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ミスレニアス・トラベラーズ  作者: カブメント
ミスレニアスの生活
54/60

4-10.変身ヒーローは唐突に

無数の襲撃者を葬り、残された数人が撤退を始める。思わず気を抜きかけた瞬間、厳つさを増した仮面で顔を隠した男が二人と、女一人が入れ替わりで出てくる。女の方は黒いピッチリスーツ装備で、そのボディラインを思わず鑑賞したくなった。

 間違いなくこいつらは強い。自信というもので満ち溢れ、恐怖や焦りをどこかに捨ててきている。


「――っ!? 逃げるよ!」


 妹に手を引かれ、尻尾を巻いて逃げ走った。


「どうしたんだいきなり?」


「あの三人には普通のプレイヤーじゃ勝てない。そういう仕掛けがしてある」


「なんだって!? ミスレニアスのシステムは何をやってるんだ……」


 クグツは不機嫌そうな声で、ブツブツと独り言のように言う。


「連中の仮面、変なプログラムを噛ませてあるな……解析に集中するからお前らでなんとかしろ」


 腕輪から常にあった気配が消え、うんともすんとも言わなくなる。本来これが正常なのだが。

 そして、俺はマイの言う通り、勝てない理由を思い知ることとなる。


 速いなんて次元ではなく、瞬間移動にしか見えないスピードで一人が回り込み、剣を突き出してきた。昔のオンラインゲームによくあった、通信の遅延による瞬間移動のようでもある。


 咄嗟に短剣を抜いて攻撃を逸らすが、ほんの少し掠っただけで短剣が折れてしまう。強撃のスキルが発動し、紫の炎を刀身に纏っていなければ首を切られていた。

 距離を取ってからマグナム弾を乱れ撃つも、その全てを剣で叩き落としてくる。


(さて、どうしたもんか。ヤケでクグツを呼び戻し、インストールしても、極端な速度差を埋められるか怪しい。だからこそ、アイツは未知のプログラムの方を優先したんだろうな)


 このレベルが三人相手。諦めたくないが、活路が見いだせない。今はただ、次の攻撃をどうやってやり過ごすかだけ。いや、それすらもままならない。


「はっはっは! お困りかなお二人さん!」


 絶体絶命の最中、どこからか愉快な高笑いが聞こえてきて、俺達と敵はその声の主を探した。

 街灯の上に黒い人影。夕日とおねショタ系エロゲーの看板を背負い、腕組をしている。

 その場にいた全員が固まり、誰一人ピクリとも動かない。黒い影が手元で何かを操作すると、俺の目の前にメッセージウィンドウが出てきた。


《感情込めて「誰だお前は!?」って言って》


 多分ブルズアイの仲間なんだろう。変なヤツは大体そうだ。埒が明かないのでその通りにする。


「誰だお前はッ!?」


「フフフ……俺こそが【神藤(しんどう) (あきら)】ヒーローだぁッ!! お前達仮面の戦闘員のボスは、俺を【毒】で殺した――と思いこんでいただけ。ディモ・フォスターにこう伝えてくれ『お前の敵はもう一人残っていた』と」


 経緯はなんとなく分かったが、心当たりがない人物の名前。こんなやつ知り合いにいただろうか?


「いやほんと誰だお前!」


「こうすれば分かるか? サネツグ」


 その男はアイテムウィンドウからガスマスクを取り出し、顔にあてがう。その状態で俺を呼ぶと、聞き覚えのあるくぐもった声がした。


「あのときのガスマスク!」


 クグツと一緒に俺を助けてくれた男。何度か訓練を手伝ってもらったにもかかわらず、一度も素顔を見ることはなかった。


 そこそこいい男で、どこまでも真っ直ぐとした力強さを感じる。どこか異質な存在感を放つ彼は、人間という器に収まりきらない何かを持っていた。


「見せてやる、俺の変身――」


 彼は近未来的なデザインの手斧を出し、プレート状の何かを腰のケースから引き抜く。それから、セリフを言い終えようとしたときのことだ。


《リトル・プロミネンス》


 視界に何者かの技名が表示された。


 傾いていたはずの太陽とは別に、もう一つが真上に生成され、そこから炎の柱が下りてくる。それは俺とマイを囲うように移動し、仮面の戦闘員達を遠ざけた。

 更に続いて、レンが飛び出してきて剣を構える。


「れ、レン! 何やってんだ?」


「何って、助けに来たんだよ」


 路地裏からはロッタが歩み出てきて、やれやれという素振りを見せた。


「監視まで付けて私達を遠ざけたと思えば、女の子連れ回してピンチですか」


「その監視してたニカちゃんはどうしたんだ?」


 ロッタはにっこり微笑み、手の平に黒っぽい触手を召喚して見せた。


「あ、ああ……そういうこと……」


 炎の柱から逃れ、再び一塊になった仮面の三人。それから兄妹を守るように立ちはだかり、武器を構え直す。


「やめるんだ! いくら二人でも、危険すぎる!」


「それは僕もわかってる。でも、また一緒に冒険したいから」


「そうですよ『一緒に』は楽しい。だから、一緒に戦って生き残りましょう!」


 二人の言葉に心打たれ、戦意を取り戻す。銃のグリップに手を掛けると――


「待てぇいッ! 俺忘れてないか!? なあ? 俺! なんかいい感じの友情披露してくれちゃってさっ! 言っとくけど、お前らじゃ勝てないからなっ! 大人しくしとけよっ!」


 すっかり忘れていた自称ヒーローのアキラ。街灯の上で地団駄を踏み、空中で一回転しながら飛び降りてくる。

 服装は、少し小洒落たミリタリールックで、ファンタジーからは程遠い。


「せっかく格好いい変身シーンになりそうだったのに、興が削がれた。今回は、変身前の格闘で敵を追い払うというシーンにしよう」


 手斧の刃部分を下に折るようにすると、銃のようななフォルムに変形。


「ガンスマッシャーッ!」


 武器の名前を叫びながら構えるのは、販促を意識したヒーローっぽさがあった。

 俺達を掻き分け、前に出てなんかかっこいいポーズをする。過剰なまでの立ち振舞は、カメラを意識しているかのようだ。


 ふざけているようで、強烈な威圧感。仮面の三人は身構えた。


「斬り刻んで貫いて磨り潰してやる。掛かってこい、雑魚戦闘員共ッ!」


 ヒーローらしからぬ言葉を吐き捨て、神藤暁の戦いが始まる。

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