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心に触れた日。


「今日も雨降りだねぇ。来週の木曜日も雨が降るかなぁ。」


ここの所倉田がお天気ばかり気にしている。


「さぁ、でも梅雨入りしたから雨なんじゃねぇの?」


「そうだよね。降ればいいな。」


たたでさえじめりとした席に座っている俺は何だかイライラしてくる。天気なんてどうだっていいし雨なんて嫌いだ。


「今日はね、ピーナツバターサンドにキュウリを挟んでみたよ。食べてみて。」


倉田がニコニコしながら独創的なサンドイッチを手渡してくる。みんなが困惑顔で受け取り


「せーので食べようか?」


ひとりの裏切りも許さないとでも言うかのように桃香が提案する。仕方なくみんなで賛同して齧り付くことにする。


「せーのっ。」


「・・・・・・っ。」


「意外に美味いな。」


「本当だ。」


味のないキュウリはピーナツバターと合って柔らかなパンにカリカリとした食感を与え意外なほどに美味しい。


「美味しいでしょう?でもここは狭いね。そこの席も借りられたら広く使えるのにな。」


倉田は主のいない隣の席を指差した。木村涼子はサッサと図書室へ出掛け昼休みが終わるまで戻ってこない。イヤフォンを差し込まれてから俺たちは木村涼子の回りで為す術なく生息している。

それでも朝と図書室の行き帰りには何となく声を掛けるのが俺達の習慣になっていた。もちろん返答は帰ってこないけれど。


倉田が気にしていた木曜日、天気は雨で珍しく木村涼子は自席で昼食を摂り図書室には出掛けなかった。今日は図書整理で図書室が閉まっているのだ。


「雨で良かった。今日はね、カップケーキとレモンティーを作ってきたよ。」


コトリ、コトリと机に紙コップを並べていく。なぜか6つ。全てにレモンティーを注ぎカップケーキも6個取り出した。


「今日は普通のカップケーキだから安心して。中に林檎が入っていて美味しいよ。はい、どうぞ。」


倉田がひとりひとりに手渡し、残った6つ目のカップケーキとレモンティーを木村涼子の席に運んだ。みんな驚いて声も出せず様子を見守るばかりだ。


「木村さん、良かったら食べない?僕の自信作なんだ。」


「・・・いらない。」


「そう言わないで。今日のは特に美味しく出来てるから木村さんにも食べて欲しいんだ。僕ね、趣味がお菓子とか料理なんだよね。すごく好きでいろいろ作るんだけど、男子のこういう趣味って理解されなくてさ、加えて僕、ナヨナヨしているから余計だよね。気持ち悪いって避けられてた。僕もそんなものだと思ってたし、友達居ないの慣れっこだったんだ。でも、このクラスになって桃香が僕の趣味を理解してくれたんだ。初めはお弁当のおかずくれくれくれって図々しい奴だと思ってたし、信用できないと思ってた。今までも、面白がって寄ってきて馬鹿にしながら去っていく奴がいたからね。桃香もそんなタイプだと思ってたんだ。でも桃香は違った。離れる事なく僕を引っ張ってこの仲間に入れてくれたんだ。仲間って良いなって思えたよ。ずっとひとりだった僕が言うんだ。大丈夫だよ。安心して入っておいでよ。みんな良い奴だよ。僕らは待ってるから。」


倉田が戻ってきた時、俺らは座席で固まっていた。良い奴だなんて思われてると思わなかったし、そこまでの信頼を得ているとは思ってなかった。俺たちの中に倉田が居ることはあまりにも自然になりすぎていた。そして俺は倉田を仲間に引き入れた事に桃香が関係している事を詳しく知って自分の感じた予感が当たってきていることを感じる。当の桃香は何事も無かったかのようにカップケーキを食べ始めた。


「美味しい。あっ!」


突然の桃香の声に振り向くと木村涼子がレモンティーに口を付けていた。






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