罰ゲーム。
何気なく昼休みの暇潰しに始めたトランプゲームが俺に思いも寄らない日常をもたらした。
「よっしゃ。上がり。」
「俺も。」
「私も。」
「伊藤っちの負けだな。」
「学食のパン奢れよ。」
「えっ、マジでか? 俺、金無いよ。無理。」
手の中に残ったジョーカーのカードを机に投げ捨てた。
「駄目だよ。罰ゲームは絶対だから。お金無いなら体で払わせる。」
「体?うわっ。桃香ってやらしいのな。」
俺はからかうように胸を隠した。
「ばっかじゃないの?労働だよ。労働。知ってるんだからね。伊藤っちが本当はリッチなこと。1年の時の武勇伝は超有名だから。バイト掛け持ちしまくって稼ぎに稼いだって。で、授業に支障が出てきて学校にバレてバイト禁止されたって。だから少しの労働なんてへっちゃらでしょう?」
「うるせぇな。あれは若気の至りだよ。ってか、労働って例えば?」
「そうだな。お金がかからなくて面白い罰ゲーム・・・。そうだ!!木村涼子を落とすとか。」
「それ、別に労働じゃなくね?」
木村涼子は、クラスメイトの女子だ。物静かでクール。そんな印象の女子。絶対にこの罰ゲームは成立しないだろう。俺は即座に却下した。
「ぜってー無理。相手にされないだろうし、何より俺が可哀相だ。」
「だから良いんじゃん。その位じゃなきゃ面白くないよ。ねぇ?」
「そうだな。それでいいんじゃん?パン奢れねぇならそれしかねぇな。すっげえ面白そうだし。伊藤っち、頑張れよ。」
「青春だ。青春。青春には恋が必要なんだよ。伊藤っち!!」
俺以外のメンバーがワイワイと盛り上がっている。
高校生活で重要度の高い課題と言えば、勉強でも運動でもなく恋だ。特に俺ら高校2年の中弛み世代には最重要課題になっている。恋人を作り充実した高校生活を送る。それを目指して恋人を探すのにどうして俺がカードゲームの敗北でムリめな恋愛にチャレンジしなきゃならないんだ。理不尽だ。
「嫌だ。」
「嫌は認めない!!」
「ふざけんなよ。」
「じゃぁさ、もし木村涼子を落としたら、ひとり1万ずつ伊藤っちに渡す。上手く行けば4万が手元に入るでどうだ。」
一気に俺にとって悪くない話に切り替わった。
4万はおいしい。
「やってみるよ。」
俺は金でつられた。