夏休みの誘惑。
「おはようございます。今日から宜しくお願いします。」
「おはよう。伊藤君、宜しくね。もうひとり夏休みの間のバイトで入る子が居るんだよ。その子と一緒に教えるから。」
「はい。宜しくお願いします。」
コンビニのオーナーと話していると、女がバタバタと店内に走り込んできた。
「おはようございます。今日から宜しくお願いします。」
「おはよう林君。やっぱり元気だね。でも店内に走ってくるのは良くないね。お客様も居るから。伊藤君、さっき話したバイトの子。林君だ。同学年みたいだから仲良くやってね。」
「はい。宜しくお願いします。」
「宜しくお願いします。」
かしこまった口調で挨拶を済ませるとオーナーからひと通りの説明が始まった。主にレジの扱い方。それが済むとジュース類の大型冷蔵庫の裏に回されてジュースの補給を頼まれた。
「あそこからケースを運んできて冷蔵庫に補給して欲しいんだ。同じ種類で間違わないようにね。」
「はい。」
用事を言いつけるとオーナーはレジへ入っていった。オーナーが居なくなるのを見計らって女が話し出した。
「伊藤君だっけ?同学年なんだ。ラッキー。宜しくね。一緒に働くの男の子で良かったぁ。どういうわけか私、同性に嫌われやすくてさ。」
さっきの敬語は吹き飛んですっかりタメ口だ。
「伊藤君ってどこ高?ってか背が高いね。」
「っか、あれ運んで入れねぇと。」
話すのが面倒でぶっきらぼうになる。
「あっ、そうだね。運ばなきゃ。うわぁ。重くて運べないかも」
女は走っていって箱を持ち上げよとするが持ち上がらないらしい。白けた気持ちで近寄り箱を持ち上げる。
「うわぁ。伊藤君って力持ちだねぇ。頼りになるなぁ。」
「俺が運ぶからさ、林さん冷蔵庫に補給してよ。」
「うん。」
冷蔵庫の補給口まで箱を持っていき、取りやすいように箱の取り出し口を開けてやる。コンスタントに進められそうだと思っていたら一番上の棚に届かないと言い出した。すぐ横にはそれ用の踏み台が見える。言ってやろうかと思ったが面倒になって止めた。無言で缶を取り出し冷蔵庫に詰め込む。
「伊藤君って優しいんだねぇ。何も言わずにやってくれるとかすごい格好いいんだけど。」
これからこの女と1ヶ月共に働くと思うとウンザリした。レジに入り客足が多いときはいいが暇な時間帯になるとちょこちょこ話し掛けてきた。終業式後にクラスメイトに告白された話、男にナンパされた話。ちょっと話すとすぐに相手の男に好かれてしまうと言う話。とにかく男関連の話をひたすら話される。そのうち俺は話を流すと言うことを覚えた。そうしてやり過ごしているうちにこの女の心の中に何かが芽生えていることにも気付かずに。




