5-3.ブリーフィング晩餐
ある程度食事が出揃い、それぞれが食べ始めたところで、クグツがホワイトボードの前に立ってマイを呼んだ。
「とりあえず、マイちゃん。ディモの組織で知っていることを話してくれ。逆に、向こうが把握している俺達ブルズアイの情報もだ」
「うん」
一度俺に視線を合わせてから、前の方に出ていく。それを見送りながらファニーオストリッチの骨付き肉を屠る。皮の部分からは、強烈な旨さのある、独特の風味を持った鶏油が溢れ出た。旨すぎて、ブリーフィングなんてどうでもよくなりそうなほど。
クグツは部屋の角に行き注目から逃れ、マイに注目が移動した。
「申し訳なくなるほど、あまり話せることはありません」
彼女の少しだけ丁寧な物言いはちょっと新鮮だった。それもまた、可愛らしく思えてくる。
「みなさんが『ディモの組織』と呼ぶように、正確な名前は私にも知らされていません。それどころか、仲間同士で名前を呼ぶこともほとんどなくて、意思疎通に困ることもよくありました。私のように逃げ出した人間や、スパイに情報を与えないため、徹底されています」
いつの間にか隣りに座っていたアキラが、目の前の皿に積み上げられたダチョウ肉に手を伸ばしながら言った。
「まるで悪魔や怪異みたいな連中だ。名前を付けられ、知られることで力を削がれる。そのせいで英雄なんて生まれないのに、よくモチベーションが持つな」
アキラの言葉を拾い、妹は補足する。
「私たちは、すがらないと生きていけない境遇の人間です。お金や孤独感の弱味に付け込んで『兵士になるしかない人間』を選び、作ることで大きくなっていったようです。でも、それも憶測でないほどに、内部事情は隠されていました。聞いただけのことで本当かは分かりませんけど、上層部に数十人規模の、互いを名前で呼ぶ運営組織があるということくらいです。会議を開くグループと、決定事項を下部に伝えるグループ。私はそのもう一個下に位置する立場で、急に手に入る情報が少なくなります。なので、これ以上のことは……」
クグツは腕組みしながら、次の情報を引き出していくように言葉を掛けた。
「作戦を実行するための拠点とか、どこから来てどこに潜んでいたという情報を頼む」
「あの、えと……。これもあまり役に立てる内容じゃないと思います。私はミスレニアス専門なので、お兄ちゃん――鐵銑継と同じ施設から引き取られた後はほとんど船で過ごしました。上陸するときは、目隠しである程度内陸部まで連れて行かれます。外の世界で戦うような人たちは、野営か倉庫を改造した場所を転々としていると聞いたことがあります。これも噂なんですけど、本部は潜水艦か海底施設という話も――」
徹底されているとはいえ、暇を持て余せば噂も暇つぶしに使われる。どこかに核心に迫る噂を持っているやつがいるかもしれないということだ。
「チッ。滅ぼすの面倒な組織を作りやがって。あー、じゃあ最後に、どれだけ俺達のことを知っているか教えてくれ」
クグツは偽りのハンサム顔で言うものだから、だんだん見ていて可笑しくなってくる。
「私が知っている『殺せ』と言われた名前はこれだけです。【近衛 鑪】、鐵 銑継。この二人が最後の脅威になると。それ以外は、作戦直後になっても具体的な名前は教えてくれません」
「俺が脅威? 新兵なのに。それで、タタラってのは?」
ホログラムで複雑な顔を作り、整った口元を歪め、独り言のように言う。
「うーん、どっかのタイミングで、俺が近衛鑪本人だという確信を持たれた? そのせいでサネツグの優先度が上昇……やっぱ内通者か?」
「ん? タタラってあんたのことか! こんなタイミングで名前を知るなんて思いもしなかった」
和気あいあいとした雰囲気は「内通者」という単語でぐらつく。
「あーまてまて。俺がここにそんなやつ置くと思うか? 末端の末端が俺の生存とサネツグの関係を漏らした可能性があるってだけだ。どっかから双眼鏡で見てたかもしれないし」
今思えば、特徴的な瞳孔を晒し、ディモの組織と戦っていたことに違和感があった。輸送機にも敵が乗り込んでいたし、あまりにもマヌケなミスだ。俺がそう思っていることを悟った彼は、合点のいく答えを述べていく。
「言っとくけど、眼を見せたのは作戦の一つなんだぜ? 蛇目のコンタクト入れたやつにマイケルとか太郎って名乗らせて、何人も暴れ回させてたんだ。もちろん、社長とかボスって呼ばれる状態にしてな。あれ、言ってなかったっけ?」
「初耳」
タタラというディモの敵が、生死のはっきりしない状態で、何人も現れる。そんなことがあれば、嫌でも複数の部隊を動かし、虱潰しに調査する。そうすれば、尻尾が出てくるかもしれないという作戦なのだろう。俺自身も、クグツという架空の社長に踊らされていたというわけだ。
「ちょとばかし脱線したが、情況は少し分かった。そんじゃ、マイちゃんのお話は終わり。ありがとう!」
「ごめんなさい。本当に知っていることが少なくて……」
「あれだけ情報が少ない組織だ。これだけ進展すれば上出来。オレから俺にこの情報を送れば、少しは動きやすくなる」
正直言って、手詰まりなんじゃないかと思うほどに曖昧な情報だ。それなりに調べ物は得意な方だが、彼らの能力と比べたら赤子も同然。この僅かな情報を元に調査の方式を変え、追い込んでいくのだろう。徐々に、こちらが優位に立つことは確実だ。
マイが俺の近くまで返ってくると「ふう」とため息をつき、フライドポテトに手を伸ばした。
「ああいう喋り方疲れる」
「お疲れさん」
妹の頭でも撫でたい気分だったが、両手は鶏やら何やらの油でベッタベタだ。
タタラが入れ替わりで前に戻ってきて、話を続ける。
「今日は一応会議という名目で集めたんだけどよ、その実、物資の共有目的のついでに情報交換の集まりでしかない。支援班が持っている素材をある程度分けてほしい」
そう言うと、何人かがアイテムウィンドウを開き始める。
「彼に素材を渡せばいいんですかい?」
クグツが頷くと、俺にずいっと何人も詰め寄ってきて、サンタクロースが担ぐサイズの麻袋
をドサドサと足元に置いていく。
「私からはポーションの原料になる薬草を」
「鉄鉱石だ。グレードが高いから、これを使えば普通に修理するより武器の成長が早くなる」
「魔術系素材の詰め合わせです。どうぞ」
積み上げられた袋は俺の胸辺りまで積み上げられ、その全ての所有権が俺に移った。
「おぉ、みんなありがとう」
「いえ、これも仕事なんで気にせず持っていって下さい。戦闘が得意な人が強くなれるように、これからも支援していきますので」
アイテムウィンドウに投げ入れていくと、軽トラでも運び切れない量のアイテムはキレイサッパリなくなった。
ホログラムの眼でそれを見届けると、次の題目に移る。
「最後に、遊撃班の一部には古代の鍵:23に対応した扉を探してもらう。細かい人員の再配置は明日の朝に通達するが、このことは皆が気に留めてほしい。ディモはその扉の鍵を手に入れるために行動していた。危険は伴うが、この調査が上手くいけば大きな一歩となる」
自由にさせているが、所々通る声を出して、重要な部分は自然に意識が行くように話している。彼をバカにしたような態度を見せていた女児? も真面目な顔つきになってそれを聴く。
その後は、個人個人への通達や、相談事なんかを順番に執り行っていった。AIになっても、彼はリーダーとしての役割を果たす。
一方の俺は、マイの食事する姿に見とれていたら、数十分をそれに費やしていた。




