5-2.我らブルズアイ
レンとロッタそれぞれに部屋を与え、待機するようにアキラは言う。今度こそは、大人しくしていてくれそうだ。
既に人が集まっているブリーフィングルームに入っていくと、パイプ椅子や白い長テーブルが並んでいる現代的な部屋。そこはいい加減な空気で満たされていた。
酒瓶を抱きしめた野郎が地べたで寝そべり、ボードゲームに勤しむ四人組。筋トレをするガチムチに、タバコのようなものを吹かす女児。もうめちゃくちゃだ。
「オラァ! アキラさんが帰ってきたぞ。サネツグとボスもいる」
「おかえりー」
「おかおかー」
「おみやげは?」
思い思いのいい加減な挨拶をし、だらけた様子は変わらない。
「俺が死にかけてたってのに、そりゃないぜ。もっとこう、皆が助けに来てくれたら泣けるのによ」
ボードゲームから視線を逸らさず、一人の男が答えた。
「いやぁ、社長から連絡があって、俺達も行こうって言ったんですけどね。アキラさんが『一人で登場したほうが格好いいから』なんて言うもんですから。だから人が集まってからも、行くのはやめておこうって」
「あんたのせいかいっ!」
アキラの頭部をチョップでぶっ叩くと、バネのようにビヨンビヨン揺れた。
「はっはっは、皆を危険な目に合わせない粋な計らいさ。実際、奴らは妙なプログラムを使っていたから、俺一人で都合が良かった」
気の抜けた顔の女児が手を上げ、気の抜けた声で言う。
「しつもーん。そこの女の子は?」
言われたマイは一歩前に出て、会釈する。
「私はマイ。ディモの組織を裏切って、お兄ちゃんのいるこっちの味方になります。どうぞよろしく」
裏切って逃げてきた人間。こういう組織では、特に扱いが難しい存在だ。
しかし、俺の心配は全くの無意味だった。
「うぉぉぉぉ! 年頃の女の子! おばはんと女児ばっかりのこの組織に華が咲くぅ! ようこそブルズアイへ!」
ダルそうにしていた男がガッツポーズをして立ち上がるが、その「おばはん」と思われる「お姉さん」にヘッドロックを決められる。
他の男達も、露骨に気勢が上がった。
こうも余裕でいられるのは、組織としての強さがあるからなのか、危機感がないのか。よく分からない。
「だぁれが女児だ。こちとらお前らより年上なのに」
顔を上気させ、汗で肌を濡らし、黒髪を小さくツインテールにしたザ・女児が扉を開けて入ってくる。
「おうニカちゃん。ミッション失敗の気分は?」
クグツが息をするよう悪態をついた彼女が例のニカ。想像以上に幼い外見だが、こんなでも俺より年上だというのが恐ろしい。
「あの子の触手で、あんな目に遭うとは思いもしなかったよ。ちょっとクセに――いや、なんでもないぞ」
余韻に身を震わせ、近場の椅子に彼女は倒れるように腰を下ろす。足が届かなくて、宙ぶらりんだ。
「さて、揃ったことだし始めるか!」
腕輪から光が抜け出し、クグツ本人の形に形成されていく。よく見ると輪郭が若干揺らいでいて、フルカラーのホログラムだと分かる。
蛇目の姿を見るのとても久しぶりに感じる。しかし、本物の彼に比べ、妙に目鼻立ちがくっきりとしていて、ハンサムだ。
「ありゃ、社長? ホログラムとはいえ、嘘はいけませんぜ。本物はそんなかっこよくないでしょう。鼻とかめちゃくちゃ弄ってるじゃないっすか。背景に変な粒子と薔薇まで飛んでるし」
誰かがそれを指摘すると様々な悪口が聞こえてくる。
「流石にああいうのは恥ずかしいよねー」
「社長、いくらモテないからってそれは……」
「でも本物よりは格好いいからよくない? あの人、夜中に暗闇から出てくるとめっちゃ怖いし」
クグツは握りこぶしを震わせ、覚えていろと言わんばかり。
アキラに至っては、腹から顔を出して「えいりあん」と呟く遊びをして笑いを取る。
ホログラムの身体で腕を振り回し、怒鳴るように言った。
「とりあえずメシにすんぞ! てめえら、ちゃんと食材持ってきたか!?」
ブリーフィングは食事をしながらということも多い。内容を覚えにくいと思うかもしれないが、クグツは『食事中は柔軟な意見が出やすい。必要なことは、最後に簡潔にリーダーが説明するだけ』という考えだ。私語も自由にさせ、非常に軽い雰囲気。それでどうにかなるのは、職員皆が優秀で、その上に立つクグツやアキラが信頼されているからこそ。
食材としてファニー・オストリッチの肉を提供すると、ニカが喜々として持っていく。このちびっ子は、どうやら本当にコックらしい。
数人料理の手伝いへ向かい、あっという間に最初の料理が出てくる。さらに次々と料理が運ばれ、飲み食いしながらのブリーフィングが始まった。




