彼女の変化。
カップケーキの一件から、木村涼子の態度が軟化してきた気がする。相変わらず読書に耽っていてもイヤフォンを耳に差し入れる事はなくなった。俺達からすれば大きな変化だ。
そんな中、クラスの日帰りバス旅行が持ち上がった。
クラスの親睦を深めることを狙いにテーマパークに1日出掛けるのだ。俺達のクラスは30人。担任の遠藤がざっくり5.6人で纏まれと指示を出す。誰かの発言した
「木村さん、あぶれじゃん。絶対一緒になりたくないんだけど」
の言葉が飛んできた。横を見ると木村涼子はただ俯いていて表情は見えない。その時だった。桃香が
「木村さんはウチらのグループに入れるから。先生、6人グループで固まるようにさせて下さい。」
正直、木村涼子を持てあましているらしい担任はこの一案をアッサリ飲み込んだ。
「分かった。6人グループで集まるように。帰りまであと10分あるな。早いところ決めてこの紙に書いて提出するように。書いた順から帰っていいことにする。」
出された用紙にいち早く近づいて桃香が名前を記入し木村涼子の前にやってきた。
「木村さんが嫌って言っても私は同じグループに入れるから。絶対に1人になんかさせないし、欠席だって許さない。」
「私のことは放っておいて。」
「放ってなんて置けない。ずっとずっと後悔してた。1年の時木村さんがハブられた時、笑顔が消えていくのをただ見ているしか出来なかったこと。あの時声を掛けてあげられなかった事ずっと後悔してるの。ごめんなさい。」
「そんなの偽善でしょう。私はひとりで居たいの。」
木村涼子はきつく桃香を睨みつけると机に突っ伏した。泣いている。これ以上の事を今日出来るはずが無かった。木村涼子の心の傷は俺達が思っているよりもずっと深いのかも知れない。信じていたものに突然裏切られる。その痛みは計り知れない。桃香の頬にも涙が伝っていた。それを見ていたら黙っていることが出来なくなった。
「俺さ、1年の時の事なんて知らねぇけど、もう引き摺らなくて良いんじゃねぇの。ハブられたとか助けられなかったとか抜きにして、もう今は単純に木村と仲良くなりたいと思ってんだよ。それでいいじゃん。楽な方に?楽しい方に流されて行けば良いじゃん。辛い思いなんて進んですることねぇんだよ。」
ぽんっと肩に触れられて気付くと横に文香がいた。木村涼子と桃香の肩にも触れていく。
「そうだね。私たちこれから友達になろうよ。過去は抜きにして。今日はもう帰ろう。気持ちを落ち着けて明日から新しく始めようよ。ねっ、木村さんも明日からよろしくね。」
「そうだな。今日は帰るベ。せっかく1番にチーム決められたんだし。んじゃ明日な木村さん。」
望月が鞄を手にサッサと帰っていく。つられたように俺たちは教室を後にした。
「木村さん、また明日」という言葉をそれぞれが残して。