君への距離と海の家。
約束の日、朝6時に俺たち5人は駅に集まった。
「おはよう。」
「おはよう。みんな寝坊しなくて良かったね。」
「なんたって伊藤っちの奢りだからねぇ。」
桃香のおどけた様子に少し安心した。
「うるせぇな。チケット買っておいたから渡すよ。」
ついこの間の腕を掴んだ告白を思い出し、俺の方が気恥ずかしさでぶっきらぼうになってしまう。
「ありがとう。」
笑顔が嬉しかった。周囲から感じる視線に目を向けると文香と望月と涼子がニヤニヤと見ている。
「ほらっ、お前らの分も。」
「ありがとう。伊藤っち。」
「じゃぁ、行くか。」
ここから電車で約2時間。6時半発で8時半には着く予定だ。駅から望月達がバイトする海までは近く、駅まで望月と彼女が迎えに来てくれる事になっている。
予定通り電車に乗り込み、俺たちは景色を楽しむでもなく眠り込んだ。到着予定時刻に合わせたアラームで起き出す。
「着いたな、天気が良くて良かったよ。」
「だねぇ。望月と彼女来てるかなぁ?僕、望月の彼女と会うの初めてだから何か緊張するよ。」
「俺もだよ。」
「ウチらもだよ。望月の彼女ってどんな子だろうね?」
噂をしながら改札を抜けて駅から出ると、真っ黒に日焼けした望月と彼女が立っていた。ニコニコと笑うふたりは歯だけがキラリと白く輝いている。
「みんなよく来たな。今日は花火大会でちょうど混み合って忙しいんだ。助かるよ。」
「えっ?」
「店の手伝い。花火大会の日はさ、すっげー忙しくて。大丈夫。花火大会と終電には間に合わせるから。マジで忙しいから早く行こうぜ。」
どうやら俺たちは望月に嵌められたようだ。花火大会を楽しむ為に呼ばれたのではなく、花火大会の忙しさを埋めるために呼ばれたらしい。冷やかしを入れる合間もないままふたりに連れられて海の家に着くと慌ただしく荷物を置き、望月達よりも更に日に焼けた望月の従兄弟だという男性に迎え入れられた。
「おっ、お前らが今日手伝いに来た奴らか。5人な。よし男女に分かれて男子は厨房補佐、女子は配膳補佐だな。このティーシャツに着替えて早速手伝ってくれ。すっげー忙しいからモタモタすんなよ。ほれっ、行け。」
オレンジ色の派手なティーシャツを投げるように渡され着替えを促される。みんな着られたが倉田だけピタピタのキツキツで出てきた。
「何だお前。ボンレスハムみたいになっちまって。大丈夫か?しかしよく着たな。脱げんのか?」
「すみません。たぶん、もう脱げません。」
「ぶははっ。世話の焼けるヤツだな。後ろ向け。」
豪快に笑い、倉田を後ろ向きにさせると、望月の従兄弟がハサミを取り出し背中から切り裂いた。笑い方だけでなく行動も豪快だ。
「よし、脱げた。デカいサイズはこれだな。早く着ちまえ。で、こっちだ。女子は翔子、配膳教えてやってくれ。」
「OK。女の子はこっちね。よろしく。貴女たちはあのテーブルを拭いて空いた皿を下げて来て。貴女はこの焼きそばをあっちのテーブルに運んで頂戴。美緒はいつも通りによろしく。」
倉田がその場で着替え、準備が整うと俺たち男は厨房に引っ張り込まれ、桃香たち4人は翔子と呼ばれた女性に配膳指導を受けながら配膳を手伝っていた。俺と望月はひたすら食器を洗い、飲食店経験のある倉田は腕を買われて、ひたすら野菜を切るという大役を任されている。ひっきりなしに人が来て訳も分からずに忙しい時間が過ぎていく。
電車の中で頭に思い描いて居た海辺で水着姿の桃香たちときゃぁ、きゃぁはしゃぎ回るという甘酸っぱい光景は頭から抹消され、日がだいぶ西に傾いて来たなと思う頃ようやく休憩の許可が下された。




