鉄壁の彼女。
席替えにより木村涼子の隣の座席を手に入れた俺。
グッと距離を縮めやすくなった。
と思っていたのは俺だけで実際は何も変わらない。
とりあえずと始めた挨拶もなしのつぶてだ。
会話の糸口を探そうと読んでいる本のタイトルを知ろうにもしっかりカバーが掛けられていて分からない。代わりに休み時間、俺の机の回りは賑やかになった。桃香に倉田に望月に文香。意識的に集まるようになった。集まって会話を楽しんで散る。それはまるで仲間で居ることは楽しいことだと木村涼子に刷り込む様に。
あるときふざけていたら、望月が俺の手元をたたき握っていたシャープペンシルが飛ばされた。弧を描いて飛んでいった先は木村涼子の机の下だ。さすがに彼女の領域にズケズケと踏み込むわけにはいかない。全員が飛ばされたシャープペンシルを見つめる。突然肩を叩かれ振り向くと桃香が
「チャンス。」
と声に出さず呟いた。
皆がうんうんと頷き俺を見る。
咄嗟に俺は木村涼子の机をコツコツと叩いた。
木村涼子は読んでいた本を閉じ、迷惑そうに俺を見る。俺は転がり落ちたシャープペンシルを指差しゴメンと手を合わせた。
木村涼子は椅子を少しずらしシャープペンシルを確認すると座席を立ち机の下に潜り込んでシャープペンシルを拾い上げた。カチャリと俺の机に戻し何事も無かったかのように自分の座席に戻っていく。
「ありがとう。」
俺は大きな声で礼を言った。
チラリと一瞥をくれただけで返答はない。
不意に望月が口を開いた。
「木村さんもさぁ、本ばっかじゃなくてたまにはクラスメイトとコミュニケーションとってもいいんじゃねぇの?俺らさ、木村さんと仲良くなりたいんだよね。」
木村涼子は心底嫌な顔をしてガサガサと鞄を探り始めた。中からiPodを取り出すとイヤフォンを耳に差し込んだ。視界だけでなく音声も遮断されてしまう。俺たちは為す術がなくなった。予想以上に木村涼子の心の扉は堅い。それを知るには充分な行動だった。