閉じ込められた想い。
「あのさ、文香。」
「うん?」
「罰ゲームの件覚えてるか?」
「うん。覚えてるよ。伊藤っち、進展ないねぇ。このままじゃ4万は無理だねぇ。」
「それなんだけど。俺、もうそのゲーム降りるわ。」
「そう?いいよ。」
たいして驚く様子もない桃香。のほほんとしている。俺はその様子を崩したくなって本題を切り出した。
「俺さ、4万に目がくらんで1番大切なこと忘れてたよ。」
「何を?」
「俺自身の気持ち。木村涼子が仲間になったのは嬉しいけど、どう考えても恋愛感情が湧かないんだ。これって致命的じゃね?」
「そうだねぇ。じゃぁ、このゲームは終わりだね。支払いが消えたのは良いことだ。オマケに木村さんとも仲良くなれたし。」
桃香は相変わらず楽しそうにしている。
「うん。でも、代わりに見えてきたものがあるんだ。」
「何?」
「桃香のこと。本当は罰ゲームは建前で木村涼子をグループに入れるためのお前の作戦だったんだろう?ってかグループの仲間全員クラスで浮いてた奴らだよな。俺も含めて。そういう奴をほっとけなくて寄せ集めて仲間にしたんだろ?」
「••••••。」
返事がない。けれど視線は俺に向けられている。バスの中の喧騒とは裏腹にこの空間だけ静寂が舞い降りる。ここで折れたらおしまいだ。俺は言いたかった事を伝える決心をした。
「初めは気付かなかった。でも、そうなんだよな。仲良くなった経緯を聞くと桃香が絡んでくる。俺もそうだ。クラス替えでひとりになってた俺に話し掛けてきてくれたのは桃香、お前だった。ただのお調子者だと思ってたけど本当は違う。ひとりになってる奴を放っておけなかったんだろ?桃香の優しさを知ったとき俺の頭の中は桃香でいっぱいになった。」
「もう、やめよう。せっかくの旅行だし重い話はこれくらいで。楽しめなくなったら伊藤っちのせいだからね。」
いつものようにおどけた様子で話をかわそうとする。その様子を見ていたらこれ以上は言うことが出来なくなった。
「俺、もうこれ以上は言わない方がいいのかな?」
「そうだね。」
「でも、俺が言いたかったことは伝わってるんだろ?」
「うん。何となく分かるよ。でも駄目。言わないで。言わなければ、聞かなければ今まで通り過ごせるでしょう?」
「分かったよ。桃香の言う通りにする。」
「ありがとう。•••お菓子食べる?」
「今度はおもちゃじゃねぇだろうな?マジでやめろよ。」
「大丈夫だよ。食べて。」
俺達はさっきまでの重苦しい雰囲気を吹き飛ばすように明るく振る舞った。俺は桃香に対する想いを胸に閉じ込めた。




