0-7.緊張感の虜
誘拐されて二ヶ月。それから更に三ヶ月が経とうとしていた。
その三ヶ月の間に、誘拐された人々を元の生活に戻したり、リセットさせたり。個々の状況に合わせて、慎重に行われた。
一方の俺は、世界中を巡りながらクグツの下で戦いを学ぶ。
それは孤島の訓練など屁でもないほどに過酷を極めた。
初日に、変な腕輪を左腕に付けられる。
すると、どういう訳か眠気というものが消え失せた。
寝る必要の無くなった俺は、あらゆる火器と戦闘車両の扱い方を頭に入れ、特殊部隊で教えるようなサバイバル術も身に刻んだ。
剣と魔法が主体のミスレニアスに合わせて、クグツの使う独特な戦闘術も習得する。
回避時はガスのように身体を軽やかに動かし、攻撃時は鬼神の如く重い一撃を繰り出す。
この戦闘スタイルをモノにすると、ナイフ一本で槍を持った相手を完封するほどになる。
武器を使った近接戦闘だけでなく、人型の敵と戦う時に便利な関節技も覚えた。
終いには、オカルトじみたことまでする。
心頭滅却すれば火もまた涼しなんて言うが、まさかそれを実行することになるとは。
痛みを打ち消すため、痛みと瞑想の繰り返し。
後から聞いてみれば、脳内麻薬を自由に操り、痛み止めや心身のパフォーマンス向上のための修行だとか。
ミスレニアスでは、ショック死しない程度の痛みが設定されていて、それに怯まないかどうかで大きく戦闘を左右するという。
クグツの訓練は厳しかったものの、俺が見損ねたアニメの録画を見せてくれたり、徹夜でレースゲームの対戦をしたりした。
彼が持ってきた娯楽品で特に印象的だったのが、二十世紀初頭のアクション映画。もう半世紀近く前のものだ。
その映画は当時としても低予算で所々チープなのだが、演出と独特な戦闘スタイルが目を引いた。
二丁拳銃で敵の懐に飛び込み、格闘を織り交ぜながら銃を撃つ。この戦闘スタイルは、男の子には至極魅力的だった。
クグツ自身も、この映画を見て二丁拳銃を始めたという。
実用性は無いとは思ったが、彼が言うには「どんな形であれ、極めれば実用性が必ず出てくる」とのこと。
その言葉を信じて訓練すると、左右別々の目標を自由自在に撃ち抜けるようになった。
単に射撃が上手くなるだけでなく、複数の標的を把握する能力が飛躍的に向上する。
我ながら、驚異的なスピードで戦闘スタイルを確立していった。
育成の概念があるゲームで遅れて開始するのだから、技術で勝っていなければならない。
命がけともなれば敵もステータスを上げ、強い武器を持ち、戦いの知識を蓄える。
格上のプレイヤー相手に技術で勝つ。ゲーマーとしては燃える要素でしかない。
たった三ヶ月。その間に俺は、着々と脳の構造と肉体を進化させていく。
模擬戦の緊張感が心を満たし、徐々にそれの虜にされてしまう。
これこそが、強さの根源だと知るのはもう少し先の話だった。