第9話 自由市に来たのです。
盗賊たちのヴィジュアルイメージは、世紀末雑魚な感じでお楽しみください。
「ふわぁ、すごく賑やかなのです!」
『うむ。前回は依頼で回れなかったが、中々盛況だな』
採取依頼とついでに白黒熊を討伐した翌日。
休養と気分転換を兼ねてリリィたちは広場で開かれている自由市に来たのです。
店を持たない行商人が沢山の露天を開く自由市は、大きめの街で定期的にやっている事が多いのです。
クライダの街でも週一で開催していました。
この時間ならいつもは聞こえる冒険者ギルドの喧騒も、今日は市の活況でほとんど分からないくらいです。
しっかりしたテントもあれば蓙を敷いただけの簡易な店まで、大小の露天が広場に並び立っているのです。
声を張り上げて客引きする者、商品を並べて静かに佇む者、やる気があるのか分からないぼーと店番をする者。
多種多様な商人たちと、遠くの街や他国の珍しい品を求めたお客さんが犇めいていました。
リリィたちはその喧騒の中を人混みに翻弄されながら回っているのです。
目的は掘り出し物のお宝探しなのです。
スラくんが商人たちが羨む【鑑定】のスキルを持ってますから、がらくたにしか見えない品物でもたまに良い物が捨て値で手に入ったりするのです。
市で掘り出し物が何も見つからなくても、活気がある市を冷やかすだけでも色々な発見があります。
それに、商人さんたちとお話ししていると情報を教えてもらえたりもしますから、掘り出し物が見つからなくても損はしないのです。
お買い得品の争奪戦に心血を注ぐのは、大姉さま曰く、女の〝サガ〟なのです。
伝説なのです?
リリィの武器は一見するとただのモップにしか見えないのですが、ある小さな町のお店で無造作に積まれて埃を被っていた中から偶然見つけた〝古代遺物〟なのです。
【不壊】【硬化】【清浄】【変化】が附与された歴とした魔道具で、つまりは硬く、壊れず、汚れないという三拍子揃って、【変化】まで付いてるのです。
そんなすごい品物が捨て値だったのは、この【変化】のスキルのせいでした。
ありふれたモップの形態になっていて、ただの掃除用具として売っていたからなのです。
スラくんと一緒に旅する前で【鑑定】のスキルはありませんでしたから、愛棒はモップだったからこそリリィは手に入れられたのです。
スラくんの時と一緒で、運命的な出逢いだったのです。
σ
しばらく自由市を廻っていると、混雑している人垣の一角がぽっかりと開いていました。
がやがやとした喧騒に紛れて、怒鳴り声も聴こえてきます。
なんでしょう?
む、もしかして事件なのですか?
事件ならビューティー・リリィの出番なのです!
「スラくん、行ってみるのです?」
『そうだな。吾も興味ある。行こう』
野次馬の人混みを掻き分けてその場所までいくと、鬼人族の大男さんたちが半壊した簡易露店の前で猫人族の女の子を取り囲んでいました。
「あ、アンタたち! なんてことするんだニャ! いたいけな猫人族の商人をイジメて楽しいのかニャ!」
「ああ、楽しいねぇ。貧相で弱っちい猫なんかがいっぱしに商人の真似事なんかしやがって生意気なんだよ! 商売のこたぁはハルフィン商協同盟のオレたちに任せときゃあいいんだよ! なあ!」
「アニキの言う通りですぜ!」
そうだそうだ、と周りの取り巻きも賑やかします。
「行商人が集まる自由市で何おバカなこと言ってるニャ? それに、この街はアルス自由都市同盟の協定都市ニャ! 商協同盟のヤツがデカイ面していいとこじゃないにゃ! 体がデカイと脳ミソまで栄養が行かないのかニャ? デカイ頭は飾りかニャ? あっ、もしかしてゼンブ骨なのかニャ?」
「あんだと! テメエッ! この街でも一、二を争う大商人、ハート様の一の部下であるオレをバカだとぉ! バカって言う方がバカって母ちゃんに習わなかったのか? あ!」
「あっ、ホンモノなのニャ・・・」
「くっ、テメェ! このクソ猫が! もう容赦しねぇからな!」
あっ、一触即発みたいな状況なのです。
『意外に毒舌なのであるな、あの娘・・・』
「でも、正義はあの娘にあるのです」
これは迷うまでもなくビューティー・リリィの出番なのです!
「スラくん、あのくらいなら粘銀鎧モードは必要ないのです」
『うむ。任せよう』
ざっ
リリィは人混みから出て、悪漢さんたちの前に飛び出します。
「天が呼ぶ、地が呼ぶ、人が呼ぶ! 悪を倒せと心が叫ぶ! 跪くのです、悪者さんたち! 美少女メイド ビューティー・リリィ参上!」
びしぃ!
そしてポーズを決めます。
残念ですが、街中なので後ろの爆発の効果はお預けなのです。
・・・
・・・・・・
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街中はまた、静寂に包まれました。
悪漢さんたちがぽかんとした表情で立ち尽くしています。
なぜか野次馬してる街の人たちもです。
やっぱりドーンが足りないのですか?
ネコミミ娘が登場。やっぱり語尾は「ニャ」!
さあ、ご一緒に! 「ニャ!」(誰かした?)