4-8.妹黙示録
マイは要所要所で足を止め、フィギュアなんかを眺めながら進むのでゆっくりとした移動。一応、時間はまだあるので大丈夫だ。
「あ、みてみてお兄ちゃん」
店の前にあったカゴから何かを見つけて俺に見せてくる。
「妹系のエッチなゲーム」
「ゴフッ!」
見覚えがある……。外の世界の俺の家。PC机の隣りにある棚の下から二番目。そこに鎮座する、少々大きな箱のゲームと同一のものだった。
タイトルの【いもうと☆めーかー】というポップな雰囲気とは裏腹に、攫ったり拾ったりした少女を妹にするという、超絶インモラルな作品だ。
「今すぐ戻せ!」
「せっかくの妹記念日なので欲しいかなと」
欲しいとかの以前にプレイ済みなんだよ……とは言えず、奪い取ってカゴに戻した。すると、戻したものと同じ絵柄でCDサイズのパッケージが見つかる。
「くぉ、クォレハッ!!」
クグツは俺と同じような反応をし、俺だけの脳内で囁く。
「いもうと☆めーかー黙示録編。その初期版アペンドディスクがまだ流通しているとは……」
「アペンドディスク? 知らねえぞそんなの」
「知らなくてもしょうがない。これは、ミスレニアス開始直後に作られたミスレニアス専用のソフトだ。パソコン自体が少なかったせいで、ほとんど売れなかった。今はリメイク版が出ているんだが……」
どうにも歯切れの悪い言い方。リメイク版に何か問題があるのだろうか。
「リメイク版は、アクションシーンのクオリティがかなり低い。複数の立ち絵を活用していて、アニメのように動くノベルゲームだったんだが、リメイクを担当したやつがクソみたいなセンスでな。露骨な劣化をしてくれやがった」
「アクションシーンッ!?」
あのゲームは、エロとちょっといいエピソードがちりばめられた作品。戦闘要素なんて皆無だ。
「パッケージの裏を読んでみろ」
「なになに『雇われの俺が扱うマシンはマニュアル式の旧世代機。だが、脳波コントロールの最新鋭機にスペックは負けちゃいねえッ! 依頼人の敵は俺とコイツがぶっ壊すッ!』とな……」
スクリーンショットには、説明文に出てきた旧世代機と思われるゴツいロボットと、ツルッとしたハイテクメカが戦うシーンなんかが印刷されている。
「なにこれめっちゃ気になるんだけど!? てか妹要素どこ行った!?」
「ふふふ、それは本編をやってからのお楽しみだ。熱いものが詰め込まれた、涙なしではプレイできない作品であることを保証する」
(とてつもなく欲しい。しかし、妹の前で妹ゲームを買うってどうなんだ……?)
自らの脳は苦悩していたが、身体が勝手に二つのソフトを取り、会計を済ませていた。
そんな俺を、マイはこの世の終わりのような顔で見てくる。
「じとー……。冗談でやったのに、本当に買うなんて……」
妹は擬音を口で言い、こちらが一歩進むと一歩後退。
「ち、違うんだ! こっちのロボットノベルゲーがやりたいだけで、別にそういう意味じゃ――。もう一個のエッチなやつが無いと、本命のこっちが起動できないようになってるんだ。お兄ちゃんロボットとか好きだから! さっき買ったのもそういうの多かっただるぉ!」
アペンドディスクの裏面を必死に見せ、ロボットの熱きバトルを見せつけた。
「でもこれ、裸の女の子がお風呂に入ってるよ?」
「ん?」
そう言われて初めて、二割ほどアレなサンプルCGが紛れていることに気がつく。しかも、ヒロインの一人が若干マイに似ていたのが致命的だ。
「こういうシーンはなぁ、お兄ちゃんスキップしちゃう派だ! それより先の展開気になるからなぁ! ハハハハ……」
不意に、前頭葉のあたりがモヤモヤと嫌なものを感じ取る。殺意の保持者が放つ、強烈なプレッシャー。この一帯に、間違いなくそれが充満し始めた。
「お、お兄ちゃん? どうしたの怖い顔して? 怒ったならごめん。ちょっとからかうつもりでやっただけだから。それとも、私でエッチなコト考えちゃった……?」
今はそれどころではない何かが起きようとしている。俺が悟ったと思われないよう、マイを見ているふりをして、周囲の人物を観察していく。しかし、数も多いので怪しい人物を絞り込むのも難しい。
「クグツ、この近くにいるプレイヤーの情報を集められるか?」
腕輪は脳内声に返す暇も惜しんでリストを作り、俺だけに見えるようにした。そして、二人の声がシンクロする。
「――これは!?」
名前が空白のプレイヤーが二十以上存在している。HPバーすら見れず、マイの仮面にあった認識阻害の効果と同じだ。
非表示のやつを探していると、道行く人の影から仮面を付けた鉄爪の男が飛び出してくる。それと同時に、このエリアが危険地帯へと変わった。
「マイ! しゃがめ!」
狼狽えてしまい、言う通りにしゃがまないので、足払いして転ばせる。リボルバーを引き抜いて、男の腹に一発撃つ。
なんとか撃ち落とすが、致命傷には至らず、ぬるりと後転して立ち上がる。
胸には赤く光る穴が空いていたが、苦痛は感じていない。一瞬ゴアモードを使うか悩んだが、人目があるし、妹もいる。
仮面はマイのものに比べると、妙に気色悪い。声を一切出さず、俺に標的を変えて飛び込んできた。
突き出された爪を引きつけてから回避し、それを掴んで後ろに投げ飛ばす。
「一帯の映像や音声は記録できないようにした。殺せ」
腕輪に言われなくても分かっている。こんなのが二十以上潜んでいるかもしれないのだから、尋問なんかしている場合ではない。
後頭部を狙って引き金を引くと、俺のステータスから想像もできないダメージを与え、ポリゴンの欠片となって仮面野郎が飛び散る。クリティカルダメージの高倍率さが、ステータス差を埋めてくれる。
一人始末した頃には、短剣を持ったやつや、ジャマダハルを両手に装備した連中に囲まれていた。
いずれも同じ仮面をしていて、その異質な光景に気分が悪くなる。
このタイミングで現れて、マイを狙い、認識阻害の仮面を持つ。ディモの組織の人間であることは明白だった。
一般のプレイヤーは叫びながら逃げていく。いきなり未開拓地に投げ出されたのだから、無理もない。
「そんな……私じゃない……」
マイは疑われていると思い、必死に眼で「違う」と訴えてくる。
「分かってる。お兄ちゃんが守ってやるからな」
リボルバーだけでは心許ないので、剣と短剣も装備スロットから取り出す。
残り五発のM44を左手に持ち替えて後ろに向け、剣は前へ向けた。
「さあ、次に死にたいやつは誰だ? てめえらの首、ディモの所へ届けてやるよ」
「このゲーム、死んだらすぐ消滅するけどな」
俺の決め台詞にクグツが被せてくるので、いまいち決まらなかったがまあいい。これも「俺達」らしさだ。




