tips[10年ほど前に作成された資料]
《豪華客船で謎の液体散布》
午後七時ごろ、東京湾の沖で開かれていた船内パーティーで水のような液体が散布された。
消火スプリンクラーの誤作動とされていたが、調査の結果何者かによって取り付けられた液体散布用の装置が見つかる。調査に立ち会った専門家は、液体に未知の構造を持つタンパク質が含まれていることを指摘したが、後に間違いであると訂正した。
警察によると被害者はなく、「質の悪いイタズラ」ということで引き続き調査をしている。
《SNSに投稿された目撃証言》
「あの液体散布事件。ニュースとか新聞だと、イタズラで終わらせてあって何か変。医療グループの規模拡大を記念するパーティーなのに、それについて触れられてない。被害者なしって言われてるけど、見ただけで五人くらいは声を出しながら苦しんでた。倒れ込んでもがく女の子を落ち着かせようとしてた男性も、急に顔色悪くなって汗が止まらない感じだったし」
この投稿には多くのコメントが寄せられた。
「それ、私も見ました。看護婦としてすぐに助けるべきだったのでしょうけど、万が一毒物だった場合、処置する私まで何かあったらと思うと怖くて……。覚悟を決めて近づいたときには、男性が『ありがとう、でも必要ない』と言って女の子を抱えてどこかに連れて行ったきりで」
「もしかして、何かの陰謀? ワクワクしてきた」
「強く推薦人気のサングラス! 今なら特価優遇2499円!」
「投稿者さんは大丈夫だったんですか? 偶然体調の悪い人が居合わせただけとは考えにくいですね」
コメントに対して、投稿者の返信が次の日投稿される。
「私も追加で作動したスプリンクラーの液体を直接浴びましたが、特に問題ありませんでした。確かに、偶然と呼ぶには異常な様子だったと思います。酷く痛がっている様子だったので、とても怖く感じました」
一連の投稿をニュース番組も取り上げるが、三日もする前に扱う番組は無くなった。
ネット上の一部で、怪事件として時折話題になる程度だ。
《一家四人を載せていたと思われる車、海底で発見か》
午後三時頃、浦安市の海岸線沿いで車が引き上げられた。
両親は車内で死亡が確認されたが、兄の■■君と弟の■■君は見つかっていない。車の窓は開いていたため、外に投げ出された可能性があるとしている。
車内には二人が乗っていた痕跡もあり、捜索チームが結成された。
警察によると、無理心中の可能性が高いという。
この事件は豪華客船の液体散布同日に発生。それと同じ新聞に小さく掲載。
資料作成に使用した新聞は、国立図書館に貯蔵されていたもので、現在入手可能な媒体全ての名前部分は念入りに黒く塗りつぶされていた。同じように名前を消した別の記事も後に発見。これらに関連性があるのは間違いない。次のページにその根拠をまとめた。
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追記。
著者はこの資料を作成した後、調査に赴いた先で死亡。■■■に任務を引き継ぐが、情報が混濁し断念。資料はこのページ以外紛失。
何者かが、内部から妨害している可能性大。各員、警戒せよ。