無邪気な悪魔。
そんな感じで2週間ほど過ぎたときコンビニに倉田と桃香、文香、涼子が4人でやって来た。久しぶりに見る顔は元気そうでそれぞれ夏休みを満喫しているようだ。特に桃香は俺には特別可愛く見えた。
「伊藤っち、バイト頑張ってる?売り上げに貢献しに来たよ。」
桃香がアイスコーナーのガリガリ君を4つレジに持ってきた。
「安い貢献だな。桃香。」
「しょうがないじゃん。貧乏なんだし。倉田にたかろうと思ったら給料まだだって言うしさ。みんな自腹なの。さっき入り口で徴収して私がまとめて払ってんの。」
「そっか。じゃぁ、しょうがねぇな。ありがとうございました。」
「うわぁ。伊藤っちがありがとうございました。だって。」
黙って俺たちのやり取りを見ていた女が口を開いた。
「伊藤君って、伊藤っちって呼ばれてるんだぁ。私もこれからそう呼ぼう。私のこともまどかって呼んで良いよ。」
「はっ?」
「だから名前で呼んでいいってば。伊藤っち、この中に彼女とか居るの?」
「••••••居ねぇよ。」
彼女は居ない。嘘でも間違いでも無い。
「良かったぁ。伊藤っちよく見ると格好いいから。」
話しながら顔と顔がくっつきそうな距離までグイッと顔を近付け見つめてくる。
「彼女が居たらあんなに優しくしないよね?伊藤っち、すっごく優しいの。重い物運んでくれたり、高いところの物動かしてくれたり。私、今までたくさんの告白断ってきたけど伊藤っちなら付き合ってあげてもいいかも。」
「止めろよ!」
俺の腕に甘えるように絡みついてきた腕を振りほどく。
黙って見ていた桃香がアイスの入った袋を涼子に渡し店から駆け出した。たまらず俺も追いかける。走って、走って、走って。ようやく桃香の腕を掴まえた。
「離してよ。」
振り払おうとする腕を押さえ込む。
「離さねぇよ。絶対。」
「可愛い彼女が待ってるじゃん。バイト中なんだし戻りなよ。」
「誤解だって!あれはただのバイト仲間で何でもねぇんだよ。」
「惚気て腕まで絡めてたじゃん!!」
「あれはアイツが勝手にやったことだ。知ってんだろう?俺の気持ち。あの時言わせてくれなかったけどあの時のままだよ。俺は桃香、お前が好きなんだ!!」
バタバタと倉田と涼子、文香の3人が走ってくる。
「居た!居た!桃香、伊藤っち」
息が上がったまま涼子が言った。
「もう、こんな事で揉めるなら2人とも付き合っちゃいなよ。みんな気付いてるんだよ。2人が両思いだって。付き合ったって良いじゃん。誰に遠慮してるの?罰ゲームの話も聞いたけど、私は伊藤っちの事は友達としか見られないし、そんな風に掛けてたことも怒らない。仲間を得たことが大きかったから。桃香も伊藤っちも大事な仲間だから。仲間同士で恋愛したって別に良いじゃん。」
「そうだよ。僕も気持ちに素直になった方が良いと思うよ。」
「ってかさ、伊藤っち職務怠慢だよ。バイト放りだしてこんな所まで走って来ちゃって。」
文香が冷静に俺のヤバい現状を伝える。
「やばっ。俺、戻るわ」
急に冷静になった俺は事の重大さに気付きバイト先に戻る事にした。アルバイトの持ち場を無断で離れるなんて最悪だ。桃香への告白も返事が聞けぬまま中途半端になってしまったけれどまぁ良いだろう。言えただけで充分だ。
「僕らも一緒に行くよ。」
5人でコンビニに戻るとオーナーと女が店に出ていた。オーナーは俺に気が付くと店から出て来て封筒を差し出した。
「伊藤君、話は聞いたよ。友達の前で林君に告白して振られたからって逃げ出したんだって?全く。君には幻滅したよ。よく働いてくれるから期待していたのに。今までのバイト代払うから今日で辞めてくれ。」
店の女はこちらに一瞥をくれるとプイッと向こうを向いた。なんて女だ。辞めて正解だ。俺は封筒を受け取りクビを受け入れた。
「本当にすみませんでした。」
「いいよ。友達の前で振られるなんて高校生には恥ずかしいんだろうな。でも、もう少し責任感を持たないといけないよ。」
「はい。」
俺は素直に話を聞き入れ制服を返却し、コンビニを後にした。手渡された現金が忌々しく感じられる。
「なぁ、これでみんなで望月の所に行かねぇか?」
「えっ?」
「こんな胸糞悪い金、ぱぁっと使っちまおうぜ。」
封筒を開けると4万2000円入っていた。5人で出掛けてもきっと足りるだろう。俺は早速スマホを取り出して望月にラインした。秒の速さで返信が来る。
「明後日、ちょうど花火大会があるんだと。それに合わせて来たらどうだ? だって。倉田と涼子はバイト大丈夫か?」
「私は大丈夫。」
「僕も。」
「文香と桃香は?」
「大丈夫だと思う。」
「よし、じゃぁ決まりな。明後日、なるべく早く朝6時に駅に集合で大丈夫か?」
「うん!!」




