むう、失礼なのです。
「アニキぃ、笑っちゃそこのおチビちゃんがかわいそうですぜぇ」
ん?
この腰巾着な悪漢さんその2さんは、もしかして話が分かる人なのですか?
「おい、おチビちゃん、こっち来な。ごっこ遊びならこのお兄ちゃんが付き合ってやるよぉ。まあ、その後はお兄ちゃんの大人の遊びに付き合ってもらうけどなぁ。きひひっ」
ただの変態さんですか・・・。
「じゃあ、お兄ちゃん! リリィのごっこ遊びに付き合ってね!」
リリィはにっこりと笑って、元気に言ってあげます。
ごっこ遊びかどうかはすぐに教えてあげるのです。
悪漢さんその2は、にまぁ、と笑いました。
ぞわぁ
その瞬間、悪寒がリリィの背を駆けました。
な、何なんですか!
この何とも言えない気持ち悪さはっ!
す、すぐに滅殺するのです!
な、何か分かりませんが、至急なのです!
σ
ふぅ
どうしてでしょう?
リリィ、一世一代の危機だった気がしました。
当然ですが、悪漢さんたちはみなさんその辺に転がって呻いています。
地面に這いつくばって、ぴくぴくしているのです。
悪漢さんその2だけは、念入りにお仕置きしておいたので、びくんびくんと痙攣していますが。
殺々しちゃっても良かったのですが、街中なので〝ぐろ〟は〝ジチョウ〟しておきました。
これも偉大な大姉さまの教えなのです。
そういえば、大姉さまと小姉さまは今頃どうしているのでしょうか。
スラくんも紹介しなくてはいけませんし、久しぶりに会いたい気分なのです。
「あ、ありがと、なのニャ?」
リリィが郷愁に耽っていると、猫人族の娘さんが声を掛けてきました。
なんで疑問系なのです?
「気にしなくていいのです。悪い子にお仕置きするのはリリィの使命なのです」
『うむ。リリィは良い子だからな』
「はい、なのです」
スラくんも良い子なのですよ?
「そ、そうなのかニャ? まあ、助かったのニャ。それにしても一瞬だったのニャ。【棒術】のスキル持ちかニャ?」
「はいなのです。リリィは中級冒険者なのです」
えっへん!
リリィはお胸を反らせて答えます。
「それ、本当だったのかニャ?」
『うむ、リリィは歴としたスティール級冒険者であるぞ』
「・・・さっきから気になってたニャけど、スライムがしゃべってないかニャ?」
「スラくんはすごいスライムさんなのです!」
えっへん!!
『うむ。水妖族のスラリンと言う。よしなにな』
「ま、マジですかニャ。初めて見たにゃ」
『吾以外にはそう居らぬらしいからな。無理はない』
「り、リリィちゃんのモップ捌き?もすごかったニャけど、これは更に驚きニャ!」
そう言って、猫人族の娘さんはスラくんを興味深そうにしげしげと見ています。
〈リリィ、良いか?〉
と、スラくんが個別念話で話しかけてきました。
〈どうしたのです?〉
〈うむ。その猫娘の半壊した露店にな、ちと気になるものがあってな〉
〈分かったのです〉
「お店は大丈夫なのです? 猫さんはテュルクの商人さんなのです? なら、ちょっと商品を見てみたいのです」
「もちろんニャ! お客さまは賢猫さまニャ!」
「ミャアはチャウラっていう、テュルク大帝国から来たしがない行商人ニャ! よろしくニャ!」
因みに、リリィは【無双】のスキル持ちです。
身も蓋もないですね!