想いの行方。
俺達は結び付けられた仲間だったんだ。
それを確信したときあの罰ゲームも木村涼子を仲間内に入れるための桃香の作戦だったんだと知る。上手いものだ。
俺が木村涼子を落とす。そのゲームの矛先がいつの間にか木村涼子を仲間に入れるに変わっていた。作戦会議と称して中庭で過ごしたあの時間、もし木村涼子が通り掛からずみんなに仲間が居ないことが可哀想だという感情が芽生えなかったなら俺達がこんな風に纏まることはなかったのかもしれない。いや、桃香によってうまく誘導され結局はこうなっただろう。明るくお調子者で少しバカな桃香。何も悩みが無さそうで羨ましいとさえ思っていた俺。俺は自分を恥じた。桃香はずっと1年の時の出来事を悩んで苦しんでいたんだ。だからこうして今、あぶれ者を集めて結束させている。極めて自然にバレないように。
ひとつひとつのパーツが繋がるように桃香の行動の真相を知ったとき、俺の気持ちは桃香に引き寄せられていった。優しさと思いやりの深さに。この気持ちを打ち明けたらどうなるだろう?きっと良い結果は招かない。俺なりにそんな気がしていた。でも、気持ちを抑え込むことも俺には出来そうも無い。
バス旅行当日、意外な形でチャンスが巡ってきた。6人グループの俺達は2人ずつ座席に座ることになり、その組み分けが読書で気の合う木村涼子と文香。倉田と望月、俺と桃香という組み分けになった。早々に窓際を陣取った桃香は菓子をバリバリ食べながら寛いでいる。
「伊藤っち、よろしくね。ガム食べる?」
「おう。ありがとう。•••痛えっ!!」
差し出されたガムを引き抜くとパチリと指を挟まれた。ガムを模した昔ながらの玩具だった。驚きと地味な痛みで手を払う俺を見て皆が笑う。
「伊藤っち、やっぱ単純。そういうところ好きだけど。」
そんな言葉にもいちいちドキドキしてしまう俺はやっぱり単純なのだろうか?気恥ずかしさで桃香の隣に座り込むと寝たふりをした。
「伊藤っち、即寝とか有り得ないんだけど。」
肩を激しく揺すられる。
「起きてるよ。ってか桃香、窓際VIP席だし景色楽しめばいいじゃん。」
「景色より何より会話でしょう。親睦を深めなきゃ。」
「お前、やっぱエロいな。」
「はぁっ、バカじゃないの。マジで。」
バシッと肩を叩かれる。
「冗談だよ。」
「分かってる。今日は皆で楽しもうね!!ってかバスの中だと皆で話辛いね。」
「そうだな。」
この喧騒はある意味チャンスだ。帰りも桃香と座れるとは限らない。俺は話を切り出すことにした。